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俺、リア充を守ります。

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第5話「想いの竜ーテイルドラゴンーその2」

 深夜 市内某所

「フフ……これで準備は整った……」

 都内のある住宅内の一室にて、暗い部屋の中、パソコンを覗き込む一人の人物。

 黒い壁紙のホームページ画面には、血のような赤い文字でこう書かれていた。

 [リア充の抹消を望む会 同志求む]

 すでに20人程、非リアとみられる書き込みが表示されていた。

 その人物はまるで悪魔のように冷ややかな笑みを浮かべながらそっと、呟いた。

「決行の時は近い……。やつを誘き出し、完膚なきまでに叩きのめすには、この作戦が一番効果的だろう……」

 何かの書類が散らばったテーブルには何枚かの写真が置かれている。

 写真に写っているのは全て陽月学園の学生カップルの写真である。

 しかしその中に二枚、カップルではない者達の写真があった。

 総二、愛香……そしてテイルドラゴンの写真である。

「待っていろテイルドラゴン……お前が地べたを這いつくばる無様な姿を、必ずや我らが母に捧げてやる……」

 そう言うと同時に、テイルドラゴンの写真にナイフを突き立てる。

 月明りさえ射さない曇り空、このことを知る者は誰一人いなかった。

 

 □□□□

 

 私立陽月学園 放課後

「おーい、千優起きてるかー」

「…………」

「千優ー、返事しろー。ホームルームはもう終わっているぞー」

「…………ハッ!」

 黒川の声で身体に魂が戻るように気が付く。

「どうした?寝不足なのか?」

「いや、今読んでるラノベの推しカプが今後どうなるか考えてた」

「相変わらずだな!!」

「いや、だって気になるじゃん!!」

 強い敵はバンバン出てくるし、主人公がどんどん遠い人になっていくのを、力不足故に見ているしかない状態に陥ったヒロインが新刊が出る度にどんどん病んでいく……。

 このシチュエーションは正直言って読者にとっても凄く辛いのだ。

 それを黒川に言ってみると、

「え、今そんな状態なの!?アニメしか見てないから知らなかったわ……」と驚いている。

 アニメからハマり原作で続きを追っている俺もこの展開には驚いたもんだ。

 このままヤンデレルートに入って闇堕ちでもするんじゃないかと思うと気が気でない。

 そしてあの鈍感主人公がどうやって彼女を立ち直らせ、フラグを回収するのか……これが一番期待している部分でもある。

「ところでさ千優、桜川先生の事なんだが……」

「尊さ……桜川先生がどうした?」

「あの人、最近写真ばっかり撮ってるの見かけるんだが、何か知ってるか?」

「写真?……あ~、俺も撮られたから聞いてみたけど、なんでも結婚に相応しい相手のリストを作るから、全校男子の顔写真が欲しいんだと……」

「マジかよ……恐いな……」

 ホント、アラサー間近の執念恐ろしいな……。

「……ってなんで俺に聞くんだよ?」

「いや、本人に聞く気にはなれないし、慧理那会長に聞いても無駄だろうし……。慧理那会長と仲が良くて、桜川先生とも話しやすそうなお前なら何か知ってるかもな~と……」

「お前、俺を何だと思ってるんだよ……」

 尊さんを見てると、あの調子じゃ見つかるものも見つからないだろう、と思ってしまう。

 果たして、あの人が結婚できる日は来るのだろうか?

