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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga6-E遭遇~T.C. 2~

†††Sideアルテルミナス†††

私が所属する特務零課の課長であり特騎隊の部隊長でもあるイリスからの指示で、ここ第10管理外世界コン・フォルツァを訪れている。管理世界の秩序の守護者な私たち局員が、わざわざ管理外世界に訪れた理由。それはある盗賊団を捕らえるため。

『イリスからまだ連絡来ないの~?』

『開館からずっと博物館をうろうろしてる所為で、警備の人たちの視線が結構つらい』

クラリスとセレスの文句を思念通話で聞く。盗賊団――“T.C.”が次に狙うであろう高魔力を宿した物品がある博物館の地下2階で、私たちは待機中なんだけど、今日来るか明日来るか、そもそもイリス達が第7管理外世界ダーハで“T.C.”を捕まえてたら・・・。

『(でも連中は組織で動いてるんだし、ダーハで捕まえても別の強奪犯がこっちに出るとも考えられるから、こうして待機しているのは無駄じゃない・・・でも)もう少し待って。定時連絡がちゃんと来るから』

セレスの感じる警備員の視線には私だってうんざりしている。でも魔法文明の有り無しに関わらず彼らには“T.C.”を撃退できる術が何もないから、私たちが護ってあげないとダメ。だから痛い視線にも耐えないと。
そんなわけで私たちは博物館の中を行ったり来たりの巡回を続け、定時連絡まであと十数分といったところで、「え、今?」と首を傾げるタイミングで携帯端末にコール音。この世界にも携帯電話があるから怪しまれないけど、通信に出るには1階ロビーまで行かないといけない。

「2人はこのまま待機してて」

「ういー」「判った」

さっきからお腹を鳴らして、しかも眠気にも襲われているのかクラリスからはやる気のない返事が・・・。セレスと一緒に苦笑した後は私だけロビーに移動して、携帯端末を耳に当てて「もしもし」とコールに出る。

『ルミナ! ルシル達が墜とされたの!』

通信の相手はアイリだった。私たちやイリス達の出撃時に、特騎隊の移動本部“シャーリーン”で居残り指示を食らって不貞腐れてたアイリとは思えないほどに切羽詰まった声。

「は? イリス達がダウンした?」

何を言われたのかすぐには理解できなかった。でも「誰に!? え、というか達ってことは、イリスやミヤビもなの!?」って思わず声を張り上げてしまった。客の非難の視線が一斉に突き刺さるけどそれどころじゃない。イリスは魔術とスキルを持っているし、ミヤビも対魔術に通用する鬼化があるし、ルシルだって魔術を扱えるし、リアンシェルト戦後はアイリとユニゾンしなくても問題ないようになっていた。それを負かす奴が居るってことが信じられない。

「さ、3人は大丈夫なの? 重傷? それとも・・・」

『ついさっきシャーリーンに搬送して、ティファが治療してる。みんな、そこまで酷くないけど意識は失ってる』

「・・・そう。状況を教えて、アイリ。T.C.が一筋縄でいかないとは思っていたけど、まさかイリス達をも倒せる連中なんて・・・」

『あ、いや、実はT.C.が相手じゃなくて・・・』

アイリから語られたのは、ダーハで偶然遭遇したフッケバイン一家との戦闘。魔術を使うことで魔導殺しを完封して、全滅までもう少しというところでダーハの実質的な支配者の古竜イツァムナ首長からの流れ弾。

「流れ弾・・・?」

『うん。イツァムナ首長の居る首長公邸に現れたT.C.を追い払うために放ったドラゴンブレスが、運悪くルシル達の至近に着弾したの。それでルシル達は意識を失って、フッケバイン一家には逃げられて・・・』

「T.C.と首長の安否、竜玉は守られたか奪われたか、教えてもらえる?」

『T.C.は逃走。首長は無事だけど、竜玉は盗られちゃった・・・』

頭痛がしてきた。局がイツァムナ首長にお願いしてどうにか護衛戦力として招かれたのに、任務に就く前に寄り道の如くフッケバイン一家と戦闘。そして、その間にイツァムナ首長は“T.C.”と交戦して追い払うことは出来たけど竜玉は奪われた。

