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銀河転生伝説 外伝

作者:使徒
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とある自由惑星同盟転生者の話 その2


<スプレイン>

俺は第六次イゼルローン要塞攻防戦での功績により准将に昇進。
第十二艦隊所属の参謀となり、旗艦ペルーンへ乗艦する。

帝国と同盟の戦争は今まで概ね原作通りに進んでいたが、この第三次ティアマト会戦で原作からの乖離が出た。

両軍の投入戦力が原作より1個艦隊ずつ多いのだ。
そのため、本来なら第三次ティアマト会戦に参加するはずの無い第十二艦隊が第五、第十、第十一艦隊と共に迎撃部隊として戦場にある。

それはさて置き、原作通りホーランドが芸術的艦隊運動(笑)を始めた。
ホーランドはバカだが、その艦隊運動だけは見事だ。
分艦隊司令としてならばホーランドは優秀な部類に入るのだろう。
だが、そこがホーランドの限界。
所詮1個艦隊を率いる器では無かったということか。

「ボロディン提督、第十一艦隊のあの艦隊運動がいつまでも続くわけがありません。それに、帝国の一部の艦隊が戦わずして後退しています。混乱の渦中から身を引き、逆撃の機会を狙っていると考えられます」

「逃亡でも潰走でもなく後退か……これは危ないな」

「では、大事になる前に引かせた方がよろしいのではないでしょうか?」

それは無理だよコナリー少将。

「そうだな。一応、進言はしてみるか。第十一艦隊に『戦果は十分、深追いせず後退しろ』と打電してくれ」

「第十一艦隊は素直に引いてくれるでしょうか?」

「ふむ……難しいかな」

「ホーランド提督の性格を考えれば無理でしょう。ホーランド提督は自身をブルース・アッシュビー提督の再来と言っているそうです。確かに、中将になったのは同じ32歳ですが……」

「第十一艦隊より返信、『前方に敵影少なし。今は直進して敵を分断、完全に撃滅せん』以上」

ま、こうなるだろうな。

「ん~、これはちょっと……どうしようもないな」

「では閣下、第十一艦隊がやられた場合の対策をとっておきませんと」

「うむ、第五艦隊と第十艦隊に通信を繋げ」

「はっ、直ちに」

画面に第五艦隊のビュコック提督と第十艦隊のウランフ提督が映し出される。

『ボロディン提督、どうかしたかの?』

「残念ながら、第十一艦隊の敗退は時間の問題だと思いますが」

『貴官もそう見るか』

「ええ、このままでは我々も道連れにされかねませんからな。それに、第十一艦隊の他の将兵の犠牲も最低限で済ませねばならんでしょう。そのためには我々が連携して帝国軍の攻撃を凌ぐしかありますまい」

『道理ですな。では、敵の反撃に備えるとしましょう』

こちらの完敗は避けられそうだな。

・・・・・

遂に、その時は来た。

暴風の如き破壊力で戦局をリードし続けていた第十一艦隊は攻勢の終末に達し、拡大から収束へと向かう一瞬にその動きを止めてしまう――つまり、行動の限界点に達したわけだ。
そして、それが解けようとした刹那――まるで待ち構えていたかの如く、混乱の渦中から身を引いていた敵の2個艦隊の斉射をくらった。

「だ、第十一艦隊旗艦エピメテウス撃沈!!」

一瞬にして指揮官を失った第十一艦隊は烏合の衆でしかなく、壊滅の危機にある。

それにしても、ホーランドがバカやって第十一艦隊がボコられるのは原作通りだが、なんでラインハルト以外に見切ってるやつがいるんだ?

