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戦国異伝供書

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第九十七話 井上一族その五

「戦国の世であるからな」
「大友家とは和していてです」
「そちらとは養子を迎えらえるまでです」
「主殿の跡継ぎ殿が夭折されたので」
「そうされていますな」
「それはわしも知っておる」
 大内家と尼子家の仲のことはというおだ。
「それはよい、しかしな」
「どうしてもですな」
「武を軽んじておられ」
「そして攻めることがなくなった」
「そのことは、ですな」
「陶殿そして陶殿を軸とする武を重んじるお歴々には歯痒く」
 そしてというのだ。
「それが文治を重んじるお歴々との軋轢を深めておる、このままではな」
「お家騒動が起こる」
「そうなりますか」
「大内家でもですか」
「それが起こりますか」
「尼子家と同じくな」
 まさにというのだ。
「そうなる、しかもな」
「しかも?」
「しかもといいますと」
「まだありますか」
「大内殿は衆道も嗜んでおられるな」
 元就はここでこのことも話した。
「左様であるな」
「はい、それはです」
「別に何でもありませぬな」
「これといって」
「このことは」
「それを近頃南蛮から来た伴天連の者に言われたそうじゃな」
 元就はここで怪訝な顔になって話した。
「その様じゃな」
「フランシスコ=ザビエルという」
「耶蘇教という教えの者だとか」
「十字の飾りを持っておるとか」
「そして得体の知れぬ文字の書を持っておるとか」
「その者に衆道を随分悪く言われたというな」
 このことも話すのだった。
「そうじゃな」
「衆道は悪いのでしょうか」
「南蛮の者はおかしなことを言いますな」
「衆道を恐ろしい悪と言ったとか」
「それは普通では」
「それがおかしいとはです」
「わしも思わぬ。何が悪い」
 衆道の何処がとだ、元就はまた言った。彼にしてみてもザビエルが何故怒っているのか皆目見当がつかぬのだ。
 だがそれでもだ、彼は言うのだった。
「しかしその衆道じゃが」
「大内殿の衆道の相手といいますと」
「陶殿ですな」
「それで余計に陶殿と絆が深いですま」
「主従の絆に加えて」
「そのこともありますな」
「陶家は大内家に代々仕えた家でな」
 そしてというのだ。
「しかもその間柄にあってな」
「余計にですな」
「絆が深く」
「それで、ですな」
「それがこじれるとな」
 その深い間柄がというのだ。
「尚更まずくなる、大内殿は近頃別のお相手の方がおられるという」
「ううむ、左様ですか」
「そしてその相手の方がですか」
「文治の方ですか」
「そうなのですか」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「尚更まずいことになる」
「左様ですか」
「では大内家の中でお家騒動が起きますと」
「その時は、ですか」
「尼子家のそれ以上に厄介なことになりますか」
「うむ」
 そうなるというのだ。 
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