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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第8章:拓かれる可能性
  第251話「可能性の“愛”」

 
前書き
―――急げ、既に戦いが佳境に入っておる
―――彼を元に戻すには、貴方達の存在が必要です


  

 














「ぁ、ぐっ……!」

 緋雪の上半身が地面を転がる。
 再生するのは簡単だったが、その意識すらも“破壊の瞳”に注いでいたのだ。
 確実に成功させるため、“破壊の瞳”の操作以外は蔑ろにしていた。
 そのため、無様とも言える形で転がってしまった。

「雪ちゃん!?」

「だ、大丈夫……!」

 葵がそれを見て声を上げるが、緋雪はすぐに再生に意識を割く。
 下半身も残ってはいるため、再生はそこまで難しくない。

「それよりも、お兄ちゃんは!?」

 再生途中でありながらも体勢を立て直し、緋雪は優輝を見る。
 “破壊の瞳”で確かにイリスの“闇”を捉えたとはいえ、倒した訳ではない。
 そのため、決して油断はしていなかった。

「(かなり複雑に“闇”が絡みついていたから、物理的にも破壊してしまったけど……少なくとも、これで変化は起きるはず……!)」

 司の転移封じの魔法が働いている間に、全員がバインド等で拘束を試みる。
 その上で、警戒を怠らずに動きを見る。

「……その様子だと、狂気を完全克服出来たみたいだね」

「うん。吸血衝動も、狂気も、私の根幹から生じる恐怖による副産物だった。……ずっと、それから目を逸らしていたから、その影響として狂気に陥った」

 葵が横に並び立ちながら、緋雪がパワーアップした事を尋ねる。
 緋雪も優輝から目を逸らさずに簡潔に答えた。

「でも、もう大丈夫。この力でも、誰かを……お兄ちゃんの助けになれるってわかったから。……もう恐れる事なんて、ない」

「……そっか」

 緋雪の回答に、葵は満足そうに頷く。

「ァァアアアアアアアアッ!!!」

「ッ……!」

 だが、感傷に浸るのはそこまでだ。
 バインド等の拘束を弾き飛ばすように、優輝から“闇”が放出される。

「(破壊出来なかった!?……いや、あれは……!)」

「ッッ!!」

「くっ……!」

 “闇”が触手のようにうねり、周囲を無差別に薙ぎ払う。
 近くにいた緋雪達はすぐさまそれを避け、司や椿がいる所まで下がる。

「暴走……って程でもないね」

「どちらかと言えば、箍が外れたって感じね。制御しきれない訳じゃないけど、さっきみたいな精密な操作は出来なさそうに見えるわね」

 それは、例えるならホースヘッドが壊れたようなものだ。
 ホース自体はまだ扱えても、細かい扱いが出来なくなる。
 今の優輝は、そんな感じになっている。

「でも……ッ!」

 司がそう呟いた瞬間、全員がその場から逃げる。
 直後、膨大な“闇”がその場所を呑み込んだ。

「出力や威力は先程以上、って訳ね!」

「雪ちゃん!さっきの破壊は……」

「成功した!でも、“闇”とお兄ちゃんが複雑に絡み合ってるせいで、完全破壊は無理だった!言うなれば、バリアを破壊した程度でしかないよ!」

「なるほど……!」

 振りまかれる“闇”の攻撃を避けながら、全員がどうするべきか思考する。
 その間にも、転移封じの魔法は続行し、牽制の攻撃も加えていく。

「緋雪……!さっきと同じ事は出来る……?」

「無理!……お兄ちゃんの“闇”の攻撃も結構食らったから……。あれ、限界以上の力が発揮できるこの状況でも、力を削いでくる……!」

 奏の問いに、緋雪は不可能だと答える。
 先程の突貫で、緋雪もかなりの攻撃を喰らっていた。
 そのダメージが蓄積し、先程のような無茶は出来なかった。
 魔結晶も全て砕かれているため、戦力もかなり削られている。

「リヒト!シャル!」

 それでも、かなりの戦力なのは間違いなかった。
 すぐにリヒトとシャルを手元に呼び寄せ、目の前に迫る“闇”を相殺する。

「(何とか防げる!でも、これを織り交ぜられたら……!)」

 その相殺の手応えから、各自の高威力技なら相殺が可能だと緋雪は確信する。
 だが、その一撃は飽くまで通常攻撃の類だ。
 この攻撃を導王流などと織り交ぜられたら、それこそ手に負えない。