「上層部からめちゃくちゃ文句を言われそう」

『だ、だよね・・・? もう! やっぱりアイリも一緒に行っていれば良かったんだよ!』

この不手際は始末書で済めばいいけど・・・。とにかく、ダーハでの任務は失敗したってことになるから、今すぐにでもこっちに“T.C.”が出現するかもしれない。

「報告ありがとう、アイリ。私たちはさらに警戒を強めて、迎え撃つ準備をしておく」

『うん。ルミナ達も気を付けて』

通信を切って、携帯端末をポケットの中にしまい込もうとしたとき、「あの、お客様」と声を掛けられた。まさか、と思いつつも振り返れば、女性職員が1人と男性警備員が2人。私は努めて冷静に「なんでしょうか?」と愛想笑いで応えた。

「申し訳ございません。お客様とお連れのお2人は、当館の開館時間より4時間と滞在なさっております。しかも何かを探っているかのように館内を歩き回っておいでですので、失礼かと存じますがお声掛けさせていただきました」

「ですわよね~。私も、自分たちを客観的に見れば怪しいな~と思いますもの。おほほ~」

「「「・・・」」」

沈黙が辛い。私は大きく溜息を吐いて、どう言い訳をしようかと考えていたら『ルミナ、来た!』とセレスから思念通話が入って、さらにジリリリ!とけたたましく警報ベルが鳴り響いた。職員と警備員の3人はベルで一瞬身を竦ませて、私から意識を完全に逸らした。視線も別の方に向いたから、「ごめんなさい!」と謝って、地下へ降りるための階段がある方へとダッシュ。

「おきゃ――捕まえて! 警備室! カメラで状況を確認して、警備員の増員を!」

職員がてきぱきと指示している声を背中で聞きながら、慌てふためく他の客の間をすり抜けて階段室へ。そして階下に降りようと足を出したその時・・・。

「待ちなさい! これは君たちの仕業か!? 事務所にまで来てもらうぞ!」

さっきの警備員だけでなく他の所を巡回してた別の警備員たちも集まってきた。管理外世界で申請無くして魔法を使った場合は管理局法でアウトな所業だけど、これはもう緊急事態だ。だから結界魔法を発動しようとしたんだけど・・・。

――ゲフェングニス・デア・マギー――

クラリスの魔法であることを示す薔薇色の魔力光での結界が展開されて、私と警備員たちは隔絶されてお別れ。もうその姿が見えない警備員たちから階下へと視線を戻して、「いくか!」と気合を入れてから階段を駆け下りる。

「セレス、クラリス!」

「あー、やっと来た」

「一応結界で閉じ込めてみた」

「ナイス、クラリス。この広さなら戦闘も問題ないか」

およそ1万4千平方mの地下だ。支柱や壁や仕切りがあるけど、支柱はまずいけど壁や仕切りくらい破壊しても問題ない。

「む。新手か」

2人が対峙しているのは間違いなく“T.C.”だ。何故なら私の姿を取っているから。見る人によって姿を変わる幻術か変身の魔法、もしくはスキルを使うのが“T.C.”らしく、外見は見る人が抱くトラウマの人物になるそうだ。

(でもなんで私は自分自身なわけ? 自分に対してトラウマなんてありえる?)

とにかく、すでにデバイスと騎士甲冑に変身しているセレスとクラリスをフォローしないと。私も腕輪型デバイスの「ツァラトゥストラ」を起動して、騎士甲冑にも変身する。その間にも私の姿をした敵は「ふん、新手か。面倒だが仕方あるまい」と小さく溜息を吐いた。

「(声だけは違うんだよね~。変声の魔法かな?)・・・もうすでに同僚2人に言われてるかもしれないけど、改めて伝える。時空管理局です。武装を解除して投降してください」

敵の右手にはモザイクの掛かった棒状の物が1本。構えからして槍じゃなくて杖と思われる。あと、敵の左側にもモザイクが掛かった物体が1個浮遊している。独立系のデバイスかもしれないから要注意。

