| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリカルな世界で、それでも生きる罪《アマゾン》を背負う

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

目覚め

 
前書き
ハーメルン投稿の転載ばんです

初投稿です!!それ以上言葉は不要!!祝え!! 

 
死闘(それ)は、互いの確固たる殺意(けつい)がぶつかり合っていた。

異形が、異形を殴りつけ、引き裂き、喰らいつき、抉り抜く。その度に夥しい液体が辺りに飛び散る、その一撃一撃は余りにも残酷で、惨たらしく、凄惨で、猟奇的で、獰猛で、恐ろしい。

ソレは、二体の異形が、蒼き異形を殺す為命を削りあう、常人の理解の範疇を越えたモノだ。 他の誰にも理解されない。しかして、その三体の異形にこそその死闘には意味があった。

紅き異形は、己が産んだ業を己が手で終わらせる為に引き裂く。

緑の異形は、繰り返される終わらない悲劇の連鎖を終わらせるために濃密な殺気を纏う。

蒼き異形は、後悔と絶望の中自らが存在してはいけいないと受け入れ、それでも生きるのだと咆哮する。

初めは溶原性細胞の持ち主として、その高い能力で2体の異形を相手に互角に立ち回っていたが、経験と技量の差、年季の違い、数的不利によって徐々に押されていき遂には緑の異形が放った飛び蹴りによって、膨大な液体を撒き散らして地に伏せる。

「...終わりだ」

紅の異形が放った言葉と共に蒼き異形は、満身創痍ながらも立ち上がり、両者は互いにバックル部のドライバーを操作する

〖Violent slash〗
〖AMAZON_SLASH〗

そんな不釣り合いな電子音と共に両者の腕の刃状のヒレが肥大化する。そして、その時は訪れた。

互いに雄叫びをあげて、肥大化したヒレを構えて走り出すその命を───確実に削り取るため

『千翼オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォオオオオオオーーーーーッッ!!!!!!!!』
『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ア゛ア゛あ゛あ゛ア゛ァ゛ぁ゛あ゛ア゛ア゛ァ゛!!!!!!』

蒼き異形の放った刃が空を切り裂き、紅き異形の放った刃がその喉元を引き裂く。蒼き異形────千翼の意識は、そこで途絶えた...





























全身を打つ冷たさ、そして飢餓感。それが千翼の意識が覚醒した瞬間に覚えた感覚だった。

「.........っ、ここ...は...??」

目を開けて見ると、そこは、千翼が命を落とした《《はずの》》ふれあい動物パーク跡地...ではなく、雨の降りしきる街並みだった。
何故ここに、あの二人は何処へ、何故生きているのか、そんな混乱の中、自身を襲う飢餓感を堪え、ふらつきながらも立ち上がる。─────そこで、違和感に気付いた。

目線の高さが妙に低い。それに先程短く発した言葉も、今思えばどことなく高いように思えた。
ふらつき、水溜まりを覗き込んで見ると、そこには幼い少年の顔が写っていた。

外見年齢的に4、5歳位だろうか。明らかに体格は子供のそれだ。(千翼の生い立ちを考えれば、ある意味年相応だが)この事実により、より混乱が増大した。

「......!?グッ、ううゥ...ガアアッ...やめ...ろォ...!!」

「はぁ...はぁ...ハァッ......フゥー...早く、しないと...」

その間にも飢餓感...アマゾン特有の食人衝動が増していく。
千翼はそれを必死に堪え、また1つ、罪を重ねぬよう塀に手を付き、足を引きずりながらも人里から離れるためにその場を後にしようとする。

