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アクタイオンの鹿

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第一章

                アクタイオンの鹿
 ギリシアにアクタイオンという若い狩人がいた。 
 背が高くすらりとした身体で手足は長い、茶色の短い髪は巻いていて目は緑だ。細面で顎は先がとがっている。
 優れた狩人で弓の腕は確かだがそれ以上に野山を駆け回ることと猟犬達を使うことが得意だった。それでだ。
 彼はいつも仲間達にこう話していた。
「もう犬達の方からだよ」
「お前を慕うんだな」
「言わずとも」
「そして言うことを聞いてくれる」
「そうなんだな」
「目を見たらね」
 犬のそれをというのだ。
「そうしたらだよ」
「お前の考えをしてくれる」
「それは凄いな」
「もう才能だな」
「僕のことがわかるんだね」 
 何も言わずともというのだ。
「有り難いよ、彼もいてくれるから」
「あれだけの狩りが出来るか」
「そうなんだな」
「それは凄いことだな」
「うん、いつも頼りにしているよ」
 その猟犬達を見て言う、そして彼等と共に狩りをするのだった。
 この頃天空の神にしてオリンポスの主神ゼウスは娘の一人である月と狩りの女神アルテミスに対して眉を曇らせて忠告していた。
「そなたは少し頭に血が上り過ぎる」
「気をつけているのですが」
 それでもとだ、アルテミスは父神に項垂れて答えた。
「ですが」
「それでもだな」
「ついつい」
「そうだな、そなたの悪い癖だ」
「すぐ頭に血が上ることは」
「そしてその際考えぬことはな」
 このこともというのだ。
「よくない、だからだ」
「常にですね」
「そのことを意識してな」
 短気で感情的になると思慮を忘れることをというのだ。
「ことを進めていくのだ、さもないとだ」
「父上が言われている通りにですね」
「後悔することになる」
 こう言うのだった。
「そうなるからな」
「そのことは」
「既に経験があろう」
「何度か」
「とかくそなたはな」
「頭に血が上りやすく」
「そうなった時考えぬ」
 そうした短所があるというのだ。
「だからな」
「常にですね」
「落ち着いている様にな」
「どの様な時も」
「そうだ、軽挙にならぬ様にせよ」
 くれぐれもという口調での言葉だった、アルテミスも父神のその言葉を肝に銘じた。そうして神としての務めを果たしていた。
 アクタイオンは狩人と言うこともありこの女神を敬っていた、そして。
 ある日仲間達に狩りに出る前にこんなことを言われた。
「今日お前が行く場所はアルテミス様の聖地だぞ」
「アルテミス様の山だ」
「だから入るには気をつけろ」
「女神様に失礼のない様にな」
「そうだね、そんなことになったらいけないね」 
 狩人としてだ、アクタイオンも真面目な顔で答えた。
「何があっても」
「だから注意しろよ」
「流石に神様を射る様なことはないと思うが」
「お姿を見ても失礼のない様にしろ」
「そこは注意しろよ」
「うん、わかっているよ」
 アクタイオンもそこは心得ていた、それでだった。 
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