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俺、リア充を守ります。

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第3話「Cの追憶/決意の夜明け(ライジングサン)」

 前回までの「俺、リア充を守ります」、今回の事件は……、

 謎の少年から変身携帯「ヒーローフォン」を授けられた俺は、今夜この世界にやって来る新たな脅威、「暗黒生命体ジェラシェード」を倒すため郊外にある廃墟ビルに向かった。

 しかしそこには、いつもツインテイルズと戦っている怪人「エレメリアン」達がいて……。

 

 □□□□

 

 郊外 廃墟ビル 午前2時45分頃 ジェラシェード到着時間まであと約15分

「名乗る名はないが、俺には戦う理由がある!!」

 変身した俺は、そのままエレメリアン達に突っ込もうとする。

 その時、アントライオンギルディが動いた。

「ここはオレが行くぜ!!」

 そう叫ぶと同時に、その鍛え上げられた拳を地面に放つと……、一発で地面に穴が開いた……。いや、違う……これは!?

『これは……蟻地獄!?』

 それは穴などではなく、巨大な蟻地獄だったのだ!

「そう、これがオレの得意技……監禁蟻地獄コニカル・プリズン!」

 ヤバイ、引きずり込まれる!!そう思った時にはもう遅く、俺は蟻地獄の中へと落ちていった……。

 筈だったが、蟻地獄の中にはなんと、体育館ぐらいの広さで、壁から床、天井まで石で囲まれた、牢獄のような部屋があった。

「ッ!?なんだこの部屋は……」

「ここは、オレの能力で作り上げた監禁部屋だ」

 後ろを振り返ると、アントライオンギルディが立っていた。いや、ウルフギルディとタランチュラギルディ、ドクターフィッシュギルディの三体もいる。

 そして、いつの間にか試合用のリングが用意されていた。

「決闘には相応しい決闘場が必要だろう、ここがオレたちとお前の決闘の場だ!」

 そうゆうことか、四対一じゃ卑怯だから、一人づつ決闘で倒せってことだな。

「よし、分かった。まずは誰からだ?」

「まずは……」

「俺だ!俺に行かせてくれ!!」

 そう言って進み出てきたのはウルフギルディ、たしか属性は学生服属性スクールユニフォームだったな。

「小僧、ヘマするんじゃねえぞ」

「するわけないだろ!それに、こいつと最初に戦うのは俺だって決めてたんだ。文句無ぇよな!!」

「……リーダー、どうする?」

「いいだろう。ウルフギルディはこの中で一番の若手、先陣をきらせるにはもってこいだ」

 ……という訳で、俺の最初の相手はウルフギルディとなった。

「ルールは簡単。先にダウンするか、全身がリングから出たら負けだ。君が勝てば、私たちの属性玉エレメーラオーブはくれてやってもいい。しかし、君が負ければおとなしく私たちに捕まってもらう、それで文句はないな」

「「「異議なし!」」」

 負けたら自分たちは消えてしまうのに異議を唱える者がいないなんて……。元々、その覚悟が出来ているのか……それとも、リーダーへの信頼感からか……。

「いいぜ、受けて立つ!!」

「それでは、1回戦……」

 睨み合う俺とウルフギルディ……。

「開始!」

「オラァ!!」

 ドクターフィッシュギルディの合図と共に、ウルフギルディの素早いパンチが繰り出される。

 すぐにかわす……が、目の前にはウルフギルディが迫っていた!

「なっ……!?」

「遅ぇよ!!」

 次々に繰り出されるウルフギルディのパンチに、どんどん防戦一方になっていく俺……このままじゃマズい……。

『オイ!何やってんだ、守ってばっかりじゃないか!!』

「解ってるよ!!だけど……」

「喋ってる場合かァ!オラァ!!」

「グッ……!!」

 クソッ!本当に防ぐだけ精一杯だ……こいつ、速すぎる!!

「お前の強さはこの程度じゃない筈だ!さっき生身でアルティロイドを全滅させたんだ、お前の本当の強さを見せてみろ!!」

「俺の……本当の強さ……?グワッ!!」

 パンチ連打、からの腹に蹴りが入り、リングの端まで吹き飛ばされる。……ヒーローギアのお陰かそんなにダメージは無いが……それでも痛い。

 アルティロイドとは遥かに違う、生身じゃ勝てないのが、プロテクター越しにだが分かる、それだけのパワーがウルフギルディにはあった。クッ……どうすりゃ突破できる?

『千優、一つ教えてやる。ヒーローギアはな、お前次第で強くも、弱くもなるんだ……』

「俺……次第……?」

『そうだ、ヒーローギアの動力源はお前の想像力……お前が思い描いたイメージが、お前を強くするんだ!』

「……つまり、俺のイマジネーションが、このスーツのパワーを底上げしてくれる……のか?」

『そうだ!お前のイメージ一つで、お前は最強のパワーでも、最速のスピードでも……ってのは大袈裟かもしれないが、それでも、それぐらいの性能ステータスを叩き出すことができるんだ!!』

 俺の……イメージで…………。よし!!

「作戦タイムは終わったかァ!!」

「……あぁ、見せてやるぜ、ウルフギルディ……」

 律儀に待っていてくれたんだ。

「俺の……」

 あいつには敬意を表して……

「勝利のイマジネーションを!!」

 思いっきりぶつかってやらなきゃな!!

 ウルフギルディに向かって走り出す俺。

「面白くなってきたぜ!ドラァ!!」

 ウルフギルディが再び、パンチを繰り出す……が、それより先に俺の拳がウルフギルディの左頬に命中した!

「グッ……なんのォ!この程度じゃあ、まだ俺は……」

「まだまだァ!!」

 今度は右頬、次は腹部、更に胸部に蹴りを入れる!

「グッハァ!!」

 蹴りの威力で、今度はウルフギルディの身体がリングの隅まで吹っ飛ぶ!

「グッ……お前……やっぱり強ェじゃんかよ……」

「お前も……漫画の番長キャラみたいな戦闘スタイル、似合ってるぞ……」

「ハハハ……ありがと……」

 お互い、相手に称賛の言葉を贈る。戦って分かり合うって、こういう事なんだな。

「じゃあ、コイツを……俺の必殺技を……防ぎきってみろ!!」

「ああ、防いだうえで、お前に勝つ!!」

 言い終わるのとほぼ同時に、ウルフギルディが距離を詰める。

 来る!あいつの必殺技が!!

「必殺!狼牙百裂拳!!オラオラオラオラオラ(ry」

「グオォォォォォォ!!」

 あまりの速さに、腕が残像を残している。着ている学ランと掛け声が相まって、某無敵のスタンド使いを連想させるッ!!

「出たな、小僧の必殺技が……」

「あの拳の速さは、我々死角に潜む者ラークスクエアーズで最速。私でさえ、繰り出されれば見切ることは出来ない」

「さて、どう切り抜けますかねぇ、あの戦士」

 タランチュラギルディだけ紅茶セット取り出してるけど……まあ、いいや。

 他のメンバーが認める速さ……スピードでなら、あいつらの中で最速らしいな……。

 だが、いくら速いからといって隙が無い、って訳じゃない!

「なあ相棒、あいつのパンチ……一発一発の間に……どれくらいの隙がある?」

 ヒーローギアの性能なのか、この速さでもかろうじて相手の拳の軌道が判ることを活かし、この高速パンチを防いでいるが、あんまり長くはもたない筈だろう。

 だが、パンチ一発一発の合間に、僅かに間がある。その隙をつければ……。

『解析……完了!!……パンチ後のタイムラグ……0.1秒!!』

「……good!!」

 それなら行ける!……この動体視力なら……たった0.1秒だけでも……。

「オラオラオラオラ!!オラァ!!」

 その瞬間、ウルフギルディの鉄拳を防いでいた俺の両腕が、同時に弾かれる!

 機関銃のごとき連撃を受け止めていた鉄壁のガードが、一気に崩れ去ってしまった!

「これで、ボディから顎にかけてがら空きになったようだぜ!」

「ッ!!しまった!!」

 ウルフギルディの拳が、がら空きになった俺の身体を捉える!