しかし、不幸や災難は、何時だって突然訪れる。


◆◇◆◇◆


少女と男が2人、雨の降りしきる夜を歩いている。男の方は少女の父親なのだろうか。オレンジ髪の少女の無邪気な姿に微笑ましい目を向けている。


「ちょっと遠くまで行ってたけど、桃子に怒られるかな...」
「だいじょうぶだよ!おかあさんやさしいもん!!」

「ははっ、そうだな。母さんは世界一やさしいな」ナデナデ
「えへへー」


そんな他愛ない会話で雨の中帰路につく親子だったが、ふと何かを見つけたかのように少女が立ち止まる。疑問に思い、男は少女に顔を向けた。

「どうかしたのか?なのは」

「おとうさん。あそこ、男の子がいるよ!フラフラだし、けがしてるのかな」

そう、なのはと呼ばれた少女が男に伝える。
なのはの言葉に従うように、指を指された方を見てみると、確かに、幼い少年が塀に手を付きながら、ふらついた足取りで何処かに向かっている様子が見て取れた。様子を伺おうと男は、少年の方へ行こうとするが、その前になのは傘をほおり駆け出していた。

「きみ、だいじょうぶ?」

「グ...ア」

なのはが近づき少年に尋ねると少年は顔を上げ、目を合わせる。男はその様子に違和感を覚えた。
少年には見たところ外傷はなく、せいぜい雨に打たれて全身ずぶ濡れになっているだけだ。 血色は悪いが体調不良や病気らしき兆候は見られない。 にも関わらず。なのはと目があった直後から息を荒くし、苦しむような様子が見えてきた。

「どうしたの?どこかけがでも」


なのはが心配して、少年に手を差し伸べようとして...

「...ッ!!触るナァッ!!」バチィン!!!
「いたっ!?」

盛大に、いっそ殴りつけるように払い除けた


◆◇◆◇◆


食人衝動がこらえ難くなるほど強くなり、人を襲う前に人里から離れようとしたその時に、雨で薄れてはいるが微かに、しかし確かに、人の匂いをアマゾンとしての本能が感じ取る。

拙い、不味い、嫌だ、イヤだ、いやだ.......もうこれいじょう...ころしたくない(今すぐ喰いチりタイ)

そうしてる間にも、誰かが小走りに近づいてくる音がする。

「きみ、だいじょうぶ?」
そんな高い声が千翼の耳に入る。目をあげるとオレンジ髪をした。可愛らしい少女が目に映る。

「グ...ア」

少女の顔はこちらを心配しているかのように陰っており、嘘偽り無いことを体現している。
そんな少女と目が合った瞬間、強引に押さえつけていた食人衝動が弾けそうになる。

──メノマエニシショクジガアルゾ
やめろ

──ハラガヘッタンダロウ??
うる、サイ

──ナゼタメラウ?オマエハバケモノダロウ
ダまれ

──バケモノラシク、クイチラカセヨ、ラクニナルゾ?
黙れぇ!!

──俺は、絶対に人は食わない!!おれハ、人間ナンだッ!!

そうしてる間にも

「どうしたの?どこかけがでも」

そう言って手を差し伸べてくる少女。最早、千翼の理性は、はち切れる寸前でどうにかとどまっている状態であった。
かつて、ゾウアマゾンに捕食される女性の腕から、血が滴り落ちる様を見た。 かつて、大切に思っていた少女を衝動のままに求めた。

アアァ、モウ 、ガマンデキナイ。
ナンテウマソウナ、テナンダロウ...

理性を手放しそうになったその瞬間、たった1人の大切な少女の幸せそうな笑顔を、思い出した。


「...ッ!!触るナァッ!!」バチィン!!!
「いたっ!?」

「ア゛ア゛ァア゛あ゛あ゛ア゛」

苦しみの余りに立つ気力すら失われ、地面に伏し、のたうち回る。

「ガアァァアアア!! うグゥ...ギッ、ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛!!!」
「ヒッ」

