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神機楼戦記オクトメディウム

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第18話 白陽の騎士と創造の神:後編

 ノリで敵である姫子へと気を許しそうになる大邪が一人、春日レーコであったが、ここで気を取り直して言う。
「私達は敵同士よ。そして、私の大邪としての任務を邪魔するあなた達は排除しなければならないって事」
「そうだよね~♪」
 うまく事を纏められると少し期待していた姫子は、少々気分が萎える所であるのだった。その性格から分かるように、彼女は余り好戦的ではない性分なのだから。
 だが、敵との戦いは始まっているのだ。故にそうも言ってはいられないだろう。
 そんな姫子の心境に答えるかのように、レーコはこう言う。
「あなた達、覚悟しなさい。私がこうして出て来たって事は、もう様子見は終わりという事なのだからね!」
 そう得意気に彼女は宣戦布告を行ってみせたのであった。
 だが、先程のような創造物を神機楼だと偽り敵に戦わせるという手法はもう使えないだろう。
 ならば、どうすればいいのかと言えば、ここからは偽らずに繰り出すだけという事だ。
「私のこの『ヤゴコロノトウロ』は他の神機楼とは違う特別製でしてね。漫画家の私の持ち味を活かせるスグレモノなのですよ♪」
 そうレーコは言いながら指をパチンと鳴らし、その動きが彼女の愛機へとトレースされる。
 するとどうであろうか? ヤゴコロノトウロの前方を護るように新たに二体の巨像が出現したのであった。
 そこに現れたのは、どこかで見た事のある風貌の存在であるのであった。それを姫子は指摘する。
「あ、『黒鉄の城』に『三つの心』のそっくりさんだね♪」
 そう姫子が指摘した通り、その二体は強靱な防御を誇る黒の魔神に、戦闘機三体合体の果てに生まれる赤いロボットであるのであった。
「う~ん、こいつらもアウトだな……」
 そう士郎はメタ的な指摘をせざるを得ない心境となってしまうのであった。
「大丈夫だよ士郎君。あなたのだってフリーダム・ガンボーイ然としてるんだから♪」
「そういう事言うのがダメなんだって!」
 話をややこしくしようとする姫子に対して、士郎は抗議せずにはいられなかった。
 ともあれ、これが敵の能力であった姫子はレーコに向かって言う。
「これが、あなたの漫画家のスキルを利用しての力って事ですよね?」
 その問いに、レーコは包み隠さずに答える。
「そういう事よ。この子は私がデザインしたキャラクターを実体化する事が出来る、そんな夢のような存在だったという訳よ♪」
「やっぱり……」
 そう言いながら姫子は、これは他とは違う手強さを持っているなと実感するのであった。
 今まで彼女が見てきた神機楼には、ほとんど破壊の力はあれど、創造の力など備わってはいなかったからである。それが出来るというだけで、如何にこの機体が厄介かというものであろう。
 だが、それでも創られる存在は倒す事が出来るのだ。ならば、やるべき事は一つというものだ。
「士郎君。一緒にやるよ! 準備はいい?」
「勿論、いつでもいいよ!」
「心強いね。それじゃあ、士郎君には黒鉄の城の方を任せるよ♪」
「……だから、そういう発言は……」
 そのアブない発言にハラハラしつつも、士郎は姫子と敵を分担する事を確認し合うのであった。
 そして、その姫子が『三つの心』へと向かったのを確認しながら士郎は『黒鉄の城』へと向き合う。
 そんな士郎の戦意を感じ取ったのか、いよいよその魔神は動いたのである。
 彼は、その右腕を突き出すと、それ自体が意思を持っているかのように本体から射出されて剣神目掛けて飛び込んできたのであった。
 だが、その意表を突くような攻撃にも士郎は至って冷静に対応するのだ。
「これも……元のキャラクターと同じような攻撃って事だな?」
 これを受けて、敵はミスをしたなと士郎は思う所であった。何故なら、相手にその戦い方が知られている創作物から拝借した存在を差し向けてきたのだから。これは、敵の出方を把握する必要のある実戦では致命的と言える事であろう。
 故に、士郎はその腕の砲撃を軽々と交わすと、剣神にその敵の懐へと潜り込ませるのであった。
 そして、そのまま彼は剣神の持つ刀を振り抜かせたのだ。
「『斬鉄剣』!」
 そう言い切ると共に、剣神から放たれた刃が黒の魔神を一刀両断したのである。
 そして、暫しの間の後、魔神は綺麗に寸断されて崩れ去ったのであった。
 そう、彼の放った一撃は文字通り金属を切り裂くに至ったという事なのだ。
 一仕事終えた士郎は、そこでふと思ってしまう。
「思わず金属を斬るから『斬鉄剣』なんて言っちゃったけど、これもパクリになりそうだなぁ……」