「終わりだ!」

 ……な~んてな。

「なッ!何ィィィィィ!!」

 ウルフギルディが拳を突き出した瞬間、命中するギリギリで体の力を抜き、後ろに倒れこむ!

 そして、倒れこみつつ、ウルフギルディの足元に滑り込み、そのまま股をくぐって背後へ抜ける。

 しかも、拳を突き出した直後であるため、0.1秒は動けない!

 つまり……

「ウォォォォォ!!」

 すまないウルフギルディ、これで……決まりだ!!

「なんだとォォォォォ!!」

「食らえ、一瞬の反撃モーメント・カウンター!!」

 右腕の拳、その一点に力を集中させ、思いっきりぶん殴る!!

 ボゴォ!!

 かなりのダメージが入ったと分かる音をたてながら、ウルフギルディは、リング場外へと吹っ飛んでいった。

「さっきの台詞、負けフラグだぜ」

「うわァァァァァァ!!

「よっ……と」

 飛ばされた先では、アントライオンギルディが構えており、ウルフギルディはそのまま、彼にキャッチされた。

「ったく、だからヘマすんなって言ったんだ」

「イデデ……すまねぇおっさん……でも、俺に後悔はないぜ……」

「いい勝負だったぜ、ウルフギルディ。ありがとな」

 戦い方を理解させてくれた漢に、俺は自分の拳を突き出す。

「……ああ、楽しいタイマンだったぜ……」

 今度は、ちゃんと拳を合わせる俺達……。

 奇妙だが、敵であるはずなのに、彼との間に、男の友情が芽生えた気がした。

「お疲れ、ウルフギルディ。しばらく休め」

「すみませんリーダー。負けちまいました……」

「気にするな。私を含めて、まだ三人だ。まだまだ余裕はある」

「はぁ……そう……ですよね……」

 リーダーに対しては敬語を使うのか……。ドクターフィッシュギルディは、メンバー達から尊敬されているんだな。

 だが、何だ?ウルフギルディの表情……まるで、自分の事より、ドクターフィッシュギルディの事を気にかけているような……。

 

 ──―午前2時50分 ジェラシェード到着時間まであと10分

 第2回戦、次の相手は……

「私が参りましょう……」

 そう言って自分から進み出てきたのは、紳士属性ジェントルのタランチュラギルディだった。

「ッ!?副リーダー、何故アンタが!?」

 ウルフギルディが驚愕の声をあげる。

「先にアントライオンギルディ君を出して、負けてしまった場合、この空間は崩れてしまいますからね……」

「グゥ、スマン……頼む……」

 先の事まで考えて自分から進み出るとは……紳士的で仲間思い、いい副リーダーだ。

 ……ってことはつまり……二回戦目はいきなりナンバーツーかよ!!

「それでは私、タランチュラギルディ……全身全霊をもってお相手します!」

「……相手がどんな奴だろうが、俺は勝つ!!」

「それでは、二回戦目……」

 タランチュラギルディが手に持っていた、色がくすんでボロボロになっている、だいぶ年季の入ったステッキの柄に手をかける。

 あのステッキ……何かある!!

「開始!!」

 合図とともに、一気に距離を詰める。あのステッキに何かあるなら、早めに破壊しておいたほうがいい!

「ウオォォォォ!!」

 タランチュラギルディのちょっと前でジャンプ、そのまま飛び蹴りの構えをとる。

「水影流柔術奥義!鯉之滝登理コイノタキノボリ!!」

 俺の、生身での決め技だが、エレメリアン相手にはそう通用するものではないだろう。しかし、アルティロイドが一撃で倒せるなら、ステッキ一本破壊することはできる筈だ。

 そして、俺の狙い通り、タランチュラギルディはステッキを使ってガードした……。

『ッ!?なん……だと……』

 俺の決め技は、タランチュラギルディのス・テ・ッ・キ・一・本・に・受・け・止・め・ら・れ・て・い・た・!!

「このステッキは特別製でね、特殊合金でできているんですよ」

「特別製!?」

「そう。私、このステッキを結構気に入っていまして、長年愛用しているのですよ……如何なる戦場でも、どの世界に行ってもね……」

 しまった!!年季が入っていたのは、長年愛用していたからか!!……ステッキの機能の方に注意がいって、つい、何故ボロボロだったのか考えていなかった……。

 そのまま飛びのく俺。しかし……

「逃がしませんよ!!」

 ステッキの先端が俺に向けられる……

「あれは……銃口!!」

 そこには銃口らしき穴があった。

「食らいなさい、ステッキ銃ガン!!」

 ステッキがショットガンへと変わる。銃口から発射された光弾は正確に俺の身体を打ち抜く!

「グッ……」

 そのまま身体を地面に叩きつけられそうになるが、何とか体制を立て直す。

 だが、安心している暇は無い!!

 次々に光弾が打ち出される!

『千優!避けろ!!』

「分かってるよ!!」

 自分の所に飛んでくる光弾は躱す。俺の進む先に飛んでくる光弾は、ナビゲーションシステムが軌道を予測して教えてくれる。ホント頼りになるな、この相棒は……。

『あいつの攻撃、お前の動きを予測して放たれてるぞ!』

「マジか!?なんてやつだ……。このまま逃げていても勝てないどころか完璧に動きを読まれちまう!!」

 何か、あいつに近づく……あるいは対抗する手段は……。

 その時、頭の中になにかの説明文のような物が入り込んできた。

「ッ!?なんだ?この頭の中に直接入り込んでくるような説明文は……」

『ああ、マニュアルモードか』

「マニュアルモード?なんだそれ?」

『ヒーローギアには、使用者の頭ン中にギアやウェポンの使い方を直接送り込む機能が……あ、うっかり忘れてた……』

「オイィィィィ!!」

 そんな大事なことは忘れちゃダメだろ!一つ一つ口頭で説明してくれたのはそれはそれでありがたいんだけど、うっかり忘れていたって何だよ!!

 お前それでも人工知能かよォォォォォ!!

「いつまでも逃げていては、私に勝つことは出来ませんよ!!」

 悔しいがあいつの言う通り、逃げてばかりでも状況は良くならない。

 ……そういえば、さっき頭の中に入ってきた説明の中に……

「なあ相棒、お前さっきウェポンって言ってたよな……」

『ヒロイックウェポンだな。武器の名前を宣言すれば、お前の手元に転送されてくる筈だ』

 俺の武器の名前か……さっき頭の中に浮かんだ名前、多分それが俺の武器の名前だ。

 両手に意識を集中させ、その名を叫ぶ!

「来い!竜牙剣ドラゴファング!!」

 両手に光が集中し、黒い刀身に白い刃を持ち、剣鍔の部分に笛のような吹き口の着いた二本の短剣が出現する。これが俺の武器か、結構いいデザインじゃないか……って、

「双剣でどうやってショットガンに勝てと!?」

 銃は剣よりも強し、別に俺も剣では銃に勝てないとは100%思ってるわけじゃないが、テクニック型の銃使いが相手ならかなり不利になるぞ!!

『大丈夫だ、その剣は万能武器になっている。変形させればいろんな武器になるぞ』

「え、マジで!?」

 よく見たら確かにガンガンセイバーっぽく見えなくも……、可動部やジョイント、トリガーもあるし変形できてもおかしくない造形だ。

「そちらから来ないのなら、もう決着をつけてもいいんですね!!」

 ガチャキッ!っとステッキ銃ガンのポンプがひと際大きな音をたてる。

 そして、俺に標準を向けた銃口にどんどんエネルギーが溜まっていく!!大技を使う気か!!

「貴方の身体はロックオンしました。もう避けることは出来ませんよ」

 ……これを聞いた瞬間、俺の口元に笑みが浮かんだ。

「なっ、何が可笑しいのですか!?」

 決まってるだろ、だって……

「今の台詞、負けフラグだぜ!!」

 右手のドラゴファングのグリップを傾け、グリップを逆さに収納した左手のドラゴファングを刀身の後ろにあるジョイントに重ねて合体させる。

 あっという間に双剣から小型の銃への変形が完了した。ドラゴファングガンモードの完成だ。

「行くぜ!!」

 ガンモードを片手に、タランチュラギルディに狙いを定めつつ接近する。射程範囲内になるまでそのまま一気に走り抜ける!

