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Fate/WizarDragonknight

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ビースト VS アナザーウィザード

「うわっ!」

 壁の崩壊に、ハルトは足を止めた。
 龍騎に『9』を任せ、先に進む事数分。アリの巣のごとく、部屋と通路を繰り返す中、ハルト、まどか、ほむらがいた通路が崩落したのだ。
 そして現れた、二人の『7』と額に刻まれたゾンビ。男性型の筋肉質なものと、女性型の華奢なものの二体が、こちらを向いた。

「二人とも! 離れて!」

 ハルトはまどかとほむらを自分から遠ざける。彼女たちが通路の入口付近に戻った頃合いに、二人のゾンビが襲ってきた。
 女性型の蹴りを受け流し、男性型の拳を受け止めた途端、腹痛に体が鈍る。その隙に、二人の蹴りでハルトの体が地面を舐めた。
 その時。

「だああああああああああ!」

 女性とは思えない雄々しい声を上げながら、黒い影が地面を駆る。アッパーで二人のゾンビを殴り上げた。
 黒いマフラーをなびかせるその人物に、ハルトは即座に反応した。

「響ちゃん!」

 その声に反応し、響はこちらに首を回す。
 黒いボディ。前回見た彼女の白い装甲とは真逆の禍々しい鎧は、あたかも響を怪物のように仕立てていた。

「ハルトさん⁉」

 だから、これまでと同じトーンの彼女の声を引いて、ハルトは内心安心していた。

「ハルトさん、体大丈夫ですか⁉ だって、お腹ざっくりとやられてたのに……」
「ざっくりって、結構怖い表現使うな……」

 そう言いながら、ハルトはざっくりとやられた腹部をさする。

「正直、まだ結構痛い。そのせいなのか分かんないけど、魔法も使えないし」
「うわあ……」
「それより響ちゃん、前見た時と姿違わない?」
「ああ、それは……って、うわっ!」

 響に襲い来る、二人の『7』。だが、二人の姿は、上空からの紫の柱の中に消えていった。
 間違えるはずもない、キャスターの光線。ゾンビたちを一瞬で蒸発させたそれが示す通り、果たして上空から、キャスターがゆったりとハルトと同じ地平に降臨した。

「キャスター……」

 ハルトは警戒の声を上げる。しかしキャスターはハルトと響に見向きもせず、背後でまどかに支えられているほむらにのみ注目していた。

「……マスター」
「笑うなら笑いなさい。キャスター。こんな無様なマスターをね」
「私と貴女はあくまで互いを利用し合うだけの間柄。笑う気持ちすら、貴女にはない」
「そう」

 ほむらは自嘲気味に笑った。
 そのままほむらはまどかを突き放し、キャスターへ近づく。

「ほむらちゃん!」

 呼びかけるまどかへ、ほむらが振り向くことはない。だが、それでもまどかは続けた。

「ほむらちゃんの願いって何? どうしてほむらちゃんは戦っているの?」

 無視。

「ほむらちゃん! 私には、ほむらちゃんが悪い人には見えないの! 人を蹴落としてまで自分のために動く人じゃないよね?」

 まどかが何を言っても、ほむらの歩調も変わることはなかった。キャスターの隣に立ったほむらは、静かに自らのサーヴァントへ口を開く。

「キャスター。命令よ。消えなさい」
「命令とあらば」

 キャスターはそのまま膝を折る。お辞儀したまま、彼女の姿が粒子となって消えていった。
 サーヴァントの姿が消えてから、ほむらはゆっくりとハルトを向く。まどかを視界に入れないためか、首をほんの少しだけこちらに動かして。

