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第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
  第38話 外界っ子バトル:後編

[前回までのあらすじ]
 勇美がミラーオブライトの第三の供物に選んだのは、エビフライでした。

◇ ◇ ◇

 勇美はそれを魔鏡の前に差し出した。すると鏡は例の如く青く不気味に光る。
「?」
 と、ここで早苗が首を傾げた。どうも様子が先程までとは違うからである。
 先程までは鏡から直接機械仕掛けの怪物が這い出るように出現したのだ。だが今回はその兆候がない。
「勇美さん、モンスターは召喚しないんですか?」
 業を煮やした早苗がここで勇美に言う。
「まあ、待っていて下さい。……あっ、そろそろですね♪」
「?」
 勇美の意味ありげな発言に早苗が訝った時だった。
 突如として、鏡の中から金属片や歯車が壊れた蛇口から噴き出す水の如く吐き出され始めた。
 それらはみるみる内に放出されると、一ヶ所に集まり徐々に形をが造られていったのだ。
「……」
 思わず早苗は無言で唾を飲む。
 勇美が鏡からモンスターを生成して繰り出す事自体は周知の事実だから問題ではない。
 問題だったのはその規模であった。
 ざっと見積もって5メートルはあろうかと言う巨体が形成されていったのだった。
 そこで早苗は合点がいった。──要するにサイズが大きいから外で組み立ててしまえという事だろうと。
 家の扉に入らないような家具などを組み立てる前のパーツの状態で持ち込むのと同じ理屈だろう。
 そして鏡から放出した金属部品達はいよいよその大規模な工作活動を終えたのであった。
 勇美はその芸術作品の名称を宣言する。
「名付けて【高烏賊「ハイクラーケン」】です♪」
 その名の通り、それは巨体を誇る化け物イカであった。それが金属で造られているので非常に圧巻である。
 そして、極め付きはその全長である。その高さから、空を飛ぶ早苗にすら肉薄する勢いなのだ。
「これだと私に届いてしまいますね」
「どんなもんですか!」
 苦悩の言葉を漏らす早苗に対して、勇美も得意気になる。
 空を飛ぶ相手と戦うのに対抗する為には、必ずしも同じく空を飛ぶ必要はないのだ。
 高い位置に付く者に対して、その距離に匹敵する全長の存在を用意する。単純だが効率的な戦術なのであった。
 だが、その理屈を可能にしているのが今の勇美というものである。
「……見事なものね勇美、ここまで腕を上げているとはね」
 それは純粋に勇美の鍛練の賜物なのであった。その事に依姫は素直に感心するのだ。
「しかし、大きいですね……」
 早苗もその様相に圧巻されながら呟く。
「違いますよ早苗さん。そこは『すごく……大きいです』じゃないと♪」
「『やらなイカ』とか言ったら後でシバきますよ」
「ちっ……」
 出鼻を挫かれて、勇美は先輩に対して無礼極まりない舌打ちなどという所業をやらかす。
 と、仕様もないやり取りを二人でしつつも、早苗は本題に入る。
「でも、その図体では私を狙うのは難しいんじゃないんですか?」
 早苗は無駄のない指摘をして勇美に問い掛ける。
 確かにそうだ。今勇美が操るハイクラーケンは巨体な分、人間サイズである早苗を狙うのは困難の筈である。
 言うなれば、人間がすばしっこく飛び交う虫を狙うようなものである。
 だが、勇美の表情もまた余裕のそれであった。
「……試してみますか?」
「余り嘗めないで下さいね」
 互いに挑発めいた台詞を浴びせ掛けた後、動いたのは勇美であった。彼女は僕の大烏賊に迎撃命令を下す。
「ハイクラーケン、やっちゃって!」
 その合図を受けて大烏賊は触腕を振り上げ、早苗へと振り翳した。
「無駄ですよ」
 言って早苗はそれを悠々と避けてみせた。
 当然であろう。振りが大きすぎるのだ。ボクシングで言えばジャブもフットワークも織り混ぜずに、いきなりストレートを繰り出すようなものである。
 ましてや早苗という的は小さい上に宙まで舞っているのだ。
 いくら威力が強力でも、当たらなければ意味がないのである。
「そんな大振りじゃあ、私には当りませんよ」
「確かにそうですね、でも忘れていませんか?」
「何を?」と早苗は言おうとしたのに対して、勇美は言葉の代わりに行動で答えた。