 そう、例えば北欧神話の最高神をモデルにした存在が本来の愛用の槍よりも使わされられる剣、はたまたもみあげが長い大泥棒の仲間が振るやたら切れ味の良すぎる刀等……心当たりが多すぎる所であった。
「まあ、敵を倒せたんだから良しとするか……姫子さんの方も終わったみたいだし」
 そう言うと士郎は自分の相方も無事に戦い終えたのを確認して安堵したのだ。
 それは、先程士郎と敵の分断をした所に遡る。
 姫子は今、絶賛赤き三つの心と対峙している所であるのであった。
「士郎君も頑張っている所だし、私もちゃんとやんなきゃね♪」
 姫子は言った後に間髪入れずに弾神の懐から銃を取り出すと、それを敵目掛けて発射したのであった。
 しかし、それは敵の持つ斧型の武器によって弾かれてしまったのである。そう、敵の武器は攻防一体の便利な代物という事なのであった。
 何度銃撃しても、敵のその斧の守りにて弾かれてしまう。これではジリ貧であろう。だが、姫子の狙いは別にあったのであった。
(早く……『アレ』をやんないかなぁ~……)
 そう言いながら姫子はじれったい心持ちとなっていたのである。
 すると、その願いが通じた訳では断じてないだろうが、敵の動きに変化が見られたのだ。
 突如として、敵機の関節という関節がピキピキと音を立てたかと思うと、それは一瞬にして起こったのであった。
 そう、ご存じの人も多いかも知れないが、この赤い機体は三体の戦闘機へと分離する機能が付いていたのである。姫子の銃撃をいつまでも斧で受け止めていては埒が明かないだろうと判断しての事であろう。
 だが……それこそが姫子が狙った通りの展開だったのであるが。
「よし、今がその時だね。相手が相手なだけに♪」
 そう色々とマズい発言をしながら姫子は咄嗟に弾神に持たせた銃をしっかりとその手に持たせ──そこからの行動は一瞬であったのだ。
 一気に姫子はその銃を連続で引き金を引かせると、まるで三発同時に撃ったかのように瞬時に飛び交う三体の戦闘機を射撃していたのであった。
 そう、姫子は人型を解除して戦闘機になり、防御姿勢を取れなくなった敵機の隙を突いたという事なのであった。
 しかし、この戦闘機形態はその作品では回避に徹する形態であるのだ。だから、そこを攻撃に狙うのは本来なら本末転倒もいい所なのであるが。
 その形態を『隙』として扱う事が出来たのは、他ならぬ姫子の類い希なる射撃能力があってこその事なのであった。
 そして、戦闘機三体は無残にも煙を上げながら不時着するのであった。余りいい気分のしない光景であるが、人が搭乗していないのがせめてもの救いというものだ。
 ともあれ、これで敵神機楼であるヤゴコロノトウロが繰り出して来た二体のパチもんロボットはこれにて撃墜された事に変わりはないのである。
 士郎の方もやるべき事を終えたのを確認した姫子は、得意気に敵へ向かって言葉を投げ掛けるのであった。
「さあ、レーコ先生のけしかけたロボットは『全て』倒しましたよ♪」
 ここに自分達の優位を確信しながら言った姫子。だが、それは些か気が早いというものであるのだった。
 この瞬間、姫子はレーコがコックピット内で不敵な笑みを浮かべているのが直感で察する事が出来たのであった。
 何か、嫌な予感がするのを姫子は感じざるを得なかった。
 その瞬間に一瞬水を打ったように辺りに静寂が走るが、それをレーコが打ち破るべく決定的な一言を口にする。
「……誰が、今の子達で『全て』だと言ったのかしら?」
 その言葉が意味する所は一つであろう。
「まさか……」
「恐らくその読みは正しいわよ。それじゃあ見せてあげるわ♪ それも『はっきりと分かりやすく』ね♪」
 レーコがそう言うと、彼女は再び愛機に指を鳴らさせる。すると、無の空間に再び気配が現れるのであった。しかも、それは先程の比では無かったのであった。
「!?」
 その異様な空気の変化に、姫子は瞬時に察したのであった。さすがは持ち前の勘と、大邪との戦いで培われた感性がここにありといった感じだ。
「士郎君! 気を付けて!!」
 いつになくせわしなく呼び掛ける姫子の様子から、これから起こる事がただ事ではないのは士郎も感じる事が出来るのであった。
 そして、彼等はそのただならぬ雰囲気の正体をまざまざと見せられる事となるのであった。
「姫子さん……これは……」
「うん……予感はしていたんだけどね……まさか実行してくるなんてね……」
 そう乾いた語感にて言葉を交わす二人。彼等はそう反応するのも無理からぬ事なのであった。
 何故なら、再び黒鉄の城と三つの心が敵本体によって繰り出されていたからである。
 しかも、問題はその数であったのだ。それぞれが十体、計二十体がこの場に集結なされていたのだから。
「やっとこさ一人倒したと思ったのに……メタルクウラ……」
「「メタルクウラじゃないって!?」」
