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魚屋の猫

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第一章

                魚屋の猫
 高橋美樹は夫と共に魚屋をしている、肴屋といっても商店街の魚屋ではなく明石の卸市場の魚屋でおろした魚を業者に売っている。家では二人の小学生の娘がいる。薄い茶色の髪の毛を奇麗に整えて肩の高さまで伸ばした彫のある顔立ちで年齢は三十代である、日本人離れした顔でありスタイルも年齢を感じさせない。
 その彼女に夫の譲が店で言った。
「何かな」
「何か?」
「いや、前を見たらな」
 それでとだ、夫は妻に話した。夫は切れ長の目で黒髪は短い。背は高く逞しい身体をしているが日本人と言えば頷ける。
 その彼が店の前を見て妻に話したのだ。
「猫いるな」
「えっ、猫?」
 美樹は猫が苦手だ、子供の頃引っ掻かれたこととそれに実家で犬を飼っていたことから犬派でもあり猫が余計に苦手だ。それでだ。
 猫を聞いて身構えた、そして見れば実際にだった。
 目の前に一匹の猫がいた、黒猫で目は金色だ。妻はその猫を見て夫に言った。
「いるわね」
「ああ、何かな」
「お店の方じっと見ているわね」
「ここ鼠出るしな」 
 卸市場だ、魚介類を狙ってのことなのは言うまでもない。
「だからな」
「飼うの?」
「そうするか?」
 こう妻に言った。
「お前は猫苦手だけれどな」
「鼠退治になのね」
「ああ、あの猫飼うか?」
「そうね、確かに私猫は苦手だけれど」
 それでもとだ、妻は夫のその言葉に頷いて言った。
「お店のこと考えたらね」
「鼠のことは問題だからな」
「それじゃあね」
「あの猫飼うか、それに黒猫だろ」
 その猫の毛のことも話した。
「黒猫は商売繁盛だな」
「ええ、そうよね」
 関西では黒猫は客を招くいい猫とされているのだ。妻もこのことは知っている。
「確かにね」
「だからな」
「飼っていいわね」
「世話が俺がするからな」
 猫が苦手な妻を気遣って言う。
「それじゃあな」
「ええ、これからね」
「あの子をこのお店で飼うな」
 こうしてだった、猫は店で飼われることになった。猫は雄であり黒猫だったのでブラックと名付けられた。
 ブラックは最初店にいるだけだったがやがて夫は仕事が終わると店にずっと一匹だけいたら寂しいだろうと言ってだった。 
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