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俺、リア充を守ります。

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第7話「新たな刺客」

 朝、起きて朝飯を食い終わって着替えている時、ヒーローフォンに着信が来た。

 番号は慧理那からのもので電話に出ると、今日の全校朝会のことについてであった……が、次の一言で俺は驚きのあまり、ヒーローフォンを落としてしまうところだった。

『昨日の……わたくしが事件に巻き込まれた話をさせていただいてもよろしいでしょうか?』

「は……はあ!?」

 昨日あんな目に遭ったというのに、その体験を全校朝会の話に使いたいと言い出すとは……。

『もちろん、千優さんの正体は伏せさせていただきます。何か問題があれば言ってください』

「……ひとつ聞かせてもらおう。なにゆえ昨日の事を?」

 一番の、そして唯一の疑問点だ。話すのは別に構わないが、わざわざ全校朝会で大々的に話そうと思ったのか、理由が気になる。

『昨日……わたくしはいろんなことを知り、学ぶことができました。それを他の生徒の皆さんにも伝え、広めたいのですわ!!』

「……そうか……」

 あんな恐ろしい体験でも、慧理那にとってはとても貴重な体験だったのだろう。

 そこから学んだものがあるのなら、是非とも広めてもらいたい。

「いいよ。そのかわり、総二と愛香の名前は伏せてもらってもいいかな?他の生徒たちにもみくちゃにされるかもしれないしさ……」

『わかりました!!あと、よろしければあの黒い霧、ジェラシェード……でしたわよね?』

「ああ、あってるよ」

『奴らのことも、詳しく教えてください!!』

「わかった。説明できる範囲で説明するよ」

 こうして着替え終わった後、数分ほど説明が続き、質問が終わる頃には登校時間になっていた。

『ありがとうございます!!それではまた、学校で』

「おう!楽しみにしてるぞ」

 通話を終え、鞄を持ち、財布とヒーローフォンをポケットに仕舞って玄関へ。

 玄関まで降りていくと弟が靴を履いて出ていくところだった。

「随分長い電話だったね」

「ちょっと色々あってな……」

 こっちも靴を履き、準備が終わる。

「友達?」

「まあな」

「特撮仲間とか?」

「ご名答。なんで分かった?」

「会話の内容から」

「え!?……あ、うん」

 危ない危ない……どうやら聞かれていたようだ。

 幸い特撮トークだと思われているらしい……。

 今後気をつけなければ。

「いってらっしゃい」

「遅刻するなよ?」

 リビングから両親の声が聞こえる。

「「いってきます!!」」

 玄関を出て通学路に向かうと、登校中の総二、愛香、トゥアールの3人と合流したので、5人でたわいもない会話をしながら、学校へ向かった。

 

 □□□□

 

 私立陽月学園 体育館

 体育館に学年別に並び、生徒達のざわつきを聞きながら、全校朝会が始まるのを待つ。

 総二たちとは立っている場所が離れているが、ここからでもあいつらの姿はよく見える。

 昨日、野次馬を現場から遠ざけるべく、トゥアールがフォトンサングラスからの映像を全国に流したらしい。

 今、ざわついている生徒達の話題はまさにその件についてだ。

 つまり俺の戦いは、フォトンサングラスが破壊される直前まで全国生中継されていた、とゆうことになる。

 実際、この生中継で第三倉庫に来ようとしていた一般人は皆、画面に釘付けとなり、第三倉庫に野次馬が到着したのは俺達が去った後なんだとか。

 全身打撲痕と擦り傷だらけだった俺に比べて、トゥアールは背中に湿布を貼っておくだけで全開した。

 しかしかなり痛みがあったらしい。礼を言っておいたが「皆さんが無事なら、私はそれで十分です」と返された。

 根はいいやつなんだけどな……。総二に夜這いを仕掛けたり何かにつけて話をそっち系に持ってこうとする癖をどうにかしてもらいたいもんだ……。

 なんて考えているうちに生徒会役員の一人がマイクを持つ。

「生徒会長からのお話です。神堂慧理那生徒会長、お願いします」

 アナウンスと共に、慧理那が舞台に上がり、生徒達が静まり返る。

 さて、慧理那の演説を聞こうじゃないか。

「皆さん……昨日、日本全国のテレビ局が電波ジャックされ、謎の集団からテイルドラゴンへ挑戦が叩き付けられたのはご存知でしょう」

 あの電波ジャック、日本だけだったのか。

 てっきり全国生放送なのかと思っていたんだけどな……。

「謎の集団って……あのアルなんちゃらって怪人たちじゃないのか?」

「そういえばいつもの怪人たちとは雰囲気が違ったような……」

 クラスの生徒たちの会話だけでもジェラシェードの脅威どころか、存在さえ気づかれていた様子がない。

 今まで奴らが実体をもって暴れたのは人目につかない場所のみ。

 知られていないのも仕方がないのかもしれない。

「謎の集団……その名は、暗黒思念体ジェラシェード。時折エレメリアンたちに取り憑き、狂暴化させているあの黒い霧の正体です」

 その一言で生徒たちがざわついた。

「なんだって!?あの黒い霧が?」

「この世界を狙っているのはアルティメギルって連中だけじゃなかったのか!?」

「何がどうなってやがる!?」

 戸惑い気味の意見が飛び交う中、慧理那の話は続く。

「ジェラシェードは、人間の嫉妬から生まれた存在で、誰・か・を・恨・む・心・に反応し、その恨みを喰らいながら増殖、数を増やしていく性質を持っているらしいです。そしてより数を増やすべく、人間に取り憑き、取り憑いた人間の恨みを増幅させて心を破壊した後、その身体を乗っ取り、新たに仲間を増やすべく暗躍する邪悪な意思を持っています。そのため、世界を負の感情で覆いつくし、遂には滅亡させてしまいます。

 対して、皆さんも知っている、アルティメギルは人間が持つ何・か・を・愛・す・る・心・を糧とする存在……好きなものを好きだと思える心を奪いつくし、世界中の人間の心から光を奪い、静かに世界を侵略します。

