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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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最終節「かばんの隠し事」

 
前書き
とうとうG編も最終回!エピローグなので、いろんな人達の視点でフロンティア事変の終結後を描いてみました。
それと、前回の戦闘シーン。ちょっと物足りなかったので、加筆してあります。そちらも一緒にお楽しみいただければなと思います。

そして明日はいよいよ、伴装者1周年!
祝福ください、我の字にッ!

エピローグの推奨BGMは「かばんの隠し事」、そしてエンドロールは「虹色のフリューゲル」でお楽しみください! 

 
ネフィリムが倒され、バビロニアの宝物庫は完全に閉じられた。

力を使い果たした装者達の緊張が途切れ、ギアを解除しようとしていた……まさにその時だった。

「ぐ……ッ!? うぅ……ッ!」

一足早くギアを解除したツェルトが、右腕を抑えながら唸り始めたのだ。

「ツェルトッ!? どうしたのッ!?」

転びそうになりながら、慌てて駆け寄るマリア。
調と切歌も、這いながらツェルトの方へと向かおうとする。

「く……来るなッ!」
「「「ッ!?」」」

ツェルトは右腕に装着していた、赤鋼の手甲を外す。
そこには……不気味に胎動するネフィリムの右腕が、ツェルトの腕を侵食しようと蠢いていた。

「そ、それは……ネフィリムッ!?」
「ぐッ……あああッ……翔ッ! こいつを切り落とせッ!」
「……ッ!?」

ツェルトは翔の方を見ると、痛みを堪え、ネフィリムの侵食に耐えながら叫んだ。

「お前が纏う生太刀には……生命を、吸い取る力がある……ッ……切り落とすなら今しかないッ! 俺の腕が喰い尽くされる前に、早くッ!」
「ツェルト……ッ!」
「やれッ! もう一度俺を……助けてみせろよッ! ファルコンボーイッ!」
「ッ! ……わかった……」

彼の目は真っ直ぐに、翔の目を見ていた。

翔を信じ、自分の運命を委ねる。
その覚悟を見せられたのだ。翔は躊躇いを斬り捨て、生太刀のアームドギアを形成した。

「おおおおおおッ!」
「ツェルトおおおおおおッ!!」

誰もが呆気に取られて口を開け、マリアの叫びが海岸に響き渡る中。

裂帛の叫びと共に、翔はツェルトの腕に寄生した最後の巨人を切断した……。



ff

戦いが終わり、海岸では事後処理が始まっていた。

「ウヒヒヒヒ……間違っている、英雄を必要としない世界なんて……。ウヒ、ウヒヒ……」

手錠をかけられたウェルが、武装した自衛隊員に連行されていく。
未来はウェルに駆け寄ると、呼び止めるように声をかけた。

「待ってください!」

訝しむ自衛隊員と響たち。

「少しだけ……話をさせて下さい。お願いします」

少女の真剣な眼差しに、自衛隊員達は頷き、一歩下がる。

「……なんの用ですか?」

煩わしげなウェルの視線を受け止め、真っ直ぐに見つめ返す未来。

数秒の見つめ合いの後、未来は瞳を閉じ……、

「ありがとう、ございました」

感謝の言葉と共に深々と頭を下げた。

「────────は?」

理解できない感謝の言葉にウェルは間の抜けた声を漏らす。
恨み言の一つでも吐かれるのかと思えば、まさかの感謝。まるで意味が分からない、という顔だ。

それは響たちも同様であり、未来以外の全員が困惑している。
当の未来は周囲の空気を感じながら、次の言葉を紡いだ。

「……経緯はどうあれ、貴方のおかげで、わたしは友達を助ける事が出来ました」

─そんなに警戒しないでください。少し、お話でもしませんか?─

「響も翔くんも、きっと私の事が無くても無茶をしてたと思います」

―きっとあなたの力になってあげられますよ―

背後で響がビクンと身体を震わし、両脇からクリスと翼に肘で小突かれている。
翔とツェルトは溜息を吐きつつ、認めざるを得ない事実に苦笑いしていた。

「貴方が力を貸してくれたから、私は響を助ける事が出来たんです。だから──」

ありがとうございます。

少女のそんな告白に、ウェルは呆気にとらていたが、やがて肩を震わせ始める。

「ふふ……ふ、ひひッ! あぁはっはっはッ! なるほど、僕は君たちにとっての救世主ッ! 英雄ってわけですかッ!」
「結果的には、ですけどね。ふふふ」
「いひひひッ! いやいや、実に愉快ですよッ! あ~はっはっはッ!」