「さっきサーヴァントの召喚方法を教えたのは、私自身が生き残るためよ。今後、貴方たちが私の前に立ったら、容赦なく排除するわ」
「……ほむらちゃん……」

 ほむらは、そのまま闇の中に歩み去っていった。

「ほむらちゃん、やっぱりしばらく戦いを止めてくれそうにない?」

 様子を見ていた響が尋ねる。ハルトは頷きながら、

「でも……いつか、分かってくれるまで、俺はほむらちゃんに訴え続けるよ」
「なら、まずは話をしないとね」

 響はにっこりとほほ笑んだ。

「私たちで協力できる願いかもしれないし。もし聖杯に関係なく願いが叶ったら、ほむらちゃんだって戦いを止めるでしょ?」
「そうだね」

 ほむらの願い。改めて考えても、ハルトには全く心当たりはなかった。

「あの、響さん……」

 ハルトの後ろから、まどかが響のもとに駆け寄る。

「他の人、誰か襲われてないかな……? 学校全体がこうなっちゃったし、きっと誰かいると思うんだけど」
「チノちゃんたちは保護したよ。ほら」

 響が、突き破った通路を指差す。壁の欠片に遮られているが、確かにチノの青い髪がチラリと見えた。
 ハルトは、響に改めて頼んだ。

「響ちゃん。まどかちゃんやチノちゃんたちのこと、お願いしてもいい?」
「ハルトさんは?」
「俺は……」

 ハルトは、左手のルビーの指輪を見下ろす。すでに魔力のないハルトにとってはただの宝石と成り果てたそれを、右手で強く握る。

「いるんだろ? あの……アサシンのマスターが」
「うん。ハルトさんの……あの、魔法使いみたいな姿になったよ」
「多分、俺が変身できなくなってるのもそれが原因だと思う」
「でも、どうするの?」
「取り戻すよ。ウィザードを」
「だったら私も……」
「いや、響ちゃんは、まどかちゃんをお願い」

 不安そうな表情のまどかを指差す。
 響はそれでも浮かない顔をしていたが、やがて「うーん」と声を上げた。

「アサシンのマスターは、あっちの方に行ったよ。コウスケさんもあとを追いかけたから、多分大丈夫だとは思うけど……気を付けてね」
「ああ。響ちゃんも。まどかちゃんもね」
「うん……」

 まどかの不安そうな表情は晴れない。だが、ハルトはそんな二人を置いて……チノたちがハルトの姿を見る前に、響が教えてくれた方角へ急いだ。



「待て!」

 ようやく追いついた。コウスケは由乃の肩を掴もうと手を伸ばす。
 しかし彼女は、振り向きざまにナイフを振る。慌てて引っ込めた手の上を、ナイフの刃が横切った。

「邪魔しないで!」

 逃亡を諦めた由乃は、逆上してナイフで襲ってくる。フィールドワークで鍛えた身体能力でそれを避け、距離を置いた。

「どいつもこいつも……! 私とユッキーの邪魔をしないで!」
「おいおい、落ち着けって! なあ? 穏便に済まそうぜ?」

 コウスケはそう宥める。しかし、耳を貸さない由乃はそのナイフでこちらの命を狙ってくる。

「おいっ⁉」
「聖杯戦争に勝って、ユッキーを生き返らせるの! だから、他のマスターは皆死ね!」

 そう、振りぬかれた一振りを、コウスケは手首を掴んで止めた。

「だから待てって! その前に、こんなに大勢を巻き込んでもしょうがねえだろ? 戦いたいなら、オレが後で相手してやっから、今はこれを解け」
「嫌!」

 腹に痛み。彼女の蹴りで、コウスケは思わず手首を開放してしまった。
 そのまま蹴り飛ばされたコウスケは、由乃が紫の懐中時計を取り出すのを目撃する。

「おい……」
「私は勝ち残る! 勝って、願いを叶える! そして私とユッキーは、永遠に繋がれる!」
『ウィザード』

 発生した音声とともに、彼女の姿が紫の魔法陣に包まれる。
 変身したアナザーウィザードは、静かにこちらににじり寄ってきた。

「仕方ねえ」
『ドライバーオン』

 コウスケもまた、戦闘態勢に入る。指輪をバックルにあてることで、魔法の力、ビーストドライバーが出現する。
 左手にビーストの顔が描かれた指輪を取り付け、天高く掲げる。