 どちらにせよ恐ろしい存在に変わりはありません……」

 登校前に説明した通り、ジェラシェードの恐ろしさを……そしてついでに教えたエレメリアンの事も説明する慧理那。

「オイマジかよ!!じゃあ俺のレッドたんが好きだって気持ちもか!?」

「ロリ愛でられなくなるくらいなら死んだほうがマシだ!!」

「ブルーさんに殴られてみたいけど、この気持ちも消されたら、何も感じなくなっちまうのか!?」

「嫌だぁぁぁ……そんなのあんまりだよぉぉぉ!!」

「私……もしかしたら取り憑かれちゃうかも……」

「私も心当たりが……」

 総二たちの方を見やると、案の定バカ共の戯言に頭を抱えていた……。

 あと取り憑かれる自覚がある人は、多分大丈夫だろう。

 だが、慧理那の話はこれが本題ではない。

 昨日味わった、奴らの脅威を伝えること。確かにこれもこの集会の目的ではある。

 でも慧理那が本来伝えようとしていることは……。

「もう何人かは気付いているかもしれませんが、昨日の放課後、わたくしはジェラシェードに捕まり、3人目の人質にされてしまいました」

 再びざわつく生徒達。いや、ざわついているのは昨日、俺に襲い掛かった生徒会のメンバーとテレビを見てなかった生徒だけだ。

 一応、フォトンサングラスからの映像に映り込んでいたいたので気づいた生徒はたくさんいるのだろう。

「不覚にも、わたくしはテイルドラゴンさんの目の前でジェラシェードの人質になってしまいましたわ……。それがきっかけで、テイルドラゴンさんは追い詰められてしまいました……」

 話の流れからか、今度は葬式のように静まり返る体育館内。

「人質を取られた上に、ジェラシェードの非道な罠に嵌り……テイルドラゴンさんは……わたくしの目の前でいたぶられ…………見ていられない程でした……」

 俺がいたぶられていたのを思い出したのか、慧理那の表情も暗く沈んでいる。

 生徒達の空気も重くなり、余計に葬式ムードが広がる。

 ……俺は……そんなに無様だったのだろうか?

 この空気を作り出した原因になった俺も、暗い気分になってくる。

 ……だが、慧理那の答えは……。

「目を背けようとしたわたくしの目に飛び込んで来たのは……地面に伏しながらも、わたくしたちに手を伸ばすテイルドラゴンさんの姿でした」

 ……俺の……手?

「絶望的な状況で、わたくしたちに伸ばされたその手。果たして何を意味していたでしょうか?

 その手には、何かに助けを求める意思は全く感じられませんでした。むしろ、その手には……わたくしたちを絶対に助け出すという強い意志を感じました」

 あのとき……確かに俺はそう思いながら手を伸ばした。

 慧理那にはそんな風に感じ取れたのか……。

「その手からの……強い意思を感じたわたくしは、自然とテイルドラゴンに声援を送っていました。

 よくデパートやイベント会場で見る、ヒーローショーのように……わたくしと先に囚われていた2人は声援を送り続けました……」

 ざわ……ざわ……。

 生徒達が再びざわつきはじめる。

「そして、テイルドラゴンさんは立ち上がり、人質にされたわたくしたちを救出して大逆転、勝利を収めました。

 絶望的な状況でも、テイルドラゴンさんは諦めない意思の強さをわたくしたちに示してくれたのです!!」

 生徒達から歓声があがる。

 この一言で生徒達に活気が戻ったようだ。

 諦めない意思の強さか……。

 俺はあの戦いで、それを示す事ができたんだな……。

「わたくしが昨日学んだこと……それは、わたくしたちの知らなかった、もう一つの脅威。

 それは、応援の力がヒーローたちに力を与えてくれる事の実感。そして……諦めずに立ち向かえば、それは報われる事。

 わたくしは皆さんに、これらをもっと広めてもらいたいのです!!」

 生徒達から歓声と共に拍手が挙がる。

 俺も、この演説に自然と拍手を送っていた。

「よっしゃ!!これからも諦めずにツインテイルズを応援するぜ!!」

「諦めなければ報われるか……なら俺も諦めずに、レッドたんにアタックしてみようかな?」

「俺はブルーさんに踏んでくれるよう頼む練習するぞ!!世間の目に負けてたまるか!!」

「ジェラシェード……後で情報まとめて拡散しなくては……」

 うん、明らかに二つ目を間違った方向に捉えてる馬鹿が多いな……。

 総二たちを見やると……あ、二人共とうとう耳を塞いでるよ……。

 ……まあ、これは俺にも収集つかないし、諦めるか。

 ふと顔を上げると、舞台から降りる途中の慧理那と目が合った。

 演説の成功を喜んでか、こちらに笑顔でウインクしてきたので、右手でグッドサインを送る。

 周りは盛り上がっているので、別に気付かれる心配は無かった。

 こうして、世間にちょっとだけ、アルティメギルの脅威、そしてジェラシェードの存在が世間に知れ渡ったのであった。

 

 □□□□

 

 演説が終わり、退場しようとして、ふと生徒たちに目をやると、千優さんと目が合ってしまいました……。

 これまであまりハッキリと知られる事はなかった、アルティメギルの脅威、そして第三の勢力であるジェラシェードの存在を世に広める手伝いができ、満足していたわたくしは、人目を気にする事を忘れ、気付けばついウインクを……。

 直後に気づいて慌てましたが、幸い誰にも気付かれてはいないようでした。

 もう一度千優さんの方を見ると、気付いてくれたらしく、グッドサインを返してくれました。

 ……でも、何故でしょうか……たったこれだけの事なのに、胸がときめいてしまうのは……。

 

 □□□□

 

 舞台の緞帳の陰、慧理那の表情を伺う細身の少年が1人……。

(なんなんだ……なんなんだよ、会長のあの表情!!

 緞帳の陰から見てるだけでもわかるあのトキメキに満ちた表情は……誰かに恋心を抱いている表情!!

 あの表情が他の誰かへ向けてのものだと考えるだけで腹立たしい!!

 ……誰だか知らないが、絶対に見つけ出して潰してやる!!)

