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異伝 銀河英雄伝説~新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)

作者:azuraiiru
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帝国領侵攻作戦(その1)




帝国暦 487年 5月14日   オーディン  ローエングラム元帥府   フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト



「このブルーベリーのムースは絶品だな、ロイエンタール」
「……卿、先日はアップルパイが絶品だと言っていなかったか?」
ミッターマイヤーが無邪気な問いかけに、ロイエンタールが皮肉な口調で答えている。この二人は何時もこれだ。

「うむ、あれも美味かった。甲乙付けがたいな」
「……まあ確かにそうだが」
ロイエンタールの皮肉な口調に全く堪えないミッターマイヤー。これも何時もの事だ。

まあこんなミッターマイヤーだからロイエンタールの親友が務まるのだろう。俺なら何処かでブチ切れているに違いない。しかし食べ物については俺もロイエンタールの皮肉に同意せざるを得ないところがある。ミッターマイヤーはいつも“絶品だ”と騒いでいる。

大体ミッターマイヤーは悪食なのだ。何でも食べるし何でも美味いと言う。ミッターマイヤーの言うことを信じればフラウ・ミッターマイヤーは料理の名人らしい。“エヴァの作る料理は何でも美味い”などと惚気ているがヴァレンシュタイン大佐の作るケーキを食べると直ぐに“絶品だ”と騒ぎだす。

今のミッターマイヤーを奥方に見せたいものだ、ケーキを食べて無邪気に喜んでいる顔を見れば一悶着も二悶着も有るだろう。しかしこのブルーベリーのムースが絶品なのは間違いない、俺の人生で二番目に美味だ。一番目は言うまでもない、あのアップルパイだな。あれは最高に美味だった……。

ロイエンタールとミッターマイヤーは一週間に一度、水曜日の午後三時に俺の私室にやってきてお茶を飲んでいる。というわけでヴァレンシュタイン大佐は水曜日の午前中はケーキ作りで忙しい。仕事もせずにケーキ作りはどうかとも思うのだが別室では司令部要員も週に一度のケーキ付お茶の時間を楽しんでいる。文句も出ないし気にする必要はないのだろう、と思うことにしている。

「ブルーベリーはこれからが旬ですからしばらくは美味しく頂ける時期が続きますね。コーヒーのお替わりは如何ですか?」
ヴァレンシュタイン大佐がニコニコしながらコーヒーを勧めてきた。三人ともコーヒーを淹れてもらう。大佐自身はココアは飲むがケーキは食べない。食べる事よりも作る事が好きなようだ。世話好きなのだろうな。

そうか、ブルーベリーはこれからが旬か……。今度はメックリンガー提督とケスラー提督を誘うか。そう言えばケスラー提督は近々訓練を兼ねた哨戒任務に就くと言っていたな。辺境星域に行くと言っていたから暫くは会えなくなる。出立前にお茶に誘おう。

大佐はあの二人が好きらしい、ちょっと年が離れた男に好意を持つのは父親の所為かもしれん。俺もあの二人との会話は色々と勉強になるので嫌いじゃない。ただケスラー中将が時々大佐を妙に意識するのが気に入らん。どうも少しロリコンの気があるようだ。

暫く寛いでいるとTV電話の着信を知らせる呼び出し音が鳴った。ロイエンタールとミッターマイヤーが俺を見た。早く出ろ、ということだろう、それともお茶の時間を邪魔しやがって、か……。確かにお茶の時間に呼び出しとは無粋だが已むを得ん、緊急の用件かもしれん……。

受信するとキルヒアイス少将の顔が映った。
『ビッテンフェルト提督、そちらにロイエンタール提督、ミッターマイヤー提督はいらっしゃいますか』
「ああ、ここでお茶を飲んでいるが」
ブルーベリーのムースを食べているとは言わなかった。感謝しろ、二人とも。

キルヒアイス少将が俺の答えに頷いた。はて、この二人に用か、それとも俺達三人に用か……。ロイエンタールは表情を引き締めているがミッターマイヤーは名残惜しそうにブルーベリーのムースを見ている。ミッターマイヤー、お茶の時間はそろそろ終わりだ、正気に戻れ。

