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Fate/WizarDragonknight

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暴走する愛

「おいおい。こりゃ酷えな」

 コウスケは、目の上に手をかざしながら呟いた。
 川のほとりで、いつものようにテント暮らしのコウスケと響。今は響が朝食の準備をしているところだが、コウスケは手伝いの手を止め、街の方の異様な光景に注目していた。
 大部分がいつもと変わらない見滝原。ただ一か所だけ、天高く伸びるバベルの塔のような、赤黒い柱があった。まるで炎のようにメラメラと揺れ波打つその建造物は、コウスケに止めどない不安を与えた。

「なあ、響。あんなの、昨日まであったか?」
「何? ちょっと待ってて」

 だが響は、地面に設置したカセットコンロに火を灯す作業に夢中になっていた。

「ねえ、コウスケさん。これ絶対にガス切れてるよ。これじゃ、ご飯食べられないよ」
「ああ? 悪いけど今持ち合わせがねえんだ。だったら明日からバイトだな。お前もどこか行けるだろ?」
「バイトかあ……SONGにいたときよりもお給料少ないんだろうなあ……私、呪われているかも」
「別に呪われててもいいけどよ。アレ、何なのか解説してくれよ。サーヴァントって、魔力とかには詳しいんだろ?」
「基本的なことだけインプットされてるけど……アッチチチチチ‼」

 響が悲鳴を上げた。事故で着いた炎が、彼女の指を焼いたらしい。火傷すらないのは、流石はサーヴァントといったところか。

「んで、響。アレなんだ?」
「あれ?」

 ようやく響が、コウスケの指差す方角へ目を向けた。その瞬間、響の表情が、ただの空腹少女から戦士のものへと変貌する。

「あれは……」
「何だ?」
「分からない……けど!」
「行かなきゃやべえ奴だな」
「うん!」

 響は言葉少なめに、胸のペンダントを外し、歌う。

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 何度聞いても不思議な音色。
 響の体は黄色の光とともに、機械が次々と装着されていく。演舞をしながら出現した装甲は、シンフォギアというらしい。

「行くよ! コウスケさん!」

 響はこちらの返事も待たずに、ジャンプで飛んで行った。
 みるみるうちに小さくなっていく響に、コウスケは頭を掻く。

「お前早すぎんだよ!」

 コウスケはそう呟きながら、右手に指輪を取り付ける。
 ハルトと同じように、それを腰につけたベルトに掲げた。

『ドライバーオン!』

 獣の咆哮とともに、腰に新たなベルトが出現する。小さな扉の形のバックルをしたそれを気にすることなく、コウスケは新たな指輪を左手に着ける。
 大きく掲げた後、両腕を回転させる。
 そして、

「変~身!」

 扉の左上に取り付けられているソケットに、指輪を差し込み、ひねる。

『セット オープン!』

 すると、扉が開き、中からライオンのような顔が出現した。

『L I O N ライオン』

 正面に出現した魔法陣が、コウスケの体を通過する。すると、その体は、金色の魔法使い、ビーストへとその姿を変えた。
 左肩のライオンの顔、金色のアーマーが特徴のビーストは、即座に右手に、他の指輪を取り付け、ベルトに差し込む。