「投降はせぬ。我らの主が困っておるからな。まったく、面倒なことを押し付けられたものだ」

喋り方が偉そうなのは素なのか演技なのか判らないけど、かなり特徴がある。それが身元判明に繋がるかも、なんて考えていたら敵も「喋り過ぎたか。いかんな」と首を横に小さく降った後、杖の先端を私たちに向けた。

「させない!」

魔法か魔術か、どっちかは判らないけど発動はさせちゃいけない。そういうわけで一足飛びで敵に突っ込む。私はセレスやクラリスのように魔術は使えないけど、デバイスくらいならスキルを使わなくても破壊くらいは出来る。

「「ハント・フェッセル!」」

セレスとクラリスが同時にバインド魔法を発動。セレスは敵の両手を、クラリスは両脚を瞬時に拘束したけど、すぐにブチブチと音を立てて千切れそうになる。だけどその僅かな拘束時間だけで十分。私は右腕を振りかぶり、分解スキルの「エクスィステンツ・ツェアレーゲン!」を発動した状態で右拳を突き出す。

――ツェアラーゲン・シュラーク――

敵の杖と私の拳が衝突する。普通ならそれだけで分解することが出来るんだけど、「きゃあ!?」バチッと弾かれてしまった。体勢を崩した私に向かって敵は一歩前進しつつ、刺すように杖を突き出してきた。

――■ン■■■シ■ラ■■――

「ぐっ!?」

ただの一突きが恐ろしい威力で、私は後方に数mと飛ばされた。そんな私を抱き留めてくれたセレスとクラリスに「ありがとう!」と礼を言って、今まさに杖を横薙ぎに振るおうとしていた敵を妨害するため・・・

――女神の鉄拳(ディオサ・プーニョ)――

「飛んでけーい!」

敵の足元から氷の鉄拳を突き出させたセレス。敵は「むお!?」と驚きの声を上げて天井にまで殴り飛ばされたけどクルッと空中で前転して、天井に両足を付けて着地・・・するか否かの瞬間に、私とクラリスは床を蹴って最接近。

「はああああああああ!!」

――ファルコンメン・ツェアシュティーレン――

対人戦に分解スキルを使用するために組んだ、スキル半使用した打撃技を発動。これで間違って生身を殴っても即死には至らない。管理局に入ってから日が浅いうちに、凶悪犯罪者に何度も試しているから加減の仕方は判っている。

「でぇぇぇぇぇぇい!!」

――フェアシュテルケン・ガンツ――

“シュトルムシュタール”全体に魔力を付加することで攻撃力強化する魔法を発動したクラリスと一緒に敵を攻撃。一撃目はクラリスの“シュトルムシュタール”によるフルスイング。敵は咄嗟に杖を両手持ちして盾として、クラリスの一撃を受けた。

「むお!!?」

敵は天井に強かに背中を強打したけど、雰囲気的にダメージは入っていない。でもそれでいい。身動きが取れなくなった敵の腹に目掛けて「おらぁぁぁぁ!!」右拳を打った。私の一撃に天井は耐え切れずに敵を飲み込んだ。そのまま地下1階にまで殴り飛ばすことも出来たけど、敵の服を引っ掴み、瓦礫が崩落する中で「セレス!」の方へと投げ飛ばす。

「よし、来い!」

――氷星の大賛歌(カンシオン・デ・コンヘラシオン)――

渦巻く吹雪く竜巻を纏わせた大剣型デバイス・“シュリュッセル”を振るって、吹雪を砲撃として放ったセレス。砲撃は敵を飲み込んで、そのまま支柱の1つに叩き付けた。その様子に私は「自分がボコられる様はあんまり気持ちのいいものじゃないね」と嘆息。

「あー、そうらしいね。というか、自分がトラウマっていうのが笑る」

「うっせ」

クラリスにそう言い返しているところで、「これで解かったか? 貴様らの魔法など我には通じんぞ」と、本来なら氷漬けになっているはずの敵は服に付いた雪を払う仕草をしながらそう言った。

「やっぱり魔術か」

「しかもデバイスも何か細工してあるね」

「魔力付加してない中でルミナのスキルを受けて破壊されなかった。つまり・・・」

「「「神器」」」

魔術と同時代に活躍していた魔術師用の武装や道具の総称らしい。かつてリンドヴルムというロストロギア専門の蒐集組織との戦いで、そのヤバさは嫌と言うほど理解している。それと同時に、私はこの中で最も役立たずであることも理解した。私のスキルは魔術効果を打ち破れないし、神器にも一切効果がない。

