犬が来てよかった

　　　　　　　　　　　　　　　　犬が来てよかった
　狗飼一はこの時会社の中で課長に帰る時にぼやいていた、背は一七三位で顎が尖った濃い眉のある穏やかな顔立ちの青年だ。黒い髪の毛を左で七三に分けている。
「最近親が結婚しろって五月蠅いんですよ」
「君確か一人暮らしだよな」
「はい、ですが実家に帰ると」
　眼鏡が似合う課長に話した。
「いつもなんですよ」
「結婚しろってか」
「俺も二十五だからね」
「二十五で結婚は早いだろう」
　課長は真剣な顔で返した。
「まだ」
「そう思うですけれどね、俺も」
「それでもか」
「はい、実家に帰るといつも言われるんで」
　だからだというのだ。
「最近実家に帰るの嫌です」
「結婚はな、まあ色々あるな」
　課長は真面目な顔で言った。
「いいことも悪いことも」
「早いうちにじゃないですよね」
「今はそうした考えじゃないな」
「そうですよね」
「相手の人がどうかでな」
「というか俺まだ一人でいたいです」
　独身生活を楽しみたいというのだ。
「そうしたいですけれどね」
「それがか」
「実家に帰るといつもそう言って来るんですよ」
「それで困っているか」
「はい、どうしたものか」
　会社帰りにそんな話をした、そしてだった。
　自宅のマンションに帰ると茶色の髪の毛を短めにした明るい顔立ちの動きやすい服装の女性と会った、隣の部屋の猫山紅葉だ。背は一六〇程である。年齢は自分より二つ下だと会話をした時に聞いている。
「こんばんは」
「はい、今からですか」
　狗飼は自分から挨拶をしてくれた紅葉の足元のリードが付けられた茶色と白の長い毛の柴犬を見て言った。
「お散歩ですか」
「はい、マキちゃんとです」
　紅葉は狗飼に笑顔で応えた。
「行ってきます」
「そうですか」
「今夜も楽しく」
「じゃあ」
「今から行ってきます」
「ワン」　　
　マキも彼を見て明るく鳴いた、彼はそのやりとりに悪くないものを感じた。内心結婚するなら紅葉の様な人かとも思った。
　そうした話をしてだった、そのうえで。
　狗飼は自分の家に帰ってプライベートを楽しんだ、こうした日々が暫く続くかと思っていた。だが十日後。
　狗飼は仕事帰りに紅葉と擦れ違うとこう言われた。
「その段ボールは」
「さっき拾ったんですよ」
　こう紅葉に返した。
「実は」
「中に何かいます？」
「子犬がいます」
「あっ、そうですね」　
　紅葉が実際に見るとだった、段ボールの中には。
　生まれてすぐの感じの犬がいた、黒い毛で口周りと犬に眉はないがその眉の部分だけ白い。垂れ耳の可愛い感じの犬だ。
　その犬を見てだった、紅葉は狗飼に言った。
「捨て犬でしょうか」
「みたいですね」　
　狗飼は眉を顰めさせて答えた。
「どうも」
「酷い人がいますね」
「見付けたから拾いましたし」
　狗飼は紅葉に話した。