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銀河転生伝説

作者:使徒
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第15話 アムリッツァ前哨戦


補給線を断たれ窮地に陥った同盟軍を殲滅すべく、帝国軍は一挙に反撃に転じた。


――惑星リューゲン上空――

同盟軍第十艦隊旗艦盤古(バン・グゥ)のレーダーに帝国軍の艦影が映し出される。

「来るぞ、敵との予想接触時間は?」

「およそ6分」

「よぉーし、全艦総力戦用意! 総司令部、及び第十三艦隊に連絡。『我、敵と遭遇セリ』とな」

「はっ、直ちに」

「さあ、やがてミラクルヤンが救援に駆け付ける。敵を挟み撃ちに出来るぞ!」

ヤン艦隊が来援すると聞いて周囲からと歓声が上がる。
しかし、口から出した言葉とは裏腹に、ウランフはヤンが救援に駆け付けることは無いと考えていた。

「(もっとも、ヤンの方も今頃は……)」

帝国軍にとって、これは既定の行動のはずだ。
ならば、第十三艦隊の方にも敵が襲来しているのは間違いないだろう。
流石のヤンも敵を振り切って救援に駆け付けるのは難しい。

そして、そのウランフの予想は正鵠を射ていた。


――ヤヴァンハール星域――

「閣下」

「いよいよ始まったな」

「敵ミサイル群接近、11時方向!」

「9時方向にオペレを射出せよ」

「スパルタニアンの出撃用意を」

「はい」

帝国軍の放ったミサイルが囮弾に誘導される。

第十三艦隊はスパルタニアンを、ケンプ艦隊はワルキューレを出し互いの戦闘艇による空戦も始まった。

・・・・・

空戦では同盟軍の方に分が有り、帝国軍のワルキューレ隊は苦戦を強いられていた。

「何たる様だ! あの程度の敵に何を手間取っておる! 後方から半包囲して艦砲の射程に誘い込め」

これは、元ワルキューレのパイロットとして撃墜王の名声を得たケンプ中将ならではの戦術であろう。
ワルキューレの攻撃で艦の正面に誘い込まれた2機のスパルタニアンは、たちまち艦砲の餌食となる。


――惑星リューゲン上空――

第十艦隊とビッテンフェルト艦隊は互角の死闘を繰り広げていた。
だが、第十艦隊の内情は苦しい。

「敵味方の損害は絶対数においてほぼ同レベルですが、元々敵の方が数において勝ります。その上……」

「我が軍は食い物も無く、士気の低下が著しい……か」

「はっ、このままでは……」

敵より数で劣り、士気は低い。
このままでは敗北は確実であった。

しかもその頃、

「ビッテンフェルト提督、敵は既に我が艦隊の包囲下におります」

「おう、全艦に伝えろ『撃てば当たる、攻撃の手を緩めるな』とな」

帝国軍随一の攻撃力を誇る黒色槍騎兵《シュワルツ・ランツェンレーター》は、その攻撃を更に強化する。

これにより、これまでほぼ同レベルであった両者の損害に差が出始めた。


――ビルロスト星域――

同盟軍第五艦隊はロイエンタール艦隊と接触後、直ぐに離脱を開始したものの未だ振り切れずにいた。

「敵の追撃を振り切れません、どうされますか? ビュコック提督」

「どうするも何も、ここは逃げの一手じゃ。全力でイゼルローンに撤退するんじゃ」

「はっ」

「やれやれ、撤退準備をしておった我々でもこの有様……他の艦隊はダメかな」

「何かおっしゃいましたか?」

「いや、気にせんでいい。年寄りは独り言が多いでな」


――ドヴェルグ星域――

ハプスブルク上級大将を総司令官とする帝国軍の別動隊50000隻はドヴェルグ星域で同盟軍の第七艦隊と接触した。

「敵艦隊発見! 数、13000」

「zzz」

「閣下、起きてください」

「……んん、俺の眠りを妨げるのは誰だ?」

「閣下、寝ている場合ではありませんぞ。敵です」

「敵ぃ~? 仕方ないな~。んん、全艦攻撃開始! 数はこちらが上だ。敵を包囲して袋叩きにせよ。それと、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』の第4楽章をかけろ」