『先程、宇宙艦隊司令部より元帥閣下に連絡が入りました』
「……」
二人と顔を見合わせた。さすがにミッターマイヤーも表情を引き締めている。どうやら何かが起きたようだ。反乱軍に動きがあるとは聞いていない。またどこかの貴族が反乱でも起こしたか……。であれば今度こそキルヒアイス少将の出番だろう。

『イゼルローン要塞が陥落しました』
“まさか”、“馬鹿な”、“有り得ん”、我々が驚愕しているとスクリーンのキルヒアイス少将が首を横に振った。

『事実です。ゼークト提督は戦死、シュトックハウゼン要塞司令官は捕虜になったそうです。元帥閣下は情報の確認のため、宇宙艦隊司令部に赴いております。いずれこの件で閣下より呼び出しが有るかもしれません。本日はこちらから連絡があるまで待機をお願いします』
「了解した」

通信が切れるとしばらくの間沈黙が落ちた。三人で顔を見合わせている。
「コーヒーをもう一杯如何ですか」
沈黙を破ったのはヴァレンシュタイン大佐だった。穏やかな笑みを浮かべている。

イゼルローン要塞が陥落(おち)たのに全く動揺していないな、慌てたような声も出さなかった。見事なもんだ、外見からは想像できないが腹が据わっている。少しは俺も見習わなければ……。

「そうだな、貰おうか」
俺が大佐の誘いに答えるとロイエンタール、ミッターマイヤーも頷く。大佐が俺、ロイエンタール、ミッターマイヤーの順にコーヒーを注いだ。

「イゼルローン要塞が陥落(おち)るとはな、一体どんな策(て)を使ったのか……」
「うむ、気になるところだな。だが要塞が陥落(おち)たのが事実とすれば責任問題が発生するだろう。帝国軍三長官もただでは済むまい」

なるほど、この二人らしい感想だな。純粋に用兵家としての顔を見せるミッターマイヤーとそれだけではないロイエンタールか……。だがロイエンタールの言うようにただでは済まないのも事実だろう。となれば相対的にローエングラム伯の地位が上がるのも事実。さてどうなるか……。

「これまでは攻める立場だったが守る立場に変わるのか」
「やれやれだな」
「奪回作戦が有ると思うか?」
俺の言葉に二人が顔を見合わせた。

「いずれは有るだろうな。しかし直ぐ、という訳にはいかんだろう」
「ロイエンタールの言う通りだ。反乱軍がどうやって要塞を攻略したのか、そのあたりを調べなければ……」
「となれば早くても夏を過ぎ秋ぐらいか……。しかし、反乱軍が動いているという情報は無かったな。イゼルローン要塞を攻略したのだ、かなりの兵力を動かしたはずだが……」

俺の言葉に二人が頷いた。二人とも訝しげな表情をしている。
「妙な話だな」
「うむ、確かに気になるが元帥閣下から教えていただけるだろう。先ずは呼び出しを待つとしようじゃないか」

ロイエンタールの言う通りだな、ここで悩んでいても仕方がないか。なんとなくそれが結論になった。それを機に二人がお茶の礼を言って席を立つ。二人を見送り俺も仕事に戻るか、そう思った時だった、ヴァレンシュタイン大佐が“少しお時間を頂けますか”と話しかけてきた。



帝国暦 487年 7月14日   オーディン  ローエングラム元帥府   オスカー・フォン・ロイエンタール



ローエングラム元帥閣下より呼び出しがかかった。会議室で閣下を待っているのだがどうにも気に入らん。どうしてトサカ頭が俺より上座なのだ? 毎回毎回奴が俺の上座に座るたびに思う、どうにも納得がいかん。

確かに奴は勅命を受けてカストロプの反乱を鎮圧した。それによって大将閣下に昇進し双頭鷲武勲章も授けられているが……。いかん、考えるべきではない、奴は武勲を挙げて昇進したのだ。悔しければ俺も武勲を挙げて奴を追い抜けばよい。俺にはそれができるはずだ。