「相棒、あいつのステッキ銃ガンのエネルギー充填は、あとどのぐらいかかる?」

『おそらく……十秒程度だ。やれそうか?』

「やれるかじゃねぇ!やってるんだ!!」

 あいつのエネルギー充填が終わるのが先か、それとも俺のドラゴファングが発射されるのが先か……やってやるぜ!!

「ウオォォォォォ!!」

 あいつが大技なら、こっちも……。

 その時、また脳裏に言葉が浮かぶ。

「完全開放ブレイクレリーズ……」

「そうはさせません!エネルギー充填完了!!」

 銃口の先に波動砲の如くエネルギーが集約する。マズい、先にエネルギーの充填の方が終わっちまったか!!

「食らいなさい!必殺の猟銃弾舞踊ステッキ―・ガン・ワルツ!!」

 ステッキ銃ガンの銃口から半径30cmぐらいの高エネルギー弾が発射される!!

「命中しあたってたまるか!!」

 発射と同時に俺は光弾を避けるべく、10mくらい思いっきりジャンプする!

「お忘れですか!貴方はロックオンされているのです、私の狩猟弾舞踊ステッキ―・ガン・ワルツから逃れることは不可能だということを!!」

 そう、俺が避けても、必殺の高エネルギー弾は俺の身体を追いかけてくるのだ。

 進行方向を変えたエネルギー弾は俺の元へ追いつき、大爆発を起こした……。

 

 □□□□

 

 ドガーン!!

 

 高エネルギー弾は千優に命中する直前、まるで散弾のように分裂し、千優めがけて飛んでいき大爆発を起こした。

「タ……タランチュラギルディ……お前……今の威力はマズいんじゃ……」

「……あの高エネルギーの散弾は威力を調整していますからねぇ。そのうち落ちてくるでしょう」

 技の迫力に冷や汗を流すアントライオンギルディに向かって、タランチュラギルディが説明する。

 タランチュラギルディのステッキ銃ガンから発射される光弾は、ターゲットを傷つけない程度、尚且つ相手の装備だけを破壊し、完全に無力化できる程度の威力に調整されている。ちょっと待てば変身を解除されたあの少年が落ちてくるだろう……タランチュラギルディはそう思っていた。

「いや、油断するな。あの少年、そこまでやわな人間には思えん」

 だが、ドクターフィッシュギルディは感じていた……アルティロイドを生身で全滅させ、メンバー中最速のウルフギルディの狼牙百裂拳を見切り、そのまま勝利へ持ち込んだ戦士がこの程度でやられるとは思えん……絶対何かある筈だ……そう思っていた。

「ッ!?副リーダー、あれを!!」

 ウルフギルディが叫ぶ!タランチュラギルディが爆煙の方を見ると……。

「完全開放ブレイクレリーズ!!」

「なっ!?何だと!!」

 煙を突き抜け、ま・っ・た・く・無・傷・の・ヒ・ー・ロ・ー・ギ・ア・に・身・を・包・ん・だ・千優が両手にドラゴファングを持って突っ込んできた!!

「竜牙の一閃ドラゴニック・スラッシュ!!」

「クッ!!まだ倒れていませんでしたか……フン!!」

 刀身が赤く輝く二つの剣を再びステッキで受け止めるタランチュラギルディ。しかし、飛び蹴りと双剣では威力は比べ物にならず、ステッキが弾かれる。

「おおっと危ない!!」

 刃がとどく前に後ろに飛び退く。

「接近戦ですか。ではこちらも……」

 タランチュラギルディがステッキから柄を引っ張ると、柄の先に針のように細い刀身があらわれた。

「あのステッキ、レイピアにもなるのか……」

「はい、名付けてステッキ細剣レイピア。とりあえず、貴方が何故私の狩猟弾舞踊ステッキ―・ガン・ワルツを切り抜けたのかは、捕らえた後で後でじっくり聞かせていただきますよ!!」

「捕らえたら……ねえ……」

 マスクの奥で千優はまた笑った。理由は当然……

「そうゆう台詞が……負けフラグになっているんだよ!!」

 そのまま走って突っ込む千優。

「ただ突っ込むだけでも、私に勝つことは……」

「出来るはずがない……ってか?」

 レイピアの刀身が突き出されるより早く、千優がタランチュラギルディの懐に飛び込む!!

「ッ!?」

「ヤァッ!!」

 そして、すれ違いざまにドラゴファングの刃……ではなく刀身の背を首筋(?)に叩き付ける!!

「ガッ!!」

 ドッ!……バタリ……。

 ……そして、タランチュラギルディは、そのまま気絶した。

「だから言っといたろ……負けフラグが3本くらい建っていたぞ……」

 倒れたタランチュラギルディを見下ろしながら呟く千優。

「おいタランチュラギルディ!大丈夫か!!」

 リング外から見守っていたアントライオンギルディ、そしてドクターフィッシュギルディがこちらへやって来る。

「大丈夫だ。ちょっと気絶しているだけで、傷は無いようだ」

「よし、じゃあ運べばいいんだな」

 倒れたタランチュラギルディを抱え、アントライオンギルディはリング外へ戻っていった。

「なあ君、何故タランチュラギルディの狩猟弾舞踊ステッキ―・ガン・ワルツを回避できたんだ?」

 リング外に戻る前にドクターフィッシュギルディが疑問を口にしてきた。

「簡単さ」

 千優は笑いながら答えた。

「あの光弾が当たる直前、完全開放ブレイクレリーズを打ち込んだのさ」

「……と言うと?」

「ドラゴファングガンモードの完全開放ブレイクレリーズ、ドラゴニック・ブレスを飛んでくる光弾全部に命中させ、威力を相殺した。だから俺は無事だったのさ」

「なるほど……しかし、全弾それで防ぐことができたのか……凄いな、君は……」

「いや、このスーツ、ダメージを吸収してエネルギーに変換するらしいから、防ぎきれなかった光弾はそのままエネルギーに変換させていたよ」

 あんまり食らうと耐えられなくなるらしいけど……と笑いながら付け加える千優。

「そうか……。あ、それともう一つ……」

 ドクターフィッシュギルディが思い出したように質問する。

「何故、君はあの二人にトドメを刺さなかったんだ?」

 トドメを刺して、属性玉エレメーラオーブを手に入れれば、後の戦いが楽になる。だが、千優はそうしなかった。

 ドクターフィッシュギルディの疑問はもっともであった。

「先にダウンするか、全身がリングの外に出たら負け……なんだろ?別に倒せなんて一言も言ってないんだし、なにより……」

「なにより……、何だ?」

「いや、何でもない。気にするな」

 千優は思った。

 こんなに仲の良いチームメンバーだ。死ぬ瞬間まで一緒にいたい……多分メンバー全員、そう思っていない訳はないよなぁ……と。

 これは、戦うべき敵に親しみと敬意を抱いてしまった、千優の優しさだった。

 

 ──―午前2時55分 ジェラシェード到着まであと5分

『いよいよ時間がないぞ……』

 相棒の焦る声が聞こえる。

「あと5分か……急がねえと奴らが到着しちまう……」

 これ以上時間がかかればはち逢わせてしまうかもしれない。ここからは速攻で片をつけなければ……。

 

 □□□□

 

「リーダー、あんた……本当に良いのか?」

 アントライオンギルディは心配していた。

 既に二人やられた。若手のウルフギルディの小僧はまだしも、おそらくこの中で2番目くらいに経験を積んでいるタランチュラギルディまでやられたのだ。

 そして、もし、オレがやられた場合、次はリーダーであるドクターフィッシュギルディが戦わなくてはならなくなってしまう。

 しかし、そんな事になれば……。


 そんな彼の悩みを見破るかのように、ドクターフィッシュギルディは告げる。

「戦う前から負けたときの事を考えるんじゃない!!そんなことをしている奴は、その時点で時点で、既に負けているんだ!!」

「ッ!?……ドクターフィッシュギルディ……そうだな……そうだよな!クヨクヨ悩んでても仕方ねぇ!!オレは行くぜ!!」

 そうだ、こんな事で悩むなんざオレらしくもねぇ!オレは、俺のできることを全力でやるんだ!!