「敵軍、全面攻勢に出てきます!」

「第五、第十艦隊と連携して敵の攻撃を凌ぐ。撃て!」

帝国軍は隊形を崩し、一旦立ち竦むように足を止めたが、再び前進してこちらを追い詰めにかかる。
だが、こちらの3個艦隊が巧妙に連携し、第十一艦隊の残存兵力を庇いながら後退する。

「閣下、敵の先端部をピンポイントで潰していきましょう。敵の勢いを削ぐのです」

「なるほど、名案だな。全艦、敵の先端部に砲火を集中せよ。敵を近づけさせるな」

敵は数度に渡り突進してきたが、さすがはビュコック、ウランフ、ボロディンと同盟でも一流の指揮官たちだ。
この3人は敵が突進してくる度、柔軟で崩れを見せない防御網で食い止め、致命的な損傷を受けぬまま敵の追撃を断念させた。

・・・・・

同盟軍は艦列を立て直し、本国へと帰還中だ。
第十一艦隊は完全に敗残の列で、再建の苦労が思いやられる。

ホーランドは本来なら二階級特進で元帥になるところだが、処罰と相殺ということになるだろう。
つまり、戦死によって処罰を免れたわけだ。
命あってのモノダネと言うが、どちらが本人にとって幸せなのやら。

「ホーランドも英雄に成り損ねたな」

「英雄ですか……そう言えば私の同期で英雄について面白いことを言ったやつがいます」

「ほう」

「『英雄など酒場に行けばいくらでもいる。その反対に歯医者の治療台には一人もいない。ま、その程度のものだろう』と」

「ふっ、なるほど。確かに面白い意見だな」

そう言って笑うボロディン提督。

今回の戦いは終わったが、また新しい戦いが始まるだろう。
ハイネセンに着いたら、それまではのんびりと過ごしたいものだ。


* * *


同盟軍4個艦隊50000隻はイゼルローン要塞へ向け発進した。
対する帝国軍も4個艦隊55000隻でイゼルローン要塞より出撃する。

両軍はティアマト星域で対峙し、第四次ティアマト会戦が幕を開けた。

開始早々、敵左翼のラインハルト艦隊が前進し出すが、中央も右翼も呼応せず結果としてラインハルト艦隊だけが突出する形となった。

このままでは同盟軍に袋叩きに会うのは目に見えている。
だが、ラインハルト艦隊は前進を止めようとしない。

「敵の左翼艦隊、更に前進してきます。距離、16000」

「ふむ、これは……」

「何かの罠ではないでしょうか?」

ラインハルト艦隊の無謀としか考えられない前進行動に誰もが戸惑いを隠しきれない。
そして、ロボス元帥が左翼艦隊攻撃の命令を下そうとした、その時―――ラインハルト艦隊は突如針路を左に転換し、戦場を横切る形で横断し出した。

このラインハルトの戦場横断を同盟軍は罠と勘違いし攻撃の好機を逃すばかりか、側面への展開までも許してしまう。

やばい、このままだと原作と同じく同盟軍は全滅の危機に瀕する。

「ボロディン提督、これは罠ではありません。至急、攻撃しましょう」

「ん~、確かにここでチャンスをみすみす見逃すのもあれだな。よし、全艦攻撃開始!」

第十二艦隊はラインハルト艦隊に砲撃を加えるが、ラインハルト艦隊は既に過半まで横断していたため攻撃は中途半端なものとなってしまい、撃沈することができたのは2000隻程度にとどまった。