『ファルコ ゴー』

 右側に現れた魔法陣に、その手を突っ込む。

『ファファファ ファルコ』

 オレンジの魔法陣が齎す、ハヤブサの顔をした肩と、マント。
 コンロの火を消し、風を纏わせながら、ビーストは響の後を追う様に、空を滑空していった。



 ほむらの銃と、『9』と記された怪物は、ガンカタをしながら戦いを続ける。至近距離での発砲全てが、ほむらの華奢な肉体を貫こうとしている。

「っ……! 魔女と違って、狙いにくい……」

 唇をかみしめるほむら。銃口を『9』に向ける前に、彼女がそれを弾き、狙いが外れてしまう。
 ほむらは距離をとろうとするが、敵がそれを許さない。

「キャスター!」

 サーヴァントへの命令で、キャスターは動き出す。
 キャスターの傍らの本がパラパラとめくられ、その右手に桃色の光が灯った。

「ディバインバスター」

 彼女の手から放たれた光線は、なんと屈折を繰り返しながら、ほむらを避けて、『9』へ命中。爆発を引き起こす。

「……」

 髪をかき上げるほむら。だが、爆炎の中の気配から、すぐに警戒を示す。

「……そう。手段を択ばないタイプね。貴女も」

 ほむらがそう呟いたのは、『9』に向けてだった。
 どこにいたのか、『9』は盾を使っていた。背の低い、『5』と記された怪物。『9』が無造作に投げ捨てると同時に、その子供みたいな肉体は消滅していった。
 そのまま『9』は、少しずつ後ずさりをし、どこかへ飛び去っていた。

「……」
「追いますか? マスター」
「……放っておきなさい」

 キャスターの問いに、ほむらは首を振る。そのまま、背後の可奈美とアサシン___アカメの方を向いた。

「アサシン。この状況は、貴女の仕業ね」

 銃口を向けられたアサシンは、微動だにしなかった。彼女にとっては、どうやら銃を突きつけられること自体、大した脅威にもならないらしい。
 だがアサシンは、その赤い瞳でじっと見返すだけだった。
 静かに、彼女は尋ねた。

「お前たちは、マスターを止めたいのか?」
「ええ。そうね」

 ほむらは銃口を降ろさずに肯定する。

「まどかを危険な目に合わせるのなら、私も容赦しないわ。貴女もでしょう? 衛藤可奈美」
「う、うん……」

 途中から傍観に徹していた可奈美も頷く。
 ほむらは可奈美の動きにも目を離さないまま、アカメに命じた。

「案内しなさい。マスターのもとに」



「……どうして?」

 由乃の口から、無意識にその言葉が出てきた。

「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして?」

 由乃は、幸輝の肩を掴み、揺さぶる。

「どうしてユッキーは私を受け入れてくれないの? こんなにユッキーが好きなのに⁉」
「わ、訳わからないよ、我妻さん……!」

 両手両足を椅子に縛り付け、まるで王のように大広間の最奥部に座らせている由乃。彼をこのまま、ずっとお世話しながら、この城で永遠の時を過ごそうとしていたのに、肝心の幸輝は一切迎合してくれない。
 幸輝は涙目になりながら言った。

「どうして我妻さんは僕にそんなに構うの? 僕、大して君と関わっていないのに……」
「忘れちゃったの? ユッキー、私のことをお嫁さんにしてくれるって言ったじゃない。ね? だから、当然でしょ?」
「分からないよ! それに、なんか我妻さん、目が本当に怖い! 止めてよ! 放して!」
「どうしてなの……そうか……きっとユッキーは穢されちゃったんだ……他の誰かに……心も……体も……!」
「我妻さん?」

 由乃は、静かに立ち上がる。玉座の幸輝は、ただ口を震わせながらこちらを見上げている。
 その時。

「おーい! 天野!」

 幸輝の苗字を呼ぶ声がした。由乃は即座に顔を強張らせ、ギギギと音が鳴りそうな速度で振り返る。
 見れば、同じ中学の制服を着た生徒が二人も広間に来ていた。
 どうでもいい女子の名前など、憶えていない。銀髪の子が、短髪の子の後ろに着いてきている。それ以上の情報は必要なかった。

「天野さん……こっちの部屋にはいないでしょうか……」
「わかんねー。……でも、チノは教室にいればいいのに。安全なんだろ?」
「分かりません。教室にあの怪物たちは入ってこないというだけですけど、それに確証なんてありません。それに、マヤさんだけ外にいるのは危険です」
「嬉しいねー。……あ! なあ、あれって我妻じゃね?」