 だが、それよりも気になっていることがある。

 尊さんが巻いていたあの腕時計、何処かで見た覚えがあるのに未だに思い出せない。

 なにか引っかかるんだが……そのなにかが思い出せない。

 ヒーローCも覚えていないらしく、なるべく考えないようにしているのだが、これが気になってよく眠れなかったのだ。

「あ、そろそろ帰らないと……俺はそろそろ行くよ」

「おう、じゃあな」

 リュックを背負い、教室を出ていく黒川。

 俺も教室を出て、ツインテール部の部室に向かおうとした時……、

「わっ!?」

「ぬおっ!?」

 廊下を出たところで女生徒とぶつかってしまった。

「す、すみません!!」

「いえ、こちらこそ!!前が見えていなかったもので……」

「……って慧理那!?」

「あ、千優さん?」

 ぶつかった相手は、おそらく生徒会のものだと思われる書類を運んでいた慧理那だった。

 転んだ拍子に書類を散乱させてしまっている。

「ごめんごめん、急いでたもんだから……」

 散らばった書類を集めながら謝る。

「いえ……前が見えていなかったわたくしが悪いのですわ」

 集めた書類を積み重ねると、確かに慧理那の身長では前が見えづらい程の高さだった。

「こりゃ確かに、前が見えなくなるのも無理ないな……。どうしてこんなにたくさん?」

「今日中に提出しなければならない書類なのですが、集計が遅れてしまって……」

 なるほど、それで責任感の強い慧理那は一人で集計を……。

 本当に真面目で、良い生徒会長だ。

「書類散らばらせたお詫びに、半分持つよ」

「え!?いいですよ、急いでいる方に手伝ってもらう訳には……」

「急いでいたって言ってもツインテール部の様子見に行くだけだし、実際暇人とあまり変わらないよ」

 まあ、本当は一秒でも長く総二と愛香のやり取りを眺めていたいんだが、困っている人を手助けする方が優先だ。

「それに、仲間がいた方が心強いだろ?」

「は、はい!!」

 やっぱり、こういう特撮っぽい台詞回し好きなんだなぁ、と確認しつつ書類の半分を持つ。

「生徒会室までお願いします」

「ガレット!!」

「流石師匠です!!」

 両手が塞がっていて敬礼できないのが残念だが、生徒会室まで歩き始める。

「しかし、仕事の能率が良いと評判の生徒会が集計遅れなんて……珍しいな」

「それが、ここ最近集まりが悪かったんですよ……」

「そうか。ったく、仕事もせずに何してんだか……」

生徒会が聞いて呆れるぜ。

「本当は千優さんにも、生徒会に入ってもらいたいのですが……」

「前から言ってるけど、俺なんかが向いている仕事じゃないと思うぞ?」

実は慧理那からは二、三回生徒会に誘われているんだが、全部断っている。

生徒会に入ったらその仕事で総二と愛香の絡みが見られないし、テイルドラゴンとしての活動に支障がでるかも知れないからな。

「そうでしょうか?千優さんは適任だと思うのですが……」

「趣味に費やす時間が減るのはゴメンだしね」

「はぁ……」

 そんな事を喋りながら、俺たちは残りの書類を集計していった。

 

 □□□□

 

 私立陽月学園 ツインテール部の部室内

「ヒロ兄遅いな……」

 ツインテール部内はいつもより静かだった。

 いつもなら痴女トゥアールの蛮行→愛香のバイオレンスツッコミ→その結果大騒ぎ、の流れである意味退屈しない程騒がしいのに、そのトゥアールがゲッソリしているからだ。

「あんたがゲッソリしてるなんて珍しいわね……」

 愛香もお茶を淹れながら驚いている。

「最近……総二さまの部屋に侵にゅ……お邪魔しようとしたら……妨害されて……」

「それは毎晩の事でしょ……ってそういえばあんた最近大人しいわね?」

  ここ最近、総二が夜に目を覚ましたら愛香とトゥアールが部屋で喧嘩していた……ということがめっきりなくなっているのだ。

 静かに眠れるのはありがたいが、彼も少し気になっていたところだ。

「それが……毎晩あのトラップに邪魔されて……」

「あのトラップ?」

「……ひょっとして、ヒロ兄が設置していたあれ?」

「そういやヒロ兄が俺の部屋の前に何かパネルみたいなのを何枚かセットしていたような……」

「毎晩……攻略しようと……対策練る度に……違うパターンで……追い返されます……」

「一体どんなトラップに引っかかっているんだ……」

「自業自得よ!!私も安心して熟睡できるし」

「もうこの際……ここで総二さまを襲ってしまえば「させるわけ無いでしょ!!」グリドン!!」

 愛香の鉄拳がトゥアールの脳天に炸裂し、トゥアールが妙な悲鳴を上げる。

「ネバーギブアップ……」

「ここまでぐったりしていると殴る気力も失せるわね……」

「そうでなけりゃ殴るのかよ!?」

 ようやくいつもの風景が戻ってきたかと思っていた……その時!!

「「「ッ!?」」」

 三人は部室の扉に目を向ける。

「今の気配は……殺気!?」

「間違いない……俺も感じた!!」

「私も背筋が凍りつくかと思いました……今のは……一体!?」

 愛香が扉の裏へ張り付く。

 そして3秒後、勢いよく扉を開けると……。

「さ……桜川先生?」

「津辺か……どうした?そんな怖い顔して?」

 扉の前にいたのは、カメラを片手に佇むメイド長、桜川尊だった。

「今の殺気は……まさか……」

「うっかりしていたよ……つい殺気を出してしまった」

「え……?」

 次の瞬間、バチッという音と同時に愛香が倒れる。

「あ……」

「「愛香(さん)!!」」

 尊が手に握っていたスタンガンのスイッチを入れたのだ。

「桜川先生!?いきなり何を……」

「フフ……さてと、お前も眠ってもらおうか」

 目にもとまらぬ俊敏さで、一瞬の内に総二の前に移動した尊は総二の首筋にスタンガンを当て、再びスイッチを入れる。

 悲鳴も上げず、総二は気絶した。

 あまりにも一瞬の出来事で、疲労が溜まっていたとはいえトゥアールにも何があったのか分からなかった。

「さて、これで準備は整ったな……」

「あんた……総二様と愛香さんをどうする気d……がっ!!」

  言い終わる前にトゥアールの豊満な胸に、尊の蹴りが命中し、トゥアールの身体が机の反対側まで吹き飛ぶ。

「ガッハ……ゲホッゲホッ……」

「間女に用はない。そこで寝ていろ」

 倒れている総二と愛香を担ぎ立ち去ろうとする尊。

 その姿を見ているしかないトゥアールの視界は、だんだん薄れていった。

 

 □□□□

 