「っ……凄まじいわね……」

「皆!私の“瞳”で怯んでいる今がチャンスだよ!他の行動を起こされる前に、出来るだけダメージを与えて!」

 椿が緋雪の力に戦慄する。
 それを余所に、緋雪は司達に優輝を攻撃するように呼び掛ける。

「とは言っても……!」

「この“闇”を突破するのも一苦労ね……!」

 各々が砲撃魔法や霊術などで攻撃する。
 しかし、ほとんどが“闇”で相殺され、通じない。

「なら……ッ!?」

 ならばと、緋雪が“破壊の瞳”で追撃しようとする。
 その時“視た”モノに、戦慄する。

「(()()()()()……!?)」

 破壊のための“瞳”が、あまりにも大きすぎた。
 まるで、優輝を包むかのように“闇”が覆いつくしていたのだ。

「ッ……!」

 それでも、破壊は可能だ。
 握り潰す事は出来なくても、殴りつける事で破壊を試みる。

「……ダメ、か」

 しかし、破壊出来たのはほんの一部分だけだ。
 優輝から放たれる“闇”の一部分が爆ぜただけだった。

「今の……“破壊の瞳”?」

「うん。握り潰せない程、大きかった。まるで、お兄ちゃんを包むように……」

 物理的に“瞳”が大きかった事は今までなかった。
 例え相手が神界の神であろうと、“瞳”は大きくならない。
 あり得るとしても、“瞳”が堅くなる程度だ。
 だというのに、先程の“瞳”は大きすぎた。

「(“破壊の瞳”は、所謂存在の“急所”を見つけ、破壊する力。人間が心臓を潰されたら死んでしまうように、その状態を保つための“核”を破壊している。……その“瞳”が大きいと言う事は、つまり……)」

 もう一度“瞳”を殴りつける。
 だが、やはり一部の“闇”が爆ぜるだけだ。

「やっぱり、あの“闇”全てが“瞳”になっているんだ……!」

「何ですって!?」

 優輝に絡みつく“闇”、それら全てが“核”となっているのだ。
 故に、“瞳”が大きく、殴りつけた所で破壊しきれない。

「(なるほど……優奈が“戻す術はない”って言ったのは、こういう訳ね。複雑に絡みついた“闇”は、緋雪の“破壊の瞳”ですら祓いきれない。見た所、一部分を破壊した所ですぐに元に戻ってしまう。一撃で消し飛ばすにしても、物理的な力だと不可能。司や私が浄化した所で、焼け石に水って事ね……)」

 問答無用で破壊出来る“破壊の瞳”だからこそ、一部分とはいえ破壊出来たのだ。
 椿や司が出来る浄化の方が相性はいいが、それでは力が足りない。
 だからこそ、優奈は洗脳を解く事は出来ないと言っていたのだ。

「っ……来るわ!」

 奏が声を上げる。
 それと同時に、“闇”の放出が無差別ではなくなった。

「転移は出来ないから、気を付けて!」

 司の転移封じの魔法は続いている。
 だが、それは敵味方関係ない代物だ。
 そのため、緋雪達も転移は出来ない。

「ッ……!」

 真っ先に狙われたのは、緋雪だった。
 放たれた“闇”の奔流を、拳を横から当てつつ、回避する。
 先程までの限界を超えた状態ならば、ほとんどダメージは抑えられただろう。
 しかし、力が落ちている今だと、弾かれるように吹き飛ばされた。

「くっ……!」

 体勢を崩した緋雪へ、さらに追撃の“闇”が迫る。
 やはりと言うべきか、先程一対一でやり合った事で警戒されていた。

   ―――“Delay(ディレイ)