問題はトサカ頭にはお天気女というとんでもない護符が有る事だ。あの護符、いや魔符だな、あれは死人を生き返らせるくらい強力で邪悪だ。実際何処かの馬鹿子爵はアレの所為で破滅しているからな。それでも生きているだけましだろう。いや、生き恥を晒している分惨いというべきか……。

元帥閣下が部屋に入ってきた。皆一斉に起立して閣下を迎える。閣下の後ろには新しく参謀長に任じられたオーベルシュタイン大佐がいた。長身痩躯、血色の悪い白髪頭だ。元々はイゼルローン要塞駐留艦隊に所属していたがゼークト提督を見殺しにして逃げてきたのだという。

本来なら敵前逃亡で銃殺刑に処されてもおかしくはないのだが元帥閣下が彼を参謀長に受け入れた。全くなんであんな男を受け入れたのか、皆が不思議に思っている。もっともトサカ頭によればオーベルシュタインはかなり出来るらしい。トサカ頭はケスラーと親しいのだが、ケスラーとオーベルシュタインは士官学校で同期生だったそうだ。

元帥閣下が中央の席に来た、皆一斉に敬礼し閣下がそれに答礼する。礼の交換が終わり皆が席に着くと閣下が満足そうに我々を見渡した。どうやら機嫌が良いらしい。

「イゼルローン要塞を得た反乱軍が大規模な出兵を考えているそうだ」
閣下の言葉に皆が視線を交わす。ついに反乱軍が帝国領に侵攻するのか……、どうやら出陣のときが来たらしいな。しかし大規模な出兵か、一体どの程度の兵力なのか。

「艦艇数は十万隻、動員兵力は三千万人を超えるとのことだ」
彼方此方で嘆声が上がる。十万隻、三千万人、これほどの大兵力を動員するとは……、敵とはいえ感嘆せざるを得ない。

「我々に対して迎撃せよとの命令が出た。他の艦隊が儀礼用で使い物にならんというわけだ。武勲を挙げる良い機会だな」
閣下が不敵な笑みを浮かべると周囲から笑い声が起きた。ローエングラム元帥府に対する周囲の目は決して温かくはない。賤しい平民、下級貴族の集まりだ。しかし実力なら帝国随一だと我々全員が自負している。

隣にいるビッテンフェルトを見た、腕を組んで難しい顔をしている。妙だな、何か気にかかる事でもあるのか……。大将に昇進して以来、トサカ頭に対する貴族達の対応は露骨なまでに敵対的だ。本来なら誰よりも大きな笑い声を上げそうなものだが……。

「まず、反乱軍を何処で迎え撃つかだが」
「イゼルローン回廊の入り口付近は如何でしょう。反乱軍が出てくるところを集中して叩けます」
ミッターマイヤーらしい意見だ、攻撃重視だな。しかし悪い意見ではない、攻撃し易いし、上手くいけば反乱軍を早い段階で撤退させることが出来る。

ビッテンフェルトはまだ考え込んでいる、普通ならミッターマイヤーに同調しそうなものだが……。
「いや、むしろ反乱軍を帝国領奥深くまで引き摺り込んで戦うべきだ。反乱軍の補給を破綻させ、そこを撃つ。その方が大きく勝てるだろう」

元帥閣下の意見に二、三遣り取りがあったが最終的には皆納得した。
「しかし時間がかかりますな」
「我々は構いませんが門閥貴族達が騒ぎませんか」
ミッターマイヤーと俺の指摘に周囲から賛同する声が出た。杞憂とは言えまい、純粋に軍事的な観点ではなく馬鹿げた見栄や面子で決戦を強いられ敗北した軍は多いのだ。

「その心配はない。一ヵ月もしないうちに反乱軍の補給は破綻するはずだ」
一ヶ月? いくらなんでもそれは見積もりが甘いだろう。俺だけではない、皆が困惑したような顔をしている。そんな我々を見て元帥閣下が軽く笑い声を上げた。