 約10分後 生徒会室前

「ありがとうございます!!お陰様で無事に集計を終わる事が出来ました!!」

「おう!!……しかし、生徒会の仕事はやっぱり大変そうだな……」

「そうでしょうか?これくらいは普通かと思いますが?」

 やっぱりこの仕事に慣れている人はすごいな……。

 しかも慧理那はこんな小さな身体で頑張っているんだから。

「じゃあ、ここに置けばいいのか?」

「はい、そこに置いてもらえれば、あとはわたくしの仕事ですから」

 生徒会室の机に書類の束を置き、部屋を出る。

「やっぱり、千優さんも生徒会に……」

「何度も言ってるけど、俺なんかに務まる仕事じゃないよ」

「そうですか……」

 慧理那には申し訳ないが、許してくれ……。

口には出さないが、心の中で謝っておく。

「それじゃ、頑張れよ」

「お疲れさまでした。ではまた明日」

 生徒会室を出て、そのままツインテール部の部室に向かう。

 今日は珍しくエレメリアン出現のアラームも鳴らなかったし、ゆっくりできるだろう。

 書類が結構重かったし、お茶でも飲んでくつろごう等と考えながら部室の扉を開くと……。

「な……なんだよ……これ……」

 俺の目に飛び込んできたのは荒らされた部室だった。

 倒れた机に、割れて散らかっている湯飲み茶わんや急須……。

 そして凹んだ壁際には気絶したトゥアールが転がっていた。

「おい!!しっかりしろトゥアール!!トゥアール!!」

「……う……うぅ……」

『大丈夫、気絶しているだけだ』

「よかった……」

 ヒーローCの分析に安堵すると同時に、トゥアールが目を覚ました。

「こ……ここは……?」

「気が付いたか……ツインテール部の部室だ。トゥアール、ここで何があったんだ?」

「えっと……ッ!!千優さん……総二様と愛香さんは!?」

「会ってないぞ?……まさか、二人に何かあったのか!?」

「慧理那さんのところの……桜川尊に……攫われました……」

「尊さんに!?」

 一体何故、尊さんがこんなことを……。

『千優!!思い出したぞ……あの腕時計の正体を!!』

「今頃かよ!?」

『いいから聞け!!』

 ヒーローCがスマホ画面に一つの画像を表示する。

「これって……」

 それは、あの夜倒したあいつらの形見。

 地面に転がる死角に潜む者ラークスクエアーズの属性玉エレメーラオーブとあの腕時計の写真だった。

『なんで今まで忘れていたんだ……。あの腕時計はこの世界のものではない、死角に潜む者ラークスクエアーズが造ったものだ!!』

「あの腕時計か!!残っていたのかよ……」

 俺が初めて戦ったエレメリアンの小部隊、「死角に潜む者ラークスクエアーズ」。

 尊さんが巻いていたのは、そのメンバーが腕に巻いていたエレメリアン反応の基である、属性力のエネルギー波を抑えるフィールドを発生させる腕時計だった……。

 そして、他人の身体を乗っ取って悪事を働き、しかもこの腕時計型デバイスを必要とする奴は、ジェラシェードしかいない!!

「なんでもっと早く気付かなかったんだ……」

『あの時、属性玉エレメーラオーブを回収した際に、彼らの腕から抜け落ちたものは破壊したが……戦闘中に壊れたと思っていた足りない分はジェラシェードに持っていかれていたのか!!』

 なんとゆうことだ……。

 俺たちが見逃してしまったばっかりに、二人は攫われてしまったのだ。

「クソッ!!ヒーローC、二人のトゥアルフォンの反応は?」

「その前にこいつを見てくれ」

 ヒーローCがテレビ映像を表示すると、そこには……。

「テイルドラゴンに告ぐ!!今から一時間以内に、変・身・せ・ず・に・港の第三倉庫まで来い!!」

 電波ジャックでもしたのかそこにはジェラシェードからの犯行声明が流れていた。

「繰り返す、一時間以内に変・身・せ・ず・に・第三倉庫だ!!守らなければ人質二人の命はないぞ……」

 映像はそれで終わり、画面は砂嵐とともに元に戻った。

「あいつら……絶対に許さねえ!!」

「待ってください!!」

 部室のロッカーを開け、時空跳躍カタパルトを起動させようとした俺をトゥアールが止める。

「間違いなく……罠ですよ!!……それに……変身……しないで来いだなんて……いくら千優さんが生身で戦えても……無茶ですよ……」

 確かにトゥアールが言っていることはもっともだ。

 だが、俺はそれでも行かなくてはならない!!

「無謀なのは分かってる。だが、策が無いわけじゃない。それに……」

「……それに?」

「ここで逃げたら、憧れの先輩方ヒーローたちに会わせる顔がないだろ……」

「千優さん……」

「しばらく休んでろ!!必ず二人は連れて帰る!!」

 今度こそ、ロッカーの時空跳躍カタパルトを起動させる。

 大事な弟分と妹分に手を出したんだ……そのジェラシェードは絶対にぶっ飛ばしてやる!!

