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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第41節「英雄」

 
前書き
今回を書くにあたって、ウェルの視点をもう一度やろうと思い立ちまして。
そしたら……なんと、いつの間にやらウェルの過去設定がポンっと降って来ていました。

というわけで、今回はウェルの過去が語られます。
公式には一切ソースのない、ほぼ全てが作者の自己解釈です。ご了承ください。

推奨BGMは特にありませんが、地の文に「君の神様になりたい」を隠しました。
それではお楽しみください! 

 
子供の頃から、僕はその才覚を発揮していた。

いつしか僕は天才と呼ばれるようになり、多くの賞を取り、いくつもの結果を残した。

その一方で……周りの奴らは僕を疎み、遠ざけた。
僕の才能は彼らにとって、妬み僻みの対象だったわけだ。

パパでさえ、僕の事を一度として褒めてくれた事は無い。
科学者だったパパは僕の才能に嫉妬する側だった。

おかしな話でしょう?
他人より優れた者が、敬われるどころか疎まれるなんて、どう考えたって間違ってるじゃないかッ!

だから、いつしか僕は英雄になる事を夢見るようになった。

飽くなき夢を見て、誰かに夢を見せるもの。誰もが尊敬し、誰もが憧れ、誰もが讃える至高の存在。
そういうものに、僕はなるんだと決めた。

英雄になる為に僕は、天才と称される生化学の分野に磨きをかけた。
周りの凡才達が遊び歩いてる時間に、僕は一人で勉学に励み、実験に明け暮れた。

その結果、僕は以前にも増して成果を挙げるようになった。

それでも、周りの馬鹿どもは僕を褒めてはくれなかった。
更に言えば、パパからの嫌味は加速する一方だった。

気付けば僕は、僕の事を認めない奴らが気に食わなくなっていた。
いつか英雄になった暁には、僕を認めなかった奴らを見返してやるつもりだった。

それももはや過去の事だ。今の僕には、フロンティアとネフィリム、それにRN式がある。
見返す必要なんてもうない、僕の事を讃えてくれない奴らなんて皆消えればいいんだッ!

僕の夢を利用して、テロリストなんかに仕立て上げようとしたオバハンは月まで打ち上げてやった。
あとはあンの鬱陶しい小娘どもを、伴装者諸共始末すれば……僕はようやく、英雄になれるッ!

誰にも邪魔なんかさせるもんかッ!
僕こそが地上でただ一人の生ける英雄、ウェルキンゲトリクスとして歴史に名を刻むんだぁッ!



