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人徳?いいえモフ徳です。

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六十一匹目

シェルムは腕を組み、ソファーに腰掛け、目の前で正座する三人を見下ろしていた。

「なにか、言い訳はありますか、コクオウサマ」

「ないです」

「ブライ?」

「はい、俺が言い出しっぺです」

「シラヌイ?」

「いや…その…お婆様がなんか思い付いたら言えって…でも言いにくいことだったし…」

「それでアルフレッドとブライに相談したと?」

「…………………まずメッサーに相談したら断られて…それからお父様に…」

「ブライ?」

「いや……アルを巻き込めば行けるかなぁって…「は?」…あ、はい、ごめんなさい」

なぜこの三人が正座で、しかも叱られているかと言えば………。

「で? このコンドームとやらを娼館のオーナーに売り付けようとしていたと?」

そう。何を隠そうシラヌイがやらかしたのだ。

思いつきで作ったコンドーム。

悪乗りしたバカ二人。

城に娼館のオーナーを呼び出したはいいが、その商談の場をシェルムに押さえられてしまったのだ。

なおツェツィーリアにはすでに話が言っているのでアルフレッドはこの後妻と息子にお叱りを受けるであろう。

「とにかく。これは一時没収です」












その後、シラヌイはボーデンの部屋に放り込まれた。

「………………バカだろお前」

ボーデンは若干顔を赤らめながら呟いた。

「いやお母様があんなにキレるとは思わなくて」

「で、例のオーナーはどうなったんだ?」

「お母様に追い出されてた」

「一番の被害者はオーナーだな」

「うん、そだねー」

シラヌイはおもむろにに自製かき氷機を出してごりごりし初めた。

「おい」

「なにー?」

「なにしてんだ?」

「かき氷」

「かき氷?」

わざわざ瞬間錬成で作った硝子の器に山盛りの氷を盛ると、その上から氷点下に冷やしたシロップをかけた。

そのシロップも魔法で水気を飛ばした一品。

科学世紀で食べるならばそこそこの値段がするであろうそれをボーデンに差し出した。

「たべる?」

なおスプーンも硝子製。

無駄に凝った食器の上のかき氷からは冷気が漂う。

「なんつー技術の無駄遣い…」

「技術は使わないと衰えるんだよ?」

器を受け取り、ボーデンが一口かき氷を食べる。

「雪みてーだな」

「でしょ? 苦労したんだよこのかき氷機。ブレードの薄さとか材質とか角度とかさ」

「これは売らないのか?」

「んー?考え中」

「お姫様は?」

「知ってるよ。これ一緒に作ったし」

「ふーん」

しゃくしゃくとかき氷を咀嚼しながら相づちをうつ。


しゃくしゃく……しゃくしゃく……。

「シラヌイ」

「なに? ボーデン」

「こういうの、タマモ様は何も言わないのか?」

「どれのこと? かき氷?」

「ん。まぁ、そういうの、全部ひっくるめて」

「んー…………」

シラヌイが持っていた器をコトリと置く。

「ねぇ、ボーデン。この国の文化がどういうものかわかるかい?」

「文化? フライハイト式の文化だろう?」

「そうだね。フライハイト式。立派な文化だ。
でもね、ボーデン。僕から見たらこの国の礼儀や文化はしっちゃかめっちゃかだ」

「どこが」

「僕の世界の話をしよう。僕の住んでいた国は大陸から離れた島国だった。
ああ、島国って概念も大陸って概念も馴染みないよね…。
まぁ、ともかく他の国々とは隔絶された国だった」

「だからその日本という国は他の国々とは全く別の文化を歩んでいた。
が、月日は進みやがて他の国々とも交流ができた。
それにより日本には外国文化が流れ込み、国外に日本文化が流出した。
そうして、神話の時代から数えて建国から二千六百年経ったのが僕の故郷だった」

「その時代には他国の歴史を詳細に学ぶことができた。そしてそれは学校教育での必修であり、僕もある程度外国の歴史を学んでいた」

「このフライハイト王国の文化はその外国…僕らの世界ではヨーロッパと呼ばれていた地域の文化に似ている。貴族制度、食文化などだ」

「でも、何故かそこにちらほらと日本式の礼儀や文化がちりばめられている。
なんでだと思う?」

問い掛けられたボーデンは答えられなかった。

そんな事を疑問に思ったことなど無い。

なぜなら当たり前だからだ。

「お辞儀や箸、それに味噌、キモノ…挙げればきりがない。これは日本式の文化だ。
外国にも近い物はあったけど、様式が完全に日本の物だった」

「文化には必ず理由がある。ヨーロッパ式と日本式には気候や地理的要因からくる確たる差があり、それが自然に交わることない」

「なら当然誰かが混ぜたはずだ。誰か?」


「答えは簡単。このフライハイトの建国に関わり今もなお政治の中枢に居る人物。
タマモ・フォン・シュリッセルに他ならない」

「僕と同じ世界の過去から来たお婆様が、この国の文化の礎を築いたんだ」

ボーデンが目を見開く。

「タマモ様が………異世界人?」

「言わなかったっけ? お婆様はこの国をよりよくするため、様々な文化や技術を広めた。
礼儀は統治の時の上下関係をはっきりさせる。
発酵食品や酒造…食文化は統治する人々のコンディションに直結する。
服飾品は体温の維持と文化の促進」

「だからお婆様は、それが良い物であれば異文化を広める事に戸惑いはない。
むしろほんの少しだけ便利な物を知っている僕を応援してくれてもいる」

「僕は元の世界で学生だった。日本では全ての国民は自分の子に教育を受けさせる義務があった」

「その過程で多少は危険な物の作り方、扱い、対処法などの知識も得た。なぜならそれを危険と知らない事こそが危険だったから」

「僕が何かしらの物や技術を広める時、お婆様やお母様、お父様と約束したことがひとつだけあるんだ」

「『他人を傷付ける物を広めないこと』」

「僕は作ろうと思えば錬金術でダイオキシンと呼ばれる猛毒や、トリニトロトルエンという大爆発を起こす薬だって作れる。元の世界で多くの人の命を奪った技術や発明品だ」

「でも僕はそれらを公開する気はないし、自分でも作ろうとは思わない。
それが、こんな僕を受け入れ、育ててくれた家族との約束だから」













「………………だから避妊具の開発はオッケーだとおもったのになー」

「やっぱバカだろお前」 
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