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銀河転生伝説

作者:使徒
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第17話 リップシュタットの密約


自由惑星同盟軍は、帝国領侵攻作戦に3000万人の将兵を動員したが、その内実に2000万を失うという最悪の結果に終わった。
評議会議員は全員辞表を提出したが、出兵に反対した3名(ヨブ・トリューニヒト、ジョアン・レベロ、ホアン・ルイ)は慰留され、国防委員長ヨブ・トリューニヒトが暫定政権の首班に指名された。

こうして、同盟の政権交代が行われている頃、帝国では皇帝フリードリヒ4世の死という思いも因らぬ事態が勃発していた。
フリードリヒ4世は後継者を指名していなかったため、次の皇帝は孫のいずれかになると予測される。

ハプスブルク公に嫁いだ第1皇女カルディナの息子アドルフ      21歳
ブラウンシュバイク公に嫁いだ第2皇女アマーリエの娘エリザベート  16歳
リッテンハイム侯に嫁いだ第3皇女クリスティーネの娘サビーネ    14歳
故人である第1皇子ルードヴッヒの息子エルウィン・ヨーゼフ      5歳

これらの内、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯は自分の娘を支持するだろうし、外籍の専横を許したくない国務尚書リヒテンラーデ候はエルウィン・ヨーゼフを支持するだろうと思われた。

また、アドルフ・フォン・ハプスブルク公爵もその所領は帝国随一の豊かさを誇っており、自身も幾多の戦場で数々の武勲を挙げている。
その力は侮れるものではなかった。

いずれ皇位継承を巡って争いが勃発する。
少しでも先が見える者はそう考えていた。

そして、帝国宇宙艦隊のオーディンへの帰還後。

銀河帝国第37代皇帝となったのは、フリードリヒ4世の直系の孫エルウィン・ヨーゼフ2世であった。

その新体制は、宰相となり爵位を公爵へ上げたリヒテンラーデ公と新たに侯爵となったラインハルトの互いに利用しようとする動機から生まれた枢軸体制に支えられていた。


<アドルフ>

俺の立場としては、皇位継承争いから一歩引いた立場だ。
先の戦いの功績で元帥に昇進し宇宙艦隊副司令長官に就任、爵位も大公へと進めたことだしな。

くく、今のうちに精々砂で出来た王冠を奪い合っているといい。

それにしても元帥か……これで俺も元帥府を開ける。
ようやく……という感じだ。

元帥府のメンバーは既に決めてある。

アルベルト・フォン・グライフス上級大将
ギルベルト・フォン・クラーゼン上級大将
アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト中将
エルネスト・メックリンガー中将
エルンスト・フォン・アイゼナッハ中将
カイト・ソーディン中将
カール・ロベルト・シュタインメッツ中将
コンラート・ハウサー中将
ナイトハルト・ミュラー中将
ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト中将
ヘルムート・レンネンカンプ中将
ユルゲン・シュムーデ中将

の12名。

銀河英雄伝説のファミコン版ゲームに登場する謎の提督ハウサーが何故かこの世界にもいたので、つい勢いで元帥府に入れてしまった。
まあ、優秀そうなので良しとしよう。

他にもフォーゲルやエルラッハなど俺の派閥に属する将官は大勢いるが、ここでは述べないでおくものとする。

うん、これで態勢は盤石だな。

どうしてドロッセルマイヤーが入って無いのかだって?
その答えは後のお楽しみだ。

後は、たくさんいて邪魔な門閥貴族どもとラインハルトの双方が争って消耗してくれればいい。


* * *


宇宙暦797年/帝国暦488年 2月19日、帝国と同盟の間で捕虜交換が行われた。

捕虜交換式の帝国軍代表はジークフリード・キルヒアイス中将。
原作と違い、未だ中将である(原作では上級大将)。

捕虜交換は何事もなく無事に終了した。
だが誰もが、そのすぐ後に来るであろう嵐を予感せずにいられなかった。

・・・・・

帝国では、新皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁したローエングラム侯ラインハルトとリヒテンラーデ公に対し、帝国で1、2を争う権政家であったブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯は協力して、これを密かに排除することを誓いあった。

一方、残りの一人であるアドルフ・フォン・ハプスブルク大公は不気味な沈黙を守り(単に部屋に引き籠ってネトゲをしていただけであるのは知らない方が良い真実である)、別段目に見える行動を起こさなかった。

かくて、皇帝派リヒテンラーデ・ローエングラム枢軸と反皇帝派ブラウンシュバイク・リッテンハイム連合との対決の気運は急速に高まりつつあった。

そんな中、マリーンドルフ伯爵家の令嬢ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフは密かにある人物の元を訪れていた。