 こちらのことを知っているのか。由乃は血走った眼で二人の来訪者を見下ろす。
 同じクラスにいた気がする。それ以上の情報は必要なかった。

「おい! 我妻! 無事か? 教室なら、今は安全みたいだから、戻ろうぜ! あと、天野もいないみたいなんだけど……」

 だが、それ以上マヤと呼ばれた奴の言葉は耳に入ってこなかった。由乃は、幸輝に背を向けたまま、問いかけた。

「ねえ、モノクマ」
『なんだい?』

 由乃の呼びかけに、背後から小さな気配がする。この白黒の監視者は、由乃が呼びかければどこにでも現れる。

「ちょっと聞いていい? 聖杯戦争のルール」
『ウププ。今更聞くことなんてあるの?』
「ええ。聖杯戦争は、最後の一人になれば、聖杯で願いを叶えられる。そう、言ったよね?」
『うん』
「それは、人の命も蘇らせられるの?」
『問題ナッシーング』

 モノクマは、両手で×印をして見せる。

『人の命は、一人までなら、聖杯が蘇生できるよ』
「それじゃあ、蘇らせた命に、私を刷り込ませることは?」
『刷り込ませる?』
「私以外を見えないようにするの。誰もいない、私たちだけの世界で」
『うーん……うん! オッケー』

 少し考えたモノクマは、手を彎曲させ、丸マークを示した。

『我妻由乃の願いは、君の思い通りに歪めた死者蘇生だね! いいよ!』
「そう。ありがとう」

 由乃は、口に笑みを浮かべると、再び幸輝に向き直る。

「な、なに……?」
「ごめんねユッキー。ユッキーが悪いんだよ」

 幸輝の顔に、更に絶望色が増す。こちらがもった、ナイフが視界に入ったか。

「ユッキーが私以外の人に、夢中になるのがいけないんだよ」
「ま、待って! 我妻さん!」
「おい我妻! 何やってんだ!」
「いけません! 我妻さん!」

 マヤ、チノとかいう人の声は聞こえない。由乃にはただ、幸輝だけしか見ていなかった。

「安心してユッキー。聖杯戦争に勝ったら、蘇らせてあげるから」

 ナイフを振りかざす。

「だから、一回死んでね。すぐに生き返らせてあげるから。そしたら、私だけしか見えないようにしてあげる」

 振り下ろした凶器から、血が飛び出した。

「痛っ……痛い痛い! やめて我妻さん! やめて!」
「大丈夫だよ。痛いのは一瞬だから。次に目覚めたときは、私を好きで好きでたまらなくなってるから」
「おい我妻! 止めろ!」
「止めてください!」
「離せ!」

 両腕にしがみつく二人を振り払い、幸輝の解体を続ける。

「我妻……さ……
「ユッキーの血……暖かい……おいしい……」

 頬に着いた、赤い液体を舐めとる。すでにガラスのような目をした幸輝を撫でて、由乃は邪魔をした二人を見下ろした。

「だから……ユッキーを穢したお前たちは、ここで死ね!」

 そう告げ、由乃は武器を掲げた。
 ナイフでもない。銃でもない。現代では、由乃以外何者も持たない、モノクマより与えられた唯一無二の由乃の力。

『ウィザード』

 迷いなく、体に埋め込んだ紫の懐中時計。そこからあふれる光が全身を包み込む。
 現れたのは、指輪の魔法使い。
 ルビーの指輪の形をした頭部、髑髏の肩、ボロボロのローブ。
 聖杯戦争にあたる、由乃の力。
 アナザーウィザードだった。



 うたた寝を繰り返す、青山ブルーマウンテン。
 ラビットハウスの居住部分にある、ハルトの部屋に勝手にお邪魔している青山さんは、そのまま看病のために持ってきたおかゆを平らげて、椅子の上でコックリコックリと頭を揺らしていた。
 ハルトの指が、ピクっと動くことに、気付くこともなく。 
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