「はっ?」

「気分だよ気分、今はそういう気分なんだ」

「はぁ……」

その間にも、4倍の帝国軍に包囲された第七艦隊は瞬く間に数を減らしていく。

「見ろ、圧倒的ではないか我が軍は! 艦《ふね》がゴミのようだ」

「敵に降伏勧告を出されてはどうでしょうか」

「うん、確かにこれ以上イタぶるのも忍びないな。敵に降伏勧告を送れ」

「はっ」

直ちに第七艦隊へ降伏勧告が送られる。
しばらくして、

「閣下、敵将より『降伏勧告を受諾する』と言ってきました」

圧倒的な戦力差に勝ち目は無く、撤退も不可能と見た第七艦隊司令官のホーウッド中将は降伏を受諾したのであった。


――ヤヴァンハール星域――

ヤンは綿密な計算の下、艦隊の陣形を半月形に変化させた。

「敵は半月形の陣形をとりました」

「なに?」

「右翼に攻撃が集中してきます」

ケンプ艦隊の右翼に攻撃が集中し、それに伴い損害も増えいく。
それに対し、ケンプはヤン艦隊の半月陣に合わせて防御ラインをシフトすることで対抗する。

「敵が防御ラインをシフトしてきました」

「フィッシャー少将に連絡、第二段階に」

「はい」

第十三艦隊は、今度はケンプ艦隊の左翼に攻撃を集中する。

「今度は左翼か」

「直ちに防御ラインの変更を」

しかし、これもヤンの予想の内であった。

「第三段階、敵右翼」

またも、ケンプ艦隊の右翼に攻撃が集中する。

「また右翼に来ました」

「敵に乗せられるな。こちらも半月陣を敷いて、敵の艦隊運動に合わせるのだ」

このケンプの判断は間違ってはいない。
が、この場合は艦隊運動の名人であるフィッシャーがいる第十三艦隊の方が艦隊運動に分があった。

第十三艦隊の両翼は半月陣を敷こうとするケンプ艦隊両翼の先を抑えることに成功する。

「んん、さすがにフィッシャーの艦隊運動は名人芸だね」

「あの様子ですと、帝国側の防御ラインを削り取るのも時間の問題のようです」

「いや、敵は消耗戦の愚かさに気づくはずだ。まもなく後退して陣形の再編を図るだろう」

「それに乗じて攻勢に出ますか? 提督」

「いや、ここであの艦隊に勝ったところで全体には帝国軍の優勢は動かない。ここは敵が引いた隙に出来るだけ遠くに逃げるのが得策だ」

「逃げる……のですか?」

「この戦いは無意味だからね、生き延びるのが先決だ」

「なるほど……」


その頃、帝国軍のケンプ中将は、良くない戦況に苛立っていた。

「何をしておるか! 敵に先手先手を取られおって」

「どうも・・・艦隊運動では敵に一日の長があるようです」

「流石はヤンと言うべきか……このままでは損害が大きすぎる、いったん引いて陣形を立て直すぞ」

「しかし閣下、ここで引くのは敵の攻勢を誘うようなもの。危険ではありませんか?」

「承知しておる。だが、このまま無様な失血死をするよりは遥かにマシだ。違うか?」

「はっ、仰るとおりです」

帝国軍はいったん退いて、陣形の再編にかかる。
これを見たヤンは、今が退き時だと判断した。

「よぉーし今だ。全艦、逃げろ」

「はい」

第十三艦隊も攻撃を収め、後方へ撤退していく。

「なに? どうしたことだ、これは。やつらは勝っていたではないか」

「これは……他の空域の味方を助けに行ったのか、あるいは我々を誘う罠か……」

「敵はヤン・ウェンリーだ、これは罠に違いない。深追いは避けるとしよう」


――惑星リューゲン上空――

「ウランフ提督、既に我が艦隊は4割を失い、残りの半数も戦闘に耐える状態にありません。降伏か逃亡かを選ぶしかありません」

「不名誉な二者択一だな、んん? ……降伏は性に合わん、逃げるとしよう」

「はっ」

「損傷した艦艇を内側にして紡錘陣形をとれ、敵の包囲陣の一角を突き崩すんだ!!」

第十艦隊は陣形を紡錘陣形に変更する。

「砲火を集中しろ、撃って撃って撃ちまくれ!」

ウランフが咆える。

「怯むな、敵は最後の足掻きだ」

ビッテンフェルトも負けじと咆えるが、運命の女神はウランフに味方した。
第十艦隊の猛攻でビッテンフェルト艦隊の一部の艦列が崩れる。

「今だ!」

第十艦隊は崩れた一角に雪崩れ込み、ビッテンフェルト艦隊を突破して戦場からの離脱を図る。

「提督、本艦も」