「ルミナは下がって」

「ここからは私とセレスで戦う」

私の前に躍り出る2人の背中が大きく見えて頼もしく感じる反面、胸の内にはやっぱり悔しさもあって・・・。

「貴様ら、特騎隊であろう? 確か魔術も扱えるという。本来であれば局員や騎士団、民間人に危害を加えるような真似はするなと厳命されておるが、ある条件下であれば戦闘も止む無しとも言われておる」

――ド■■ムブ■■ガ■――

2mほどの魔力剣が敵の頭上に十数本と展開された。そして敵は「目当ての物を奪う際、自分の身に逮捕の危機が迫った時には逃亡のために反撃してもよいと、な!」そう言って杖を振るうと同時に射出された。射線を見る限り当てるつもりはないらしく、ソレらは私たちの前方に横一線に着弾して壁となった。

「しばらく大人しくしておれ。変に痛い目に遭いたくなければな」

「「昇華!!」」

敵の自信満々な言葉に反発するかのようにセレスとクラリスがリンカーコアに神秘を乗せて魔術師化した。まずクラリスが“シュトルムシュタール”の全体に魔力を付加する「フェアシュテルケン・ガンツ」を発動してからの薙ぎ払いで、魔力剣を薙ぎ払った。

洗練されし氷牙(レフィナド・ランサ)!」

そこにセレスが氷の槍18本の斉射。だけど魔術である所為で非殺傷効果は発揮できないから、直撃だけは避けてある。ただ、着弾からの冷気炸裂による凍結捕縛は死ににくいはず。セレスもそれを解かっているからこそ、敵を囲うように着弾させようとした。

「大人しく受けるとでも思うか?」

――■■ディ■■レイ■――

敵もまた18本の魔力剣を展開、即射出。空中で氷槍と魔力剣がガツンガツン!と衝突して、お互いを撃ち落としていく中、クラリスが“シュトルムシュタール”を振りかぶった状態で突っ込む。

「む。貴様は来るでない!」

クラリスの接近を嫌がるように後退した。クラリスから距離を取ろうとしたところを見ると、敵はイリスやルシルのような複数の魔術を同時に扱うという、冗談みたいな真似は出来ないのかも・・・。

(なら、少しでも気を逸らさせてやれば!)

――ルフト・クーゲル――

魔法じゃない純粋な拳圧を放つ物理攻撃(もちろん魔力付加バージョンもアリ)。左右1発ずつのジャブを打つと同時に放った。魔法じゃないから魔力で気付かれることはない。拳圧はクラリスの脇を通過。一直線に敵へ向かっていって直撃すると、「むお!? なんだ!?」大きくよろけた。
魔術師は物理攻撃も完全防御できるけど、その衝撃を受け流せるかどうかは術者の身体能力や体幹による、とルシルに聞いている。実際、魔術師化しているルシルに拳圧をぶつけたらよろけもせず、だけどイリスにぶつけたら尻餅ついた。

――体重が軽いとよろけたりするかもな――

――それってつまりはわたしは軽いってことね!――

そんなルシルとイリスの会話が思い起こさせる。まぁとにかく、私の一撃で敵はよろけ、クラリスの「でりゃあああああ!」フルスイングが放たれた。敵はよろけたことを利用してそのまま尻餅をつくことでギリギリ回避した。

「その回避法、悪手だよT.C.」

初撃の月牙による斬撃は躱されたけど、反対側の金棒はなお健在。敵は迫る金棒の範囲外に急いで出るため、お尻を床に付けたまま両脚で床を蹴って一気に後退。そんな大きな隙を放っておくほど優しくないセレス。

――神速獣歩(ゲパルド・ラファガ)――

立ち上がり途中の敵の背後へと高速移動術式で移動したセレスは、敵の持つ杖を“シュリュッセル”で弾き飛ばして、さらに左腕を背中へと捻り上げて「確保!」と、敵を地面に組み伏せた。