 ハイクラーケンから触腕の一撃。それを当然早苗はかわす。
 だが、次に彼女に飛び込んで来たのは、触腕となる物以外の残りの足による攻撃だったのだ。
「!!」
「分かりましたか? イカの足は10本あるって事ですよ」
 勇美は得意気にそう言ってのけた。
 人型の存在なら一つの腕を攻撃に使ったら、同時にもう片方の腕は使えない。
 しかし、腕になる部分が三本以上の存在ならば同時に扱える箇所も増えるというものである。
 そして、鋼鉄烏賊の攻撃は苛烈を極めていった。一度の攻撃をかわしても、すぐに次の手が打ち放たれ、しかもそれが二本以上の足から繰り出されるのだ。
 加えて早苗の身体は人間のもの。故に彼女は疲弊し動きが鈍っていった。
「今だ!」
 そのチャンスを見逃す勇美ではなかった。よろめく早苗目掛けて触腕と触手の計六本を一気に振り下ろしたのだ。
 そして、それらは全て早苗を捉えた。数多の金属鞭は彼女を容赦なく弾き飛ばした。パァーンという風船が割れるかのような衝撃音が辺りに鳴り響く。
「きゃあっ……!!」
 突然の衝撃に悲鳴を上げる早苗。そして空中でバランスを崩した彼女に、遅れて脳に痛みの信号が送られたのだ。
「くうっ……」
 痛みに呻く早苗。その中で彼女は思った。
 ──この子、意外とやり手だと。自分よりも後輩だと思って甘く見ていたようだと。
「……!」
 そこで彼女は何かが弾けるかのような心持ちとなる。
 かつて早苗は外の世界では現人神である事があり万能であったのだ。
 だが、幻想郷では今までの自分の常識が通じずに負けてしまった。
 その事は少なからず彼女の心にとげを刺すような感覚を植え付けてしまったのだ。
 しかし、彼女は今ではふっ切れて幻想郷でうまくやっている。
 だが、彼女にもプライドというものがあるのだ。幻想郷でこうも負けてばかりはいられないというものだ。
 早苗も勇美が負けを嫌う事は知っている。しかし、当の自分も負けたくはないのである。
 そこまで想いを馳せた所で、早苗はキッと目を見開いた。そして体勢を整えて今倒すべき烏賊の化け物を鋭く見据える。
 そこで勇美が言葉を発する。
「ハイクラーケン、この調子でどんどん攻めちゃいなさい!」
 興が乗っている勇美は、意気揚々と倒すべき相手に指差し、鉄の烏賊に促した。
 そして、彼から連続して無数の触手攻撃が繰り出される。
 それをそつなく回避しながら早苗は強い眼差しを讃えながら言う。
「勇美さん、余り調子に乗らない事ですよ」
 一頻り触手の猛攻を回避した早苗は、ハイクラーケンから距離を置く。
「あなた、油断しましたね? よく自分の僕の周りをよく見て下さいね」
「……!?」
 早苗に言われて勇美がハイクラーケンを確認すると、彼女はハッとなった。
 見れば、彼の周りには纏わりつくかのように霧状の蛇が巻き付けられていたのだ。
「いつの間に……」
「あなたが触手での攻撃に気を取られている隙にスカイサーペントを送り込んでいたんですよ」
「くっ、でもハイクラーケンならこの程度のもの、触手で全部振り払って見せるよ!」
「確かにその子なら可能でしょうね」
「でも私がそれをさせませんよ!」そう言って早苗は三度おみくじ爆弾の筒を取り出す。
「またそれですか!」
 勇美はこの戦いでそれを早苗の厄介極まりない火力だと認識している。だが、ここで彼女は強気に出る。
「でも、それでこのハイクラーケンを落とせますか?」
 確かに先駆の鉄の魚人と飛び魚はあの爆弾に落とされた。
 しかし、今度のこの鉄烏賊は規模が違う分、装甲も伊達ではないのだ。単なる木偶の坊ではないのである。
「確かにこのおみくじ爆弾単体では無理かも知れませんね。でも霧って何で出来ているか知っていますか?」
「何って……はっ!」
 勇美は答えようとして気付いた。
 答えは『水』。そして水を高温に晒すとどうなるか。
「気付いたようですね、では」
 言って早苗は思い切り筒を振るうと、一気に数発のおみくじ爆弾を射出したのだった。
 そして、弾がハイクラーケンに一頻り接触した瞬間、早苗はスペルを宣言する。
「爆ぜなさい、【空爆「エアバースト」】!!」
 そう、先程の答えは『水蒸気爆発』である。水分に高温の爆発が当てられ、更なる大規模な爆発が巻き起こる。
 膨大な熱量の爆ぜと振動と風圧が辺りに発生する。
