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レーヴァティン

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第百六十四話 幕臣その十三

「寿命も縮めてしまう」
「そうなるからですか」
「徹夜はしないことだ」
「絶対にですね」
「俺はこれまでもそれはしなかったが」
「これからもですね」
「夜は寝る、少しでもだ」
 僅かな時間でもというのだ。
「寝てだ」
「休まれますか」
「そうしてな」
「長く働かれてですね」
「生きる」
 そうするとだ、彼はまた言った。
「これからもな」
「では私はその旦那様と」
 お静は髪をほどいていた、長い黒髪が着崩れた寝衣を覆っている。その状態で身体を起こして言った。
「これからも」
「共にいてくれるか」
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「寝てだ」
「そしてですね」
「そのうえでいて欲しい」
 自分の様にしてというのだ。
「そうしてくれるか」
「そう言って頂ければ」
「俺は二つの世界を行き来しているが」
「眠られて、ですね」
「この世界では眠ってもな」
「それで起きられている世界に戻るとは限らないですね」
「幾度も、幾月という場合もある」
 起きた世界に戻る、起きた世界を基準にすると夢が覚めたとなる。その時が来ることはというのである。
「その時が来ることはな」
「二つの世界の行き来は違うのですね」
「そしてこの世界では俺も仲間達も歳を取らない」
 不老、その状態だというのだ。
「少なくとも身体はな」
「左様ですね、旦那様も他の方も不老です」
「そうだな、だが」
 英雄はさらに言った。
「不死とはな」
「それは違いますか」
「この世界でも死はある」 
 このことは彼も見て来た、この世界では確かに死者を復活させることが出来る。だが寿命が来ればその命は二度と蘇らないのだ。
「それはな」
「だからですね」
「俺も仲間達もだ」
「寿命が来れば」
「その時は死ぬ」
 そうなるというのだ。
「間違いなくな」
「人は必ず死にますか」
「死なない奴はいない」
 絶対に、そう言うのだった。
「だから俺もこの世界でもな」
「何時かはですね」
「死ぬ、それが何時かはわからないが」
「不老であっても」
「老いもおそらくな」
 これもというのだ。
「外見や能力には出なくてもな」
「ありますか」
「そうしたものが変わらずとも」
 それでもというのだ。
「心が老いる」
「そうなっていきますか」
「生きているうちにな、よく老いる面もあれば」
「悪く老いる場面もですね」
「あってだ」
「そうしてですか」
「やがて醜くもなる」
 英雄は冷徹な声で妻に話した。
「そうもなる、そう考えると不老もな」
 これもというのだ。
「ない、そして不老もな」
「ないですね」
「この世界でも俺達もな、そしてそうしたものだからこそだ」
 不老不死がない、それ故にというのだ。
「人は生きていて意味がある筈だ」
「必ず老い死ぬからこそ」
「その中でどうして生きていくか考えるからな」
 だからこそというのだ。
「人は生きる意味があって得られるものもだ」
「ありますか」
「俺はそう考えている、では起きたからな」 
 英雄は立ち上がった、これまでは床の上に座していたがそうした、そのうえで後ろにいる妻に述べた。
「また生きる」
「これからですね」
「その中ですべきことをしていく」 
 こう言ってだった。
 英雄は窓を開けた、そうして身体全体で朝日を浴びたのだった。そこから生きることをはじめるかの様に。


第百六十四話   完


                 2020・6・1 
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