 何故か、姫子のボケに敵味方の垣根を越えたツッコミが冴えるのであった。
 そんな姫子に対して、レーコは気を取り直して警告を促す。
「あなた、今そんな余裕を見せている場合なの? この状況を良く見なさい!」
「そうだよ姫子さん」
 そう彼等が言うように、今の状況は絶望的もいい所だったからである。
 確かにこの有名ロボットを模した虚像は弾神と剣神にとっては余り強く無かったかも知れない。
 だが、それは彼等が一体ずつ相手をしたからに他ならないのだ。それがこのような軍勢で来られてはひとたまりもないというものであろう。
 そう、誰かが言った言葉であるが『戦いとは数』なのである。そして、それを実行に移せるヤゴコロノトウロと春日レーコの相性は得てして知るべきであろう。
 勿論、姫子はこの状況にはまともに立ち向かう事など出来ないだろう。
 いや──元より姫子は『まともにやり合う気』など更々無かったのであった。
「やっぱり、あの子の読み通りだったって事だね。ホント、どこまでも頼りになるよ♪」
 そう姫子はこの場にはいない新たな仲間に感謝をしつつ、彼女に託されたこの状況を打破する為の手段を弾神に握らせる。
 それは、半透明で近未来的な造型が特徴的な、どこかで見たような気がする代物であった。
「喰らえ~! ウォーターガン!!」
 そう言いながら姫子はその銃の引き金を引く。その瞬間に咄嗟にレーコは脳を思考させる。
「ウォーター……水……って、マズい!」
 だが、その判断は今一歩遅かったようであった。姫子が引き金を引いた瞬間に、それは見事に繰り出されたからである。
 そう、弾神が手にしているのは水鉄砲であり、発射されているのはまごう事なき水圧であったからだ。
 しかし、水など放射して何になるだろうと思うだろう。そのような物で防水加工のされたロボットの機能停止など狙えるはずがないのだから。
 ──そう、相手が本物のロボットであったのなら、である。
 今しがた姫子が放った水圧を次々と浴びていくスーパーロボット軍団もどき。すると、それにより彼等のボディーはドロドロに溶けていったのであった。
 それが意味する所はこうであった。
「あの子の読み通りみたいだったね。レーコ先生の神機楼は、『漫画に描いたキャラクターの実体化』だったって事♪」
 そう、ヤゴコロノトウロによって繰り出されていた巨像達は、元は紙に描かれた漫画であったのだ。
 そして、漫画を描くには基本的にインクを使うのである。
 つまり、先程から産み出されていた巨像達は『インクの塊』であるという事なのであった。故に水によってあっさりと流れ落ちてしまったという事なのだ。
「良かった。レーコ先生が『CGで漫画を描く派』じゃなくて♪」
「……くっ!」
 姫子の弁に思わず歯噛みするレーコ。この瞬間に本気でCGで漫画を描く技術を身に付けておくべきだったかと後悔するのであった。結構トーンを初めてとした器材の購入費は馬鹿にならない訳だし。
 だが、まだ勝負があった訳ではないのだ。レーコは愛機にこれまで用いなかった武器を持たせるに至ったのだ。
 それは、漫画を描く上での必需品の一つ、ペン──それを神機楼サイズにしたものであるのだった。
「今までの流れから、これがただの武器ではない事は分かるわよね?」
 最早後がないレーコ。だが彼女はせめて振る舞いだけは堂々として見せようと気張るのであった。
 そんなレーコに対して姫子は答える。
「うん、それをただの槍かなんかだと思って掛かったら痛い目見そうだね。でも──相手が悪かったよね?」
「!?」
 そう姫子に言われたレーコが瞬時に血相を変えて上を見上げると──今正にその姿はあったのである。
 そう、剣神アメノムラクモである。しかも、彼は宙に高く飛び上がりながら既に『準備は整わせて』いたのであった。
 宙で剣を両手で握り締めながら、その刃にみるみる内に太陽エネルギーを充填させていたのだ。
 そして、どうやら既にその充填は完全なものへとなっていたようであった。その状態から、士郎はこう言葉を刻むのであった。
「日輪光裂……」
「まずいっ!」
 そうレーコは愛機に身構えさせるが、時既に遅しなのであった。士郎は剣神に太陽の光をふんだんに纏わせた剣を大振りに掲げさせ……。
「大撃斬っっっ!」
 それを一気にヤゴコロノトウロ目掛けて振り下ろしたのであった。
 そして、敵機はその極光の剣により、一瞬の内にその身を一刀両断されてしまったのだ。
「そ、そんな……」
 自身の愛機の特殊性から、自らの優位は確実なものだと思って戦っていたら、気付けばこうなっていた。
 その事に呆気に取られながら、レーコは光の奔流にその身を包まれていったのであった。 
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