「ッッ!」

「ありがとう、奏ちゃん!」

 避けきれないと悟る緋雪だったが、奏が移動魔法を使って助け出す。

「葵!」

「分かってる!」

 緋雪を狙っている事に椿も気づき、すぐさま葵に指示を出す。
 葵は優輝の後方に回り込みつつ、一気に肉薄する。

「っづ……!?」

 肉薄は容易に出来たが、“バチィッ”と弾かれる。
 弾く際のその威力に、レイピアが弾き飛ばされた。

「威力はあるけど、大雑把ね」

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

 直後、レイピアを弾いた“闇”の壁を矢が穿つ。
 貫通はしなかったものの、窪みが出来た。

「そこ!!」

 さらに司が魔力弾で追撃。砲撃魔法でトドメを刺す。

「シッ……!」

 壁を破り、葵が新たに生成したレイピアで攻撃を放つ。
 だが、その攻撃も“闇”で弾かれ、反撃される。

「“呪黒剣”ッ……!」

 すぐさま霊術で押し留めつつ飛び退く。
 “闇”はすぐに霊術を突き破って来たが、何とかダメージのほとんどを避けた。

「ふっ……!」

 そこへ、奏が優輝の背後から斬りかかる。
 “闇”が防御行動に出るが、それを緋雪が後方から抑えた。

「ッ……!」

 だが、やはり奏の攻撃は通じない。
 “闇”を纏う手で逸らされ、カウンターで飛び退かざるを得なかった。

「……やっぱりね」

「かやちゃんも気づいた?」

「ええ」

 そんなやり取りをした所で、椿が呟く。

「どうしたの?」

「優輝、今まで使ってた導王流の極致が使えなくなっているわ」

「さっきのあたしの攻撃と奏ちゃんの攻撃、本来ならほぼ確実に反撃されたから」

 司が尋ね、椿と葵で答える。
 そう。優輝は先程までの導王流の極致、“極導神域”が使えなくなっていた。
 溢れ出る“闇”を制御するためか、導王流の扱いが疎かになっていたのだ。

「じゃあ……!」

「さっきよりも戦える……と、思うのは早計よ」

「殲滅力とか、火力自体は上がっている……だよね?」

 緋雪が奏と共に合流して、椿の言葉を繋ぐ。
 その通りだと椿も頷き、司や葵、奏が若干苦い顔をする。

「ッ……!『まるで、イリスね』」

「『そっか、奏ちゃんは一回イリスと戦ってたもんね』」

 攻撃を避けながら、会話を念話に切り替える。
 “闇”を操り攻防一体となっている戦法は、まさにイリスと同じモノだ。

「『私が前衛を務めるから、皆はサポートよろしく!』」

「『待ちなさい……と、言いたい所だけど、その方が確実ね。分かったわ』」

 緋雪が前に出て、それを他が支援する。
 今の優輝の攻撃力と真正面からやり合えるのは、緋雪か司ぐらいだからだ。
 司の場合は、後衛が本領なため、ここは緋雪が前に出た。

「はぁあああっ!!!」

 飛んでくる“闇”の奔流を、真正面からシャルで切り裂く。
 “極導神域”と違い、攻撃が逸らされる事はない。
 そのため、一撃の威力を増強できるデバイスを用いて、攻撃を相殺する。

「(この威力……素のシャルで斬ってたら、シャルが耐えれなかった……!)」

 切り裂いたのはいいものの、反動が返ってくる程の威力に緋雪は戦慄する。
 だが、怯んではいられない。追撃は、すぐそこに迫っているのだから。

「っ、ああっ!!」

 次々と襲い掛かる“闇”。
 それを、緋雪は悉く切り裂き、相殺する。
 一撃一撃を全力で振るい、椿達が攻撃するための壁となる。

「ッッ……!」

 そんな緋雪に、優輝は一瞬で肉薄する。
 当然だ。“闇”を操っている所で、優輝が動けない訳ではないのだから。
 しかし、緋雪は“闇”の対処のため咄嗟に動けない。

「させない!!」

 そこへ、葵が突貫して割り込む。
 レイピアを突き出し、優輝を守る“闇”に穴をあけようとする。

「ッ!!」

 さらに奏も斬りかかる。
 “極導神域”がなくなった今、この二人による攻撃を、優輝は受け流しきれない。
 そのために“闇”を防御に使っていた。

「『とにかく“闇”を削ぎなさい!!少しでも“闇”を減らせるのなら、それだけ私や司が浄化する可能性が上がるわ!』」

 椿の伝心と共に、神力の矢が優輝目掛けて襲い掛かる。
 同時に司の魔力弾も襲い掛かり、僅かに“闇”を削る。

「ふっ!」

 僅かに、ほんの僅かに隙を見出し、緋雪が斬撃を飛ばす。
 
「ちっ……!」

「ぐっ……!?」

「っ……!」

 だが、その斬撃は同じく放った“闇”の斬撃に相殺された。
 それだけでなく、“闇”を炸裂させた衝撃波で、葵と奏も吹き飛ばされる。

「なっ……!?」

 体勢を立て直す暇もない。
 攻撃が飛ぶのではなく、()()する。
 そのため、避ける事も出来ずに葵と奏は再び吹き飛ばされた。

「(避けきれな―――)」

 それは緋雪や椿、司も変わらない。
 常に動き回れば直撃はしないが、長続きしない。
 二人と同じように、吹き飛ばされる。

「っ……!」

 辛うじて防御や転移封じの魔法は続けている。
 だが、反撃に移る前に優輝は次の行動を起こしていた。

「(一か所に……!?まずい!)」

 椿が気が付いた時には、もう遅かった。
 何度も吹き飛ばされている内に、全員が一か所に集められていた。
 さらに、“闇”でドーム状に囲まれ、その場から逃げられなくなる。

