| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

曇天に哭く修羅

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三部
  主義主張 9

 
前書き
やっとここまで来た。
_(:3 」 ∠)_ 

 
《佐々木青獅/ささきあおし》は試合が始まった時以上の動きを見せていた。

彼が覚醒した【魔晄極致(サードブレイク)】は【自己再生】と言われる類いのもので間違いないだろう。

それもあらゆる損傷を瞬時に治してしまう程の高性能なやつだ。

武器である魔晄外装も再生できる。

これは《立華紫闇》の【融解】と相性が良い【異能】だったらしい。

青獅の槍が命中する場所へ血液を集めてガードすることで触れたものが溶けるのだが、直ぐに再生して防御をすり抜けてしまう。

せっかく溶かしても意味が無く、無効化と変わらないではないか。


(メチャクチャだ。再生が増えただけでこんなに厄介になるとは)


紫闇は冷や汗が止まらなかった。

青獅は再生と共に【魔晄神氣(セカンドブレイク)】も使っているのだが、これが一体何を意味しているのか。

理解できる紫闇は更に気分が重い。


(再生することで24時間の内、8分しか使えない制限は無くなったらしいな)


青獅は【反逆者の灼炎(レッド・リベリオン)】によって紫闇よりも一段速く、強い動きが出来る。

つまり彼は常に紫闇より上のパワーとスピードを有した状態だということ。

珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】による時間の停滞や凍結を受けてもそれは変わらない

ダメ押しに体温感知で細部の動作まで把握しているので紫闇が起こそうとしている肉体運動は先読みされてしまう。

おかげで紫闇の主体とする体術は全て躱され青獅の槍は面白いように当たる。

おまけに紫闇の攻撃を喰らってもダメージが回復するから意味が無い。


「いや、無理だろ」


こんな反則的に相性が悪い奴に勝てるわけないと観客の殆どが諦めていた。

しかし戦っている紫闇は違う。


(レイアさんが《白鋼水明/しろがねすいめい》に使ってた『アレ』は俺も使えるみたいだしな。やってみるか)


紫闇が[音隼(おとはや)]を発動。

背部と足から金色の魔晄粒子が噴出し、あっという間にスタジアムの上空まで飛ぶ。


(佐々木は炎熱の類いを無効化できるみたいだが、生憎とこいつ(・・・)は物理に縛られないんでな)


紫闇の背部に金属で出来たような黒いウイングが二枚生えて彼を浮遊させる。

そして両手には指の先に鋭い鉤爪が付いた黒い手甲のようなものが現れた。

右腕の魔晄外装は手甲と融合。


「何だ、あれ……?」


青獅は初めて見る紫闇の姿に戸惑い足を止めて空から降りてくるのを待つ。


(恐らく佐々木の持つ最大攻撃射程は火炎を使う時の20メートル。ということは、その外側から攻撃すれば良いわけだ)


しかし青獅には再生が有る。

それはどう攻略するのか。

実を言うと、そこはあまり問題ではない。

魔術師の異能は【魔晄(まこう)】を消費して使うものなので魔晄が尽きるまで粘れば良いのだ。


(これが地上戦限定だったら佐々木にも勝ち目が有ったろう。どっちみち今からの攻撃は簡単に回避できないけど)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇の両手が地上に向く。

手の平は光を放っていた。

背中に有る黒いウイングも同じく光る。


「じゃあ行くか。お前の魔晄が切れたら終わりだから頑張ってくれよ」


紫闇の手と羽は輝きを増す。


「【雷鳴光翼/ケリードーン】」


光が弾け殺到する。

狙うは佐々木青獅とその周辺。

掌からばら撒かれた無数の光は散弾銃とマシンガンを足したような驟雨(しゅうう)となった。

鋼の黒翼から迸る大量の光はミサイルポッドから発射される弾頭のように輝く煙尾の残光を引きながら青獅を追尾する。

《クリス・ネバーエンド》のお株を奪うような手数だが火力は彼女に及ばない。

しかし青獅に対しては能力の性質上、紫闇が攻撃する方が合っている。

クリスの攻撃は基本的に熱が乗っており、それは青獅にとって最高の相性。

彼女の場合、異能の破壊による異能の無効は出来ても熱と熱エネルギーの操作・支配で対応されてしまうのでダメージは与えられない。

接近戦をすることになる。

しかし紫闇の雷鳴光翼はパワーとスピードは有れど熱が無く、物理を無視して飛ぶ。


(どんなに動いても躱し切れない程の広範囲攻撃を続けて魔晄を削り取るつもりか!)


青獅は三つの異能を同時に使いながら戦っているので大量の魔晄が物凄い早さで減っていくことを避けられない。

対して雷鳴光翼は【超能力】

使用する為の制限も無かった。

性能は使い手次第。

このまま続ければどちらが勝つかなど誰から見ても解りきっている。

それでも二人は止めない。

どちらかが倒れる時。

または【古神旧印(エルダーサイン)】が相手に渡って決着だと思っているから。

何時か見た光。

それが青獅の胸に有る。

紫闇は吸い寄せられた。

空から一直線に向かう。

手を伸ばす。

青獅が吹き飛ぶ。


「母さん。ぼくは……」


仰向けに転がる。


「強く、なったよ」


しかし立ち上がった。


「おい勘弁してくれよ……」


紫闇に余裕は無い。

戦闘でのダメージが過剰に蓄積している上に力を使い過ぎたようだ。

そんな紫闇の前で青獅が止まる。


「佐々木お前」


彼は意識が無かった。

拳を握っての仁王立ち。

青獅の左手に刻まれた古神旧印が光の筋となって紫闇の体に流れ込む。


「佐々木青獅……」


紫闇の全身が震える。

心の底から凄いと思う。


「美事な、男だった、ぜ……」


紫闇は意識を手放した。
 
 

 
後書き
青獅の胸に見えた光と同じ光は今までに何回か出てきてますが、原作だと最終巻に出てくる設定の伏線でした。

気付く人は気付くけど私は鈍かったので全然気にしてなかったですね。

もうすぐ第三部も終わりです。

ケリードーンの元ネタは作者さんが病気で休んでたけど再開した現在も移籍して連載中の漫画キャラが使う武器です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