「待て、傷ついた味方艦を1隻でも多く逃がすんだ。ギリギリまで踏み止まる」

ウランフの奮戦により、第十艦隊の半数は脱出に成功した。

「よぉし、脱出する! 最後のミサイルを全弾発射しろ!!」

直後、ビッテンフェルト艦隊の放ったビームが第十艦隊旗艦盤古(バン・グゥ)のミサイル発射口に直撃。
発射直前だったミサイルは誘爆し、盤古《バン・グゥ》は致命的なダメージを負った。

「うあっ…んん……参謀長、味方は…脱出…したか?」

「は、半数は」

「そ…そうか……」

盤古《バン・グゥ》は爆沈。
数々の戦場で活躍し、同盟軍を支えた猛将ウランフの最後だった。


――アルヴィース星域――

「あ、あれは!!」

「ん? おお、何と素早い!」

第九艦隊旗艦パラミデュースのすぐ至近距離まで帝国軍のミッターマイヤー艦隊が迫っていた。

「まるで……疾風だ」

このミッターマイヤー艦隊の迅速さを『疾風』に例えたのがきっかけで、後に彼は『疾風ウォルフ』の異名で呼ばれることになる。

「いかんな、少し速度を落とさせろ。距離をもたんと攻撃もできん」

ミッターマイヤー艦隊から砲撃が放たれ、第九艦隊の艦は次々に撃沈。
旗艦パラミデュースも被弾し、司令官のアル・サレム中将は重傷を負った。

「閣下! アル・サレム提督」

「副司令官モートン少将に連絡、指揮権を委ねる……」

そこまで言うと、アル・サレム中将は吐血し、気を失った。


<モートン>

敵の艦隊は凄まじい速度だ。
同盟の全てを見渡しても、あれほどの速度を出せる指揮官はいないかもしれない。

いや、帝国でも彼の艦隊速度は随一だろう。

「旗艦パラミデュース被弾、アル・サレム提督が負傷された模様。閣下に指揮権を委ねるとのことです」

何と、アル・サレム提督が!!

「分かった、指揮権を引き継ぐ」

アル・サレム提督は大丈夫だろう……。

いや、それを考えるのは後にしよう。
とにかく、今はこの窮地を脱出するのが先決だ。


――ヴァンステイド星域――

ヴァンステイド星域では第八艦隊がメックリンガー艦隊の攻撃を受けていた。

第八艦隊司令官のアップルトン中将は暴動が起きた段階で準備を整えさせたため、メックリンガー艦隊の襲来にもどうにか対応が可能だった。
だが、それでも士気の差は大きく、形勢不利と判断したアップルトンは撤退行動に移る。

メックリンガーも、既に撤退態勢を整えている敵を無理に追撃して無駄な被害を出すことを好まなかったため、第八艦隊は3割ほどの損害を出しつつも撤退に成功した。


――レージング星域――

ルフェーブル中将の第三艦隊13000隻は惑星レーシングの上空でワーレン艦隊14500隻と交戦。

交戦しつつ後退する途中、被弾した味方艦が旗艦ク・ホリンに衝突し、すぐ傍にあった小惑星へと突っ込んで撃沈。
第三艦隊の司令部は、司令官のルフェーブル中将と共に全滅した。


――ドヴェルグ星域――

ケンプ艦隊を捲いてヤヴァンハール星域から撤退した第十三艦隊であったが、ドヴェルグ星域に達したところでまた新たな敵艦隊と遭遇した。

それは、第七艦隊を破ったハプスブルク艦隊他4個艦隊50000隻であった。

「前方に新たな敵!」

「ここは第七艦隊が駐留していた空域ですが……」

「撤退したか、敗北したか」

「敵の戦力、我が方のおよそ4倍!」

「敵の指揮官ハプスブルク上級大将の名で降伏を勧告してきています」

「はぁ~~、我々だけならそれもいいだろうがね」

ヤンとしては、ここで降伏することで無駄な犠牲を出さずに済ますのも一つの手ではあった。
だが、他の星域で味方が戦っている以上、ヤンたちだけが早々にリタイアするわけにはいかなかった。


<アドルフ>

「こちらは敵の4倍だ。3時間毎に2艦隊ずつが遠距離からの砲撃を加える。敵を殲滅する必要はない。敵の疲労と消耗を増大させ、降伏に至らしめるのが目的だ」

いくらこちらの戦力が4倍といっても、相手はあのヤンだ。
ここはいつも通り長距離からの砲撃に終始しよう。
チキンな俺にはそれが一番だ。
下手に手を出して余計な損害を被ることはない。

「なるほど、しかし消極的過ぎませんか?」

そりゃ、敵が普通ならそうだ。
だが、あのヤンだぞ!
この世界No1のチート野郎だぞ!