「ッ―――!」

 そこへ、今までで一番規模の大きい“闇”の奔流が襲い掛かる。
 咄嗟の反撃では、緋雪や司でも凌げない程の、一撃が。

「(しまっ……!?)」

「(間に合わない……!?)」

 椿も、葵も、司も、奏も、その一瞬で悟る。
 これは防げないと。敗北してしまう、と。

「ぁあああああああああああああああああっ!!!」

 ……しかし、緋雪だけは違った。
 “闇”の奔流に対し立ち向かい、真正面から受け止める。

「ぁ、ぐっ、ぐぐぐ………!!」

 大地に足をめり込ませ、全神経を集中させて耐える。
 だが、少しでも気を抜けば……否、後少しでもすれば耐えきれなくなる。

「ふっ……!!」

   ―――“Angel Beats(エンジェルビーツ)

 真っ先に復帰したのは、奏だった。
 今の奏には、ごく一部とはいえミエラの経験も引き継がれている。
 それが影響し、誰よりも早く緋雪の意図を理解した。
 即ち、“何としてでもこの攻撃を凌げ”と……!

「負けて、られないわね……!!」

「そうだね……!!」

 遅れて、椿と葵も気づく。
 奏の魔力、椿の神力、葵の霊力と魔力が、緋雪を手助けする。

「っ……はぁああああああああああっ!!」

   ―――“Sacré lueur de sétoiles(サクレ・リュエール・デ・ゼトワール)

 そして、司も。
 天巫女の魔力を最大限に生かし、今撃てる最大威力の極光を放つ。
 緋雪の力と、椿達の技のおかげで生じた時間で、出来る限り祈りを込めて。

「っ……!」

 本来よりも威力は低くなっている。
 それでも、ようやく“闇”の奔流を押し留めた。
 それを見て、緋雪は一瞬押し留めるのを止める。

「はぁっ!!」

「“其は、緋き雪の輝きなり(シャルラッハシュネー・シュトラール)”!!!」

 緋雪が緋き極光を繰り出すのと、“闇”の勢いが増すのは同時だった。
 元々、優輝は攻撃を凌いだ所へ襲い掛かる算段だった。
 だが、押し留められたのを見て、それは取りやめた。
 緋雪が押し返してくると予想し、威力を強めたのだ。
 緋雪も、これが全力ではないと予想していたから、極光を放った。



 果たして、その判断は正しかった。
 ……正しかった、が―――

「う、ぐぐぐ……!!」

 その上で、緋雪達は押される。
 優輝が力を注ぎ続けるため、耐え凌ぐ事も出来ない。
 なんとしてでも押し返さない限り、この状況は打開できないのだ。

「そんな、五人でも、押し返せない、なんて……!」

 全員が全力で“闇”の奔流に立ち向かっている。
 それなのに、踏ん張る事しか出来ていない。
 その事に司は歯噛みする。

「(この状態だと、“破壊の瞳”も使えない……!)」

 全員が押し留めるのに精一杯になっており、それ以外の行動が取れない。
 不幸中の幸いというべきか、それは優輝も同じだった。
 優輝も押し切るために力を注ぎ続けており、他の行動は取れないでいた。
 完全な拮抗状態へと、持ち込まれている。

「ぐ、くっ……!」

「負け、ない……!」

 それでも、徐々に緋雪達が押されていく。
 このままでは、緋雪達が負けるのは確定だろう。

「まだ、まだ……!負けられ、ないっ!!」

 その上で、緋雪は声を上げる。
 それは、司や椿達も同じだ。
 可能性が少しでも残っているのなら、最後の最後まで諦めない。
 押されていても、それを押し返すつもりで力を振り絞る。