 その怒りを噛み締めながら、二人を助ける下準備をする為に俺はロッカーを開け、観束家地下の秘密基地へと飛んだ……。

 

 □□□□

 

 更に約10分後 生徒会室

「ふう……やっと終わりましたわ……」

 書類の整理が終わり、一息つく慧理那。

 時計を見ると、そろそろ稽古で帰る時刻になっていた。

「もう、残っているのはわたくしだけのようですわね」

 鞄を持つと生徒会室の鍵を閉め、そのまま職員室へと向かう。

 職員室に鍵を返却し、そこでふと気が付く。

「尊の姿が見当たりませんわね?」

 いつもは自分の近くにいる筈の尊が、生徒会の仕事に気を取られている隙に何処かへ行ってしまったようだ。

 ケータイにかけてみたが電源を切っているのか一向に繋がらない。

「まったく……何処へ行ってしまったのでしょう?」

 尊を探して学校のあちらこちらを回ってみたが見当たらない。

 そのうち、スマホのTV機能を使って何かを見ている生徒たちを見つけた。

「あ、会長!!大変ですよ!!」

 生徒の一人がこちらに気が付き手を振っている。

 何事だろうと近づくと生徒たちは見ていたスマホを渡してきた。

「これを見てください!!」

 チャンネルはニュース画面だった。

『さて先程の犯行声明、ツインテイルズではなくテイルドラゴン個人への挑戦状とみられますが……』

『何故テイルレッドやテイルブルーではなくテイルドラゴンなのか?ネットでは様々な議論が飛び交っており……』

 どこのニュースもそんな内容でもちきりである。

「これは……一体?」

「どこの誰かは知らないけどテイルドラゴンさんに挑戦状を叩き付けたんですよ!!」

「挑戦状を?」

「なんでも、一時間以内に第三倉庫まで来なければ二人の人質の命はない、とかなんとか……」

「人質ですって!?」

 慧理那は驚いた。

 よくエレメリアンに狙われ、ツインテイルズの戦いを今まで何回も身近で見てきたが、こんなこ大掛かりな挑戦を仕掛ける輩は、今までなかったからだ。

 しかも人質をとるなんて行動も、慧理那が知る限りは一度もなかった。

 つまり、これが異常事態なのがはっきり分かる。

「しかも、生身で来なければ人質は即刻殺すとも……」

「そんな……」

 気づけば、慧理那は走り出していた。

「か、会長!?」

「どちらへ!?」

 生徒たちの声も振り切って、慧理那は走った。

 いくらテイルドラゴンでも二人も人質を取られ、しかも変身を封じられてしまえばどこまで戦えるか分からない。

 自分に何かできるとゆうわけでもないが、それでも、慧理那は走らずにはいられなかった。

 

 □□□□

 

 港某所 第三倉庫

 ……目が覚めると、視界が揺れていた。

 いや、揺れているのは……俺!?

 そう気づいた瞬間、一気に意識が覚醒した。

「な……なんだこれ!?」

 俺の身体は鎖で縛られ、どこかの倉庫の天井から吊るされているようだ。

 俺は確か……部室で尊さんにスタンガンを当てられて……。

 そこまで思い出したところで愛香の安否が心配になった。

 周りを見回すが、愛香の姿は見当たらない……。

「愛香!!どこだ愛香!!」

 返事がない……。愛香は一体どこへ……。

「返事をしてくれ!愛香!!」

「……そーじ?」

 結構近く……いや、すぐそこで愛香の声がした。

「……ん?」

 そういえばさっきから背中に何か当たっているような……。

「そーじ……後ろ……」

「え?」

 縛られているため振り返ることができないが、視界の端に見慣れた藍いツインテールがあった。

「無事……なのか?」

「うん……そーじは?」

「ああ、なんともないよ……」

 どうやらお互い背中合わせに縛られているようだ。

 つまり、俺の背中に当たっているのは、愛香の背中らしい。

「ここ、どこなんだろう?」

「さあ?……でも、桜川先生はどうして俺達を……」

「お目覚めのようだな」

「「ッ!?」」

 声がした方……下を見ると、そこには桜川先生が冷やかな笑みを浮かべて俺達を見上げていた。

「桜川先生!?」

「どうしてこんな事を!?」

 叫ぶ俺達に桜川先生は答える。

「……鬱陶しいんだよ……お前たちが……」

「先生?それってどうゆう……」

 愛香が聞き返そうとした瞬間、桜川先生の表情が憎悪に満ちた。

「私の周りで平然とイチャイチャしやがって!!」

「は?」

「毎日毎日一緒に登校しやがって!!下校するときも二人一緒だよな!?」

「え?それは家が隣同士だからで……」

「黙れ!!言い訳など聞かんぞ!!」

 俺の反論も聞かず、桜川先生は叫び続ける。

「しかも昼休み、昼食はいつも二人で取っているだろう!!」

「そ、それは他に一緒に食べれるやつがいないからで……」

「ならば独りでもいいだろう?何故二人で食べることにこだわる必要がある?」

 自分でも寂しい話だと思いつつも事情を話そうとしたが速攻で言い返された。

「いや、独り飯寂しいじゃん!!」

「その上、部活はあの間女を除けば、部員はお前たち二人だけだろう?」

「無視かよ!!」

 だが、部室の話は「当然だ。俺達がツインテイルズだからな」とは言えるわけがないのでここは反論できない。

「つまりだ、あの間女がいない間は部室内は男女二人っきりということだよな!?何かあってもおかしくないよな!?」

 いや、トゥアールは放課後ほとんど部室に籠りっきりだし、愛香が出ている間もそれは同じなのでは?

