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最初は下手でも

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第一章

                最初は下手でも
 最初は松本といった。
 山田芽衣と亜弥の姉妹は孤児だった、芽衣の方が一つ上で二人は亜弥が生まれてすぐに両親を事故で失った。
 それからは孤児院で暮らしていた、だが。
「育ててくれる人達が見付かったんだな」
「ええ、そうなの」
 孤児院の人達がこう話していた。
「二人にね」
「天理教の教会の人か」
「天理教では里親制度があってね」
「孤児の子達を養子にして育ててくれるんだな」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「あの娘達をね」
「養子にしたいとか」
「申し出てくれて」
「そうか、じゃあな」
「お会いしたところ凄く感じのいい初老のご夫婦で」
「お子さんいないのか」
「どうもそのこともあって」
 それでというのだ。
「養子としてね」
「引き取ってくれてか」
「育ててくれるみたいよ」
「そうした事情もあるんだな」
「どうしても子供が欲しいお家でもね」
「お子さんが授からないか」
「それでってこともあるみたいよ」
「成程な」
 孤児院でそうした話が行われた、そしてだった。
 姉妹は山田家天理教の教会であるその家に引き取られた。姉の芽衣は黒髪を肩の長さまで伸ばしているやや大きな木の強そうな目で整った顔立ちをしていて亜弥は黒髪を短くしている小さく楚々とした目で大人しそうな顔立ちだった。
「はじめまいて」
「はじめまして」
 二人は挨拶をした、芽衣は明るく元気な返事だったが。
 亜弥は小さく静かな返事だった、山田正幸と琴乃の夫婦は二人に笑顔で応えた。
「はじめまして」
「今日から私達が貴女達のお父さんとお母さんよ」
 夫婦は二人に優しい笑顔で応えた。
「これから宜しくね」
「四人で仲良く暮らしていこうな」
 父は黒髪にやや白いものが入ったブローした髪の毛で顔には皺があり眉が太い。母は黒髪を後ろで団子にした細い目と眉の初老の女性だ。
 夫婦は芽衣と亜弥を娘として育てはじめた、すると。
 芽衣は何でももの覚えがよかった、自分からどんどん前にきてやっていく。家事も教会のことも何でもそうだった。
 だが亜弥は前に出る性格ではなくもの覚えもよくない。それで夫婦は亜弥についてはこう言った。
「どうもな」
「亜弥はもの覚えがよくないわね」
「芽衣と比べてな」
「前に出ないし」
「姉妹でも違うな」
「そうね」
 夫婦で話した、しかし。
 琴乃の母で二人と同じ大教会所属の教会で今は息子夫婦に会長職を譲って夫と共に隠居している千景が言った。
「最初はいいじゃない」
「まあそれは」
 父は自分の義母に畏まって応えた、婿になるので口調も違う。
「そうですね」
「そう、最初は駄目でも」
 それでもというのだ。
「徐々にやっていったら」
「よくなりますね」
「亜弥ちゃんも一緒よ」
「芽衣みたいじゃなくても」
「努力していったら」
 それでというのだ。
「よくなるよ、逆に芽衣ちゃんも」
 筋がいいという彼女もというのだ。 
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