「そうね……!ここで押し返す程の気概がないと、優輝を元に戻すなんて、出来ないでしょうしね……!私達を、舐めるんじゃないわよ!!」

「優ちゃんがあたし達を大切に想っていたように、あたし達も優ちゃんが大切!……だから、一歩も退けない……!」

「優輝君……!お願い……私の、私達の祈り……届いて……!!」

「優輝さん……どうか……正気に戻って……!」

 啖呵を切り、決意を口にし、懇願する。
 五人共、諦めているようで、決して諦めていない。
 その“意志”が、さらに押し返す力となる。

「ぉおおおおおおおおおっ!!」

 だが、その上から、優輝はさらに力を強める。
 押し返そうとする緋雪達を、さらに圧倒する。

「ぐ……!」

 耐える。ただ耐える。
 力を振り絞り、決して負けないと“意志”を抱いて。
 徐々に押されていようと、それは変わらない。

「ぅ、ぁ、ッッ……!!」

 それでも、現実は変わらない。
 徐々に押し込まれ、後少しでもすれば、体勢が崩れてしまう。













   ―――その時だった。





「止めなさい!優輝!!」

「止めるんだ!優輝!!」

 二つの声が、同時に響く。

「ッ……!」

「この、声って……」

 その声は、優輝と緋雪にとって、聞き覚えがあった。

「緋雪!今よ!」

「ッ……!ぁあああああああっ!!」

 その声に、優輝も緋雪も一瞬動揺した。
 直後、椿の一喝と共に緋雪達が優輝の攻撃を押し切った。
 僅かな動揺によって、攻撃の手が緩んでいたのだ。

「が、ぁああああああああああああああああああああああ!!?」

 “闇”の奔流が押し返され、優輝は五人の極光に呑み込まれる。
 しかし、それは一瞬だけだった。
 すぐさまその場から消えるように離脱してしまった。

「っ……転移封じが……!」

 司が慌てて転移封じの魔法を掛け直す。
 先程の攻撃を防ぐのに集中するあまり、転移封じが解けていたのだ。
 優輝はそれに気づいていたからこそ、転移で逃げたのだ。

「ぐっ……!」

 それでも、ダメージは大きい。
 司が転移封じを掛け直すのを阻止出来ずに、転移先で膝を付いていた。

「さっきの……」

「……間違いないわ」

 奏が先程響いた声の方向へ目を向け、椿が確信する。
 緋雪や葵、司だけでなく、優輝すらそちらに目を向けていた。

「……お母さん、お父さん……」

 緋雪が信じられないと言った様子で呟く。
 そこにいたのは、間違いなく消滅したはずの優香と光輝だった。

「生きて、いたんだ……」

「……ええ。あの時、助けてくれた神がいたの」

 優輝と対峙するように、二人は緋雪達の前に降り立つ。
 そして、優輝から視線を外さずに、緋雪の呟きに答えた。

「話は後だ。……優輝を元に戻す方法はあるのか?」

「ううん。外部からは何とも……でも、何度も呼びかければ、もしかしたらお兄ちゃん自身が……」

「そのためにも、出来る限りあの“闇”を削っているわ」

「そうか……」

 光輝の言葉に、緋雪と椿で答える。
 問答の時間はないとばかりに、すぐに会話を切り上げ、優輝を警戒する。

「ぅ、ぁ……」

 だが、優輝は優香と光輝を見て明らかに動揺していた。
 洗脳されていても、“死んだはずなのに現れた”と言う事実は変わらない。
 そのため、優輝も信じられずに動揺していたのだ。

「ぁあああああああああああああっ!!」

「っ……!」

「(不幸中の幸いね……!)」

 その動揺のおかげで、体勢を整える時間が出来た。
 そして、襲い掛かる優輝を優香と光輝が迎え撃つ。

「くっ……!」

「ふっ……!!」

 さすがの連携で、上手く優輝の攻撃を捌く。
 直後、“闇”による攻撃が襲い掛かったが、優香が魔力をぶつけて相殺する。

「っ……さすがの、強さだな……!」

「でも、私達だって、負けないわよ……!」

 一瞬やり合えたように見えたが、すぐに二人は劣勢になった。
 だが、二人はそれでも果敢に攻め、攻撃を防ぐ。
 その様を見て、優輝はますます動揺していく。

「(あれは……)緋雪!」

「うん!」

 それに椿がいち早く気づき、緋雪に指示を出す。
 緋雪は即座に優輝の背後に回り込み、一閃を放つ。

「ッ……!」

「そこだ!」

「くっ……!」

 緋雪の攻撃は躱されたが、代わりに光輝の攻撃が命中した。
 厳密には障壁でダメージを減らされたが、その衝撃で後退する。

「そこ!」

 そこへ、容赦なく優香が追撃の魔力弾をぶつける。
 同じく障壁で阻まれるものの、その上からダメージは通っていた。

「(……死んだはずの両親が現れた事による動揺……明らかに大きな“揺さぶり”になっている。それに、二人の“意志”がかなり強い!これなら……!)」

 強さで言えば、光輝と優香は二人合わせてようやく葵や奏を上回れる。
 それでも、神力を開放した椿や、今の優輝よりは弱いはずなのだ。
 だというのに、拮抗していた。それが好機だと、椿は判断する。