 そう言い返そうとしたら……。

「そーじと……二人っきり……/////」

 ……視界の端で愛香のツインテールが、何故だか知らないが、照れているように揺れ動いているいるのが見えて、あまりの可愛らしさに見とれてしまったので反論するのを忘れてしまった……。

「私の一番近くにいて、一番ムカついたリア充!!それがお前達だ!!」

「「な!?」」

 俺がリア充に見えているのかどうかはさておき、「妬ましい」に「リア充」、今の一言でわかった。

 今、俺達の目の前にいるのは桜川先生じゃない……。

「お前は……まさかジェラシェード!?」

「その通り。私はジェラシェードだ」

 やはり、桜川先生はジェラシェードに身体を乗っ取られてる……。

「本物の桜川先生はどうしたのよ!?」

「安心しろ、死んではいない……。ただ、深層意識の奥底で眠っているだけだ」

「いつから桜川先生の身体に取り憑いていたんだ……」

「ざっくり言うとこの前。具体的に言えばあのチーターが出現した日の午後だな」

 確か、あの日から数日経っている。

 その間ずっと桜川先生の体内に潜んでいたとは……。

「本来ならばもっと潜伏期間を経て行動したかった……が、お前たち二人が会う度に妬ましくてな、我慢出来なくなったんだ」

「俺達が……妬ましい?」

 何故?そう聞く前に桜川先生の元に1人の男が近づき、耳打ちした。

「そうか……ならば私は1度戻ろう。私より先にテイルドラゴンが来たら迎え撃ち時間を稼げ」

「了解」

「その人は!?」

「私がネットで集めた忠実な部下たちだ」

 倉庫の中をよく見まわしてみると、20人程人がいる事に気が付いた。

 おそらく全員憑りつかれたのだろう、一人残らず目が死んでいるし、その手には鉄パイプやナイフが握られている。

「お前たちを奪還しにテイルドラゴンが向かっている……」

「え!?」

「奴め、罠だと分かっていながら向かってくるとはな」

 まさか……こいつ潜伏中に俺達の正体に感づいたんじゃ……。

 そう思うと冷や汗が出てきたが、先生の次の一言が俺の不安を一瞬で吹き飛ばした。

「身内でもない相手にここまでするとは……まあ、苦労してお前たちを誘拐してきた甲斐があったな」

「まさか、ヒロn……テイルドラゴンをおびき出せれば人質は誰でもよかったってこと!?」

 不安は吹き飛んだが、逆に怒りがこみ上げてきた。

 愛香の言う通りだ。まさか目的のために手段を択ばないとは……。

 今までエレメリアンとは何回も戦ってきたが、こんな非道な奴はいなかった。

 そこがジェラシェードとエレメリアンの大きな違いということだろう……。

「桜川先生……目を覚ましてください!!」

「そうよ……私たちの知ってる桜川先生はこんな奴に屈しない!!」

 愛香も必死になって呼びかける。

「無駄だ、いくら叫んでもこいつには届かない」

「クソッ……」

「今のうちに遺言でも考えておくんだな……」

 そう言うと桜川先生は倉庫を出て行った。

「……正体はばれていないみたいでホッとしたけど、このままじゃヒロ兄が……」

 愛香が小声で話しかけてくる。

 その声は少し震えていた。愛香も不安なんだろう。

「……ヒロ兄ならきっと大丈夫さ。絶対に俺達も……取り憑かれた桜川先生たちも助けてくれる……」

 いつだってヒロ兄はそうだった。

 俺達が困っていたら駆けつけて、解決してくれる。

 きっと今回だって解決してくれる筈さ……。

「……そうだね。ヒロ兄は私たちのヒーローだもん」

 下を見ると憑りつかれた人たちが物陰でスタンバってるのが見える。

 ヒロ兄……信じてるぜ……。

 心の中でそう呟き、俺は天井を見上げた。

 

 □□□□

 

 マシンサラマンダーが風のように道路を駆け、コートの裾がバサバサなびく。

 一刻も早く総二と愛香を救出しなければ……。

 その使命感が俺を突き動かしていた。

「確か道の先だよな?」

『ああ。そこを左に曲がれば港の倉庫区が見えてくる筈だ』

 ヒーローCの指示に従いハンドルを切る。

 すぐに連なる倉庫の屋根が見えてきた。

「三番倉庫……だったな」

『そこの奥の倉庫だ。3って書いてあるのが見えるだろう?』

 奥の方に目的の倉庫を確認する。

 ご丁寧に扉が半開きだ。

「奴らの狙いは俺だ。俺が気を引いている隙に総二と愛香を救出しろ」

『了解。フォトンサングラスで状況を確認次第、作戦を開始する』

「よし、それじゃ頼むぞ」

 倉庫まで歩き出そうとした時、ヒーローCが1つの疑問を口にした。

『本当にこんな回りくどい方法でいいんだな?』

「……それ、どうゆう意味だ?」

 歩みを止めてマシンサラマンダーの方に振り返る。

『喫煙属性スモークでも使えば、もっと楽に救出できるんじゃないのか?』

「…………」

『戦闘においてもだ。お前は全く属性玉を使おうとしない。……いや、使う事を躊躇っていないか?』

 そう、俺はエレメリアンやジェラシェードと戦う時、使うべきだと分かっていても属性玉を使ったことが無い。

 他の属性力が必要かもしれない状況においてもヒーローギアの性能で押しきる、もしくは属性玉の使用を愛香に任せて総二と共に戦闘に専念する、といった感じで自分から使ったことは一度も無いのだ。

 その点においては総二と同じだ。

 だが総二は、ツインテール属性一筋で戦いたい、というこだわりから来ているもので、特に難しく考えているわけではない。

 しかし、俺の場合は……。

「……今はあの2人を取り戻す事が優先だ……」

 それだけ言って俺はまた、歩き出した。

 倉庫の扉の前まで来た。

 間違いなく何人分もの気配がプンップンする。つまり、他にも何人かが憑りつかれてしまっているのは間違いない。

 待ち伏せされているのは確実だろう。

 来る途中ヒーローCに確認したが、人間に取り憑いたジェラシェードは本人を気絶させれば、身体が動かせないので出てくるらしい。

 つまり、俺は憑りつかれた人達を気絶させていけば良いってことだ。

 ……息を思いっきり吸い込み、荒ぶる気持ちを落ち着ける。

 さあ、ミッション開始だ!!