 眼鏡をかけ直し、少年は誓う。

(僕の会長に手を出す輩は誰だろうと許さない……)

 種火は密かに燃え上がり始めていた。

 

 □□□□

「やっと入る気になったんだってな」

 休み時間、俺に話しかけてきたのは、生徒会に所属する友人で生徒会のサボり魔、上郷拓士かみさとたくとと、拓士とは逆に働き者で、生徒会の柱とも言われている宮ノ下夏海みやのしたなつみだ。

 慧理那とは別に、俺を生徒会に引き込もうと何回か声をかけて来たが、慧理那と同様、テイルドラゴンとしての活動に支障が出ることを危惧して断り続けていたのだ。

 ちなみに昨日、夏海はバイト、拓士はサボり魔なので、それぞれ生徒会には出席しておらず、幸い俺と戦ったメンバーには含まれていなかった。

「まあ、あそこまで頼まれたら……ね」

「私らの勧誘は断り続けたけど、流石に会長には敵わなかったってことね」

「……まあ……な」

 本当のところは、また昨日みたいな事件に巻き込まれないようにする為なんだが、人員不足になっても一人で頑張る慧理那が放っておけなくなったのも事実だ。

 とゆうわけで、俺も生徒会に所属することになったのだ。

「これで生徒会も人員が増えて、仕事が楽になるな」

「それ言うならアンタも働け!!」

「痛てぇ!?」

 夏海のキックが拓士に命中する。2人の喧嘩も何時ものことだ。

 働く時は働くが、招集がかかっても声をかけなければすぐに帰ってしまう程のサボり具合の拓士を、逆に人一倍働き、バイトとも両立している夏海がしばく……2人に会ったらよくある光景だ。

「これだからお前は脳筋なんだって……」

「誰が脳筋じゃゴルァァァァ!!」

「ぐげぶ!?ギブギブ!!首はやめろ!!」

 ……まあ、拓士が自分から煽っているから、というのもあるが……。

「2人とも、その辺にしとけ」

 2人の仲裁をしながら、夏海を拓士から引き剥がす。

「あぁ……死ぬかと思った……」

「自業自得でしょ?」

「だからストップ!!」

 これ以上は流石にまずいので話を逸らしでもしなければ……。

「集会は、放課後だったよね?」

「絶対遅れるなよ?あとこのバカもちゃんと連れてくること!!」

「誰がバカだ誰が」

「了解」

「無視すんなよ!!」

 放課後、生徒会室に集合し、自己紹介と挨拶をすれば今日のところは仕事がないので帰れる。

 来月まで特に仕事はないらしいので、しばらくはゆっくりできるだろう。

「わざわざ会長が頭下げて頼みに行ったのに断ったら、それこそ会長のファンに何されるか分かったもんじゃないよな……」

「拓士やめろ!!シャレにならない!!」

「そういえば……一応言っとくけど千優、私らと会長以外の生徒会メンバーから目をつけられてるよ?」

「……はい?」

 初耳だ。なにゆえ生徒会メンバーが俺なんかに?

 一瞬そう思ったが、すぐに答えは出た。

「もしかして……」

「お前と会長、仲がいいからさ、嫉妬しているメンバーが何人かいる……ってことよ」

「……あぁ、やっぱり……」

 これで生徒会メンバーがジェラシェードに取り憑かれた理由がハッキリ分かった。

「それ、理不尽じゃないか?」

「仕方ないだろ?会長の人気は絶大なんだ。お前といえど敵視されるのは仕方ないさ」

「男子だけならまだしも、女子も何人か混ざってるのが厄介ね……あれは私も恐怖を感じるわ……」

 嘘だろ承太郎!!俺の平和な学校生活はそろそろ脅かされようとしているってのか!?

「……まあ、悪いのはお前じゃないからな。頑張れよ、彼氏さん」

「会長のファンや生徒会が敵でも、私は応援してるから。じゃあね」

 そう言うと2人はそれぞれの教室に戻って行った。

 2人ともなにか勘違いしてたような気がするんだが……。

 師匠であることは認めたが、俺は別に彼氏じゃないぞ?

 あと頑張れって言われたが、俺は一体何人に敵視されているんだろうか……。

「……今更だけど、生徒会に入った事を後悔する気がしてきた……」

 憂鬱な気分で俺は教室に戻った。

 ……その放課後、エレメリアン出現により生徒会への挨拶は来週になってしまったのであった。

 

 □□□□

 

 アルティメギル基地内搬入口

 スパロウギルディは、クラーケギルディとリヴァイアギルディの部隊を迎えるべく、若輩ながら実力は折り紙付きであるスワンギルディを伴い、基地最奥の搬入口へと向かっていた。

「と、とにかく、あのお二人が手と手を取り合って下されば、鬼に金棒なのだ。我らで何としてでも橋渡しをせねばならぬぞ」

「はっ…………」

 看護服属性ナースの申し子―神童とまで謳われた、スワンギルディだが、隊長のドラグギルディが倒されてより、すっかり覇気を失ってしまっていた。ドラグギルディと旧知の仲であるリヴァイアギルディが、彼の心に再び火を灯してくれるのを、スパロウギルディは期待している。

 だが、水と油の関係であるあの二体を、自分が取り持つことができるのか。

 焦燥に駆られ、自然と歩みも速くなる。

 アルティメギルが、無数の小隊に分かれて並行世界を侵略しているのは、一つの世界に総戦力を投入し、一気に侵略するよりも、多くの世界に戦力を振り分け、少しづつ侵略を行うほうが効率がいいからだ。

 だが、隊を小分けにしているのには、別の理由もある。

 エレメリアンたちの個性の分散である。

 個々が力を増し、強くなれば、その分我がも強くなる。反発や衝突も生まれる。

 ましてや、属性力エレメーラの化身であるエレメリアンたちにとって、互いの主義主張はまさしく己の存在そのもの。

 少しの諍いであろうが、互いに引かず、譲らず、争いに発展してしまうことも少なくない。

 そのための分隊化でもあるのだ。

 すでにベテランの地位にあり、それを理解しているスパロウギルディだからこそ、今回の招致には不安を隠せるものではなかった。

 目の前に搬入口へのゲートが見えてくる。

 不安を飲み込み、スパロウギルディはゲートを開いた。

 

「っ!……あああ……!!」

 早速頭を抱えるスパロウギルディ。そこには、彼が最も恐れていた事態が広がっていた。

 それぞれの隊の移動艇の着艦した搬入口は、猛烈な殺気に包まれている。

 すでに二軍は到着するや真っ向から睨み合い、火花を散らしていたのだ。大将の二体はその最たるものだ。

 細身で精悍な顔つきに似合わず、肩から垂れ下がっているものを中心に、全身に烏賊のような触手を備える貧乳属性スモールバストの雄、クラーケギルディ。

 一方、海竜のような顔つきのリヴァイアギルディは、まるで人魚の尻尾のように股間部から巨大な一本の触手が伸びており、それを胴体に螺旋状に絡めて鎧としていた。彼はアルティメギルにおいて、巨乳属性ラージバストここにありと謳われている。