「『私達で足止めするわ!司!緋雪!優輝の“闇”を消し去るのよ!』」

「「『了解!!』」」

 椿も闇を祓う力を使える。しかし、神としての性質上、そこまで得意ではない。
 そのため、司にその役目を託し、自身も足止めに徹する。

「ぐっ……、くっ……!」

 目の前に優香と光輝がいる。
 ただそれだけで優輝は動揺し、動きが鈍る。
 それを椿達は見逃さずに攻め、たたらを踏ませる。
 通常の導王流であれば、椿達も対処できるため、確実に追い詰めていた。

「司さん、浄化の方はお願い。……私は、“闇”の外壁的な部分を崩す」

「分かった」

 緋雪はそう言って、一段と集中して“視る”。
 物理的でも、概念的でもない。
 それらを通した上で、“領域”を視る。

「(“闇”そのもので見えづらい……でも、捉えた!)」

 今までのように握り潰す事は出来ない。
 今回の“瞳”はそれほどまでに大きいからだ。
 だが、だからこその破壊の仕方が取れる。

「はぁぁぁ……!!」

 魔力と霊力を練り上げ、力を溜める。
 殴りつけるしかないのならば、その分全力で殴ればいい。
 そう考え、全力の一撃を叩き込もうとする。

「ッ……!」

「なっ……!?」

「(今のを抜けた!?それだけ、緋雪を警戒していたの!?)」

 その時、優輝が椿達を無視して緋雪に突貫する。
 躱しきれない攻撃も、バインドも無理矢理に突破してきた。
 それだけ“破壊の瞳”を警戒していたのだ。

「(間に合わない……!)」

 奏すら妨害の阻止に間に合わず、肉薄を許してしまう。
 このままでは、どの道緋雪の行動は阻止される。
 しかし、それを止める事は出来なかった。









「どれだけ、私がお兄ちゃんの動きを見てきたと思っているの?」

   ―――導王流壱ノ型奥義“刹那”

 ……当の狙われた本人である、緋雪以外は。

「あれだけ、シュネーの時に見ていれば、体が覚えるよ」

「っ、が……!?」

 “破壊の瞳”のために備えていた力で、緋雪は優輝を迎え撃った。
 それも、同じ導王流の奥義を使い、さらには同時に“瞳”を殴りつけて。

「司さん!!」

「うん!!」

 そして、その一撃が決着へと繋げた。
 司の準備は既に整い、緋雪の一撃で優輝は完全に怯んでいる。
 転移は未だに封じられているため、逃げる術はない。

「届け、私の、私達の想い!」

   ―――“其の想いは、愛の祈り(ラ・プリエール・デ・アモール)

 司から極光が放たれる。
 それは、司だけでなく、この場にいる全員の想いを束ねた光だ。
 単純な威力ではなく、“助けたい”と言う想いによる概念的な効果が発揮される。
 今の優輝にとって、これ以上なく効果のある技と言えるものだった。

「ぁ――――――」

 その極光を前に、優輝は叫び声を上げる事さえ出来ずに呑み込まれた。













 
 

 
後書き
其は、緋き雪の輝きなり(シャルラッハシュネー・シュトラール)…覚醒した緋雪による必殺技。なのはのSLBと同じく、しっかりと溜めた方が威力は出る。

其の想いは、愛の祈り(ラ・プリエール・デ・アモール)…司による、皆の想いを乗せた祈りの極光を放つ。技名は“愛の祈り”のフランス語から。単純な威力だけでなく、誰かを助ける、闇を祓う力も持っている。想いの強さに比例し、効果が上昇する。


満を持して両親復活。詳しくはまた後に回します。
帝が覚醒してから、戦闘がかなりDBらしくなっていますが、仕様です。
わりとリリなのも劇場版でDBっぽい戦闘してたので、何もおかしくありません() 
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