「さて……どうやら、野良猫と一緒にネズミも始末しないといけないみたいだぁ……」

自分を追って来る者達の存在をモニターで確認したウェルは、ジェネレータールームのコンソールに左腕を触れる。

入力されたコマンドは、侵入者の排除。
フロンティアはコマンドに従い、防衛システムを作動させた。






「こいつは……ッ!?」

通路を真っ直ぐに進んでいた弦十郎と緒川、遅れて追いついてきたツェルトの前に、それらは姿を現した。

ずんぐりむっくりとした体形で、無機質だがペンギンに似たシルエット……フロンティアの防衛機兵が30体程、こちらへと迫ってくる。

「フロンティアの防衛装置ですか……」
「仕方ない……相手になってやるッ!」

弦十郎は拳を握って構え、緒川も銃を取り出す。

「ジョセフくん、行けッ! ここは俺達が食い止めるッ!」
「どうやってッ!? この数相手に、装者でもないあんたが太刀打ちできるわけ──」

迫る防衛機兵達へと向けて、弦十郎は震脚を繰り出す。
凄まじい衝撃が床を伝い、一群の真ん中に真っ直ぐ道を拓いた。

「行けッ!」
「お……おう……恩に着るッ!」

目の前で起きた在り得ない光景に困惑しながらも、ツェルトは切り拓かれた道を駆け抜けていく。

それを見送った弦十郎は、体勢を立て直した防衛機兵達を睨みつける。

「俺達が相手だ、どっからでもかかってこいッ!」
「あまり時間はかけられませんからね。速攻で片を付けますッ!」

二課……否、日本最強戦力と称される男と、現代を生きる忍者。
装者に非ずとも超常の災害より国を、そこに住まう人々を守護する二人の防人が今、鍛えた刃を引き抜いた。

ff

「はあああああッ!」
「はああッ!」

翔とクリスの援護射撃を受けつつ、他の四人がネフィリムへと攻撃を仕掛ける。

伸張した翼の刃と、響の渾身の拳が叩きつけられる。だが……

「なっ!? 刃が──ッ!?」
「通らないッ!?」

ネフィリムの分厚い皮膚は強固な鎧となり、二人の攻撃を通さない。

「だったら突き崩してやるッ!」
「たあッ!」

側面に回った奏と純が同時に槍を突き出し、刺突する。
しかし、その鋭さを以てしてさえ、ネフィリムの皮膚は破れない。

「なッ!?」
「こいつ、とんでもなく堅ぇッ!?」
「なら……全部乗せだッ!」
「一斉発射ッ!」

クリスのミサイルとガトリングの全弾発射と、翔が放った矢の雨がネフィリムに命中し、爆発する。

「へッ!」

流石に少しは効いたかと思われた、次の瞬間。

「ガアアッ!」

煙の中から出てきたネフィリムは、再び火球を口に溜めていた。

「こ……これでも通らねえのかよッ!?」
「まずい、雪音避けろッ!!」

翔が叫ぶも一瞬遅く、火球はネフィリムの口から吐き出された。

「うわあああああッ!」
「ぐああああああッ!」
「翔ッ!雪音ッ!」

直撃は免れたものの、爆発で吹き飛ばされる二人。
更にネフィリムは、その剛腕を振りかぶり、翼を潰そうとする。

「翼ッ!」
「く……ッ!」

翼はなんとか跳躍し、それを避けた。
地面を叩くネフィリム。その振動でバランスを崩さぬよう、奏と純も跳躍する。

「翼さんッ!」

そして、ネフィリムの左腕がウニョウニョと曲がり、背後の響に向かって迫る。

「響ッ!」
「──ッ!」

避けられない。そう確信した、その時──


緑に色に光る鎖がネフィリムの腕に巻き付き、ギロチンが伸びる。


「デェェェェスッ!」

ギロチンの一撃でネフィリムの左腕は切り落され、毒々しい緑色の体液を飛び散らせながら地面に落ちる。

「──ッ!」

更に、ホイール状の丸鋸が高速起動しながら、ネフィリムの腹を切り裂く。

「ああッ!?」

驚く装者達。
響の窮地を救った二人……調と切歌は着地すると、得意げな笑みを浮かべた。

「シュルシャガナと……」
「イガリマ、到着デスッ!」
「お前ら……」
「来てくれたんだッ!」

増えた仲間に、喜ぶ響。
だが、切歌はネフィリムの方を振り返ると、呆れたように呟いた。

「ふ……とはいえ、こいつを相手にするのは、けっこう骨が折れそうデスよ……ッ!」
「ギャオオオオオオオン!!」

見れば、切り落としたネフィリムの左腕はもう再生している。
成長したことで、再生能力が上がっているのだ。

「いや……それだけじゃないッ!」
「な……ッ!? なんだありゃあッ!?」

純が見つめる先は、先ほど切り落としたネフィリムの腕だ。
それを見た装者達の頬に、冷や汗が伝う。

なんと、そこには……切り落とされた腕から分裂し、新たなネフィリムが増殖している光景があったのだ。

「あれは、ネフィリムの幼体……ッ!?」
「しかも、1、2、3、4、5……どんどん増えてるッ!?」

小型ではあるが、ネフィリムは幼体でも人間の大人二人分ほどの巨体だ。
それが10体を越える数で襲ってくれば、厄介なことは言うまでもない。

ガングニールに加えて、生弓矢まで喰らっていた影響がここに来て発露したのだ。

「どうすりゃいいんだよ……ッ!」
「纏めて倒すしかあるまいッ! 皆、行くぞッ!」

立ち塞がる絶望。それでも、8人は諦めずに立ち向かう。

世界中が、彼女らの勝利を信じているのだから……。

ff

「無駄ですよ、無駄。成体となったネフィリムに、勝てるわけがないじゃないですか」

ネフィリムと戦う装者達をモニター越しに見ながら、ウェルは嘲笑う。
そこへ……彼は飛び込んできた。

「それはどうかな」
「ッ!? 君ですか……」

忌々しさに顔を歪めながら、ウェルはツェルトを睨んだ。

「マリィ達は負けない。そしてドクター、お前はここで終わりってわけだ」
「へッ、よりにもよって君が来るとは……。ですが、今の僕に勝てるんですか? ネフィリムの左腕を手に入れ、真の英雄となったこの僕にッ!」
「そのグロテスクっぷりはどちらかといえばヴィランの類だろ。X-Menに目を付けられそうだな」
「ミュータント扱いはやめてもらえますかねぇ?」