 互いに十数体もの部下を従え、それぞれ「貧乳」と「巨乳」のプラカードや横断幕を振り上げつつ、今にも戦闘を始めんばかりに威嚇しあっていた。

 最悪の事態を避けるために、火中に飛び込む心境で二人の前に進み出るスパロウギルディ。

「クラーケギルディ様にリヴァイアギルディ様……お、お二人がこの世界に来てくださるとは光栄です」

「首領様の命令は絶対だ。どうも強敵打倒の増援にかこつけて、どこぞの能無し部隊の引き受けまで任されたようだが、まあ、やり遂げて見せようさ」

 スパロウギルディの敬礼に軽い手振りで答えるも、リヴァイアギルディは露骨に不機嫌を滲ませた口調で言う。

 明らかな挑発に、クラーケギルディも憤然と言い返す。

「言ってくれるな。それはこちらの台詞よ。侵攻する世界で何度も情けをかけ、属性力エレメーラの完全奪取を遂行せず見逃した半端者が」

「お前こそ、時代錯誤な騎士かぶれが一段と増したようだな。何だ、そんな揃いのマントなど部下に羽織らせおって」

「お言葉ですがリヴァイアギルディ様!このマントは我々が──」

 反論しようとする部下を挙手で諫め、クラーケギルディはぎろりとリヴァイアギルディを見据えた。

「ともかくだ。私の部下たちが妙な影響を受けぬよう、出しゃばりは慎んでもらおう。巨乳属性ラージバストなどと、下品な属性を吹聴する貴様にはな!!」

「何を!」

 今度は、リヴァイアギルディが、いきり立つ自分の部下を諫める番だった。

「時代を読めぬ骨董品めが。ツインテールには貧乳が似合うなどと、原始時代のような思い込みに縛られる貴様こそ、憐れよ!!」

 睨み合う二体……そして二体は同時に目を見開き──

「巨キョォォォ!!」

「貧ヒンッッッ!!」

 裂帛の叫びに続き、耳をつんざくような破裂音が大気を震わせる。

 その場の誰もが、二体がどんな攻防を繰り広げたのか目にとらえることはできなかった。

 やがて、リヴァイアギルディは股間の触手を身体に巻き付けなおし、一方のクラーケギルディは背中から生えた触手を縮めて身体に格納した。おそらく、それらが激突したのだろう。

「…………まあよい。部隊も大きくなれば、今の基地では足りなかろう。私たちの母艦きちも合わせねばならん。合体作業が済み次第、噂のツインテイルズとやらの記録を見せてもらう」

「は……はっ!」

 スパロウギルディが答えると、クラーケギルディは部下たちと共に、ドッキングしたブリッジを渡って自分たちの移動艇へと一旦戻っていった。

「よし、お前たちも戻れ。俺は少し野暮用がある」

 部下たちにそう言い渡したリヴァイアギルディは、スパロウギルディに基地全体の構造について聞く。

 その最中、ドラグギルディの部屋だった場所も尋ねる。

「ドラグギルディ様のお部屋に、何か御用が……?」

 恐る恐る聞くスワンギルディに、リヴァイアギルディは大声で笑い答えた。

「ははははははは!なあに、負け犬の面影でも見て戦いくさの前に大笑いでもしておこうと思ってな!!」

 スワンギルディは幽鬼のようによろめきながらリヴァイアギルディに歩み寄ると、その節くれ立った肩をがっしりと掴んだ。

「……どうか今の言葉、お取り消しを」

「何故だ?」

「よ、よさんか、スワンギルディ!」

 スパロウギルディの制止も聞かず、スワンギルディは憤怒を面にみなぎらせて上官を睨みつけた。

「ドラグギルディ様は、立派に戦われ、昇天なさいました。敗れたとはいえ、まこと見事な──―」

「慎め、若造が!!」

 スワンギルディはリヴァイアギルディが一瞬にして解き振るった、股間の巨大な触手の一振りで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 先程、クラーケギルディと一合交えた際に放った、彼の最強の武器だ。

「ぐうっ!」

「貴様も戦士なら、いつまでも敗将になどこだわらず、剣の一本でも振っていろ!!負け犬の後を継いで後を追いたいというのなら、話は別だがな!!」

 股間の触手を胴に巻き付けて仕舞い、スワンギルディを傲然と見下ろしたリヴァイアギルディは、そのまま案内のあった方向へと歩いて行った。

「うぅ……私が弱いばかりに亡きドラグギルディ様にあのような辱めを……」

 自分の傷より、ドラグギルディへの侮辱に深く傷つくスワンギルディを抱き起しながら、スパロウギルディは、ゆっくりと首を横に振る。

「そうではない…………リヴァイアギルディ様を見よ」

 去りゆくリヴァイアギルディを憎々しげに見るスワンギルディだが、すぐにその表情からは険が解けていった。


 リヴァイアギルディの股間の触手は、彼の身体を引きちぎらんばかりに張り詰め、震えていた。

 顔で怒って、股間で泣いて……武骨な戦士の悲しみの在りようを目の当たりにし、スワンギルディは言葉を失う。

「リヴァイアギルディ様は、ドラグギルディ様の旧知の友……悲しくないはずがあるまいよ。力が強いだけでは一部隊を率いることはできぬ。ただ、あのお方もまた、自分に厳しきだけよ」

 スワンギルディは、また自分の未熟さに打ちひしがれ、首を垂れることになったのだ。

 しかし……ここで終わる男ではなかった。

「剣の一本でも振れ……確かに、その通りです」

 スワンギルディは意を決したように立ち上がると、スパロウギルディに頭を下げた。

「スパロウギルディ殿……あなたならご存知でしょう。ドラグギルディ様が成し遂げられたという、伝説の試練への挑み方を。どうか、この私にご教授いただきたい」

「……なに!?スワンギルディ、お前……スケテイル・アマ・ゾーンを!死ぬ気か!!」

「一年間続けなければ修了になりませんが……それでも、時が来るまで続けて見せましょう!!」

 ドラグギルディの武勇の中で最も名高い、アルティメギル五大究極試練の一つ、スケテイル・アマ・ゾーン。

 通販で買った商品が一年間、透明な箱で梱包され配達されるその荒行に、スワンギルディは挑む覚悟を決めたのだ。

 ──そんなものどこが試練になるのかと疑問を抱く読者もいるであろう。だが、人間の属性力から生まれた精神生命体である、彼らエレメリアンにとっては文字通り修行なのである。

 例えば、あなたが某世界的に有名なあの通販サイトでなにか購入したとしよう。好きなアニメのキャラクターグッズなんかがわかりやすいかもしれない。

 その商品が、もしも透明な箱に梱包されて配達されれば、あなたはどう感じるだろうか?