朗らかな空気で笑い合う被害者と加害者。この奇妙な光景に、その場の誰も口を挟めない。

しかし、自衛隊員が、もういいか?と未来に尋ねると……

「はい──あ、いえ、あともう一言」

何を?と隊員が尋ねるより先に───

「ひぃ~ひっひっ、ヒベギャッ!?」

馬鹿笑いを続けるウェルの横顔に、一発のビンタがフルスイングで振り抜かれた。

「いたた……」

よほど力を込めたのだろう。叩いた未来が手を振って痛がり、叩かれたウェルは地面に倒れ込んだ。

倒れたウェルを見ながら、未来は言い放つ。

「それとは別に、私を操って友達を傷付けさせたお礼です」

そう言ってにっこりと笑う未来に、今度こそ誰も口を開けなくなる。
翔と響は改めて、未来を怒らせてはいけない事を再確認した。

そして、同じく操られた奏はというと、

「あっははははは……ッ! こいつは傑作だッ!」

これには思わず腹を抱えて爆笑していたのであった。



「月の軌道は正常値へと近づきつつあります。ですが、ナスターシャ教授との連絡は……」
「ぬぅ……」
「残された命を懸けて、月の落下から世界を救った。彼女こそ、本物の英雄だったのかもしれないわね……」

ツェルトから切り離されたネフィリムの右腕が入った円筒状のケースを手に、了子が呟く。
弦十郎と緒川は、タブレットから目を離し、空を見つめている装者達へと視線を移した。

夕焼け色に染まりゆく空。水平線の向こうへと沈んでいく夕陽。少年少女は地球を離れ、小さくなっていく月を見上げる。

マリアの首から下がる、セレナの形見のペンダントは、完全に壊れてしまっていた。
彼女は愛する人と空を見上げながら、誰にともなく呟く。

「マムが未来を繋げてくれた……」
「ああ……そうだな……」
「ありがとう、お母さん──」

ツェルトは、マリアの肩をそっと抱き寄せる。
再び失われた右腕には、二課に置いてきていた義手が再び着けられていた。

「マリアさん……これ」

マリアが振り返ると、響はガングニールのペンダントを差し出す。
それを一瞥すると、マリアは微笑みながら言った。

「ガングニールはキミにこそ相応しい」
「……ん……」

響はペンダントを握り締め、頷いた。

「だが、月の遺跡を再起動させてしまった……」
「バラルの呪詛か」
「人類の相互理解は、また遠のいたってわけか……ッ!」

ネフィリムとの戦いの中で、全世界70億の人類はひと時の間だが、繋がった。
しかし、再び世界にはバラルの呪詛が満ちたことで、再び人類はバラバラになってしまったのだ。