 

 □□□□

 

「行くぞ人間!!オレでお前の連勝を終わらせてやる!!」

 先ほどの二体以上の気合を感じる……もう後がないから焦っているのか……だが、こちらにも時間が無い。だから3分以内で決めてやる!!

「では、三回戦目……」

 さっき地面に穴開けた時の方法から見て、あいつはおそらくパワー型……さて、どう出てくる?

「開始!」

「でりゃァァァァ!!」

 拳を硬く握り締め、こちらへ突っ込んでくるアントライオンギルディ。

 これなら簡単に避けられるぜ!

 そう思って右に転がりそのまま避けるが……。

「かかったな!食らえ!!」

 そのままリングの端まで走り切り、ロープをバネに、まるでパチンコで飛ばされた石ころのようにこちらへ向かって飛んでくる!!

「何ッ!?しまっt……ぐぁぁぁぁ!!」

 吹っ飛ばされた俺はリングから弾き出されそうになるが、ロープを掴みなんとかリングの中身体を引き戻す。

 もしかして、あいつはただのパワー型じゃなくて……。

「……フィールド活用型か……」

「その通り!この空間はオレのホームグラウンドよ!!つまり、この空間の中ではお前は……」

 再びリング端まで走り、ロープをパチンコ代わりに飛ぼうとするアントライオンギルディ。

「俺に勝つことなどできぬゥゥゥゥ!!」

 またか!!左に転がるが、アントライオンギルディの攻撃はこの程度じゃ回避できず、さっきまで俺の背後にあったロープを利用し、更に威力の増した飛行タックルを食らわせてくる。

「横でダメなら……!!」

 俺は空中へ逃げるべくジャンプする……が、

「それも読んでいたぜ!!」

 ロープ……もといリング自体を使った巨大パチンコの標準を空中に向ける。

「これが俺の得意技、監禁空間弾丸プリズンゾーン・タックル!!この空間にいる限り避けられねぇよ!!」

 ロープが縮む力を利用したタックルが、最初の3倍くらいの早さで飛んでくる!!

「これでお前は試合終了だァァァァァ!!」

 アントライオンギルディが勝利を確信したその瞬間、休んでいたウルフギルディが叫んだ。

「おっさん!!今の一言は……」

「「あっ……」」

 ドクターフィッシュギルディとタランチュラギルディも気付いたようだ。

 そう、今の台詞は……。

「その台詞、負けフラグだぜ!!」

「「「やっぱりか(ですか……)!!」」」

 もはや決め台詞となった台詞を叫びながら、俺はドラゴファングを投げつける。

「武器を使おうが無駄なことだァァァ!!」

 それでもドラゴファングを弾き飛ばし、体勢を崩さずに突っ込んでくるアントライオンギルディ!!

 しかし……

『スラスター始動!!』

「なっ、何ィ!!」

 背中にある小型スラスターの噴射で身体を落下させ、ギリギリ回避した俺はそのままリングの中心に落ちた。

「それで助かったと思うなァァァ!!」

 タックルを避けられたアントライオンギルディは、監禁空間の天井を足場に今度はリングへと突っ込んできた。

 リング端まで飛んで避ける俺。そして、やはりアントライオンギルディはこちらへと走ってきた。

「馬鹿め!リングの方が俺のタックルは当たりやすくなる!結局お前は、俺のホームグラウンドの中心へと戻ってきただけだァ!!」

「だからおっさん落ち着けェェェェェ!!」

 ウルフギルディの警告にも耳を貸さず、そのまま突っ込んでいった……。

「今だッ!!」

 ギリギリまで引き付けて、アントライオンギルディの頭上から後ろへジャンプする。

「ぬぅん!?」

「食らえ!!反転キィィィック!!」

 そのまま飛び蹴りをお見舞いする。スラスターで勢いを若干増させたキックは、アントライオンギルディの背中を直撃する。

「うぉぉぉぉ!?」

 蹴られて前のめりになったアントライオンギルディはバランスを崩し、そのままロープに倒れこむ。

「グ……だが、このままロープで勢いをつければ……」

 プッツン!

 体勢を立て直そうとしたアントライオンギルディに嫌な音が聞こえた……。

「ま、まさか!?」

「どりゃァァァァァ!!」

 アントライオンギルディを蹴った後、アントライオンギルディの身体をそのまま足場にして自身の身体を反転させた俺は、もう一度飛び蹴りを食らわせた。

 ブチブチブチッ!!

「ぬわァァァ!!」

 リングのロープは全部千切れてしまいそのままアントライオンギルディはリングから転がり落ちてしまった。

「な、何故ロープが千切れたんだ……オレの体重をかけても簡単には千切れないのに……」

 勝利を確信していたため、項垂れるアントライオンギルディ。

「顔を上げて目の前見てみな」

「ん!?あ……あれは!!」

 言われるままに顔を上げたアントライオンギルディの目の前にあったのは、空中に飛びあがったときに弾き飛ばしたドラゴファングが転がっていた。

「まさか、あの時!!」

「そう、お前が弾き飛ばしたドラゴファングがそのままロープに切れ込みを入れていたんだ」

「だからオレの体重がロープにかかった時に……お前、なんて奴だ……」

「だからあん時言ったじゃんかよ……負けフラグだって……」

 ウルフギルディが呆れたように言う。そりゃ二回も警告してこの有様じゃあな……。

「うっ……小僧にこんな事言われるとは……オレも歳かな」

「ヒドイなオイ!!」

「エレメリアンに歳とか関係あるのか?」

『まあ、一応命があるからな……歳をとってもおかしくはないな……』

 さて、これで残るはリーダー戦、最後の相手は……。

「これで、私が最後だな……」

 ドクターフィッシュギルディが静かに告げる。

 これで最後だ……俺たちが最終戦を始めようとした、その時!!

 パキッ

「ッ!?なんだ!?」

「あ……あれは……」

「空間に……亀裂が……」

 そう、突如空間に亀裂が入り、どんどん広がっていった。

『これは!!まさか……』

 パキパキパキッ……パリーン

 割れた空間の中から現れたのは……夢の中でも見た真っ黒な霧だった。

 

 □□□□

 

『予測より2分早かったか……なんてこった!!』

 到着時間はあくまで予測……ただの目安でしかないってことか。マズい、鉢合わせちまったぞ……。

「フハハハ……、我ラハジェラシェード!!コノ世界モ、我ラノ繁栄ノタメノ礎トシテヤロウ!!」

 説明受けてたけど一応自己紹介はするんだな。礎だと……あいつら、ふざけやがって!!

「おい、あれは一体何なんだ!?」

 ドクターフィッシュギルディが動揺している。って、え……。

「あれ、お前らも把握してないの?」

「当たり前だ、あんなモノ報告も受けていないぞ!!」

 アルティメギルも存在を把握していないなんて……。

『仕方ないだろう。次元の狭間を漂う、実体のない霧状の精神生命体なんて探知すること自体、普通なら難しい……それよりもドクターフィッシュギルディ……だったよな、仲間連れて早く逃げろ!!』

「え……?」

『自・分・が・自・分・で・な・く・な・る・のは嫌だろ!早く行け!!』

「わ……分かった!皆、撤退だ!!」

「了解リーダー!ほら副リーダーも……肩貸しますから……」

「すみませんウルフギルディ君……ではお言葉に甘えて……」

 一瞬戸惑ったドクターフィッシュギルディだったが、ナビゲーションシステムに急かされ、アントライオンギルディに肩を貸し、仲間たちとともに歩き出した。

「ホウ、精神生命体ガ四体ニ……人間モ一人居るヨウダナ……」

「ドレ、手始メニコイツラノカラダヲ頂クトシヨウカ……」

 しゃ……喋ったァァァ!!複数の声で喋ってたぞ!?こいつら意識集合体かよ!!いや、それよりも奴ら……今、なんて言った?