 もしもそれが、留守の間に自宅に届き、親や兄弟姉妹、あるいは遊びに来た友人などに見つかった場合、どんな気持ちになるだろうか?

 それほどの猛者ではない人ならば、「恥ずかしい」と感じるだろう。

「死ぬほど恥ずかしい」思いをする人もいる筈だが、それはエレメリアンたちにとっては、まさしく死ぬほどの身体的ダメージになるのだ。

 特に、趣味嗜好の具現であるエレメリアンたちが購入するものなど、口に出しては言えないものも結構あるので、どれだけ悲惨かは語るに及ばす……。

 とにかく修行の中でも究極試練とも言われる理由が分かってもらえただろう──―

「見ていてください……医療班長せんせい……」

 スワンギルディの脳裏に、かつて憧れたあるエレメリアンの姿が浮かぶ。

「ドラグギルディ様の遺志は……私が継いで見せます!!」

 果たして、白鳥は竜に届くことができるか──―。

 スワンギルディの戦いが、始まった。

 

 一方、リヴァイアギルディは、残されているドラグギルディの部屋を訪れた。

 エレメリアンに墓標を立てる習慣はない。

 終わりは何も残さず、世界に還るだけだ。

 まさに往生際よく消滅して世界に還り、仲間の武勇を見守るのみ。

 その潔さこそが彼らの強さであり、誇りであった。必要以上に悲しむことはないし、いつまでも引きずることもない。

 それでも……別れはつらいものだ。

 よく見ると、写真家属性カメラマンのエレメリアンでもいたのか、部屋の真ん中に置かれたテーブルには、ドラグギルディの遺影が据えられている。

 最高の幼女に背中を流してもらいたい、と常に夢を語っていたドラグギルディの部屋には、部下たちが手向けた幼女のフィギュアが積み上げられ、遺影の後ろで奇しくも墓標のようになっていた。故人の人柄を思わせる。

 その即席の墓標の上に、リヴァイアギルディは持参したマウスパッドを供えた。

 幼女とは対極にある、豊かなバストを模したマウスパッドだ。俗に言う、おっぱいマウスパッドである。

「受け取れいドラグギルディ……俺からの、せめてもの餞はなむけよ」

 人間ならば。供え物は、魂の慰めになるだろう。

 だが、彼らはエレメリアン。

 血も肉も持たない、精神の生命体。

 花の芳香においも知らなければ、美酒さけの味も分からない。

 そんな彼が、同胞ともの死を悼んで捧げるものは……これ以外に何がある。

「お前はツインテールのみを求め、走り抜けた。だが、もうよいのだ。ゆっくりと休むがいい。そして、巨乳にも目を向けてみるがよい……。戦いを忘れ、心安らぐことを祈っているぞ」

 祈りを捧げることもなく、そう言い残したきりで、すぐに踵を返す。

「お前を破ったという最強の少女……そのツインテールを奪うことで、お前への鎮魂としよう」

 

 □□□□

 

 グラビアアイドルコンテスト会場

 放課後、エレメリアン反応があり、駆け付けた現場はグラビアアイドルのオープンコンテスト会場だった。

 逃げ惑い、跳ねる胸が乱舞する。

 そして……愛香の怒りは、何故かエレメリアンではなく、水着姿の女の子たちに向けられているようだった。

 理由は無論、愛香の嫌う巨乳美女が大勢いることだろう。

 まったく、こんな時にも胸へのコンプレックスを民間人に向けるなんて、醜い嫉妬はやめろと言っても聞かないんだろうな。

「胸くそ悪い、瘴気の濃い場所だわ。とっとと片付けて、帰りましょう」

「いや、早く終わらせたいのは同感だけど……」

 華やかな会場におよそ不釣り合いな、縦も横も大きな牛のようなエレメリアン。

 それも、あの「し」の字に曲がった大きな角から察するに野牛、あるいは闘牛だろうか。

 腕は如何にも怪力が自慢だと主張するように太く、顔にはアメフト選手のマスクのようなものを付けている。

 尻尾には巨大なモーニングスター。おそらくこれが武器だろう。

 名前は……おそらくバッファローギルディ、とかだろうな。

 そいつは、女の子たちに一瞥もくれず、不機嫌そうに腕組みをして仁王立ちしていた。

「はったりばかりで見掛け倒しの者ばかりよ!やはり真の巨乳はここにもおらぬか」

 なるほど、やけにあっさり見逃しているのは、こいつが求めるほどのターゲットがいないからか。

「まあいい、とにかく、まずはツインテール属性を奪うのだ!かかれい!!」

 ツインテールにしている子たちは、アルティロイドに囲まれてへたり込む……へたり込んでいる筈、なんだけど……。

 テイルレッドがこちらに目くばせしてくる。

 どうやら総二も同じことを思ったらしい。

 ……この子たち、怯えてるくせしてカメラを意識してポーズとっていやがる!!

 こんな状況でなんて根性だ。ある意味凄いな……呆れるけど。

 取り敢えず、まずはアイドルたちを逃がそうと思い、彼女たちに近づいた俺たちの前に、その牛型エレメリアンが立ちふさがった。

「邪魔はさせんぞ、ツインテイルズ!我が名はバッファローギルディ!我が愛する巨乳属性ラージバストを広めるという大義を掲げ戦う主のためならば、この命惜しくはない!!」

 見た目は中々強そうだけど相変わらず強面と言動が一致してなーい!!

「巨乳属性ラージバスト……そんな俗な属性、ホントにあるんだな……」

 げんなりする総二。これには俺も苦笑するしかないな……。

 そして俺たちとは裏腹に……、

「……巨乳属性ラージバストですって……?つまりあんたを倒せば、巨乳の属性玉エレメーラオーブが手に入るのね……?」

 愛香テイルブルーは獲物を見つけたハンターのようにギラリと目を光らせた。

「お、おいブルー……」

「ブルー落ち着け!!冷静さを取り戻すんだ!!」

 しかし、こうなると愛香はとことん話を聞かない。

「ドラ兄、私は至って冷静よ。早い話が、あいつを一発で仕留めればいいんでしょ?」

「いやいやいや!!全然落ち着いてねぇじゃんか!!」

『なんだなんだ!?カメラ越しにも分かるこの殺気は!?』

 マシンサラマンダーを自動操縦して救援にやってきたヒーローCも驚いている。

 愛香の獲物を狙うような目に気づかず、バッファローギルディはしみじみと語り始めた。

 ……そろそろ飛び出していきそうな愛香と、それを抑えようとしている俺は置いといて、テイルレッドに。

「俗な属性とは言ってくれる。だが、お主のような幼子にはわかるまい。願わくば、成長と共に胸も大きくなれると信じる純粋さを失うでないぞ。そしてたゆまぬ研磨も忘れてはならぬ。それを放棄したなれの果てが、この者たちの中にも大勢いるような人工的な……」