早速煽りを入れつつ、ツェルトはウェルに近づいていく。

「だったら聞くが……なぁ、ドクター。お前は何を以て英雄を名乗るんだ?」
「そんなもの、決まっているじゃありませんか……」

ツェルトの疑問に応えるウェルの顔は、何を当たり前のことを、と書いてあるように見えた。

「飽くなき夢を見て、誰かに夢を見せるもの。誰もが尊敬し、誰もが憧れ、誰もが讃える至高の存在……それこそが英雄のあるべき姿ッ! 僕が目指した英雄の姿だッ!」
「へぇ、そうかい……。じゃあお前、既にアウトだろ」
「……なんだと?」

ウェルが語る英雄論を、ツェルトは一笑に付す。

「だってよドクター、今のあんたはどっちも満たしてないだろ?」
「何を言っているのです? 今の僕は──」
「無辜の人々を力で捩じ伏せ、気に食わない奴は利用した上で切り捨てる。そんなやり方の何処にロマンチズムがある?そんな汚い手段の何処に憧れるやつがいる?」
「理想だけじゃ英雄にはなれませんよ」
「ほら、まただ。自分勝手とリアリズムを履き違えてる。自分以外はどうでもいい、そんな人間が英雄の器であるものかよ……」
「うるさいッ!やはりあの時始末し損ねたのが失敗でしたね……今ここでそれを精算してやりますよッ!」

激昴したウェルは再びコンソールに命令を送る。

次の瞬間、ツェルトの足元にポッカリと穴が開く。

「落ちろッ!今度こそ海まで真っ逆さまに落っこちろぉぉぉぉぉッ!」

ツェルトの姿が穴の中へと消えた……その直後だった。

「転調・コード“エンキドゥ”ッ!」

穴から伸びてきた楔が床に打ち込まれ、落ちていったツェルトが勢いよく飛び出す。

「何ぃぃぃぃッ!?」
「同じ手を食うかよッ!どりゃあああッ!」

ツェルトは落とし穴から飛び出した勢いをそのまま利用し、ウェルに飛び蹴りを放つ。

ウェルは慌てて防御姿勢を取り、ツェルトの飛び蹴りはウェルの左腕に受け止められる。

ウェルの体幹で受け止めきれるはずがない。
ツェルトがそのまま蹴り込もうとした、その時だった。

「──なッ!?」

足を受け止めたウェルの腕……ネフィリムの左腕が不気味に蠢き、ツェルトのギアに喰らいついた。

ツェルトは慌てて反対側の足でウェルの腕を蹴り、喰らいつかれた方のプロテクターをパージする。

距離をとって着地すると、ウェルの左腕がプロテクターを飲み込むところであった。

「ネフィリムの特性は僕の腕にもそのまま移植されています。昨日までの僕だと思わないでくださいよッ!」
「チッ、本ッ当に厄介な真似しかしないなお前はッ!」

両手に鎖を握るツェルトと、ネフィリムの腕を拳と握ったウェル。

相容れない二人の男が、互いのプライドをかけて遂にぶつかり合う……。



「はあああッ!」

先端に楔がついた鎖を、鞭のように振るう。

「ひいいいいッ! って、どこを狙ってるんですか?」

ウェルはそれを悲鳴を上げつつ避けるが……その一本目はあくまで囮ッ!
本命はもう一本、狙うはお前の──

「ッ!? やっぱりそういう事かッ!」

分銅付きのもう一本の鎖がウェルの左腕に巻き付き、拘束する。
更にその上からもう一方の鎖も巻き付け、ネフィリムの腕を幾重にも巻き付けた鎖で雁字搦めにした。

「確かにネフィリムの特性は厄介だ。だが、ネフィリムの細胞が適合しているのは、その左腕だけッ! だったらそいつさえ封じてしまえばッ!」
「ひッ、ひゃぎゃああああああッ!?」

鎖を思いっきり引っ張り、ウェルをこちらへと引き寄せる。
両手は鎖を引いている。それでも頭突きくらいは問題なく食らわせられんだ、よッ!

「がッ!?」
「オラッ! もう一発ッ!」

鼻っ面に頭突きをぶち込み、もう一発食らわしてやろうと左手を拳に握る。

もう一度ウェルの野郎を引き寄せたその時……全身が軋むように痛んだ。

「ぐッ!? こ、こいつは……ッ!?」
「Anti_LiNKER……残ってた最後の一本ですよッ!」

先程、引き寄せられた際に足元へと放られていたカプセルに気付いた直後、額に重たい痛みが走る。
ウェルの野郎がさっきの仕返しとばかりに、頭突きを見舞ってきたのだ。

「い──ッ!?」
「そら、お返しですよッ!」

そして、踏ん張っていた俺の脚がよろけた隙を突き、ウェルは鎖の巻き付いた左腕を力任せに振り回し、俺の身体を思いっきり床へと叩き付けた。
ヘッドギアのアンテナ部が、叩きつけられた衝撃で折れて転がる。