「おい、君!!大丈夫か!?」

近くで少女千翼の常ならざる様相に小さく悲鳴をあげ、呻き声を聞きつけた男が千翼に呼びかける。

「止まれッ!! 止まれッ!! 止まれッ!! とマれッ!! トマれッ!!
止まれッ!! 止まれッ止まれッ!! トマ゛レ゛ェ゛ッ!!」

千翼は己を蝕む衝動から逃れるため、自身を何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。 気絶するまで全力で殴り付ける。

本来であればたかが4.5歳程度の膂力ではたかが知れているが、アマゾンとして生を受けた千翼であれば、それも可能だった。 自分自身を全力で殴り付ける度に赤黒いアザができ、血が滲んでいく。その異様な光景に、怯えながら男にしがみつく少女をよそに、男は少年を止めようとする。

「何をしている!!今すぐ止めるんだ!!」 「離せェェ!!止めろッ!!オレニ近ヅくなァッ!!」

止めようとしたが、尚も少年の抵抗と自傷は続いた。
一体、あの幼い身でどれ程の仕打ちを受ければ、ここまで酷い恐慌状態になるのだろうか。男は、少年が経験したであろう状況を想像して身震いを覚える。
そんな中で、先程までしがみつき震えていた少女が、千翼に向かっていき抱きしめる。

「だいじょうぶ...だいじょうぶだよ。なにもこわいことしないからね。なのはがいるからだいじょうぶだよ...」

今も尚体が震えており目には大粒の涙を溜めた少女が、千翼にそう、優しく言い聞かせる

「グゥ...ア゛ァ゛...ア゛...」

千翼は、自身をを殴りつけた痛みと、理由の分からない温かさと共に再び意思が途絶える。







◆◇◆◇◆


「うぅ...なに、が」

「目覚めたみたいだね」

前までとは違った暖かい感覚と共に、千翼は再び目を覚ます。前と違い、食人衝動が収まっていた。何事かと周囲を見渡すとチューブのようなもので繋がれている事がわかった。

「ああ、まだ動かないで。後遺症があるかもしれないし」

「貴方、は」

「そうだった。先ずは自己紹介だったね」

「初めまして。僕は高町士郎。一応、君をこの病院まで運んで来た人だよ君の名を聞かせて貰えないかな?」

そう言って、その男、士郎は笑顔で努めて優しく話しかけてきた。千翼自身名前も顔も知らぬ男がいきなり自分を助けたと言い出したことに不信感を抱くがそれ以上に頭が混乱していて、その問いに反射的に答えた。

「...千翼」

「千翼君か。とりあえず、聞きたいことがあったら聞いてくれ」

千翼はその言葉の通り、自分の状況やここがどこなのかなどを余さず聞き士郎はこれに答えた。
───────────────────────────────────────彼これ10数分は経っただろうか、千翼が士郎にきいて分かったことは。