「身体を頂くって……」

『奴らは他の知的生命体の体に取り憑いて乗っ取らなければ活動できない。ヒーローギアを装着しているお前とAIの俺は大丈夫だが、エレメリアンの誰かが取り憑かれる前に殲滅するぞ!!』

 ッ!?なんて奴らだ……。さっき戦って分かったが、エレメリアンは侵略者だが、あいつらみたいに人が良い連中だっている。だが、今目の前にいるこの黒い霧……ジェラシェードは生い立ちの時点で邪悪そのもの……善心なんてあったもんじゃない。

 そんな奴らに、あいつらを利用させてたまるか!!

「ああ、仲足千優!目標を殲滅する!!」

 ドラゴファングをガンモードに変形させ、目の前の邪悪に向けて放つ!!

「完全開放ブレイクレリーズ!ドラゴニック・ブレス!!」

 竜の吐息の名を持つ超高温ビームが黒い霧の集合体の中心を打ち抜く。

 だが、霧状の身体(?)の所為か中心に空いた穴はすぐに塞がってしまう。

「グッ……馬鹿ナ……我ラニダメージヲ与エルナド……」

「ゴガァ……タダ者デハナイナ……!!」

 しかし、ダメージはあったようで呻く声が聞こえてくる。

「お前たちの好き勝手にはさせない……この世界は……俺が守る!!」

 こんな台詞が本当に言える日が来るなんて……いや、今はそんなことよりもこいつらを殲滅することに集中しなければ……。

「ヌゥゥン!オ前達、ヤッテシマエェェェ!!」

「グガアァァァァ!!」

 野獣のような雄叫びを上げ人のような形をとった、戦闘員とみられるジェラシェード達が何十体、いや、何百体か襲い掛かって来る。

「上等だ、来い!!」

 襲い来るジェラシェード達にもう一度、ドラゴニック・ブレスをブッ放つ!拡散されたビームが二十体ばかりのジェラシェイダーに命中し爆発する。

 そしてドラゴファングをソードモードに戻し、残った奴らを蹴散らす。

「完全開放ブレイクレリーズ!竜牙の一閃ドラゴニック・スラッシュ!!」

「グワァァァァァ!!」

 赤く光るドラゴファングの刃が鮮やかな軌跡を描きながらジェラシェード達を切り裂いてゆく。

「相棒、残りあと何体だ?」

『ジェラシェイダーとして固形化している奴だけでも、あと三八〇体だ!!』

「あーもう面倒くさい連中だな!!」

 ドラゴファングのグリップを左右ともに折り畳み、グリップの畳まれたドラゴファングを合体させる。

「ブーメランモード!完全開放ブレイクレリーズ……ファングブーメランッ!!いっけえェェェ!!」

 刃を緑色に輝かせながら、ブーメランは俺を中心に巨大な円を描きながら、俺を取り囲むジェラシェイダー達を撃破していく。

 そして、必殺技の連発が効いたのか、ジェラシェイダ―の数はあと十何体かまで減っていた。

「これで最後だァァァ!!」

 真上にジャンプし、スラスターでバランスを整えながら、残ったジェラシェイダー達のド真ん中に狙いを定める。

「俺の必殺技……水影流柔術奥義、鯉之滝登理コイノタキノボリ!!」

 通常の威力に加えヒーローギアの機能、更に落下のスピードで威力が三割増しになった俺の決め技が残りのジェラシェイダー全員に命中する。

「ギィィィヤァァァッ!!」

 断末魔の叫びを上げ、ジェラシェイダーは全滅した。

「さあ、次はお前らの番だ!!」

 着地と同時に戻ってきたドラゴファングを構えてジェラシェード達を睨み付ける。しかし……

「フハハハ!!確カニ強イガ、引ッカッタナ!後ロヲ見ロ!!」

「何ッ!?」

 後ろを振り返ると、

「「うわぁぁぁぁぁ!!」」

「ぬぉぉぉぉぉ!?」

 ドクターフィッシュギルディとウルフギルディが、二体揃ってこちらへ放り投げられ、俺に激突した。

「痛ってえ!!二人ともいきなりどうs……」

「おっさんと副リーダーが!!」

「私たちを庇って……」

「ッ!?なんだと!!」

 二体が飛んできた方角を見るとそこには……身体を黒い霧に包まれ、苦悶の表情でこちらを見つめるタランチュラギルディとアントライオンギルディの姿があった。

「に……人間……ウチの隊長……と……小僧を……頼ん……だ……ぞ……」

「貴方達だけ……でも……逃げて……くだ……さ……い……」

「お前ら!!」

「タランチュラギルディ!!アントライオンギルディ!!」

「副リーダー!!おっさん!!」

 俺達の叫びも空しく、二体の身体はどんどん変貌していった。

「テメエらァァァァァ!!」

「後ハ任セタゾ、我ラガ下僕達ヨ!!フハハハ……」

 そう言い残すと黒い霧は再び、次元の狭間へと消えていった。

「コ……コカクキルルル!!」

「ピキュラララ!!」

 ジェラシェードに取り憑かれたタランチュラギルディは愛用していた杖を捨て、両目を爛々と光らせ、背中から生えていた蜘蛛の脚で四つん這いになった。

 アントライオンギルディの方は体が黒い外骨格に覆われ、顎が巨大化しアリジゴクというよりクワガタムシのような外見へと姿を変えていた。

「おっさん達があんな姿に……」

「……二人が……そんな……」

 ショックを受けるドクターフィッシュギルディ達に構わず、ジェラシェードに取り憑かれた二体は襲い掛かってくる。

「クッ……こうなった以上……倒すしか……」

「待ってくれ!!」

 ドラゴファングで迎え撃とうとする俺を、ドクターフィッシュギルディが止める。

「あの二人を元に戻す方法は……」

「クカキカーッ!!」

 言いかけたその時、タランチュラギルディが糸を吐きながら飛びかかってきた!!

「危ねぇ!!」

「「うわあ!」」

 俺とドクターフィッシュギルディを突き飛ばすウルフギルディ。

「「ウルフギルディ!!」」

「グッ!!」

 蜘蛛糸が絡みついて動きづらい体にのしかかろうとするタランチュラギルディを抑え込もうとするが、長く持つとは思えない。

「俺に構うな!そのまま逃げろ!!」

「このヤロォォォ!!」

 迷ってる暇は無い、あいつまで犠牲にはできない!!

「ハァッ!!」

 タランチュラギルディにはすまないが、思いっきり殴りつけて吹っ飛ばした。

「バッ、バカヤロー!!何で逃げない!!」

「馬鹿野郎はお前の方だろ!カッコつけてんじゃねえ!お前はリーダー一人残して死ぬ気か!そんなの、俺が絶対に許さねぇ!!」

「でも今リーダーを守ってやれるのは俺だけなんだ!!」

 ……そうか、ドクターフィッシュギルディは仲間達みんなから愛されているんだな……。そんなに良い連中ならなおさら助けてやりたい!!

「お前だけじゃねぇ!!俺も一緒に戦ってやる!」

「ッ!!お前……」

「アルティメギルは全体から見れば悪だ。でも一部に絞ってみれば解り合えるかもしれない奴もいる。それがわかりゃ助けたって誰も文句は言わねぇ……

 そうだろ相棒?」

『まったく、お前は甘いな……でも確かに。この状況じゃ助けない奴の方が悪だよな!!』

 呆れたような出だしだった割にはやる気十分じゃん。

 すると背後からドクターフィッシュギルディもこちらへ来た。

「頼む……彼らを元に戻してくれ……彼らの心を救ってやってくれ……頼む……」

「ああ、約束する。俺が、いや……俺達が最後の希望だ!!」

「リーダーは下がっていてください。これは二vs二、男同士の戦いですから」

「二人とも……頼んだぞ!!」

 ウルフギルディと同時に頷き走り出す。エレメリアン達の心を取り戻すための戦いが始まった。

 

 □□□□

 

「ってことがあったんだ」

 説明の途中だが、ちょっと休憩を挟むべく話を切る。

「俺たちの知らないところでそんな事が……」

「まったく知りませんでした……」

「まあ、無理もない。レーダーに映らないように対策まで練っていたんだ、仕方ないさ」

 説明、もとい俺の最初の戦いを振り返っている途中、未春さんが持ってきてくれた水を飲み干す。

「未春さん、ありがとうございます」

「気にしないで。私も聞いてて面白いから」

 いや、面白がる内容か?特に後半。

「ねえヒロ兄、なんでそのエレメリアン達を倒そうとしなかったの?」

 愛香の質問はもっともかもしれない。でも、俺はもう答えを出している。

「わざわざ一対一の決闘を申し込んだり、ヒーローCの説明中は待機していてくれたり……なんか親近感沸いちゃって」

「そんな理由で……」

 呆れたような顔すんなよ。自分は毎回瞬殺してるからって……。

「それにさ、共存は出来ないかもしれないけどあいつらとは解り合える……そんな気がするんだ。ウルトラマンでもあるじゃないか、≪撃つな!怪獣だって友達だ≫って。それと同じさ」

「そ……それは……そうだけど……」

 複雑そうな表情だ。よく見たら総二も同じ表情を浮かべている。

 やっぱりいつも戦っている当事者たちから見れば考え方も違うのだろうか?