「──へいき、へっちゃらですッ!」

しかし、それでも彼女は明るく笑った。

「──ッ」
「「……」」
「どうしてそう言いきれるんだ?」

首を傾げるF.I.S.の一同。
ツェルトからの問いに、響は笑ってこう答える。

「だってこの世界には──歌があるんですよッ!」
「ふッ……そうだな。歌は世界を繋ぐ。それは俺達が、この世界で誰よりも知っている事だ」
「ふふッ」

笑い合う翔と響。

「歌……デスか」
「いつか人は繋がれる……だけど、それはどこかの場所でも、いつかの未来でもない……確かに、伝えたから」
「……うん」

調の口から語られた言葉。それだけで、響と翔は全てを察した。

殆ど言葉も交わせなかったけど、彼女はきっと旅立ったのだろう。
その胸に、ようやく確かな希望を抱いて……。

「なあ、翼。あたし、まだ何が何だったのかさっぱりなんだけど……」
「奏、しーッ! 詳しい事は後で説明するから……」
「お、おう……」

死からの復活。そしてここまで「黒幕はウェル」程度の最低限の情報しか持たないまま、取り敢えずノリと勢いで戦っていた奏は、空気を読んで沈黙を選択した。

「立花響。キミに出会えて、良かった」
「風鳴翔。俺が今ここに立っているのは、お前のお陰だ。ありがとう」
「いや、まだだよ。もう一仕事、残ってるんだろ?」

そう言って翔は、着陸したエアキャリアの方を見つめる。

「ああ……そうだったな」
「会えるのはきっと、もう少し先になっちゃうけど……せめておはようくらいは、言わなくっちゃね」



なんだか、とっても長い夢を見ていたような気がする。

大人になったマリア姉さんと、ツェルト義兄さん、それに背が伸びた月読さんと暁さんが、マムと一緒に頑張っていたような……。

わたしは確か、あの時の熱い熱い炎の中で……それから……。

よく、分からない。ずっと夢を見ていたような、そうでないような、不思議な気分。

でも、そろそろ起きる時間みたい。
目の前が眩しい。懐かしい匂いがする。

あっ……これ……姉さんの匂いだ……。



「おはよう、セレナ」
「おかえり……セレナ……」



目が覚めると、世界で一番大好きな2人の声が、温かさと一緒にわたしを包み込んだ。



ff

セレナを目覚めさせた後、マリア、ツェルト、調、切歌、そしてウェルはテロリストとして逮捕・拘束され、ここに一応の事態は収束した。

武装組織フィーネを名乗った彼女らの活動の殆どであり、逮捕された場所でもある日本国内での裁判が予定されていたが、国家でなく、全世界を相手にした前代未聞のテロ行為に対し、米国政府は国際法廷での審議を要求。

だが、この裏には世界正義を標榜する米国政府の裁判介入を実現させ、フロンティア事変の裏側にある諸々の「不都合な事実」を闇に葬る思惑があった。

まったく、連中はこれっぽっちも懲りちゃいないらしい。
その上口封じの為に、ウェルやマリア、ツェルトのみならず、未成年である調や切歌にも死刑適用を進める周到さには、正直言って吐き気がしたね。

だが、それを許すほど日本政府も甘くはなかった。
先んじて仕掛けた外務省事務次官、斯波田賢仁の働きによって、月落下の情報隠蔽や、F.I.S.の組織経緯などが激しく糾弾されることとなる。

国の不都合を隠す為に子供を死刑になどさせない、という人情と、ネフィリムの脅威から世界を救った装者達を犠牲にさせるものか、という義憤。
さすがは義理人情に厚いSAMURAIの国だ。惚れ惚れするね。

一方、米国政府は国際世論の鋭い矛先を躱すために「そんな事実などない」と終始主張した。誰の目にも限りなくブラックに近いグレーだったが、米国政府は頑なに情報開示と捜査介入を拒否。

ところが意外な事に、日本政府はそれ以上の追求をしなかった。
その結果、米国政府に情報隠蔽の事実はなく、また、F.I.S.などという組織も存在しないという結論に至る事となった。

一見、あまりにも理不尽で、しこりの残る結末だ。
しかし、存在しない組織であるF.I.S.がテロ行為など起こせるはずもないというパラドックスに陥り、まわりまわってマリア達の罪状は消滅。死刑適用は回避され、国連指導の特別保護観察下に置かれる事となった。

日本政府に借りが出来たな……。まあ、文句はないがね。
そいつを返すためにも異動先で何とかやっていかないとな。

今回の件でF.I.S.は解体。職員は軒並み異動、レセプターチルドレンはプロフェッサー……ナスターシャ教授が蜂起した際に存在が明るみに出たため、既に解放された。

俺の異動先はF.I.S.の附属機関、『NEXT』。
所長のオズワルドは友人だ。食えない奴だが、信頼は出来る。気楽にやっていくさ。

そして今、俺は日本に来ている。
国連の保護観察対象となったあいつらに任された仕事だ。

もうF.I.S.じゃなくなっても、俺をわざわざ指名するとは。
まったく……言われなくても、患者の面倒は最後まで見てやるとも。それが俺の、医者としての役目だからな。

さて、土産にプリンでも買って行ってやるかな。
ほう……焼きプリン、ね。一人で食うのは、あの子のメンタルにも悪影響だ。俺の分も買って行くことにしよう。

ff

「敢えてグレーを含ませる事で、米国の思惑を封殺するとは。貴方らしいやり方ですね、斯波田事務次官」

とある蕎麦屋の一席にて、九皐は向かいの席に座る斯波田を見ながら、天ぷらに齧り付いた。

「へっ、トワリよりもニハチの方が喉ごしがいいってもんだ」
「ハハハ、仰る通りで」

ひと仕事終えた達成感を口元に浮かべ、斯波田はざる蕎麦を啜る。

「しかし、まだ問題は残ってる。死んだ筈の天羽奏についてだ」
「その辺は八紘兄貴と二課情報部が上手くやってくれるでしょうが、社会復帰までとなると時間は掛かるでしょうね……」