ここは日本の鳴海市(そんな地名聞いたことがない)である事。

自分はそこでけが人のようにふらついていたこと。

士郎の娘__確か、なのはだったか__その子に出会ってから急に苦しみだし、自身を痛めつけていた事。

大まかにこの3つだろうか。
一通り聞き終えた後、士郎は言葉を続ける。

「それじゃあ今度は僕から聞くけど、君はなんで、あんな所に、傘もささずいたのかな」

それは...
「わから...ない。此処がどんな所でどうやってここまで来たのか...なにも」

「そう...か...(記憶が混濁しているのか?)」

「じゃあ次に、これは千翼君の物かな」

そう言って士郎は3つのものを置いた

「それ...は」
それは正しく、自身のアマゾンとしての力と理性を制御する枷。ネオアマゾンズドライバーと腕輪、そのインジェクターだった。

「大丈夫。気にはなるけど、特別触ったりはしてないからね君のであれば、返しておくよ」

「...ありがとうございます」

そう言って受け取り、レジスターを取り付ける。その時士郎はさり気なく聞いてきた。

「千翼君。君に両親は居るのかな?」

「...いない。俺には、何も...ない」

「そっか、君が眠っている間捜索願を出していてなんの音沙汰も無かったから、まさかと思ったけど」

──そうだ、俺に親はいない。親を殺し、守りたいものも失い、そして親に殺された自分に、語るべき中身など、最早存在しない──

そこまで言い終えると、一息ついて士郎が話を持ち出す

「千翼君。僕の息子に、高町家の養子にならないか??」

「は?...よう...し??」

一瞬、千翼は士郎の言っていることの意味を理解出来なかった。こんな化け物を(もちろん士郎にはアマゾンのことなど言ってないが)養子に迎えるなどと...そう感じていた

「ああ、ごめんいきなり言っても分からないか。つまりは、うちで一緒にくらさないかって事だよ」

そうじゃない。そうじゃあ無いんだ。

「......すみません。お断りさせていただきます」

そう突き放すと士郎は悲しそうな、痛ましいものを見るような表情を向ける

「...どうしてだい??」

「俺がいると、きっと皆が不幸になるから」

「ッ!!そんなこと「アンタに俺の何が解るんだ!!」」

「もう、いい。金輪際俺には関わらないで下さい」
そこまで言うと、千翼は、自信に繋がれたチューブを外し病室から出ていこうとする。

「何処へ、」

「お前には関係ない。少なくともこの街から消えることにする」

病室のドアを開けようとしたその時、勢いよくドアを開けた女性とぶつかり、軽く尻もちを着く。

「あなた〜!!保護したが目覚めたんですて!?」

「ぶっ!?」ドサッ

「...あら?」
「ちょうどいい所に。桃子、その子が保護した子。名前は千翼君らしい」

「...あの、「千翼君かぁ〜!!私は高町桃子。あの人の妻よ」」


「それで桃子、どうやらその子、身寄りが無いらしいんだそれで僕達で引き取りたいと思うんだけど、どうかな?」

「話を勝手に!!「もっちろん大賛成よ!こんな可愛い男の子が家に来てくれるんなら歓迎するわ〜」ちょっ」

「だ、そうだ。言っとくけど桃子は1度決めたら曲げないぞ?」

士郎の妻、桃子は千翼を抱き寄せめいいっぱいに愛でる。

「!?グゥ...!!」
その行為に食人衝動が刺激され、手遅れにならないうちにレジスター内の抑制剤を投与し、次第に落ち着いていく。

「大丈夫!?」 「...ええ、気にしないでください。それと、養子の件は承諾するなんて言ってません」

「なんで...」 「士郎さんにも言いましたが、俺を迎え入れても、不幸しか呼びません...理由は、言えませんが俺は他人に不幸しか与えない。そういう存在(バケモノ)なんで」

そこまで言い終える前に、桃子が再び千翼を抱き寄せる。

「...なん、で...」 「間違っても、間違っても自分をバケモノだなんてよばないで」

「あなたがどんな所で何をしていて、どんな仕打ちを受けたかなんて、分からない。想像しか、できないわ」

「じゃあなぜ「けど!!...ひとつ分かるのは貴方が今にも壊れて消えてしまいそうなことだけ」」

「ねえ、千翼君。この世に望まれてない命なんか無い。あなたは、確かにどこかの誰かに望まれて生まれたの」

そんなの、詭弁だ。この世には生まれては行けないものだってあるんだ。そう理解して、知っているが、口が震えたまま動かなかった。情動に流されそうになっている。

「それでも、世界が貴方を否定すると言うなら、私が、私たち家族が、貴方を認めてあげるわ。この世に生まれたことを、罪と言わせはしない」

ああ、それは、俺は、誰かにそう言って欲しくて、ついぞ聞くことのなかった言葉だ。他の何よりもほっして、決してての届かなかった光だ。

「ああ、あぁ...」

「だから千翼君。」

だめだ。やめてくれ 。。。。。。。それ以上は

「貴方はここにいて、生きてていいのよ」

「うあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

その日少年の慟哭が病院に響き渡った。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