「ププッ……あ~れ~、愛香さんもしかして悩んでます?そりゃそうですよねwいっつも迷う間もなく野獣の如く瞬殺しちゃってますからねwww」

「だっ、誰が野獣よ!!」

「だって実際そうじゃないですか!私に暴力振るうときの顔なんかまさしく野獣、もとい蛮族そのものでs……」

 ア”ァ”?今、何だって……?

 

 その瞬間、基地内の空気が変わった……。

 トゥアールの挑発が言い終わることはなかった。そして何時ものように、愛香がトゥアールに暴力を振るうこともなかった……。

 何故ならその時……ヒロ兄が鬼のような表情で立ち上がったからだ。

「オイ、トゥアール……今、なんて言った?」

「……へ?」

「ちょ……ちょっとヒロ兄……?」

 ヤバい……これは……。

「オイ、お前今なんて言った?ハッキリ言ってみろ!!」

「へ?ちょ……ちょっと……」

「答えろ!!なんて言った!!」

「ひいぃぃぃ!?」

 トゥアールが怯えと驚愕が入り混じった表情をしている。

「あ~あ、やっちゃったわね」

 何で母さん笑っていられるんだよ……。

「千優くんは、総ちゃん達の事になると我を失っちゃうのよ。親より親バカっぽいでしょ?」

「えぇ!?なんか面倒ですねぇ!?」

「面倒とか言うな!それでトゥアール!何か言う事無いのか?言ってみろ!!」

「あわわわわ!!すみません!すみません!千優さん、何か怖いです!!」

「俺じゃなくて愛香にだ!!」

「ヒィィィィ!!ごめんなさい愛香さん!あの人どうにか鎮めてください!!」

「わ……私に言われても……ヒロ兄怒るとすごく怖いし……」

「愛香さんでも怖いんですかぁぁぁ!!」

 トゥアールが土下座してる!!どんだけ怖がっているんだよ……分からなくもないけど……。

「それで良し。まったく……愛香を馬鹿にしやがって……」

 基地内の空気が元に戻った。トゥアールが素直に謝ったことで怒りが静まったらしい。トゥアール……命拾いしたな。

「じゃあ、話の続きに戻ろうか」

 ヒロ兄が椅子に座りなおす。

「こうして、俺とウルフギルディは、体を乗っ取られた二体に突っ込んでいった……」

 

 □□□□

 

「ハアッ!!」

「コカクキーッ!!」

 タランチュラギルディに拳を当てようと殴りかかるが命中する前にヒラリと躱されてしまう。

「オラァ!!」

「ピキュルルルラ!!」

 同じく、アントライオンギルディと拳を交えるウルフギルディだが、そのパワーに押され気味だ。

 こいつらを何としてでも元の姿に戻してやりたい。でもその方法が……。

『千優、相手を倒さない程度に体力を削るか、動揺させてくれ!!』

「解ってるよ!!……動揺させる?」

 え、こいつら動揺させられるの?

『無理矢理身体を乗っ取られたんだ。もし、二体にジェラシェードに抗う意思が少しでもあれば動揺させることができる筈……その隙にドラゴファングの「ヒーリングフルート」を使えば彼らを浄化し、その心を取り戻せる』

「……つまり、体力を限界まで磨り減らすか、取り憑かれたやつの心を目覚めさせればいいんだな」

『そういう事だ。……上から来るぞ、気を付けろ!!』

 上を向くとタランチュラギルディが天井に張り付き、こちらに糸を吹き付けてきた!!

 咄嗟にバク中して躱したら、さっき俺が立っていた場所は蜘蛛糸まみれになっていた。

「うおっ!!危なかった……」

『油断するな!まだ来るぞ!!』

 タランチュラギルディは俺にのしかかろうと飛びかかってくる。

 これくらい避けられる、そう思った瞬間!

「うわぁぁぁ!!」

 ドンッ!

「うおっ!!」

 アントライオンギルディに投げられたウルフギルディが背中にぶつかり、俺は体勢を崩し転んでしまった。

 その隙をタランチュラギルディは見逃さず、倒れた俺の上にのしかかってきた!

「クカキーッ!!」

「クッ……!!」

 そのまま俺に噛み付こうとするタランチュラギルディ。

 ドラゴファングでなんとかその牙に噛まれないようにガードするが、早くこの体勢を立て直さなければ……。

 タランチュラギルディにそのまま蹴りをお見舞いしようとしたその瞬間とき、

「ウルフギルディィ”ィ”ィ”!!」

「ッ!?」

 ドクターフィッシュギルディの悲鳴が聞こえ、その場所に目をやると……。

「グハッ!!」

 アントライオンギルディの大顎に挟まれ、そのまま放り投げられるウルフギルディの姿が!!

「チックショォォォォォ!!」

 タランチュラギルディには本当に申し訳ないが、脚にエネルギーを集中させ股間を力一杯蹴っ飛ばした。

「クキャァァァァァ!!」

 かなり痛かったのだろう、凄い悲鳴を上げながら吹っ飛んでいった。本当にすまない……。

 だが、今はウルフギルディの方が優先だ!!

 前方を見ると、顎に挟まれた腹を抑えてうずくまるウルフギルディをさらに攻撃しようとするアントライオンギルディの姿が……。

「させるかァァァ!!」

 ドラゴファングガンモードを二、三発当てると注意をこっちに向けた。

「ピキュラァァァ!!」

 次はお前だ……と言わんばかりに大顎を開き、俺を挟もうと突っ込んでくる。

 大顎が俺を挟もうとした瞬間、身体を両脚の間に滑り込ませてスライディング!からの背中のど真ん中に一発!

「一瞬の反撃モーメント・カウンター!!」

 ドッゴォォォン!!

「キュリィィィ!!」

 アントライオンギルディもタランチュラギルディ同様、結構吹っ飛んでいった。

 が……、

「痛いってェェェ!!」

 プロテクター越しなのに鋼鉄でも殴ったかのようなこの痛い!!

『あいつの外骨格、意外に頑丈だな……』

「ダメージがエネルギー変換できていないんですけど!?」

『外部からのダメージには強いが、今のは自分で殴って振動が反ってきただけだからな。骨が折れていないだけありがたいだろ』

 なるほど、相手からの攻撃には強いが自分から当たりに行ったら意味ないのか。ユベルみたいなもんだな……。

「って、それよりウルフギルディは?」

 振り返ると、さっきまで隠れていたドクターフィッシュギルディがウルフギルディを抱きかかえていた。

「ウルフギルディ!大丈夫か?」

 俺もその隣にしゃがみ込む。

「ああ……傷は浅いz……グハッ!!」

「おい、どこが傷は浅いだ!!今、治してやる……」

 ドクターフィッシュギルディがウルフギルディの傷に手をかざすと、明るい黄緑色の光が輝き、ウルフギルディの傷はみるみるうちに治癒していった。

 医者属性ドクターの能力か。仲間思いなドクターフィッシュらしい、優しい能力だな。

「有難うございます、リーダー……」

「すまないウルフギルディ……こんな事しかできない非力な私を許してくれ。まともに戦えないどころか、部下を二人もあんなことに……」

「ちょっと待ってくれ、まともに戦えないって?」

 ドクターフィッシュギルディは少数ではあるが部隊を率いる隊長だ。それ相応の戦闘力がある筈だと思っていたが、そうではないのか?

