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曇天に哭く修羅

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第三部
  はいちょっとごめんよ

 
前書き
_〆(。。) 

 
紫闇の右腕に外装が顕現。

拳が金の光を放つ。

禍孔雀(かくじゃく)]で速攻を仕掛ける紫闇は防衛本能がけたたましい音を鳴らしていることに疑問を持たなかった。

この白い少女はあまりにも危険な存在であり、殺らなければ殺られると強く思う程に。

一切の手加減なし。

相手が死んでも良い、むしろ死ねという勢いの右拳が少女の顎に吸い込まれていく。

彼女は躱そうともしない。

禍孔雀が届き爆裂。

だがその瞬間、白い少女は拳の力が走る方向に合わせて首を振った。


(間違いなく当たった。なのに手応えが消えるなんて。一体何の冗談だ……)


信じられないが禍孔雀の攻撃を受け流したらしく、ダメージというものは皆無。


「今度はこっちの番ネ」


少女の左手が紫闇の胸へ伸びる。

避けられないことが解った彼は[盾梟/たてさら]を使って魔晄防壁を強化。

直後、衝撃で吹き飛ぶ。

体が浮く感覚を味わった後、地面に落ちて転がり壁に激突。


「立華紫闇がアタシに負けた場合。そしてアタシから逃げた時は凜音とかいう餓鬼を殺れと依頼者に言われたネ」


紫闇は驚きで痛みを忘れる。


「もう一度言ウ。オマエが負けたらオマエを殺すし逃げても殺ス。勝たない限りはオマエの目前で佐々木凜音をくびり殺すヨ」


言葉にならない叫びを響かせた紫闇の背中から二枚の翼に見える黄金の粒子が噴き出す。


[音隼/おとはや]


高速で一直線に白い少女へ向かう。

再び禍孔雀を放つ。

しかし流される。

続けて紫闇の下段蹴り。

少女の(もも)に命中。

しかし独楽のように回り威力を殺す。

何度も仕掛けていく紫闇だが少女はその全てを悉く流してしまう。

灰色に濁った瞳は紫闇を侮蔑。


「オマエ。マジで才能ねぇナ」


少女の右足がブレる。

直後に紫闇は脳震盪を起こす。

知覚できないほど速い蹴り。

防壁を張った状態で受けてもこの威力。


「まだまだ死ぬナヨ?」


白い少女は紫闇に攻撃するが紫闇からは何をされているのか解らない。

攻撃の種類も軌道も判別できない。

倒れたら起こされる。

延々とその繰り返し。

何分くらいだったか。

少女の猛攻が止む。

彼女は不思議そうな顔をした。


「オマエ、何で手を抜く。さっさとアタシに力を見せろ。【神が参る者(イレギュラーワン)】だロ?」


紫闇には覚えが無い。

聞いたことの無い言葉だ。


「ああそうカ。教えてもらってないんだナ。過保護が過ぎるぞ《黒鋼焔(あいつ)》は」


少女は溜め息を吐いて背を向ける。


「今から佐々木凜音に会わせてやル。そしてオマエの前で首を引き千切って殺ス。それくらいやれば頑張れるだろウ?」


何を言っているのだろうか。

ふざけるのも良い加減にしろと言いたかった紫闇だが言葉が出てこない。

この少女は本気だ。

本気でそう言っている。

凜音を殺す。

紫闇の力を出させる為に。


「力をくれ、バケモノッ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇の内なる門が開く。

力を得た紫闇の出血が右腕に集まり黒い魔晄外装を赤く染めていった。


(勝てる!)