「オーベルシュタイン、説明せよ」
「はっ、反乱軍は帝国の政治体制を誹謗し帝国臣民を圧政から解放すると唱えている。我々はそれを利用し反乱軍の補給に負担を強いればよいでしょう」
抑揚のない陰気な声でオーベルシュタインが説明を始めたが何を言いたいのか今一つよく分からない。周囲も似たような表情だ、ただトサカ頭の表情はより厳しいものになった。こいつ、何か悪い物でも喰ったか……。

「つまり、辺境星域において食糧物資を全て徴発する。侵攻してきた反乱軍はその政治スローガンから辺境星域の住民を見殺しにはできない。彼らに食糧を与え続けることになる」
「!」
彼方此方でざわめきが起きた。

「焦土作戦を執るというのか、しかし、それでは辺境星域の住民は……」
「短期間に反乱軍の補給を破綻させるにはそれしか方法は有りません」
メックリンガーの非難をオーベルシュタインは冷酷に切り捨てた。その姿に皆が黙り込む、会議室に異様な沈黙が落ちた……。

「小官は反対です」
トサカ頭が大きな声で反対を表明した。正気か、ビッテンフェルト。オーベルシュタインがあそこまで強気なのも元帥閣下の同意を得ているからだ。それをでかい声で反対だと……。俺だけじゃない、皆が驚いている。

「焦土作戦は帝国にとっても元帥閣下にとっても百害あって一利もありません。執るべき作戦ではないと小官は考えます」
「!」
トサカ頭、お前そこまで言うか。皆、元帥閣下とトサカ頭を交互に見ている。元帥閣下は明らかに不機嫌さを表情に出している。だがトサカ頭は臆することなくオーベルシュタインを睨み据えていた。

「元帥閣下はローエングラム伯を継承し宇宙艦隊副司令長官の顕職にあります。いわば宮中、軍の重職にある、そういって良いでしょう。ただ勝てばよい、そのような勝ち方を許される立場ではないという事を銘記すべきです」

元帥閣下の顔が白くなった。会議室の空気が嫌というほど重く感じる。ビッテンフェルト、お前、自分が何言ってるか分かってるよな。元帥閣下に自分の立場が分かっているのかと罵倒しているんだぞ。俺もお前に同じことを言いたい、トサカ頭、自分の立場が分かっているのか?

「閣下は宇宙艦隊の正規艦隊司令官に我々を登用しました、身分ではなく実力で選ばれたのだと思っております。多くの平民出身の、下級貴族出身の将兵にとって閣下は希望であり憧れなのです。しかし、今辺境星域に焦土作戦を実施すればどうなるか?」
「……」

「多くの将兵達が閣下に失望を抱くでしょう。所詮閣下もブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯らの門閥貴族と変わらぬ、弱者を踏み躙って己が栄達を図るだけの人物だと思うに違いありません」
「馬鹿な、私は彼らとは違う!」

心底不本意そうに元帥閣下が吐き捨てた。しかしトサカ頭を正面から叱責しないのは一理有ると思ったからだろう。司令官達の間でもトサカ頭の言葉に頷いている人間は居るのだ。俺も頷かざるを得ない。こいつ、魔符“お天気女”を装備したな。

「何より危険であります。焦土作戦を実施すれば反乱軍を撃破出来るかもしれません。しかし辺境星域の住民の恨みを帝国が、閣下が一身に負うことになります。政府は彼らを宥めるため閣下を罪に落とすことを考えるでしょう」
“馬鹿な”、“しかし”等と彼方此方でざわめきが起きた。元帥閣下は顔を強張らせオーベルシュタインはじっとトサカ頭を見ている。嫌な目付きだ。

「焦土作戦を実行すれば反乱軍は大きな損害を受けるでしょう。暫くの間軍事行動は不可能となるはずです。そうなった時、政府が、門閥貴族達が何を考えるか……。我々を用済みとして処断する可能性は高いと言わざるを得ません。我々の敵は反乱軍だけではないのです。辺境星域の住民を、味方を敵に回すような作戦は採るべきではありません」