「私は……元々は何の戦闘力も持たない、医療班の一員だったんだ。だが、部隊をまとめる才能があるという理由で、この部隊を率いることになったんだ……」

 あ~、クラスに一人はいるよね、人をまとめたり、周りを仕切るの得意だから級長とか班長を任されちゃう奴。

「リーダー、医療班にいた頃はスッゲェ人気があって、「戦場の天使―ドクターエンジェル」なんてあだ名で呼ばれていたんだぜ」

 自慢げなウルフギルディ。そりゃあ、そんな皆のアイドルみたいなのがリーダーだなんて自慢するにはもってこいだよな。

「配属当時、戦闘力が皆無に等しい私を、彼らは温かく迎え入れてくれた。最初はただのファンで……私が役に立たないと思えばリーダーとしても見てくれなくなるだろうと思っていた。だが……全然戦えない私のことを……彼ら三人はリーダーだと慕ってくれた……仲間だと認めてくれた……だから私は自分に……リーダーとしての私自身に自信を持つことができたんだ。それなのに……この有様だ……。仲間一人元に戻せない……そんな私に……リーダーなんて呼ばれる資格なんて……」

 ドクターフィッシュギルディが悔しさで涙を流そうとしたその時!

「そんなこと言うんじゃねぇ!!」

 ウルフギルディが叫んだ。

「確かにリーダーには戦う術が無ェ……けどよォ、自分にできない事があるなら自分の得意な所を精一杯伸ばして補えば良いって教えてくれたのは……リーダー、他の誰でもないアンタだ。……アルティメギルの中でも落ちこぼれだった俺達三人をここまで立派に導いてくれたのは、戦場の天使でもドクターエンジェルでもねェ……死角に潜む者ラークスクエアーズの隊長、ドクターフィッシュギルディ……紛れもなくアンタだ……。アンタがいたから今の俺たちがいるんだよ!あの二人だって同じさ、アンタのことを尊敬してる。

 ……俺達のリーダーはドクターフィッシュギルディ……アンタただ一人さ……」

「ウルフギルディ……」

 ウルフギルディ、お前……男前過ぎるよ!!学生服属性ブレザーゆえの性格か……それとも元々こんな性格なのかは解らないが、こんな漢は今まで見たことが無ェ!!

「良い仲間を……持ってるじゃないか!!」

「君……」

「ドクターフィッシュギルディ、悪いのはお前じゃない。悪いのはあいつらの心を封じ込めて好き勝手やってるジェラシェードの方だ!だから心配するな、あいつらは必ず元に戻す。そしたらお前ら四体で撤収してくれ」

「なっ、何故俺達を見逃す!?」

 ウルフギルディが驚愕の声を上げる。

「俺、別にツインテイルズの仲間って訳でもないし、お前ら倒すのは惜しい。だから今回だけ見逃してあげようと思う。あ、でももしまたこの世界で悪さしようってんなら、容赦はしないからな」

 うん、これなら別に良いよな。別に誰かに迷惑をかけるわけでもないし。

「フッ……君は甘いな……」

「有難う、褒め言葉」

 確かに俺は甘いのだろう。だが、俺はそういう人間だ。たとえこの甘さが裏切られても後悔はしないと思う。

「しっかし問題は、どうやってあいつらを弱らせる……あるいは動揺させられるか……」

「「動揺……?」」

 二体に説明しようとした時、俺はあることに気が付いた。

 どうしてさっきからタ・ラ・ン・チ・ュ・ラ・ギ・ル・デ・ィ・と・ア・ン・ト・ラ・イ・オ・ン・ギ・ル・デ・ィ・に・動・き・が・な・い・んだ?

 あいつらを吹っ飛ばした場所を見ると……

「いないッ!?お前ら気を付けろ!!」

 ドクターフィッシュギルディ達の方を振り返るとウルフギルディが叫んだ。

「そこから逃げろ!!」

 瞬間、俺の足元から二本の巨大な顎が出現した。

 そういえばアントライオンギルディってアリジゴクだったっけ!!

 更に、頭上からはタランチュラギルディが牙をむき、天井から手足を離したところだった。

 気が付いた時にはもう、俺はあっという間に隙を突かれていた。

「ッ!?しま……」

「危ない!!」

 ドンッ!!────────

 一瞬、何が起きたのか解らなかった……自分が突き飛ばされたと気付いた時にはもう手遅れだった。

 俺の目の前でドクターフィッシュギルディは二体の同時攻撃をその身に受けていた。

「ッ!?ドクターフィッシュギルディ!!」

「リーダー!!」

 ゆっくりと倒れてゆくドクターフィッシュ、駆け寄ろうとする俺達、そして……

「クキ!キゥラァァァ!!」

「ピキュ!?ピキュリァラララ!!」

 急に苦しみ始めるタランチュラギルディとアントライオンギルディ。これは?

『まさか!?今だ千優、ヒーリングフルートを鳴らすんだ!!』

「え!?もしかして、今こいつら動揺してるの?」

『ああ、チャンスは今しかない!癒しのメロディーを奏でるんだ!!』

 頭の中に説明が浮かぶ。頭の中で曲をイメージしながら、ドラゴファングの剣鍔の吹き口に息を吹き込めば音が鳴り、自分の演奏したい曲が流れるようだ。

 頼む……元に戻ってくれ!!

 ピ~ポロロ~ピロリ~ポッピッピ~ロロ~ピロリ~

 海の中から守護獣呼び出しそうな音色が聴こえてきた。確かに俺のイメージ通りだ!!

「クカキ!!クキキカクカカァァァ!!」

「ピキュル!!ピキュルリラリィィィ!!」

 ヒーリングフルートの音色を聴いた二体が苦しみ始め、身体から黒い霧が噴き出してきた。

『まだだ、ジェラシェードが完全に消滅するまでまで吹き続けろ!!』

 ナビゲーションシステムが反応を探知してジェラシェードが消滅したかどうか判断するのだろう。

 俺はさらにヒーリングフルートを吹き鳴らした。

 ポッパッピ~ポッポ~ピロリ~ ピ~ポポ~ピロリ~

「クカキケコ!ケケコキキクカキィィィィィ!!」

「ピリピキュリルラララァァァァァ!!」

 吹き続けると、どんどん黒い霧が身体から溢れだし、出ていくと同時に消滅していった。

 最後の霧が放出されると、もがき苦しんでいた二体は倒れ、その姿は元の姿に戻っていた。

『ジェラシェード反応、完全消滅』

 ナビゲーションシステムがそう言うと同時に俺は演奏をやめた。

「タランチュラギルディ!アントライオンギルディ!大丈夫か!?」

 倒れた二体に近づく。

「ウ……ウゥ、わ……私は……一体?」

「確か……あのジェラシェードとかいう連中に……囲まれて……」

「「ッ!?リーダー(ドクターフィッシュギルディ)!!」」

 二体が倒れたドクターフィッシュギルディに駆け寄る。今度はウルフギルディがドクターフィッシュギルディを抱きかかえていた。

「大丈夫かドクターフィッシュギルディ!!すまない、俺のせいで……」

「私も……貴女になんてことを……」

「二人とも……元に戻ったのか……良かった……」

 ドクターフィッシュギルディが受けた傷に目をやる。彼女の能力で治癒してはいるが、彼女自身は元気がない。

『受けたダメージが大きく、傷は治療できてるが回復が間に合っていない。もう、彼女は……』

「なに言ってやがる!!まだ助かる筈だ……何か方法は……」

 ナビゲーションシステムの暗い発言を打ち消そうとする俺。だが、

「いや、リーダーはもう助からない。リーダーももう悟ってる……」

 ウルフギルディの一言が俺の胸に突き刺さる。

「ああ……、ウルフギルディの言う通り……私の身体はもう長く持たない。……あと数分で消滅するだろう……」

「そんな……」

 ここまで頑張ったのに……こんな結末で終わるのか……。

「物事は常にハッピーエンドとは限らない……だが、君は……私たちのために……最善を尽くしてくれた。私には……それが嬉しいんだ……だから……自分を責めないでくれ……」

「そうだ……お前は俺達と拳を交え、一人で正々堂々と戦った……」

「それだけでなく、私たちを正気に戻すべく奮闘してくれました……」

「お前は……今までで最強の好敵手だったぜ……」

「お……お前ら……」

 ドクターフィッシュギルディを救えないのに……俺も……仲間の誰かも責めずに、むしろ称賛するなんて……どこまで人の良い連中なんだ!!

