優しい柴犬

　　　　　　　　　　　　　　　　優しい柴犬
　山本悠一の家には一匹の柴犬がいる、柴犬の名前はタロといって茶色一色の毛の柴犬にしては大きめの雄犬である。
　そのタロについて彼の妻の直美はこう言った。
「タロってあまり柴犬に見えないわよね」
「ああ、大きいしな」
　山本はこう妻に返した、職業はサラリーマンで背は一七五程黒髪を短めにしていて穏やかな顔立ちである。最近腹に肉が付いてきている。
「しかも色が茶色一色で」
「普通柴犬って二色じゃない」
　妻はこのことを首を傾げさせて話した、黒のロングヘアで垂れ目であり左目の付け根には黒子がある。色白で背は一五九程だ。スタイルはグラビアアイドル並にいいが着ている服が地味なので目立たない。
「そうでしょ」
「ああ、けれどタロはな」
「茶色一色よね」
「こうした子も珍しいな」
「ええ、ただね」
「ただ？」
「凄くいい子よね」
　直美はこのことは笑顔で話した。
「本当に」
「ああ、性格のよさはな」
「どの子にも負けていないわね」
「そうだよな」
「柴犬って結構気が荒いけれど」
　そうした子が多いがというのだ。
「それがね」
「タロは違うな」
「優しくて人懐っこくてね」
「愛嬌もあってな」
　それでというのだ。
「のんびりしていてな」
「あんないい子が家族でよかったな」
「本当にね」
　笑顔でこうしたことを話してだ、一緒にタロの散歩に行ったりご飯をあげたりしていた。そんなある日のことだった。
　この日は休日で夫婦で家にいた、直美はふと窓の方を見たが。
　夫に窓から見える庭の方を見て言った。
「何かお庭に入って来たわ」
「泥棒じゃないよね」
「人じゃないわ」
「それじゃあ何だ？」
「何か小さいわ」
「あれは」
　夫も庭の方を見た、見れば。
　それは一匹の猫だった、毛の色は黒で酷く痩せている、そして毛もボロボロである。
　その猫を見て山本は妻に言った。
「猫か、けれどな」
「ボロボロね」
「首輪もしていないな」　
　見ればそうだった。
「野良猫みたいだな」
「子猫のね」
「タロのところに行ったな」
　見れば猫はそうしていた、そしてだった。
　猫はタロを見た、すると。
「ニャア～～・・・・・・」
「タロに気付いたけれど」
「怯えてるな」
「大きさが全然違うからね」
「しかも相手は犬だから」
「タロは猫ちゃんを襲ったりしないけれど」　
　それでもとだ、妻は言った。
「けれどね」
「ああ。目子にとってみればな」
「そんなことはわからないから」
「怖いだろうな」
「助けに行く？」
　妻は夫に提案した。
「今から」
「あの猫をか」
「そうする？」
「そうだな、見ればボロボロだしな」
「放っておけないわね」
　こう話してだった。
　二人は庭の方に行こうとした、だが。
　見ればタロは怯えてガタガタ震えている子猫に顔の先でだった。
　そっと自分のご飯が入っている皿をやった、水を入れている皿も。すると猫は。