「ぐうッ!? かは……ッ!」
「アームドギア使用状態での適合係数低下ッ! いくら君とエンキドゥが好相性といえど、日に二回もバックファイアを受ければただじゃあ済まないッ!」

ああ、クソッ……悔しいがウェルの言う通りだ……。
エンキドゥとの相性に賭けてあの場を切り抜けたとはいえ、俺の身体には少なからずバックファイアによるダメージがあった。
何とか誤魔化してきたつもりだったが……今のは効いたな……。

ウェルの左腕に巻き付けていた鎖が消える。
適合係数低下の影響だろう。今の俺は、どうやら滅茶苦茶ヤバいみたいだ……。

「へっ……俺は不死身だ……。お前に何度地獄に落とされようが、日帰りで戻って来てやるよ……」
「……まあ、君ならそう言うと思ってましたよ」

ウェルは左腕を撫でながら近づいてくる。
俺の身体は、痛みでまだ起き上がれねぇ……。

「その軽口を叩けないように……こうしてあげますよッ!」

俺の目の前まで寄って来たウェルは、足を振り上げると……動けない俺の()()を思いっきり踏みつけた。

踏まれた瞬間、俺の右腕にこれまで味わったこともないような……いや、違う……この痛みは……()()()の……ッ!?

「うぐッ! がッ、ああ、ああああああああああああああああああああッ!?」

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い痛い痛い熱い熱い熱い熱い痛いいいいいいいいいいッ!!

電流を流した万力で潰されているような痛みが焼けるような感覚と一緒に、踏まれた部分から広がるように全身を駆け巡ってきやがる!?
なんでだよ……なんで今になってこの痛みが……ッ!?

「があああああああああッ! 退けッ! 退けえええええええッ! ああ、あああッ、ああああああああああああああああああッ!?」
「幻肢痛……周りに強がって振る舞う君の心には、あの事故のトラウマが今でも染みついている。だから君はその右腕を、他の誰にも触れさせようとしないッ! 何故ならそれは、君のトラウマを再発させるトリガーに成り得るからだッ!」
「──ッ!?」

──そうだ……。俺の右腕はあの日、セレナの笑顔と共に失われた。
マリアを泣かせたのはネフィリムや、身勝手な大人達だけじゃない。他でもない俺自身だ。

だから、この右腕は呪われている。
大事な人を守ろうとして、取りこぼしてしまった。

この腕で、この手で誰かに触れる事なんて……出来るわけがない……。

「ほら、ほら、ほらぁッ! 叫べ、喘げ、苦しめッ! 自分の罪を、その痛みを以て償うがいいッ!」

言葉の意図は違うんだろうが……チクショー、そういう意味に聞こえてきやがる……。

「跪けッ! 地を舐めろ額を擦り付けて許しを請えぇッ! 償う時が来たのだッ! ガキの分際で、僕の事を最も間近で何度も何度もコケにしてくれた事を後悔させてやるぅぅぅッ!!」
「ぐううう、ああああああッ! ああああああああああッ!!」

何度も踏みつけられる度に痛みが広がり、この石にしか見えない特殊素材の床がそれより硬いせいか、特殊合金製であるはずの鋼の右腕は凹み始める。

ああ、分かってた……俺はマリィのヒーローなんかには、なれやしないんだ……。

今の俺にできるのは、この痛みに悶え苦しむ事だけ。

マリィを守る存在になりたかったけど…………俺は………………無力だ……………………。 
 

 
後書き
ウェルってどうしてあんなに「英雄」に拘るんだろう?
彼を書くたびにそんな疑問が浮かんでいたのは事実です。
なので、いっそのこと自分の思うままに掘り下げて解釈すればいいのではないか、という事で降って来た設定に肉付けする形で今回の描写に踏み切りました。

その結果、自分が導き出した結論は「子供のまま大人になってしまった科学者」。これこそが答えでした。
ウェルってやってることはクソ野郎ですけど、性格は何処か子供っぽいじゃないですか。お菓子ばっかり食べてたり、自分勝手ですぐ癇癪起こしたり。
英雄になりたい、というのも「皆に褒められたい」という感情の延長上にあった答えなのかもしれません。

まあ、あくまでこれは自分の視点から見たウェルの姿ですので。公式も掘り下げることはない所でしょうし、正解だとは思っていません。
それでも彼をただの三流マッドサイエンティストで切り捨てるには惜しいのではないか。自分はそう思います。

それでは次回、第42話『鋼の腕の伴奏者』をお楽しみに!
誤字じゃありません、意図してこの文字です! 
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