「さて……私の生命はもう長くない……君たち三人はこれからどうする?」

 ドクターフィッシュギルディは自分の最期を前に、仲間達へ問いかける。

 固い絆で結ばれた彼らならきっと……。

「この部隊が結成された日に皆で誓ったはずだ!!」

「私達は四人で一人、一人の喜びは四人の喜び、一人の悲しみは四人の悲しみ……」

「そして、死ぬときは四人一緒に散ろう!!……リーダー、俺たちは最期までアンタについていくぜ……」

「フッ……そうか……」

 ウルフギルディに抱きかかえられたまま、ドクターフィッシュギルディが俺に顔を向ける。

「なあ、最期に君の名前を聞かせてくれ……最後に戦った……好敵手の名前くらいは……憶えて……おきたい……」

「俺たちにトドメを刺す前に……俺からも頼みたい……」

「私からもお願いします」

「オレも!!聞かせてくれ、お前の名前を!!」

 惨めな自爆よりも、最後の敵である俺にトドメを頼む……か。

「分かった、華々しく散らせてやるよ。それがお前らにとってのハッピーエンドになるんだろ……」

「ああ……これが……少数部隊、死角に潜む者ラークスクエアーズの……立派な最期になるんだ……」

「千優……仲足千優だ……」

「千優……か……」

 本当はこいつらには生きていてほしい……でも……。

 そんな迷いを振り切り、俺はドラゴファングをガンモードに変形させた。

「完全ブレイク……解放レリーズ……」

 銃口にエネルギーが集中し、エネルギー弾を形作っていく。

「さようなら……強い絆の好敵手せんゆう達よ……」

 別れの言葉を告げ、トリガーを引く。

「ドラゴニック・ブレス!!」

 圧縮されたエネルギーが四人に命中し、大爆発を起こす。

「さらばだ……誇り高き竜の戦士よ……」

 爆発の直前、そう聞こえた気がした。

 そして、ずっと展開されていた監禁空間は崩れ去り、俺の目の前には四つの属性玉エレメーラオーブが残されていた……。

 ──────────廃ビルを出ると、東の空が明るくなっていた。夜明けが近いようだ。

『家に帰るんだろ、だったら良い装備が……』

「なあ、相棒。俺は……あいつらを救うことができたのかな?」

 ナビゲーションシステムの説明を遮り、俺は質問する。

『ん?お前にとって、救うっていうのはあいつら全員を見逃す事か?』

「いや、別にそういう訳じゃないけど……」

『救いっていうのは、人によって違うもんだ。そういう意味では、倒されることがエレメリアンにとっても救いなのかもしれないな……』

「倒されることが救い?」

 首をかしげる俺に、ナビゲーションシステムは続ける。

『自分が愛する属性を奪わなければ生きていくことが出来ない……そんなエレメリアン達の人生にとって、倒されて属性玉になることは、もう自分の好きなものを犠牲にしなくても済む……それこそがあいつらの、真の安息なのかもしれない……』

 まあ、神様でもないのに誰かを救おうだなんておこがましいことかもしれないが……と付け加えつつナビゲーションシステムは俺の質問に答えた。

 割れたガラスに自分の姿を映してみる。そこで、俺はようやく自分のプロテクターが、黒い竜を模したデザインをしていることが分かった。

「そうか……よし!決めた!!」

『何をだ?』

「俺はこの世界を守る!!この世界の愛と正義のために……もう、あいつらみたいな良い奴らがジェラシェードに利用されないようにするためにも……俺は戦う!!」

『それで、何故「愛」と「正義」のためなんだ?』

 そりゃあ決まってるだろ!!

「正義は俺が行く道!!そして愛はリア充と属性力、俺が守るものだ!!」

『フッ……まあ、良いんじゃないかな?俺もとことん付き合おう』

 こうして、俺は運命の決断を下した。

 まだ昇りかけの朝日は、俺たちの決意を称えるように優しく輝いていた。

 

 □□□□

 

「……これが俺達の始まり、始まりの夜ビギンズナイトだ」

 長くなったが、俺は自分の最初の戦いを語り終えた。

 戦闘に関しては、ヒーローCがスクリーンにその時の映像を転送してくれたので、説明は手短に済んだ。

「エレメリアンにとっての救い……か……」

「今まで考えたこともなかったな……」

「私も同じです。今まで復讐のためにエレメリアンと戦ってきましたから……」

 あの時手に入れた属性玉を見つめる。

 握りしめると温かみを感じる。あいつらの魂は、今もこの中に眠っているのだろうか?

「良い……実に良い話だったわ……」

 未春さんも、非戦闘員だけど分かってくれるのか……。

「子供の頃からずっと一緒だった幼馴染のお兄ちゃんが、実は人も知れず、世も知れずに世界を裏から守っているヒーローだったなんて!!しかも戦いで敵の命を奪うことに迷いを感じ、葛藤しながらも己の守るべきもののために戦う……こんな展開もアリよね~!!」

 その場にいた全員(トゥアール除く)がズッコケた。

 あ、前言撤回……この人いい歳した中二病患者だったわ……。

「母さんなんでこんな時に空気壊すんだよ!!」

「だって、父さんと語り合った設定の中にあった展開だったもの……両方とも幼馴染のお兄ちゃんがいなかったから没になったけど」

「そんな設定まであったのかよ……」

 総二が頭を抱えている……おそらくここでは日常茶飯事と見た。

「それに、こんな空気だからこそよ。これじゃあせっかく用意した晩御飯も不味くなっちゃうわ」

「母さん……」

「おばさん……」

「お義母様……」

 今、明らかに俺の頭に血を登らせるような字が見えた気がしたが……気のせいかな……。

「ってもう晩飯の時間か……急いで帰らないと……」

「どうせなら千優くんも食べていったら?」

「良いんですか?」

「ヒーローギアのこともっと詳しく知りたいし、ヒーローCともちょっと話がしてみたくって……」

 まあ、お互いの装備を見てみるのもいいか。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 家に電話して、その夜は観束家で晩飯を食った後、ヒーローギアとテイルギアの設計図を確認することになった。

 こうして、俺もツインテイルズの仲間入りを果たすことになったのであった。

 

 □□□□

 

「まさか……ヒーロー属性だったとは……」

 会議を終えたスパロウギルディはそのまま一人で会議室に残っていた。

 もう一度、改めてテイルドラゴンのデータを確認する。

「純度の高いものは他の属性と共鳴し、その純度を引き上げる性質があるといわれているが……まさかここまで強いヒーロー属性を持つ者がいるとは……」

 そろそろ休むべく、モニターの電源を落として席を立ち、会議室を後にする。

「これは……一波乱ありそうな気がする……」

 これから先の部隊の行く末を案じ、スパロウギルディはまた、頭を抱えるのであった。 
 

 
後書き
二話連続で続いたビギンズナイト編、いかがだったでしょうか?
ちょっと考えさせられる内容に仕上がっていたらな・・・と思います。
あと、Jタランチュラギルディの鳴き声はウルトラQ屈指のトラウマ回のアイツから、Jアントライオンギルディの鳴き声は某磁力怪獣から耳コピしましたw
千優「やっぱ未春さんの料理は美味いな!!」
未春「どんどん食べていいわよ」
千優「じゃあ、遠慮なく」
トゥアール「ホントよく食べますね・・・」
総二「ヒロ兄、美味しいものは残さず食べ尽くすから・・・」
愛香「でも本人曰く、未春おばさんの料理は二番目だって・・・お代わり!!」
未春「はいはい」
総二「お前もよく食うな・・・」
トゥアール「じゃあ一番目は?」
千優「やっぱり我が家の料理が世界一ィィィィイイイイ!!」
未春「それじゃあタイトルコール!!」
千優「次回、想いの竜―テイルドラゴン―に・・・」
一同「テイルオン!!」
千優「あれ?次回のタイトル、お茶の間大丈夫かな?」 
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