 そして、さすがの化け物烏賊のロボットもものの見事に爆散してしまったのだった。空中で金属の部品の数々が四散する。
「くそぅ~」
 自らの自信作が吹き飛ばされて歯噛みする勇美。だが、彼女はすぐに気を取り直して次なる手を打とうとする。
「まだだよ! このドッグフードを供物にして『アブソリュート・リヴァイアサン』を……」
「させませんよ!」
 勇美を遮るように早苗は言うと、手に持った祓い棒を上空目掛けて投げつける。
 そして、それは重力という万有の法則に従い下に戻って来て再び早苗の手に握られた。
「何ですかそれ?」
 思わず勇美が言う。その言葉が示す通り、早苗の手に握られていたのは元の祓い棒ではなかったのだ。
 それは両手で扱うような見事な大剣なのであった。
 早苗はその大剣を使い慣れたように軽々と二三度素振りをしてみせる。
「な、何か反則ですよそれ……」
「問答無用です」
 勇美の呻きも早苗は容赦なく切り捨て、スペル宣言という名の宣告を行う。
「【奇跡大剣断「アンビリバ棒・カッター」】!!」
「それ、棒の範疇を越えています」という勇美の心の叫びは届く事なく、早苗は行動した。
 彼女はその大剣を目一杯後ろに振り被ると、一気に前方に振り下ろしたのだ。
 すると、大剣から鋭く分厚い風のエネルギーの刃が放出される。
 そして、それはギュウンと風を切る重厚な音を出しながら前進し、勇美の扱う化け物鏡を綺麗に突き抜けたのだった。
 それは一瞬の事で、勇美は今の状況の把握に遅れる。
「あれ、何も起こらないじゃないですか?」
 勇美は本当にそう思ってしまう程に事は抜かりなく進んだのだ。
 だが、彼女はすぐに異変に気付く事となる。先程まで第四の怪物を産み出そうと光輝いていた鏡面がひっそりとなりを潜めてしまっていたのである。
 そして、それは一瞬にして起こった。──大鏡が真っ二つに寸断されてしまったのだ。それはもう、機械のように精密に計算されたかのように。
 寸断された鏡は爆発を起こして砕け散ってしまった。辺りにぶちまけられる金属片と鏡の破片。
「どうしますか? まだ続けますか?」
 憮然とした態度で問い掛けて来る早苗。それに対して勇美の答えは決まっていた。
「いいえ、私の負けですね」
 きっぱりと勇美は言い切ったのだ。
 鏡を破壊されても、勇美の分身は変幻自在である筈だからまだ続けられるように思われた。
 しかし、この『ミラーオブライト』は一度造り出せば供物を捧げる度に次々と怪物を生成出来る便利な代物であるのだが──造り出すには膨大な霊的エネルギーを消費するのだ。
 故に鏡の生成に力を殆ど使う為、それを破壊されてはもはや打つ手はなくなるのだった。
 ここに黒銀勇美と東風谷早苗の二人の弾幕ごっこは、早苗の勝利という事で決着がついたのである。
 だが、勇美には一つ、腑に落ちない事があったのだ。
「早苗さん、最後にいいですか?」
「何ですか?」
「あなたは何でそんな馬鹿でかい剣を扱えるのですか? とても人間の扱えるような代物には見えないのですが」
 それが勇美が言いたい事であった。
 勇美は今まで非力な人間としての制約の中で戦って来たのだ。自分自身が重装備をしなくてもいい戦法を取っていたのである。
 そんな中、現人神とは言え人間の早苗の剣捌きっぷりには開いた口が開かなかったのだ。
 まるでゲームの登場人物がするような攻撃っぷりには、そういうのに憧れている勇美には納得いかないのであった。
「ああ、これですね」
 そう言って早苗は先程のように祓い棒を瞬時に大剣に変えて見せる。
 そして、それをおもむろに勇美に渡す。
「取り敢えず、受け取ってみて下さい」
「って、こんなでかいのを……って、あれ?」
 自分にこれから起こるだろう惨劇を予想していた勇美は違和感を覚える。
「すごく……軽いです……」
「軽いのはいいからさ……じゃなくて」
 勇美に『くそみそ』な台詞への誘惑を断ち切り、早苗は続ける。
「この剣、張りぼての、中身は空洞なんですよね。要は風の攻撃を放つ為の媒体って事です」
「はあ……」
 その瞬間勇美は、試しに伊達から触らせてもらった仮面ライダーバースの武装が実は反動が物凄かった事を知った後藤とは逆のような状況にやるせない気持ちを抱くしかなかったのだった。
「色々突っ込みたい事はありますけど、取り敢えず、それなら良し!」