 俺は一歩ずつ地面を踏みしめながら、堂々と扉をくぐった。

「ッ!?ヒロ兄!!」

「ヒロ兄!?」

 入って5秒もしないうちに2人は見つかった……天井から鎖で背中合わせに縛られて……。

「うわぁ……見事にムッキー状態だな……」

「「感心してる場合かよ(じゃないでしょ)!!」」

「ハハハ、すまん」

 ぴったりシンクロしてるし、大丈夫そうだな……。

 と、安堵していたら背後に気配が!!

「「ヒロ兄!!」」

「バレバレなんだよ!!」

 気配の主に間髪入れずにカウンターキックを入れる。

「がッ!?」っという悲鳴と共に気配の主は倒れ、体からは黒い霧が出ていった。

「ん?こいつは!?」

 背後から迫ってきていた男は、なんと陽月学園の制服を着ていたのだ。

 その顔には見覚えがあった。

「まさかお前は……」

 その生徒は高等部の生徒会副会長……つまり今日、慧理那の仕事を手伝うべきだった筈の人物だ。

 ガラガラガラ……

 顔を上げると倉庫の扉が閉められ、潜んでいた者達が次々と姿を見せた。

 殆どは男だったが女性もいる。20人くらいだろうか?全員鉄パイプを装備している。

 しかも、そのうち何人かは見覚えのある顔、陽月学園の生徒会メンバーだった。

「今日、生徒会の集まりが悪かった理由はそうゆうことか!!」

 まさか生徒会の非リア率こんなに高かったとは……。

「テイルドラゴン……ダナ?」

「それがどうした?」

「ワザワザ要求ヲ飲ムトハ、バカ正直ナヤツダ」

「褒め言葉だな」

「変身デキナケレバコチラノモノダ」

「イクラ貴様デモコノ数ヲ相手ニ勝ツ事ハ出来マイ」

 ったく、言いたい放題言いやがって。

「舐めきられたもんだな。その余裕、負けフラグだぜ?」

「果タシテソウカナ?カカレ!!」

 鉄パイプを持った非リア達が一斉に襲いかかってくる。

「キイィエェェェェェ!!」

「フン!ハッ!!」

「ヒシャアァァァォァ!!」

「トウッ!ヤッ!!」

「死ネェェェェェェェェェェ!!」

「てぇぇぇぇいッ!!」

 続けざまに振りかざされる鉄パイプを避けながら、後頭部に手刀を一撃ずつ当てていく。

「ガッ!?」

「ウグッ!?」

「グゲッ!?」

 襲い掛かってきたやつから次々と倒れ、気絶した肉体からジェラシェードが抜け出していく。

「ヒロ兄……それって……当て身!?」

 総二が驚いているが別にこれは当て身ではない。

 愛香ならできるかもしれない……と考えてしまう事もあったが、当て身は結構難易度が高く、俺が確実に成功するほど正確に打ち込むには、まだ修行不足だ。

 だが、今俺が手に着けているのはヒーローC特製のスタングローブ。

 脳波制御で触れた相手に電流を流し込むことができる。

 つまり後頭部に手刀を叩き込むたびにスタンガンの様に電気を流し込み、気絶させているのだ。ついでに言えば、金属武器を持ったやつが相手なら、そこから感電させられるという利点もある。

「怯ムナ!!イケ!!」

 この場を仕切っている非リアの一人が叫ぶと、何人かが隊列を組む。

 4人一組で3列、前方4時、8時、12時の方角から、それぞれ一人ずつ迫ってくる。

 成程、一番前の奴の攻撃が避けられても次に並んだ奴らの攻撃が当てられる、3列別々の方角からならば対応も遅れる筈だ、と考えたんだろう。

「「「「ウオォォォォォ!!」」」」

 だが、この隊列を崩す方法は簡単だ。

 避・け・な・け・れ・ば・い・い・ん・だ・。

 まず、最初に来た8時の方角から来た列の先頭が振り下ろした鉄パイプを右手で掴んで受け止める。

「何ィ!?」

 次に4時の方角から来た列の先頭が振り下ろしたナイフも左手で受け止める。

「ヌゥン!?」

 そして鉄パイプから電流を流し込む!!

「「グギャア!!」」

 2人が鉄パイプを落とす、更に背後で鉄パイプを振り上げているもう1人に後ろ蹴りを入れる!!

「ウゴッ!?」

 どうやら顎に直撃したようだ。すまないが、しばらく眠っていてくれ。

 そしてさっきの二人にも手刀を当てて気絶させる。

 両手で鉄パイプやナイフを掴んで電流を流し、もう1人には後ろ蹴りやカウンターキック。

 あっという間に4人しか残っていない状態になった。

「ヘ……変身シナクテモココマデヤルノカ……」

 たじろぎ始める4人。

 ヒーローCが出るまでもないかもしれない。

 そう思い総二と愛香の方を見やると……なんとまだ吊るされたままではないか!!