「変~身!」
『セット オープン』

 バックルの扉が開き、内部に仕込まれていたライオンのレリーフが露になる。
 そこから発せられた魔法陣を走り抜け、魔法使い、ビーストへの変身が完了。
 ダイスサーベルを振りぬき、ビーストはアナザーウィザードへ斬りかかる。
 しかし、身軽な動きのアナザーウィザードを捕らえることが出来ず、ずっと空ぶっていた。

「んにゃろう……!」

 らちが空かないと、ビーストはダイスサーベルのサイコロを起動。

『6 ファルコ セイバーストライク』
「うっし!」

 六体のハヤブサが、それぞれの軌道を描きながらアナザーウィザードを襲う。しかし、アナザーウィザードは少しも焦らずに、ベルトに手をかざす。

『バインド』

 発生した鎖が、ハヤブサたちを薙ぎ払い、そのままダイスサーベルまで弾き飛ばす。

「んなっ⁉」

 地面に落ちたダイスサーベルの音。通路の入り口まで離れてしまったそれを回収する余裕など、ビーストにはない。
 驚くビーストへ、アナザーウィザードは連続で蹴り入れる。炎の蹴撃は一つ一つがとても熱く、ビーストの体に的確なダメージを与えていく。

『サンダー』

 さらに、発生した雷光で、ビーストの体は吹き飛ばされた。
 地面を転がりながらも、ビーストは闘志を燃やして立ち上がる。

「んにゃろう……」
『ゴー キックストライク』

 変身に使った指輪を、再びベルトに装填。すると、その右足に、黄色の魔力が集まっていく。
 それに対し、アナザーウィザードもまたベルトに手をかざす。

『キックストライク』

 アナザーウィザードが腰を下ろすと、その右足にまた同じく魔力が集う。

 そして、二人の魔法使いはそれぞれの必殺技を放とうとしていた。



 目を見張る、二つの魔力。
 ビーストと、アナザーウィザード。二人の指輪の魔法使いが、同時にキックストライクを放とうとしていた。

「これって……」

 部屋の入口で、ハルトは言葉を失っていた。
 魔力を失ったハルトでも分かる、膨大なエネルギーに、ハルトの肌はピリピリと逆立っていた。
 もう一歩、中に入る。すると、その足元が何かに当たった。 
 ビーストの主力武器、ダイスサーベルを拾い上げ、部屋の中央に走る。
 同時に、二人の魔法使いが跳び上がった。
 それぞれが魔法陣を通過し、蹴りを放つ体制になる。
 魔力のない今の自分にできること。ハルトは、即決した。

「コウスケ!」

 ハルトは、ダイスサーベルを持ち替え、アナザーウィザードへ投げつける。
 二人のキックストライクが衝突し合う寸前で、ダイスサーベルの刃先はアナザーウィザードの右足に命中した。
 彼女の再高威力を誇るキックストライク。それを防ぐには、到底足りないダイスサーベルの投影。
 そして、赤と黄のキックストライクが、空中で激突した。
 巨大な爆発となり、ハルトは思わずしゃがみこむ。
 上空の爆炎より、落ちてきたものと、降りてきたもの。

「! コウスケ!」

 ハルトは、落ちてきたもの、コウスケを助け起こす。

「おい、大丈夫か?」

 ボロボロの姿の彼は、腹を抑えていた。

「ハルト……悪い……随分やられちまった……」
「いや、気にするな」

 ハルトはコウスケに肩を貸す。そして、爆炎から降りたもの、アナザーウィザードと向き合った。
 変身解除したビーストとは真逆に、アナザーウィザードは無傷のようだった。傷一つない澄ました顔で、こちらににじり寄る。