「やめろバカ!!」

 瞬時にオーラピラーの構えをとったブルーを羽交い絞めにする。

「放してドラ兄!!こいつの話聞いてると怒りで全身の血液が沸騰しそう!!今すぐ仕留めなきゃ……」

「だからバカだって言ってんだ!!周囲のことをよく考えて……」

 そんな俺たちを何とも言えない表情で見るバッファローギルディ。

「仲間割れか?愚かなものだ。だが、これは好機!すまんがテイルレッドよ、話は後だ!」

 俺たちのほうへ、文字通り闘牛のように突っ込んでくるバッファローギルディ。

「はっ!ブルー、ドラ兄、危ない!!」

 バッファローギルディが突進してくるのに気づき、ブルーを押さえたまま避けようと左へ跳ぶ……が、その瞬間、俺の僅かな隙をついてブルーは逆方向へ跳んだ!!

「な!?あいつ逃れやがった!!」

 うっかり逃がさないようにしっかり捕まえていたつもりだったが、流石愛香。

 一瞬力が緩んだ隙に脱出を図ったか……。

 だが、突進とは別にもう一つ攻撃が迫っていた。

「おっと!?」

 もう一度後ろに跳び、距離をとると同時に、地面に棘だらけの鉄球がめり込む。

 巨体での突進で発生する遠心力を利用したモーニングスター攻撃か……当たったら確実に地面にめり込んだのは俺だったな、と胸をなで下ろす。

「避けたか。中々の反射神経だな、テイルドラゴン」

「敵の観察はこうゆう攻撃を見切る時に便利でね」

 モーニングスターを避けられた事に驚くこともなく、バッファローギルディはそう賞賛し、地面にめり込んだ尻尾を引き抜いた。

「不意打ちなんて、やってくれるじゃない。さすが巨乳属性……属性だけじゃなくて、性格まで腐りきってるわね!」

「巨乳は腐りきってなどいない!この世でツインテールの次に輝かしい属性力が巨乳属性の他にあろうか?いや、あるまい。この美しさをも理解できぬとは……それだからお主はそんな平らな乳なのだ!!」

「……言ってくれたわね…………」

 やっべ……あの闘牛、虎の尾を踏んだぞ。今のは俺もキレそうになったけど、まず抑えなきゃ!!

「レッド、ヒーローCアイドルたちはお前に任せる!!」

「わ、分かった!!」

『いわれる前に始めてるさ!!』

 俺たちが騒いでいる間に、アクションモードでアルティロイド達を蹴散らし、アイドルたちを避難させていたヒーローCにレッドが加わる。

 バッファローの相手は俺と愛香で充分だろう。

「なんだ!?この殺気は……」

「バッファローギルディ!テメエなんてことを!!」

 テイルブルーから発せられる禍々しい程の殺気にたじろぐバッファローギルディに、俺は決定的な死亡フラグだった点を言い放つ。

「仕方ない、この際ハッキリ伝えておく!!

 ブルーはな……自分の胸の大きさ一番気にしてんだ!特に巨乳と比べられることを凄く気にしてんだよ!」

「な、なんだと!?」

「ちょ、ちょっと!?」

 愛香が何か言いたげだが、今は言い切るべきだ。

「なんだって!?それは本当かい?」

「え?……もしかして私達、テイルブルーの神経逆撫でしてた?」

 案の定集まってきたギャラリーと避難したアイドルたちが騒ぎ出しているが、気にしてる場合じゃない!!

 かわいい妹分の尊厳に関わる事だ。そんなもの気にしている暇があるか!!

「それも巨乳にジェラシー燃やすほどのコンプレックス抱えてんだよ!!だから今のお前の発言のせいでマジギレしてんじゃねえか!!そんなことも分からずに、レッドにあんなセリフ吐いてたのか?ふざけんな!ブルーはお前の言っていた純粋さとやらを忘れず今日まで頑張ってきてんだ!!それを否定したお前に、胸の大きさがなんだのと語る資格は無い!!」

「ぐはぁぁぁぁぁ!!」

 なんか、精神的に結構ダメージあったらしく、吐血(?)した後、地面に膝をついて悶絶するバッファローギルディ。

「す……すまなかった……まさか……そこまで言われるとは……。……すまぬ、テイルブルーよ……。お前の努力を……その胸の成長を望む純粋さに……気づいてやれなくて……本当にすまなかった……」

「……え?」

 あまりの出来事に頭がついていかず、しばらくフリーズしてしまうブルー。

 同じく遠くからこの光景を見てポカンとしているレッド。

 そのまま土下座しているバッファローギルディ。

 ……シュールだな。

「え?いや、あ、うん。分かってくれたならそれはそれで……」

「だが憎むな!巨乳は憎むほど遠ざかる。手に入れる事を望むのなら巨乳を受け入れよ!さすれば──」

「だから巨乳巨乳うるさーい!!」

「へぶぅ!?」

 あ~あ……結局蹴られちゃったよ。

 土下座に近い体勢のまま、バッファローギルディは顎を蹴り飛ばされ、そのままステージに激突した。

「食らいなさい!オーラ……」

 再びオーラピラーの構えをとるテイルブルー。

 だが、それが放たれることはなかった。

 何故なら、さっきまで雨雲ひとつ見えないほど晴れ渡っていた上空に、突如暗雲が立ち込めてきたからだ。

「あの雲……急げブルー!!」

 テイルレッドが叫ぶ。

 あぁ、間違いない。あの暗雲は……。

『ジェラシェード反応有り!!3、2、1、来るぞ!!』

 ブルーがオーラピラーを発射する前に、暗雲から降りてきた黒い霧がステージに叩き付けられたバッファローギルディを包み込む。

「ブルアァァァァァ!!」

 次の瞬間、バッファローギルディの外見は大きく変わった。

 しの字型の角は更に禍々しくねじれ、丸太のような剛腕はもっと大きく肥大した。

 顔を覆うマスクのようなものは割れ、闘牛士に向かっていく闘牛のような荒々しい目付きと、蒸気のように吹き出す鼻息がハッキリと見える。

 黒い霧に身を包んだその姿は、もはやバッファローギルディではなかった。

「ジェラシェード!昨日の今日でまた来やがって!!」

「フハハハハ!我ラハ神出鬼没。昨日ノ失敗程度、ドウトイウコトハ無イ!」

 Jジェラシーバッファローギルディ、と化したバッファローギルディはステージから降り立つ。

「ダガ確カニ昨日、貴様ニ敗北シタセイデ我ラガ負ッタ損害モ大キイ。モウ少シデ新タナ同胞ノ誕生ダッタトイウノニ……宿主ノ女ト人質ニシタ小娘タチノ抵抗、貴様ノ邪魔ガ無ケレバ……」

「黙れ!!そんな事を許すわけにはいかない!!