◇ ◇ ◇

「う~、ドッグフードで『アブソリュート・リヴァイアサン』さえ召喚出来ていれば~☆」
 すねたように唸る勇美。その様子を見ながら早苗は「やっぱりこの子可愛い。エサあげたい」と危険なオーラを撒き散らしながら思うのだった。
「それにしても、ドッグフードでリヴァイアサンを呼ぶって何だい?」
 リヴァイアサンとは陸のベヒーモスと対峙すり伝説上の巨大な海竜である。それを犬のエサで手なずける等という理不尽極まりなさに神奈子は頭を抱えた。
「私ならドッグフード大歓迎だよ~」
「諏訪子、お前蛙神やめろ」
「あ~う~☆」
 と、二柱はやんややんやと言い合い始めたのだ。
「天と地を司る神お二方は仲が宜しいようですね」
 そんなやり取りをする二柱に、微笑ましい気分になり茶化す依姫。
「お前もふざけんな」
 それに対して神奈子はキツい突っ込みを入れるが、満更でもないようで少し頬を赤らめていた。
 但し、神ともあろう相方がドッグフードに魅せられる事は断じて認めてはいなかったが。
 続いて依姫は話す相手を早苗に変える。
「早苗、もう貴方には心配はいらないみたいね。今の戦いで貴方は幻想郷を自分から楽しもうとしている事が分かりましたから」
「あ、はい、ありがとうございます」
 依姫に言われて、早苗は照れ臭くなってはにかむ。
 そこに諏訪子が入って来る。
「そりゃあもう、今の早苗は一言で表すと『幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね』だからね~」
「も、もう守矢樣ってば~」
 と、こちらでもやんややんやとしたやり取りが起こるのであった。
 最後に依姫は勇美へと向き合う。
「勇美、貴方もどんどん幻想郷に溶け混んでいるようで何よりね」
 依姫は負けた勇美も労う事を忘れてはいなかったのだ。勇美は嬉しくなり笑顔で返事をする。
「はいっ!」

◇ ◇ ◇

 そしてその夜、勇美と依姫は休憩室で談笑をしていた。
 その最中、勇美は気になっている事を口に出す。
「それにしても依姫さん、今日あの人達に遭ってから何だか気分が良さそうですね」
「分かりますか」
 知らず知らずの内に表に出ていたか。依姫はそう思いつつも続ける。
「あの神々の内の一柱、八坂神奈子は荒ぶる神故に月に危険を及ぼし兼ねないと、私達月人の都合で地上に縛り付けているのよ。
 だから、あの御方とその家族とも言うべき者達が幸せに暮らしているかいつか見ておきたいと思っていたの」
「そうだったんですか」
 依姫の説明を受け、勇美はしみじみと相槌を打ちながら思う。
 やはりこの人は律儀なんだなと。
 そして、そんな人の元で精進出来る切っ掛けを手に入れた自分も幸せであると噛み締めるのだった。 
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