ラインハルト艦隊は戦場を横断し、味方左翼の側面に付く。

く、これは……原作通り消耗戦になるな。

・・・・・

自由惑星同盟軍旗艦アイアースの作戦室に各艦隊の司令官と参謀たちが集まっている。

「我が方の損害18651艦、死者228万。艦数はともかく、死者の数は敵を下回っています」

「問題は生存者の数では無く戦える戦艦の数だ」

「艦船の消耗も現在我が方が有利です。しかし、敵軍には無傷の艦隊がいます」

横断中に第十二艦隊の砲撃で2000隻程度の損害は与えているが……。

「もし、あの艦隊が攻撃を開始したら我が軍の全滅は避けられません」

「何故あの艦隊が我らの目前を横断したときに第十二艦隊以外、誰も攻撃しなかったのだ!」

「…………」

ロボス元帥の問いに誰も答えられない。
あのとき、ほとんどの人間が同じ考えを思い浮かべていたはずだ。

『これは罠ではないか』

と。

そんな中、遂にラインハルト艦隊が突撃を開始し出した。

「敵左翼艦隊、突入してきます」

数は帝国軍の方が多いのだ。
このまま行けば同盟軍は分断され壊滅する。

「もはや一刻の猶予もありません」

「策があるのか?」

「少数の艦で敵の裏側へ出て敵要塞を攻撃せんと見せかけ、その隙に本隊は撤退します」

「ふむ、陽動作戦か。だが、要塞に向かった者はおそらく二度と帰ってはこれんだろう。誰がその任務を引き受けてくれるのか」

会議室は沈黙に包まれる。

「私がやらせていただきましょう」

「ん?」

「お前は、ヤン・ウェンリー准将」

ヤンは、小さく頷いた。

・・・・・

ヤンたちによる陽動作戦が成功し、混乱しつつある帝国軍に同盟軍は苛烈な砲火を加える。

これによって敵中央は大きく崩れかけているが、敵右翼部隊は堅固な守りを見せ中々しぶとい。
装甲の厚い戦艦を並べて防御壁を築き、その内側から小型艦で砲撃を加えてくる。

これは後にヤンが使う戦法だが……。

第三次ティアマトの時といい、敵の――それも1個艦隊を指揮できる立場に優秀な人物がいるようだな。
ラインハルト一党だけでも手に負えないのに……勘弁してくれよ。

「敵軍、総攻撃を仕掛けてきます!」

陽動作戦だと気づいた帝国軍は先程までの鬱憤を晴らすかのように、逆に総攻撃をかけてくる。

元々数で上回る帝国軍の大攻勢をこちらは支えきれない。
同盟軍の艦が次々に爆沈していく。

この第十二艦隊とウランフ中将の第十艦隊の奮闘でどうにか戦線を維持しているものの、他の艦隊は崩壊寸前だ。

おまけに、敵は艦隊を上下左右に伸ばして半包囲態勢を構築しつつある。

勝敗は決したかに見えた、そのとき。
1隻の同盟軍の戦艦がラインハルトの乗るブリュンヒルトの真下に張り付いた。

ヤン・ウェンリーの乗るユリシーズだ。

「あれは、陽動作戦を買って出た……名は、何と言ったかな?」

「ヤン・ウェンリー准将です。小官とは士官学校で同期でした」

「ほう」

「彼はエルファシルの英雄としても有名です」

「なるほど、エルファシルの奇跡はフロックでは無かったということか」

「ええ、おそらく1個艦隊の指揮も楽にこなすでしょう。もっとも、普段本人にやる気が見られないのが玉に瑕ですが」


ラインハルトを人質にとられた帝国軍は攻撃中止し、同盟軍は退却を開始する。

友軍が退却したのを見届けると、ユリシーズも戦場を離脱。

ここに、第四次ティアマト会戦は終結した。

・・・・・

俺は、戦場を横断中のラインハルト艦隊への攻撃を進言したことが評価され、少将への昇進が内定した。
昇進自体は嬉しいが、この後起こるであろうアスターテや帝国領侵攻のことを思うと胃が痛くなる。

どうにか原作の悲劇を回避できないものか……。

それと、第三次ティアマトと今回の第四次ティアマトで活躍したあの敵、旗艦がヴィルヘルミナ級の戦艦だったことからも、おそらく同一人物だろう。

原作には居なかった強敵……。
もしかしたら俺と同じように転生者なのか?

だとすれば、そいつの目的は何だ?

……結論の出ないことを考えていても仕方がないな。
今は、俺にできることをやろう。


* * *


これは星屑のように光る英雄たちの中の、小さな星たちの始まりに過ぎない。
本来の正史における英雄たちの戦いと、イレギュラーたる転生者同士の戦いは、ここに始まった。
 
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