「おや? これはお久しぶりですなヒルダ嬢」

「ええ、閣下こそご健勝でなによりです。昨年のカストロプ動乱では父をお救い頂きありがとうございました」

「それで、どのようなご用件でしょうかフロイライン? まさか、そのようなことを言う為だけにいらしたわけでは無いでしょう?」

「この度の内戦に際して、マリーンドルフ家は閣下にお味方させていただくこと、申し上げに参りました」

「へぇ、内戦とは?」

「明日にでも起こるであろうローエングラム侯とブラウンシュバイク公との。そして、その勝者と閣下の最終決戦です」

「大胆だな。例えそうなったとして私が勝つとは限らないが?」

「閣下はお勝になります。ブラウンシュバイク公とリッテンハイム候は一時的に手を結んだだけのことで、お互いに協力しようという意思に欠けます。なにより、軍の指揮系統が一本化されていないのが致命的です。全体の兵力は閣下やローエングラム候を上回ったとしても、統一された軍の敵では無いでしょう。また、ローエングラム侯は手強いものの周囲への伝手や配慮、根回しに欠け、おそらくその部分が最大の要因となり最終的には閣下に敗れるでしょう」

「なるほど……面白い推論だが、私が彼らと戦うと決まったわけではあるまい。その考えは早計に過ぎるのではないかな?」

「仮に、閣下が戦いをお避けになっても彼らの方が閣下を見逃してはくれないでしょう。閣下が生き残るにはお勝ちになるしかありませんわ」

「ふむ、見事な見識だ。そういうことならこちらも味方が欲しい。マリーンドルフ家はもちろん、その口添えのあった家は厚く遇することを約束しよう」

「閣下の寛大なお言葉を頂き、私どもも知人縁者を説得しやすくなります」

「味方は一人でも多い方が良いからな。特に、フロイラインのような美貌と知略を持つ者は。マリーンドルフ伯もフロイラインのような娘をもってさぞ幸せだろう」

「ありがとうございます。マリーンドルフ家は閣下に絶対の忠誠をお誓いします」

コンコン

「ん、どうした?」

「閣下、ブラウンシュバイク公たちが動き出しました」

「ほお、ようやく動くか。フロイラインマリーンドルフ、今日は楽しかった。いずれ食事でもご一緒させていただこう。では」

そう言って、ハプスブルク大公は部屋から出て行った。
一人部屋に残ったヒルデガルドは、ホッと一息下ろすのであった。


* * *


ローエングラム候ラインハルトとリヒテンラーデ公の専横に反対する貴族たちは、ブラウンシュバイク公の別荘のあるリップシュタットの森に参集し、密かに盟約を結んだ。

これを称してリップシュタット盟約と呼び、これによって誕生した貴族たちの軍事組織をリップシュタット連合軍という。

盟主にブラウンシュバイク公オットー。
副盟主にリッテンハイム候ウィルヘルム。
その他、参加した貴族3760名。

正規軍と私兵を合わせた兵力は2560万に達する。

そして、その連合軍司令官にウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将。
副司令官にグスタフ・フォン・ナトルプ上級大将。

実績・人望ともに豊かな老練の名将2名が十数万の大兵力を指揮する。

もっとも、メルカッツはブラウンシュバイク公に脅されての参加であり、ナトルプもある事情・思惑があって参加していたのだが……。

・・・・・

ブラウンシュバイク公の配下の一人であるアントン・フェルナー大佐は独断でラインハルトの暗殺、もしくは姉であるグリューネワルト伯爵夫人の身柄の拘束を図ったが失敗。

それに前後して、ラインハルトは新無憂宮《ノイエ・サンスーシ》、軍務省、統帥本部を制圧。
その後、リップシュタット盟約に調印した貴族たちを捕えていった。

が、ブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯は取り逃がしてしまい、捕えたのは3760名中625名の貴族であった。

・・・・・

「ここに来たということは、私の誘いを受けた……ということでよろしいかな? シュトライト准将、フェルナー大佐」

「ええ、ブラウンシュバイク公は今日を境に見限りました」

「このままブラウンシュバイク公の元へ行っても、何故助かったかを疑われるだけでしょう。かといって、ローエングラム侯も今まで敵対していた我らを受け入れてくれるとは思えません。であれば………」

「まあ、理由は何でもいいさ。卿らほどの人材なら大歓迎だ。これからよろしく頼むよ」


<アドルフ>

よし、シュトライトとフェルナーの確保は成功だ。
あいつらほどの人材、ラインハルトにくれてやるにはもったいない。

リップシュタットの密約……。
俺はハブられましたよ。
いいもんね、どうせ参加する気なんて無かったし。
あいつらと一緒にあぼ~んする気も無いしー。

べ、別にハブられて寂しいわけじゃないんだからな!


* * *


首都星オーディンを脱出したブラウンシュバイク公らリップシュタット連合軍はガイエスブルク要塞に集結した。

ガイエスブルク要塞は、直径およそ45キロ、収容艦艇16000隻、主砲高X線ビーム砲の出力は7億4000万メガワット。
その戦力はイゼルローン要塞にも匹敵する。
イゼルローン要塞が同盟軍によって奪われた今となっては、帝国領内における最大・最強の軍事要塞であった。

これに対して、ローエングラム侯ラインハルトは帝国軍三長官職を兼任し、皇帝より帝国軍最高司令官の称号を得ると共にリップシュタット連合軍討伐の勅命を受け、オーディンを出撃した。


宇宙暦797年/帝国暦488年 帝国標準時4月6日。
帝国を二分する歴史上最大の内乱が、遂に勃発した。
 
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