 お前達は人々の命を弄び、あまつさえ無関係の人達まで巻き込もうとした。今も、今までもこうして、エレメリアンの身体でさえ乗っ取っている……そこまでして、何がしたいんだ!」

 Jジェラシーブァッファローギルディの面前に相対し、睨み合う。

「目的ダト?決マッテイル。我ラノ目的ハ我ラノ繁栄ト、世ニ蔓延ル全テノカップル共ノ根絶ナリ!

 ソノ為ナラバ、ドレ程ノ犠牲ガ有ロウト構ワン!!」

「……つまり、自分達の繁栄と気に食わないものカップルの絶滅さえ果たせれば、世界が滅びようが構わないってのか!」

「ソノ通リ!コノ世ニハ我ラノ養分トナル、妬ミト恨ミ。タダソレダケガ在レバ良イノダ!!」

 Jジェラシーバッファローギルディの雄叫びと共に、数十体のジェラシェイダーが現れる。

 自己中過ぎるわよ、と叫ぶテイルブルーに、何ガ悪イ?と返すJジェラシーバッファローギルディ。

 だがその声さえ、今の俺には水上から呼びかけられたとき程、遠く聞こえた。

「……んじゃねぇ……」

「ドラ兄……?」

 今、俺は無性に腹が立っていた。

「冗談じゃねぇ!!」

 繁栄のため?気に入らないものを排除するため?

 くっだらねぇ。

「この世界を……」

 恨みや妬みが渦巻く世界であれば充分だと?

 ふざけるな!

「この世界を……そんなくだらない目的のために滅ぼさせてたまるか!!」

 今、俺の怒りは煮え滾る溶岩溢れる火山の如く爆発した。

「レッド!アルティロイドは?」

 ジェラシェードたちから目を離さず、後方にいるテイルレッドへ叫ぶ。

「これで!!今、全部倒したところだ!」

「なら、ブルーと一緒にジェラシェイダーの相手をしてくれ。ヒーローCは野次馬に被害が及ばないように、警護を任せる」

『了解!』

「ああ!」

 見守る人々の方へ走るヒーローCと、ジェラシェイダーの行く先へ立ち塞がるテイルレッド。

「頼むブルー、バッファローギルディは俺に任せてくれ」

「仕方ないわね……ああなっちゃったら、殴っても気分が悪いもん」

 おいおい、お前はどこまでバッファローギルディへ怒りをぶつける気だ……。

「でもドラ兄、その代わりに絶対助けなさいよ。あの牛ムカつくけど……冷静に考えてみれば私の事、自分なりに応援してくれていたワケだし……」

「……わかった」

 応えた直後、テイルブルーはレッドの傍へ突っ込んで行った。

 まったく……頭を冷やして考えてみればちゃんと理解出来たじゃないか……。

 俺がエレメリアンへ向けている想いは、愛香にも伝わっているのかもしれない。

「ブルアァァァァァァ!!」

「ッ!?」

 気がつくと、Jバッファローギルディは俺に突進してきていた。

 身体を貫こうとする角を、両手でなんとか掴み、抑え込む。

「戦闘中ニ余所見トハ、随分ト余裕ダナ!!」

「テメェ……相変わらず卑怯な連中だ!!」

「卑怯ナノデハナイ!貴様ガ迂闊ダッタノダ!!」

 掴んだ角に、力が集中しているのが感じられる。

 ヤバイ、これは……。

「気付イタナ?ダガ、モウ遅イ!」

 次の瞬間、俺の身体が浮き上がり、空中に勢いよく投げ出される。

「喰ラエ、巨乳突キ!!」

「うおおぉぉぉ!?」

 落下する俺の真下に、Jバッファローギルディが角を突き上げる。

 このままだと串刺しか!!

「属性変換エレメリーション!体操服ブルマ!!」

 咄嗟に取り出した体操服属性の属性玉を、右手の投入口へ叩き込む。

 右手に、ボーリングの球くらいの大きさの、重力で形成された球体が現れる。

「グラビティボール!!」

 名前がそのまんまだったが、重力球をJバッファローギルディへと投げつける。

「何ッ!?」

 その瞬間、Jバッファローギルディの巨体に重力が集中する。

 アスファルトは重さに耐えきれずへこんでいき、Jバッファローギルディの両足はどんどんめり込んでいく。

「ウ……動ケン!?」

 そりゃあ、重力集中させてる上に元々あの巨体だ。

 地面にどんどんめり込んで、動けなくなるだろうよ。

「さっきの技、バッファローギルディの物だろ?」

 スラスターで体勢を整え、着地に備える。

「クッ……貴様ニ通用スル程ノ威力モ無イノカ……役立タズガ……」

「阿呆フラーか、奪っただけの技が強いはずがないだろ」

 ジェラシェードの自分勝手さに、俺の怒りは更に燃え上がる。

 その時、ドライバーのバックルに付いているボタン……Xperiaのカメラの切り替えボタンが赤く輝いた。

 頭の中に説明が流れ込み、すかさずボタンを押す。

『BURSTバースト!!』

 右手が赤いオーラを纏い、熱く燃え上がる。

「技ってのは、そいつの努力や想いの結晶だ。身体を乗っ取ったからって、その技量をそのまま扱えるわけがねぇだろうがぁぁぁぁぁ!!」

 その右手を、重力がかかって動けなくなっているJバッファローギルディの脳天に叩き込む!!

