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幸せを招く猫

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第二章

「金は」
「そっちはまだ何とかなるよ」
 荒巻は伊丹の問いにこう返した。
「俺でも」
「そうなんだな」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「バイト先は探し続けてるけれどな」
「それでもか」
「まだ金はあるし」
 実は荒巻は読書とゲーム位しか趣味がなく金は使わない。それで金にはあまり困っていないのである。
「それでな」
「何とかなるか」
「もう砂とトイレとキャットフード買ったよ」
「一緒に暮らしてくんだな」
「だから名前も付けたよ」
「そうか、しかし名前は大吉か」
「正直俺も最近自分はついてないって思ってるからな」
 だからだというのだ。
「この名前にしたよ」
「運がある様にか」
「大吉にな」
「そうか、その名前の通り運があるといいな」
「本当にな」
 こう言ってだった。
 荒巻は大吉と名付けたその猫との生活をはじめた、最初は実は彼も何時まで大吉と暮らしていけるか不安だった。やがて飼えなくなって実家に預けることになるが身体を壊している親の負担になるのかとも思った。
 だがここでだった。
「就職先決まったんだな」
「ああ、八条バスな」 
 荒巻は笑顔で話した。
「運転手でも事務でも何でもいけるからな、俺」
「お前大型免許持ってるからな」
「それが決め手になったみたいだな」
 就職のそれにというのだ。
「よかったよ」
「それは何よりだったな」
「それで就職までそこでバイトもさせてくれるそうなんだ」
「バイト先も決まったか」
「ああ、就職するまで研修代わりにな」
 それでというのだ。
「仕事覚える意味でも働いてみたらって言われてな」
「受けたんだな」
「両方見付かったよ」
 荒巻は伊丹に笑顔で話した、二人で荒巻の部屋で話している。二人共酒も煙草もやらないのでコーラとポテトチップスで話している。
「よかったよ」
「それは何よりだな」
「本当にな」
 こう話した、そしてだった。今度は。
「親御さん達もか」
「徐々にだけれどな」
 それでもというのだ。
「膝とか腰がな」
「痛まなくなってきたんだな」
「お袋も。親父のリウマチも」
 これもというのだ。
「少しずつでもな」
「そうか、よかったな」
「お医者さんがちゃんと治療してくれてな」
 二人にそうしてくれてというのだ。
「徐々にでもな」
「そのこともよかったな」
「ああ、俺の就職も喜んでくれてるし」
 荒巻は痛みに微笑んで話した。
「本当にな」
「そのこともよかったな」
「そうだよな」
 笑顔でだ、荒巻は応えた。彼は自分のことだけでなく両親のこともよくなってほっとした。そしてそれから。
「今度はか」
「彼女出来たよ」
 こう伊丹に話した。 
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