「相手はあのヤン・ウェンリーだ、どのような奇策を用いていくか分からん。慎重過ぎるにこしたことはない」

そう、あんなチート野郎には大兵力で遠距離からチマチマと数を減らしていくのが一番良い方法だ。


<ヤン>

「ハプスブルク上級大将か。門閥貴族の筆頭格だと聞くが、どうして見事な用兵だ。付け込む隙も逃げ出す隙も無い」

4個艦隊の内2個艦隊によるローテーションの間断無い攻撃。
仮に、どれか1つの艦隊の隙に付け込んだとしても、その間に他の艦隊がこちらを包囲しにかかるだろう。
逃げるにしても、疲労困憊の此方に対して定期的に休息をとりフレッシュな戦力を有する敵艦隊の追撃は厳しいものになり、こちらの損害はかなりのものになるだろう。

「提督、関心してばかりもいられません。このままでは数において劣る我々の敗北は必至です」

「……フィッシャー少将にヒューベリオンまで来てもらってくれ」

・・・・・

「敵の狙いは間断ない戦闘によって我々に疲労と消耗を強いることだ。ただでさえ我々は食糧難に苦しみ、物資も窮乏している。しかも既にケンプ艦隊と一戦交えた後だ。このままではそう長くは持たないだろう。フィッシャー少将、艦隊をU字型に再編してもらいたい」

「U字型?」

「そうだ、そこに敵を誘い込み三方向から一気に反撃し、敵が怯んだ隙をついて急速反転離脱を図る」

「なるほど」

「これしかない。もっとも、敵が乗ってくればの話だが」

ハプスブルク上級大将と言えば、第三次ティアマト会戦ではローエングラム伯と共に同盟軍に煮え湯を飲ませ、第四次ティアマト会戦でもこちらの攻勢に対し粘り強く隙のない防戦で崩れることなく対処していた。また、ワルキューレ投入のタイミングも絶妙だった。

そんな人物がこちらの策に簡単に乗ってくれるとは思えない。
だが、今のところそれ以外に策は無い……。


<アドルフ>

「敵は艦隊をU字型にしつつあります」

これって確かあれだよな……U字の中に誘い込んでボッコにするってやつ。

「敵の罠だ、乗ることは無い。長距離からの砲撃に終始しろ」


* * *


イゼルローン要塞では、ようやく昼寝から目を覚ましたロボス元帥がグリーンヒル大将より戦況報告を受けていた。

「ロボス閣下、既に第三、第七艦隊が通信途絶。第九艦隊のアル・サレム中将は重傷、第十艦隊のウランフ中将は戦死。両艦隊とも半数以上を失ったとの報告が入っております。第五、第八、第十二艦隊は辛うじて敵の追撃を振り切った模様ですが、やはり3割近い犠牲を出しております。ヤン中将の第十三艦隊は健在ですが、ドヴェルグ星域で足止めを受けて既に8時間が経ちました。我々は敵の策に乗せられたのです。今は一刻も早くイゼルローン要塞まで撤退させるべきです。閣下、ご決断を」

「………兵力の再編成を行う。全軍をアムリッツァ恒星系に終結させよ」

「閣下!」

「このまま引き下がるわけにはいかんのだ。全軍アムリッツァに終結! これは命令である!」


――ドヴェルグ星域――

「簡単に言ってくれるものだな」

総司令部からの無茶ぶりに、ヤンは顔を顰めながら呟いた。

「ですが、やらねば敵中に孤立することになります」

「はあ……そうだな。やむを得ないか」

第十三艦隊は半ば強引に戦線から離脱する。

「どうしたんでしょう、敵は?」

「おそらく急な撤退命令でも出たんだろう。やれやれ、ようやく落ち着いてエロ本が読める」


帝国領各地で同盟軍は敗北し、残存の部隊は恒星アムリッツァに集結。
戦いの舞台はアムリッツァ星域へと移っていった。
 
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