「ヒーローC、2人の救出はどうなっている!?」

 フォトンサングラスの通信機からヒーローCに問いただすと……。

『それが……そちらへ向かおうとしたら……桜川尊がそちらへ入っていった!!』

「え!?」

 そのとき、倉庫の奥から足音が聞こえてきた。

「流石テイルドラゴンだ。やはり部下たちでは限界があったようだな」

 声の主、桜川尊は冷ややかな笑みを浮かべていた。

「お前が主犯か……」

「フフフ……」

 身体中から殺気が溢れており、いつもの尊さんとは全然違うのがハッキリとわかる。

「その腕時計、盗んでいたんだな」

「我々の反応も消せる様に、ちょっと改造したさ。利用できるものは全て利用するのが我々のポリシーでな」

「ハッ!悪人らしいポリシーだな」

本当に清々しい程の悪だな。

「お前のことだから見ず知らずのカップルでも助けに来ると思ってな。この女の一番身近にいたそこの二人を人質にしたんだが……どうやらそれだけでは誘き寄せるための餌にしかならなかったようだな」

「お前……まさか俺を誘き寄せることができれば誰でもよかったってのか!?」

「その通り。別にどのカップルでもよかったんだ」

 総二と愛香を攫った時点で腹は立っていたが、正直、ここまで腹が立つとは思ってもいなかった。

 腹の底から怒りが湧き上がってくる……腸が煮えくり返る……ここまであくどいとは……。

「どこまでも……どこまでも腐りきってやがる!!」

 心の底からそう思った。

 ポケットの中からヒーローフォンを取り出す。

 だが次の瞬間、俺は変身することが出来なくなった。

「おっと、変身すればあの2人とこ・の・小・娘・の命はないぞ?」

「何ッ!?」

 尊さんが物陰から引っ張りだしてきた人物。

 それは……

「え……慧理那!?」

「もごもごもご……」

 後ろ手に縛られ、猿轡をされた慧理那だった!!

「この女の仕える主で、お前達のよく知るファン……ここまで最適な人質がいたのに何故最初から思いつかなかったんだろうなぁ?」

 尊さんが懐から小型ナイフを取り出す。

「その娘を離せ!!」

「今のお前が命令できる立場だとでも?」

「クッ……」

 まさか慧理那まで人質にするとは……どこまで卑怯なんだ……。

「さて、そのスマホを手放し、身柄を我々に渡してもらおう」

『千優ダメだ、絶対に従うな!!』

「もごもご!もごもごもごもごもご!!」

 ヒーローCが反対する。

 おそらく慧理那もおなじ意見だろう。

「さっさとスマホをこっちへ投げろ!!」

 ナイフを慧理那に突き付ける尊さん。

「……わかった」

『千優!!』

「ただし約束しろ。俺がヒーローフォンを手放し、お前達に捕まってやる代わりに、お前らも人質を解放しろ」

「言った筈だ。お前は命令できる立場では……」

 想定内の答えだ。だから俺は、ハッタリをかける事にした。

「もうすぐツインテイルズが到着する」

「なんだと!?」

 総二達に目をやる。

 2人とも一瞬驚いた表情だったが、すぐにこちらの意図を察してくれたようだ。

「ツ……ツインテイルズが来てくれればお前らなんてすぐにやっつけられちまうさ!!」

「そ、そうよ!!あの2人ならすぐに逆転できちゃうんだから!!」

「もごもごもご!!」

 尊さんも少し焦っているようだ。

「お前、いつの間に!?」

「このフォトンサングラスにはカメラと通信機が付いていてな、念のため今までの映像は基地までリアルタイムで送ってあるんだよ!!」

「ぬぐっ……」

 実はこのハッタリ、半分は本当の話だ。

 フォトンサングラスのカメラからは今、リアルタイムでマシンサラマンダーでスタンバってるヒーローCと観束家の地下基地に映像を送っている。

 ヒーローCもこの状況で最善の策を練っている頃だろう。

「お前達もあの2人を相手にはしたくないだろ?」

「ちぃっ……仕方あるまい。その要求、飲んでやろう」

 よし、かかってくれた。

「聞いたなヒーローC」

『了解した』

 小声で通信する。

 あとはヒーローCが上手くやってくれるだろう。

「さっさとしろ!!」

「わかったよ……ほらっ」

 ヒーローフォンの電源を切り、尊さんの方へ放る。

 ……だがその瞬間、尊さんの表情が余裕に満ちた。

「捕らえろ!!」

 あっという間に俺は、残っていた非リア達に押さえつけられてしまった。

「Jフィールドを発生させろ。この倉庫を取り囲め!!」

追い出され、その辺を彷徨っていた黒い霧が倉庫を取り囲み、倉庫全体を取り囲むバリアとなる。

光が遮られ、倉庫内はまるで某都合いいの結界のような赤を基調とした不気味な空間へと変貌した。

「なっ!何をするだァ────ーッ!?」

「馬鹿め、増援が来るのならば増援が侵入できないようにすればいいではないか」

「騙したな!!」

「約束は果たすぞ?人質は全員こ・の・世・か・ら・解放してやる」

「ハハハハハハ……」

「流石リーダーだ、言うことが違うぜ」

 ジェラシェード達の嘲笑う声が倉庫内に響く。

 クソッ!!ハッタリが裏目に出た!!皆を逃がすどころか逃げ道を失った!!