「残念でした。この聖杯戦争は、私とユッキーの愛のためにあるの。それ以外に存在価値なんてないわ」

 少しずつ近付いてくるアナザーウィザード。ハルトは逃げようとするが、コウスケの体を持ち上げることがなかなかできない。

「終わりよ」

 アナザーウィザードは冷酷にも、再び魔法を使おうと動く。
 その時。

 バチチ

「え?」

 その疑問符は、他ならぬアナザーウィザードからだった。
 彼女は、全身に走る小さな亀裂に、体を止める。
 そして。

 爆発した。

「嘘……」
「さっきのダイスサーベルか……? 少し威力が下がって、オレのキックストライクが命中したのか?」

 そう、コウスケが分析した。それが正しいと証明するかのように、変身解除した由乃が、その場に倒れこむ。その近くにウィザードの懐中時計もあるが、どうやらまだ壊れてはいないようだった。
刹那、ハルトの体が何かに突き動かされるように跳ねる。

「あ」

 体内の臓器が、体を突き破ろうと暴れているような感覚に見舞われる。同時に、腰に銀が出現した。
 それを見下ろした瞬間、ハルトの口から、思わずその名前が漏れた。

「ウィザードライバー……?」

 何度も馴染む手触り。それは紛れもなく、魔法使いのベルト、ウィザードライバーだった。

「戻ったのか……?」
「おのれえええええええええ!」

 凄まじい形相で起き上がる由乃。彼女は、地面に落ちたウィザードウォッチを拾い上げた。

「なぜ戻った⁉ モノクマアアアアアアアア!」
『はーい!』

 由乃の呼び声に、白と黒の人形、モノクマが彼女の背後にその姿を現す。

『うぷぷ。あれれ? ウィザード、戻っちゃってるね』
「どういうことモノクマ⁉ コレを使えば、力を奪い取れるんでしょ⁉」
『うぷぷ。それはね、一回倒されちゃったからだよ。一時的に、アナザーウィザードの存在とウィザードの存在があやふやになっちゃったから、本物のウィザードにも力が戻っちゃったんだよ』

 モノクマは口を抑えながら、肩を震わせている。

『でも、安心して。一定時間たてば、また君だけのウィザードになるから』
「一定時間?」
『そう。でも、その間に、ウィザードを殺しちゃった方がいいと思うよ。君がアナザーじゃない、本物のウィザードになるんならね』

 モノクマはそう言いながら、今度はハルトの方を向いた。

『でも、我妻由乃だけに肩入れするのも監視役としてフェアじゃないよね? だから、ウィザードにも教えてあげる』
「……?」
『アナザーウィザードは、君。ウィザードにしか倒せない。アナザーウォッチを破壊できるのも、そのオリジナルだけ。つまり……うぷぷ』

 モノクマは、腹を抱えた。

『ウィザードと、アナザーウィザード! これから、どっちかしか生き残れないってこと! うぷぷぷぷぷ! あははははははは!』

 怪物のような口を開け、大笑いするモノクマ。
 それを見送ることなく、由乃は背を向け、走り出した。奥へ通じる道をかけ、見失うのも時間の問題だった。

「おい! 待て!」

 ハルトは追いかけようとするが、コウスケの存在に足を止めた。
 だが、コウスケはハルトの肩をふりほどき、フラフラの足取りで壁際に移動する。

「行け……ハルト」
「コウスケ……でも」

 ハルトはコウスケと由乃を見比べる。しかし、コウスケはそんなハルトに怒鳴る。

「お前が行くしかねえだろ! お前にしか止められねえんだ! オレにはまだ魔力が残ってる。なんかあっても、一回くらいは変身できるぜ」

 コウスケは、ビーストリングを見せつける。

「本物のウィザードなんだろ? なら、戦えよ! 自分の偽物とよ!」

 その言葉に、ハルトの表情はこわばる。魔力を取り戻したルビーを見下ろし、

「……気を付けろよ! コウスケ!」

 由乃の後を追いかけた。



 ただ一人残ったコウスケ。彼がこんな言葉を発することも、ハルトが知ることはなかった。

「はは……嘘だ。もう、魔力も底尽きてんだよな……」

 コウスケには、もう歩く余力すら残っていないことも。 
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