九皐は自分の蕎麦を啜ると、どうしたものか、と呟いた。

「昔のアニメよろしく、極秘でリハビリしてたって事で行けると思います?」
「う~ん……まあ、そいつもニハチってとこだろうよ」
「どっちが八で、どっちか二なんです?」
「さあな。せいぜい、混ぜたうどんに気付かれないよう、頑張るこった」
「八紘兄貴達にもそう伝えておきますよ」

そう言って九皐は、半分ほど減った蕎麦の上に七味を振りかけた。

政治の世界をこそ戦場とする防人達は、今日も何処かで戦い続けている……。

ff

そして同じ頃、リディアン音楽院。

「翼さーんッ! クリスちゃーんッ!」

今日の授業は午前のみ。響は未来と共に、校門の前で待つ翼とクリスの元へ駆け寄る。

「聞いてくれ立花。あれ以来、雪音は私のことを先輩と呼んでくれないのだ……」
「──だからァッ!」
「なになにー? クリスちゃんてば、翼さんの事、先輩って呼んでるの~?」
「ちょっと響ったら──」

頬を赤らめるクリスの顔を、響はニヤニヤしながら覗き込む。
そして未来の心配通り、クリスは眉をピクピクさせながら響に掴みかかった。

「いい機会だから教えてやる……ッ! あたしはお前より年上で先輩だってことをーッ!」
「「はぁ……」」
「もってけダブルだッ!」

呆れて溜め息を吐く翼と未来。
そこへ、翔と純、ついてきた恭一郎も合流する。

「えっと……これはいったい?」
「いつもの事だ。2人ともそれくらいにしておけ。傷もまだ癒えていないだろうに……」
「ここで傷口開いても、自業自得だからね?」

純からのぐうの音も出ない正論に、クリスは響の頬を引っ張っていた手を離す。

「ちぇ……わかってらぁ」
「へへへ……」

すると、未来はふと思い出したように響と、そして翔の顔を交互に見る。

「ねえ、響、翔くん……」
「ん?」
「なんだ?」
「身体、平気? おかしくないよね?」

未来の言葉に、二人は顔を見合わせ、そして笑った。

「心配性だなぁ、未来は……。へへ、わたしと翔くんを蝕む聖遺物は、あの時全部きれいさっぱり消えたんだって」
「ああ。謝るどころか、今俺と響がこうして笑っていられるのは、小日向のお陰だ。胸を張れ、小日向。お前は自分の手で、友達を助けたんだ」
「わたしの手で……」

二人の笑顔に、未来は喉元まで出かかっていた言葉を鞄の中へと隠して捨てた。

(そうだね……。わたし、もう泣かない。謝ることもしない。まだまだちっぽけな勇気しかないけど、いつかわたしも強くなって、きっと響に追いついてやるんだからッ!)

少しだけだが、彼女は前進した。
彼女の名は未来。先へと進み続ける事こそ、その由来なのだから。

「小日向さん? その……あの時は……」

そして未来は、同じく目標へと前進中の彼に微笑みかける。

「……加賀美くん。一緒に頑張ろうね?」
「……えッ?」
「ふふ、内緒っ」
「……ッ!」

本日の勝敗、未来の勝ち。

「でもね──胸のガングニールは無くなったけれど……あの日、奏さんから託された歌は、絶対になくしたりしないよ」

響は仲間達を見回すと、胸に手を当てながら呟く。

翼とクリス、純は釣られて微笑み、一同は繋いだ手で守った今日の空を見上げる。

二課本部の甲板では奏が。病室の窓からはセレナが。留置場のフェンスの向こうからはマリア達が。それぞれ違う場所で、同じ空を見上げていた。

「それに、それは私だけじゃない。……きっとそれは──」
「ああ……きっと、その歌は──」

誰の胸にもある、歌なんだ……ッ! 
 

 
後書き
これにてG編、完結ッ!
ここまで通算140話。ご愛読いただき、ありがとうございました!

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そして、明日はとうとう伴装者1周年の記念日です。
記念挨拶回を書きますので、次回もお楽しみに! 
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