トサカ頭が口を閉じると彼方此方で呻き声が聞こえ、そして会議室に沈黙が落ちた。皆沈痛な表情で考え込んでいる。そして時折チラッ、チラッと元帥閣下に視線を向けた。トサカ頭の言い分はもっともだ、焦土作戦を採るのは非常に危険だ。

元帥閣下もそれが分かっているのだろう、沈痛な表情で考え込んでいる。おそらくは他に反乱軍の補給を早期に破綻させる方法の有無についてだろう。反乱軍を引き摺り込んで戦うというのは間違っていないのだ。一体どうすれば良いのか……。

「辺境星域の住民を敵に回すのではなく味方に付けるべきだと思います」
またトサカ頭が妙な事を言い出した。ゲリラ活動でもさせると言うのか? あまり意味があるとも思えん……。俺と同じ思いだったのかもしれない、元帥閣下が“それはどういう意味か”と訝しげにトサカ頭に問いかけた。

「我々が彼らの食糧を奪うのではなく彼らに食糧を隠させるのです。その上で我らに食糧を奪われたと反乱軍に訴えさせます。そうすれば反乱軍は辺境星域の住民に食糧を提供するでしょう。早期に補給を破綻させることができます」
「なるほど、奪うのではなく隠させるのか」

元帥閣下が笑い出した。閣下だけではない、皆が顔を見合わせて笑い出した。言われてみればなるほどだ。何故こんな簡単なことに気付かなかったのか……。会議室の空気は一転して明るくなっていた。

「あらかじめ辺境星域の住民には帝国軍が必ず勝利を収める、だから協力しろと伝えます。協力も難しいことではありません、食糧を隠し反乱軍が来たら食糧を奪われたと泣きつくだけでよいのです。そうすればただで反乱軍から食糧が貰えるとなれば必ず協力してくれるでしょう」
ますます皆の笑い声が大きくなった。

「良いだろう、ビッテンフェルト提督の案を採ろう。焦土作戦を実施する、しかし食糧は徴発するのではなく隠させることとする。幸いケスラーが辺境星域にいる、彼に住民達を説得させよう。他に意見は有るか?」
意見は無かった。皆、晴れやかな表情をしている。

「無ければこれで会議は終了とする」
「……」
「ビッテンフェルト提督、良く私の過ちを指摘してくれた、礼を言う。ただ勝てば良いという勝ち方は私には許されぬのだな、肝に銘じよう」
「はっ」

それを機に元帥閣下が席を立ち会議室を出て行った。その後ろをオーベルシュタインが無表情に従う。二人が会議室を出て行くと自然と皆がトサカ頭の周囲に集まった。皆が笑顔で良くやってくれたと称賛したがトサカ頭だけが浮かない顔をしている。

「オーベルシュタインには気を付けることだ」
「……」
「あの男、平然と味方を切り捨てる作戦を考える癖があるようだ。味方を信用しないのだな、或いは誰も信用していないのか……。ゼークト提督を見捨てたのもそれが原因かもしれん」

皆が顔を見合わせた。ワーレンが戸惑いがちに声をかける。
「調べたのか?」
「うむ、イゼルローン要塞が奪われてから反乱軍がどう出てくるか、どう対応すべきか、俺の所の連中と検討してきた。その際参謀長がどう考えるかが問題になってな、ヴァレンシュタイン大佐がケスラー提督に為人を確認したのだが……」

トサカ頭が語尾を濁した。この男には珍しいことだ。ケスラーからの答えは決して芳しくなかったという事だろう。それにしてもこの男、反乱軍の動きを想定していたのか……。以前とは違う、トサカ頭などと軽視すべきではない。あるいはあの女が変えつつあるのか……。

「焦土作戦案もその時に出た、勝てるだろうが碌でもない結果になるだろうと思った。……俺達には敵が多すぎる。せめてこの中だけでも纏まるべきだと思うのだが……、上手くいかんものだ。……卿らも気を付けてくれ、そういう男が我々の参謀長になった……」
そう言うとビッテンフェルトは憂鬱そうな表情で会議室を出て行った。



 
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