偏屈婆さんと猫

　その猫を見てだ、夫はこう言った。
「人間も猫も病気なしが一番だ」
「そうよね」
「俺もないしな」
「そう言って油断したらなるわよ」
　ここで妻の口が出た。
「気をつけないと駄目よ」
「わかってるさ、そのことも」
「だといいけれどね」
「ああ、それでその猫野良か」
「でしょうね、時々近所で見たし」
「そういえば俺も散歩の時見たことがあるな」
　夫もここで思い出した。
「その子を」
「そうでしょ、多分雑種でね」
　妻もその猫を見つつ言う。
「女の子よ」
「そうか、女の子か」
「病院でもそう言われたわ」
「そうなんだな」
「じゃあこの娘戻すから」
「飼わないか」
「飼ってどうするのよ」
　妻は夫に憮然として返した。
「そんなことして」
「いや、猫が家にいたらぼけないしな」
「ぼけ？」
「そう言うしな」
「あんたがぼけない為にかい？」
「それはお前もだろ、どうせならうちで飼えばいいだろ」
　夫はこう妻に言った。
「お前が助けたんだし俺もまんざらでないしな」
「だからなんだね」
「ああ。うちで飼えばいいだろ」
「飼うってご飯とかあげないと駄目だよね」
「それはな、トイレとか用意してな」
「やれやれだね、あんた世話するんだよ」
　妻は夫に憮然として告げた。
「いいね」
「ああ、わかってるさ」
　夫は何でもないという声で答えた、そしてだった。
　老夫婦は猫を飼うことにした、猫は最初名前はなかったが妻が猫にそら、と言ってご飯をあげているうちにソラという名前になった。
　ソラを二人で飼っているうちに夫はこんなことを言った。
「お前怒ったり叱らなくなったな」
「そうかい？」
「最近な」
　こう妻に言うのだった。
「そうなったな」
「そうかしらね」
「実際にな、ソラがうちに来てからな」
　その頃からというのだ。
「そうなったな」
「そうなんだね」
「ああ、いいことだな」　
　妻に微笑んで話した。
「本当に」
「いいことかい」
「怒ったら健康に悪いしな」
　このこともあってというのだ。