| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

天才少女と元プロのおじさん

作者:碧河 蒼空
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

中村希の憂鬱
  6話 可愛い奴めー

 先週集行われた中間試験の結果が返ってきた。最終的に確定した平均点や順位などが、自身の点数の纏められたプリントに記載されていた為、一部の者は喜びやホッとした様子を見せている。
 正美はというと、赤点をとらなければ気にしない性質なので、受け取った結果はすぐ鞄に仕舞いスマートホンを弄っていた。

「正美さん、ヨミさん達のクラスへ行きませんか?」

 休み時間、白菊が正美を誘う。白菊の横には稜も立っていた。

「うん、良いよー。すぐに片付けるから、ちょっと待ってて―」

 正美は前の授業で使っていた教材をロッカーにしまうと、白菊と共に詠深達3人の教室へ向かった。

「正美さんは試験どうでした?」
「だいたい平均点前後だったよ。白菊ちゃんは?」

 白菊は正美に聞き返されると、目に見えて落ち込む。

「現国と古文以外は赤点ギリギリでした……」
「へー、以外。白菊ちゃんはそつなく点数とるイメージだったよ。ま、得意科目があるなら良かったじゃん!」
「それだけが救いです……」
「稜ちゃんは……イメージ的では全教科赤点ギリギリだけど、どうだった?」

 正美の言葉に稜は握り拳をワナワナさせた。

「……正美、私の事嫌いだろ?」
「そんなことないよー。弄りがいのある可愛い娘だよー」

 正美は稜の頭に手を伸ばし、よしよしと頭を撫でる

「嬉しくねぇ!」

 それを受け、稜は抗議の声を上げるも、その手は振り払わない。こんな風に弄られはするが、稜も正美の事が決して嫌いではないのだ。

 目的地は同じ1年の教室なので、すぐ到着する。詠深達3人の教室の前で希が浮かない顔をして立っていた。

「……ねぇ、白菊ちゃん」

 正美は野球部のみんなを下の名前で呼ぶようになっていた。白菊ちゃんと打ち合わせをした正美は希に気付かれぬよう、ゆっくりと希の背後に迫る。

 次の瞬間、希の視界は暗転する。第三者の手に目を覆われたのだ。

「だーれだー?」
「ひゃ、正美ちゃん?」

 目から手が離れ、希が振り返ると、そこには笑みを浮かべる白菊がいた。

「残念、白菊ちゃんでしたー!」
「……まったく、なにしよーと?」

 白菊の後からひょこりとにへら顔を覗かせた正美に、希は呆れるように二人に尋ねる。

「それはこっちの台詞だよー。アンニュイな雰囲気を漂わせてさー」
「何かお悩みですか?」

 白菊が心配そうに言うが。

「何でんなかよ。それじゃあ、うちは戻るね」

 希は踵を返し、歩き出した。

「中へは入らないのか?」
「うん。次ん準備があるけん」

 稜が希に聞くが、希は行ってしまう。

 希を見送った3人は教室へ入ると、詠深、芳乃、伊吹が固まって話をしていた。詠深と芳乃は机に突っ伏してとろけている。

「よーヨミ!中間どうだった?」

 凄くいい笑顔で稜が言う。詠深は自分と同じ仲間だと思っているのだ。

「ふっふっふ。来ると思ってたよ……じゃーん」

 詠深は中間テストの点数を広げて稜に見せつける。学年401人中29位。現国の68点が最低点で、ほとんどの科目が高水準。数Ⅰと世界史に至っては100点満点である。

「ウソだろ?……仲間だと思ってたのに……」

 稜は紙を受け取ると、涙目になった。

「文武両道……尊敬します」

 横から詠深の点数を覗いた白菊も溢れる涙を抑えきれない。裏切られた……。2人の表情がそう物語っていた。

「稜ちゃん……まさか赤点取ってないよね?」
「そ……それは大丈夫……」

 じーっと稜の目を見つめて問い詰める芳乃に、稜は思わず顔を逸らす。

「芳乃ちゃーん……無表情怖いよー……」

 感情の無い芳乃の表情に、正美すらも若干引いていた。

 稜の言葉に芳乃は安心したように笑顔になる。

「な~んだ。稜ちゃんが大丈夫ならみんな大丈夫だね」
「おーいそれどういう意味ですか?正美と言い、芳乃と言い方……」

 自分の成績が決して良くない自覚のある稜は強く出れない。

「あはっ。可愛い奴めー」

 正美は再び稜の頭に手を伸ばし、よしよしと頭を撫でた。

「嬉しくねぇ!」

 稜もまた、抗議の声を上げるのだった。

「ところで、何を話してたの?
「それが、全然勝てないなぁって。これ、練習試合の結果なんだけど……」

 正美の問いに、芳乃は詠深の机の上を指さす。詠深の机には複数のスコアが表示されたスマートホンが置かれていた。

「あー……」

 稜は納得いったような反応を見せる。

「しかしよく試合受けてくれるよな。ほとんど1年のチーム相手にさ」
「監督が頑張ってくれてるし。それと……負けてるとはいえ格上相手にいい試合してるからね」

 稜の疑問に芳乃が答える。

「でもまぁ、私は楽しいよ。1年からいっぱい試合に出れてさ!」

 な、白菊に同意を求める稜であった。

「同感だけど勝ちたいよ、やっぱ」

 詠深はまたとろけてそう言う。

「え?うちまだ1回も勝ってないの!?」

 合宿後に入部した為、新越谷でまだ試合をしていなかった正美は驚愕の事実を知る。

「実はそうなんだ~」

 芳乃は正美にスマートホンを渡した。

「ヨミちゃんやタマちゃんに希ちゃんがいるのにどうして······あー······」

 試合相手を見て、正美は納得する。スマートホンには、名門校やそこそこ名の知れた学校が並んでいた。

「てか、こんな所と練習試合を取り付ける先生って何者······」
「なんか、うちが埼玉4強時代の頃のOGらしいよ」

 正美の疑問に稜が答える。

「いやいや、埼玉4強どころじゃないでしょー、これ。他県の代表校とかあるじゃん!?」

 正美が突っ込むが、詠深はまあまあと宥めた。

「おかげでこんなに試合できるんだから。ありがたやありがたや~」 
 

 
後書き
 本作品を書き始めてから稜ちゃんが凄く可愛いです。


 ……何か後書で書こうと思っていたのですが、何だったかしら? 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