「ヌォォオォォォォォオオ!?」

 バキッ、と音を立てて右角がへし折られた。

 そのまま頭を踏み台に、重力波の射程圏外へ跳躍、着地する。

「お前に乗っ取られる前の方が、今の技もよっぽど綺麗に決まっていただろうさ」

 名前は酷かったが……まあ、置いておこう。

「ヒーリングフルート!!」

 右手にドラゴファングが出現する。

 さて、今日の曲は……。

 パラララーパパパパー パララパーパラララパラー

「ヌグッ!?」

 半分赤くてもう半分が青い人造人間の兄が演奏するトランペットのメロディーを奏でる。

 音も原曲に合わせてトランペットの音色だ。

 裁きのラッパの如く高らかに鳴り響く轟音は、バッファローギルディを蝕んでいるジェラシェードを苦しませる。

「グガガ……動ケン……重力ガ邪魔ダァァァ!!」

 足掻くかのように尻尾のモーニングスターをこちらへ投げようとする。

 だが、元々かなりの重量を持つモーニングスターは更に地面にめり込み、持ち上げる事が出来なくなっていた。

 遂にはモーニングスターの重さに耐えきれず、地面に突っ伏した状態でめり込んだ。

 そして、バッファローギルディからはどんどん黒い霧が放出されていく。

「グゥゥゥ……次ハ……次コソハ必ズ……」

 最後に一際黒く、まとまった大量の霧が放出される。

『ジェラシェード反応、完全消滅を確認した。後はバッファローギルディだけだ!』

 ヒーローCのアナウンスを聞き、演奏を止める。

 そして、バッファローギルディにかけたブルマ属性の重力を解除する。

「大丈夫か?バッファローギルディ」

「自ら攻撃した敵の心配をするとは……恐ろしいようで甘い男だな……」

「ああなったら、敵とか味方とか関係ないだろ?」

「そうか……態々すまない。……既に身体は限界だ。トドメを刺すがよい……」

 まったく、散り際は相変わらず潔い連中だよ。

 確かに、さっき思いっきり重力かけたから、体力はもう限界まで磨り減っているだろう。

 ならば、一思いに倒してやるのが、せめてもの手向けになるだろう。

「分かったよ。それなら、まずは立ち上がってくれないか?」

 地面に突っ伏したままでトドメを刺すのは、なんだかやりにくい。

 起き上がらせるために手を伸ばす。

「……そうだな。この無様な格好で死んだら、同胞たちになんと言われるか……」

 自力で起き上がろうと凹んだ地面に手を立てるが、力が入らないようだ。

「ほら、手ぇ貸すから……」

「……フッ」

 先程までの力はもう発揮できないその剛腕を伸ばすバッファローギルディ。

 その手を掴み、立ち上がらせる。

「さあ……来るがいい!!」

「あばよ……バッファローギルディ!!」

 バッファローギルディから距離を取り、オーラピラーを発射する。

 そしてドラゴファングを両手に構えて一気に加速!

「完全開放ブレイクレリーズ!竜牙の一閃ドラゴニック・スラッシュ!!」

 赤き軌跡が切断面を描き出し、バッファローギルディは爆発した。

 願わくば、もっと巨乳が見たかった!と、色々と台無しになる台詞とともに……。

 

 □□□□

 

 観束家地下 ツインテイルズ秘密基地

「ああ、疲れた……」

 椅子の背もたれに思いっきり体重を預ける俺たち。

 本当に大変だったのは戦闘の後だったのだ。

 なんでも、「ツインテイルズにツインテールを触ってもらうと幸せになれる」とか「テイルドラゴンに頭を撫でてもらえると恋が成就する」なんて眉唾都市伝説が広まっているらしく、戦闘後の疲れ切った俺たちに、ギャラリーが濁流のごとく迫ってきたのだ。

 マシンサラマンダーに飛行形態があって助かった、と思えたのがこんな事態だとは夢にも思わなかった。

「ちゃんと断って撤退するあたり、ヒロ兄絶対敏腕マネージャーになれるよ……」

「マネージャーねえ……」

「マネージャーねえ……」

「しかも素直に従うどころか、私たちを帰らせてくれるよう呼び掛けてくれた人たちもいたわけでしょ?」

「過激なファンが多い中、ああゆう善いファンを味方につけて行動してもらえるとは……千優さん、Bランクくらいのカリスマスキルでもついてるんですか?」

「んなわけなかろう、偶然そうゆうファンが何人か集まっていたんじゃねえの?」

 ホント、過激なファンが多いと困ってもんだ。

 俺はアンチがいる分まだバランス取れているんだろうが、テイルレッドの人気はアンチが存在しないほど莫大だ。

 テイルブルーもまだまだ否定的な人が多いものの、明らかにファンと共に過激派が増えている。

 人気すぎるが故に、こうゆうこともあるものだ。

 これは今後、気を付けなくては……。

 そんなことを考えていた時、ヒーローフォンに着信が。

「ん?慧理那から?」

 2コール目くらいで通話に出る。

「もしもし?」

「あ、千優さん!少々お時間いいですか?」

 なんだろう?もしかして、生徒会初日から欠席したことにお咎めが来たんだろうか?

「別にいいけど、どうした?」

「あ、あの……明日、お暇でしょうか?」

「明日?うん、暇だよ」

「よかった……約束、明日ですよね?」

「……あ、そういえば明日か!!」

 色々あったからすっかり頭の隅に追いやられていたが、この前の約束……限定変身アイテムを受け取りに行く日は明日なのだ。

「待ち合わせはいつ、どこがいいのでしょうか?」

「そうだな……明日の10時に現地集合で」

「了解しました。楽しみに待っていますね、師匠!」

「おう!絶対手に入れような!」

 改めて約束の確認をして、通話を切る。

「ヒロ兄、今のって……」

「慧理那からだ」

「いや、そうじゃなくって……」

「もしかして今ので無自覚とか言いませんよね?」

「え?」

 3人の呆れたような視線が突き刺さる。

「え?俺何か問題のあることでも…………」

 そう言いかけたが、会話を振り返ってみると答えはすぐに導き出せた。

 慧理那クラスメートのおんなのこと、一緒に、多々買いショッピングに行く。

 しかも約束をして時間も設定してある。

 これ…………デートじゃね?

 その後しばらくフリーズし、慌てて身なりを整えに帰ったのは語るに及ばない。 
 

 
後書き
愛香「まさか、ヒロ兄と会長がねえ」
トゥアール「しかも無自覚ですよ!NL好きなのにそれに気づかないとは・・・」
総二「ホント自然な流れ過ぎて、俺も一瞬意識がフリーズしたぞ。ヒロ兄、帰る前にデートじゃないって否定してはいたけど」
トゥアール「いっそのこと明日、二人の様子を監視しちゃいましょう!!」
愛香「異議なし!!」
総二「お前らな・・・」
ヒーローC『やれやれ・・・次回、赤・蟹・襲・来に・・・』
一同「「「『テイルオン!!』」」」
トゥアール「付き合ってもいない二人のデート回になったりなってなかったりです」
 
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