「もごもご……ぷはぁ……卑怯ですわよ!!」

「チッ、結び方が甘かったか。まあいい、どうせ猿轡しても五月蝿い事に変わらんようだが……」

 自力で猿轡を外すことが出来た慧理那が叫ぶ。

「尊、目を覚まして!!テイルドラゴンさんや観束くん達を解放しなさい!!」

 慧理那……自分の身より俺達を優先するとは……まったく、俺と同じ事考えやがって……。

「……五月蝿いと言っただろう。黙って見ていろ」

「いいえ、黙りませんわ!!尊の身体から出ていくまで、わたくしは呼び続けます!!尊!目を覚ましてください!!尊!!」

「うっ……グッ……」

 頭を押さえ苦しみ始める尊さん。

 もしかしたら正気に……。

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇ!!」

 もう一つ鎖を取り出す尊さん。

「まさか……やめろ!!」

「尊!離しなさい!!きゃっ!?」

 俺の叫びも虚しく、尊さんは慧理那に鎖を巻き付け、吊るし上げてしまった。

「そこで喚いてろ」

「テメェどこまで……」

「さてと、本題に入るか」

「はっ!!」

 ……腹に正拳突きが命中し、後方に吹っ飛ばされた事にに気が付くまで3秒かかった。

「グッハァ!?」

 受身を取り、バランスを取り直して着地した瞬間!!

「ッ!?身体が……重い!?」

「その通り」

「なっ!?」

  目の前に一瞬で移動した事に驚く俺に、尊さんが説明する。

「Jフィールドは普通の人間の身体に多大な不可をかけ、動きを鈍らせる……」

「なん……だと……」

「このフィールド内で動けるのは我々か、お前達の様に変身できるもののみ……だが、変身できなければ我々にとってここまで有利な戦闘は無い!!」

 右から尊さんの蹴りが顔に迫る。

「クッ……」

 防ぐために手を伸ばそうとしたが……ダメだ、身体が重くて動かない!!

 もろ直撃で顔に食らってしまった。

「ガハッ!!」パリンッ

 受身をとろうにも身体が動かず、地面を転がる俺。

 そして……フォトンサングラスが破壊されたようだ……。

 地面を転がった時に、レンズが割れてフレームも曲がっている……もう使えないだろう……。

「ち……千優……さん?」

「……え?」

  慧理那の声に顔を上げる。

「千優さんが……テイルドラゴンでしたの!?」

 そうか……フォトンサングラスが壊れたから認識撹乱イマジンチャフが効果を無くしたのか……。

 ならばもう隠す必要はあるまい。

「そうさ……俺がテイルドラゴンだったんだよ……」

「まさかテイルド……ヒロ兄がテイルドラゴンだったのか!?(棒)」

「ぜ……全然気づかなかった(棒)」

 うん、この前「もしも俺の正体がバレても、お前達だけはバレたらヤバいから、その時はどうにか誤魔化せ」って言っておいたけど……総二、愛香、お前ら棒読み過ぎる……まあ、この状況なら別に慧理那も気にもとめられなさそうだけどさ……。

「ゴチャゴチャ言ってる暇があったら逆転してみなよッ!!」

「ゴハァ!!」

 背中を思いっきり踏みつけられ、肺から空気が抜ける。

 視界が……霞む……。

「どうした?もうお終いか?」

「う……ぐ……」

「お前たちもやれ。徹底的にな!!」

 残りの4人もこちらへやって来る。

「オラッ!さっきまでの威勢のよさはどうした?」

「ウグッ!!」

「大口叩いていた割にはそれ程強くないじゃないの?これでも食らえよッ!!」

「グホッ!!」

「何が余裕は負けフラグだ!毎度毎度格好つけやがって!!」

「うッ……」

「レッドたんの兄貴面しやがって!このッ!!このッ!!」

 オイオイ、まさかテイルドラゴンアンチの連中も混ざってました?

 ……ヤバい……身体が痛みを感じなくなってきた……。

 総二に愛香、そして隣に吊るされている慧理那に目をやる。

 視界が霞んで表情がハッキリとは見えない……あいつらは今……どんな……表情をしているのだろうか……。

 3人の方へ手を伸ばす……距離的に届かないことは分かっている……それでも……俺……は……。 
 

 
後書き
次回・・・
慧理那「もう・・・見ていられませんわ・・・」
総二「昔、ヒロ兄と組手をやった時の事、覚えてるか?」
愛香「・・・そうだ。私たちがここで諦めたら・・・」
ウルフギルディ「よう。この姿で会うのは久しぶりだな」
千優「ウルフギルディ!?」
慧理那「応援はヒーローの力の源・・・わたくしの応援が千優さんに届くのなら、何度でも叫び続けますわ!!」
ジェラシェード「ナンダソノ姿ハ!?」
第6話、「想いの竜―テイルドラゴン―その3」
トゥアール「来週は出番が無いので次回予告だけでも・・・。来週もまた読みに来てくださいね!それでは次回に・・・テイルオン!!」 
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