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キジムナーと蛸

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第四章

「一体」
「おいおい、蛸なんて名前出すんじゃないよ」
「その名前聞きたくもないんだよ」
「あんな柔らかくて食い千切れないものなんか」
「吸盤で張り付いてくるし」
「それに墨も吹いてくるだろ」
「あんな連中大嫌いだよ」
 蛸と聞くだけでだ、キジムナー達は忌々し気に言った。
「だからだよ」
「もう名前出さないでくれよ」
「蛸だけはさ」
「どうしても」
「うん、わかったよ」
 もう聞けたからとだ、与那嶺は答えた。
「それじゃあね」
「ああ、そこ頼むな」
「もう二度と聞きたくないからな」
「お魚は貰って有り難いけれどな」
「他のこと聞いてくれよ」
「いや、もう聞けたから」
 与那嶺はキジムナー達に微笑んで答えた。
「いいよ」
「あれっ、いいのかよ」
「おいら達何か言ったか?」
「言ってないよな」
「別にな」
「僕は聞いたから」
 確かにというのだ。
「だからもうね」
「いいんだ」
「理由を話さなくても」
「そうなんだ」
「元々言うつもりなかったけれど」
「うん、じゃあお魚は全部食べてね」
 土産のそれはというのだ。
「これでね」
「ああ、もうそれは全部食べたよ」
「この通りね」
「片目と骨以外はね」
「頭は後で吸いものにするしね」
「骨も使ってね」
 キジムナー達は与那嶺に答えた。
「美味い魚有り難う」
「そっちがわかったならいいし」
「おいら達も役に立ったんだね」
「お魚位には」
「充分にね、じゃあこれでね」
 与那嶺はキジムナー達に微笑んで別れを告げた、そしてだった。
 学校で渡真利にどうしてなのかを話した、キジムナー達に直接聞いたというそのことも付け加えたうえで。
 その話を聞いて彼は納得した顔で頷いて言った。
「そういうことなんだ」
「うん、先生も知らなかったけれどね」
「噛み切れなくて吸い付いてくるから」
「それで墨を吐くからだよ」
「言われてみれば蛸ってそうだね」
 渡真利も頷いた。
「だからだね」
「そういうことだね」
「よくわかったよ、お魚は好きでも蛸は駄目なんだ」
「そういう妖怪だということだね」
 与那嶺は生徒にも微笑んでいた、そしてだった。
 彼の新たな質問に答えた、その顔はいい意味での教師のそれであった。


キジムナーと蛸   完


             2020・5・19 
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