紫闇は確信する。

これを当てれば終わりだと。


「白鋼流奥義・流れ崩し」


しかし拳は外れた。

いや、自分から外したと言える。

そんな気は無かったのに。


「オマエの攻撃が当たることは無イ」


紫闇が伸ばした右腕に白い少女の腕が絡まると関節からへし折られた。

そのまま倒され頭を踏みつけられてしまった紫闇にとってこの技は衝撃的。


「黒鋼の、[喰牙(クウガ)]……?」

「白鋼でも同じ呼び方ネ」


少女は笑って紫闇を踏みにじる。

足をグリグリして力を入れてきた。


「うん、今のは面白かったヨ。だからオマエの根性に免じて凜音は殺さないから安心しロ。まあオマエは殺すんだけどナ」


紫闇は理解する。

少女は自分達と同じ『鬼』だ。

そして闘技者であり戦いを楽しむ。

焔に教わったこと。

真剣勝負は生殺与奪の権利を得たり相手を失神させたりするのではなく、どちらかが死んだ時に決着するもの。


『覚えておくんだよ。真剣勝負で生殺与奪の権利を握った場合、また戦りたい・もっと戦いたい相手なら生かしておくと良い。でもそうでない相手だったなら───』


一切の容赦なく、一時の躊躇い無く、まるで呼吸するかの如く殺せ。

それが自分達のような人でなしの流儀。

つまり白い少女にとって今の紫闇はどうでも良い、もう戦いたいと思わない、ここで死んだって構わない程度の相手だったということ。

踏みつけられている紫闇の頭からみしみしと頭蓋骨の音が鳴っているのが解る。


「代われ紫闇」


紫闇の口から不意に言葉が出る。

しかし今のものは彼の意志ではない。

もう1人の紫闇とも違う。


「何ネ? 急に体が硬く───」


紫闇の左手が頭を踏んでいる少女の足を掴むとそのまま引き剥がした。

異様な力の上がり方だ。


「外装を弄る時に保険をかけておいて良かったよ。ここからは僕が戦う」


紫闇が頼りにしている人。

焔と共に自分を助けてくれた人。


「レイア……さん?」

「休んで見てて」


白い少女は口をぱくぱくさせている。


「ま、まさかこの魔晄と気配……。大分弱いけど、本当に《永遠(とわ)レイア》なのか!?」

「ああ、久し振りだね《白鋼水明/しろがねすいめい》。自分の体じゃないし僕本来の強さは出せないけど今の紫闇が出せる限界を超えて力を引き出せる。当然ながら僕の技術も使えるよ?」


水明は逃げようかと思っていた。

焔の両親を殺そうとした時に彼と《エンド・プロヴィデンス》の二人に邪魔をされ、徹底的に叩き潰されたことを覚えているから。


(レイアとは言え使うのは立華紫闇の体。なら勝てるかもしれない)


水明が考え事をしている間、レイアは紫闇に状況を説明していた。

レイアが紫闇に対して行った【魔晄改造/カスタムブレイク】は魔晄外装を強化する為のものだが普通なら改造は一度で済む。

改造の技術が無くとも精神の在り方で外装の形状を変えられるので強く念じ、心から願えば自分の理想とする武器の形に近づく。

だが目覚めた【異能】や外装が持つ特性までは変えられないもの。

そういう意味では紫闇の外装は稀少ながら特に何の変哲もない上に異能も覚えられない『規格外』と言われるゴミタイプ。

しかし紫闇は【神が参る者(イレギュラーワン)】なのでレイアは紫闇と融合した内なる上位存在の魂にも干渉して手を加えたのだ。

そして神が参る者として備えていた7つ有る能力枠の内、5つを奪う。

5つの内の1つは魔晄を使う能力にして、4つは超能力の枠とした。

これで上位存在の影響を少なくする。

更に黒い魔晄を使うもう1人の紫闇と戦って叩きのめしこれを掌握すると紫闇の主導権をかなり多くして暴走の危険性を減らす。

力が解放される仕組みを改造し、紫闇の成長に応じて力を解放できるようになった。


「で、成長が敵に追い付いてない時にピンチに陥ったら疑似人格の僕が紫闇の体で戦えるようにしておいたわけ。今の紫闇の体でも水明と戦えるから大丈夫だよ」


無茶苦茶な技術だが信じるしかないので納得した紫闇はレイアに体を預けて自分の中から成り行きを見守ることにした。


「さーて行くぞ水明。あれからどれだけ強くなったのか見せてもらおうか」

「はン。レイアの本体じゃないなら別段アタシに恐いことは無いネ。長年果たせなかったリベンジといかせてもらウ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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