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夏の甘い時

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第六章

「線は出ないの」
「そうしてるんだな」
「そう、だから安心」
「そうしているか」
「ちなみに学校の体育の授業でのスパッツでもいいから」
 そちらでもというのだ。
「要は工夫」
「成程な」
「ただ」
「ただってまだあるのかよ」
「下着二枚でむれてしかも浴衣も露出低くて暑いから」
 それでというのだ。
「今結構汗かいてるの」
「じゃあまたか」
「シャワー浴びるわ」
「そうするんだな」
「お兄ちゃんもそうでしょ」
 見れば足は風呂場に向いている、そのうえで兄に言うのだった。
「ゴム使ってなくても汗かいてるでしょ」
「結構暑くてその中歩き回ったからな」
「デートで緊張してて」
 法子はこのことも言った。
「そうでしょ」
「そこでもそう言うんだな」
「じゃあ入る?」
「そうだな、後でそうするか」
「久し振りに一緒に」
 法子はここで仕掛けた、この言葉で。
「そうする?」
「馬鹿、この歳で兄妹で入ったらやばいだろ」
「今お父さんもお母さんも居間で飲んでるから気付かれないから」
 言い返す兄に妹はさらに仕掛けた。
「瑠璃さんとの前に私が教えてあげようか」
「何をだよ」
「全部」
 妖しい、そうした微笑みでの言葉だった。
「キスから触ったり。あと下になったり上になったり」
「生々しいな」
「全部教えてあげようか。舌も手も使ってあげるから。お風呂場で二人きりになるし。最初はお兄ちゃんが上になってね」
「兄妹でそんなこと絶対にするか」
 彰はこれ以上はない位に強い声で妹に言い返した。
「そもそも僕はお前にそうした感情抱いたことはないぞ」
「私も」
 法子は今度は妖しさのない微笑みで兄に返した。
「実は」
「おい、じゃあ」
「今のも冗談だから」
「悪質な冗談だな」
「ぢょっと夏祭りで浮かれてるから」
「ビールとか飲んでないよな」
「少し」
 飲んだと言うのだった。
「実は」
「中学生で飲むな、八条町でも十五歳からだろ」
 自分達のいる町では町の条例で十五歳から飲めるがというのだ。
「そこは気をつけろ」
「私もう十五歳」
「そういえば六月生まれか」
「それで少し飲んだの」
「それでその冗談か」
「酔っているだけだから」
 こう兄に言うのだった。
「気にしないで」
「酔っていてもそんなこと言うな、じゃあな」
「一人で入って来るから」
「あがったら言えよ」
「次はお兄ちゃんね」
「ああ、そうしろ」
 こう言ってだった、彰は法子を風呂場に送った。そうして自分の部屋に戻って夏祭りの余韻に浸った。妹の冗談もあったがそれでもその余韻は悪いものではなかった。


夏の甘い時   完


                2020・2・15 
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