「いたたたた! 貴様! 我は仮にもお――」

――ア■■トマ■■ス――

「「セレス!」」

離れていたからこそ、新手の出現にすぐに気付けた。新たな敵の姿も私の姿をしていて、ちょっとうんざり。それはともかく新手も杖のような物を持っていて、先端が燃えている。単純な魔力攻撃より属性アリでの攻撃の方が破壊力があると聞いている。新手がセレスを攻撃するとは限らないけど、何かしらのダメージは受けると思う。

――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――

そうさせないためにも高速移動魔法でセレスの背後へ割り込んで、「はっ!!」横蹴りで新手の攻撃を迎撃。さすがに燃えるヘッド部分に蹴りを入れず、その下の柄の部分を右足の裏で止める。

「っづ!」

足裏から股、そして腹から頭のてっぺんにまで奔る衝撃。それに必死に耐えて蹴り上げた右足を右へと反らしながながら下ろした勢いで、「せいや!」地を蹴って振り上げた左足で新手の顔側面を蹴り飛ばす。

「っく・・・!」

吹っ飛ばせなかったのは悔しいけど、セレスへの奇襲を防げただけで十分だ。ただ、新手の顔側面を蹴った左足もビリビリと痺れて、左足を使った攻撃はたぶん出来ない。

「ありがと、ルミナ。クラリス、誰かが結界を抜けてきたら教えてって言ったでしょ」

「ダメ、全然わからなかった。新しく来た奴は結界に干渉しないで侵入してきた。アイツ、たぶんだけど・・・」

セレスを護るため、そして新手と対峙するためにクラリスも私の隣に立って、セレスにそう言い返した。となれば、「転移系スキルか」ってことになる。それはまたとんでもなく厄介な奴が出てきた。先の事件では転移系スキル持ちのシスター・トルーデに良いように翻弄された。

「■■。あまり我々の素性が知られてしまうような事は仰らないでください。我らの主にご迷惑が掛かります」

「わ、判っておる! いやそれより早く助けんか! 関節を極められて動けんのだ!」

「少し手間取りそうなので、もうしばらくお待ちください」

敵と新手の会話を黙って見守る。何かしらのミスで身バレするような情報が出てくるかもと思っていたけど、新手は慎重派のようだしボロは出さないかも。チラッとクラリスを横目で見ると、あの子も同じ意見みたいで“シュトルムシュタール”の柄をグッと両手で握り締めて迎撃準備に入った。

「ルミナ、代わってくれる? 人体の仕組みに詳しい元ファオストパラディン(ルミナ)なら安心できるし、念のために私も魔術でのバインドで拘そ――」

「あの、その手を離してもらえますか?」

「「「っ!?」」」

それは本当に突然で、一切の前兆すらない中での出現。敵を腕を捻ったうえで背中に左膝を乗せているセレスの背後に現れた、やっぱり私の姿をしている新手2。そいつが右手をセレスへと向けて、グッと握るように拳を締める仕草をした。

――■■ーム■レッシ■■――

「ぐあ!?」

「「セレス!?」」

何かに全身を締め付けられているかのように体を細くするセレスが宙に浮く。ダメだ、見えない、不可視の攻撃。最初の敵は自由になり、新手1は臨戦態勢、新手2はセレスを拘束中。

「ふん。特騎隊よ。こやつが参戦する以上、貴様らに勝ち目はない。大人しく去れ」

敵が新手2の頭を撫でているのをこの危機を脱する方法を考えながら見る。

『セレス。大丈夫?・・・セレス?・・・セレス!』

思念通話でセレスに呼び掛けるけど返事がない。セレスは完全に意識を手放していた。さあいよいよどうしようかと途方に暮れそうになっていると、新手2が私に向かって開いた左手を向けてきた。ハッとして急いで後退しようとしたけど、「え?」ドンっと何かに拒まれて後退できなかった。

「ごめんなさい! ちょっとの間、眠っていてください」

「んぐ!?」

「ルミナ!」

ガシッと全身が手のようなものに握り締められる感覚。なんとか逃れようとするけど、これはもう無理っぽい。だから「ああもう。ホント最悪」と悪態を吐いたところで、新手2が左手をキュッと締めた。


そこで私の意識は途絶えた。 
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