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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第37節「君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ」

 
前書き
ギリギリアウトな投稿時間!

原作と全く変わらなかったので、きりしら戦はほぼカットでお送りします。あの辛さは是非とも原作観て味わってくれ……。

その分、奏さんの戦闘シーンと翼さんの心境を描かないといけなくて一苦労。
オリジナル増やす場合の苦労ってこういうとこだよなぁ。

推奨BGMは『Next Destination』、『烈槍・ガングニール』、『君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ』です。
それではお楽しみください! 

 
『僕に協力して欲しいのですよ。死者を蘇らせる、僕の実験に……』

最初にその話を聞いた時、私は馬鹿なと一蹴した。

しかし、ウェルの語る理論は机上の空論にしてはとても筋が通っており、確信に満ちていた。

生弓矢の力で櫻井女史が蘇る瞬間は、私もこの目で見た事実だ。

この私が僅かな希望として縋ってしまうには、充分過ぎる程に……。

迷いはした。 普段の私であれば、こんな事で揺れる事など有り得ない。

でも……もし、奏にもう一度会えたとしたら……。
もしも、奏とまた肩を並べられるのなら……。

そんな誘惑に抗えないほど、私の心は弱っていた。

そして私は……奏のために、唄ったのだ──

ff

「どういう……事だ……ッ!? 奏さんは二年前の惨劇で……」

目の前に立つガングニールの先代装者、天羽奏。
既に故人である筈の彼女の姿に、純は驚きを隠せなかった。

「古来より、死者を蘇らせる神話や伝承は世界各地に点在しています。彼の聖人の手による神の奇跡、アスクレピオスの蘇生薬、中国の尸解仙……挙げればキリがないでしょう。なにせ永遠の命と並ぶ人類普遍の夢ですからねぇ」
「その禁忌に、お前は手を出したってのか……ッ!」
「ええ。ドクター・アドルフに見解を求められた時、ピンときましたよ。これこそが僕の求めていた力、人類の夢だとねッ!」
「確かに生弓矢は死者を蘇らせる聖遺物……だが、それには相当量のフォニックゲインが要るはずだッ!」
「ええ、確かにそうですよ。“生弓矢”の場合は、ですが」
「どういう意味だ……?」

含みのある言い方に、純は困惑する。
科学者という生き物は、他者に説明している時間が一番楽しいらしい。ウェルはそのまま楽し気に話を続けた。

「生弓矢が司るのは、生命エネルギーを活性化する力。たとえ瀕死の重傷を負っていても、それを癒し、身体に生命力を満ちさせる力です。しかし、既に死んでしまった者には効果がありません。増幅する生命エネルギーが0なんですからね。その場合、必要になるのは生弓矢に備えられたもう一つの機能……他者の生命エネルギーを注ぎ込む力、それが生太刀です」
「生命力を活性化させる生弓矢と、他者から分け与える生太刀……」

しかし、そこで純は疑問を浮かべる。

「ちょっと待てッ! 奏さんは死体も残らず塵になったはず……生命エネルギーどころか、肉体がこの世に存在しないんだぞッ!?」
「ええ、そうです。そこで最後の機能ですよ」
「最後の機能……それが天詔琴の力……?」

ウェルは右手に握った楽器を自慢げに見せびらかす。
無邪気に新しい玩具を自慢する子供の顔に狂気が入るだけで、こうも醜くなるものだと彼を見た者は思うだろう。

「魂の正体とは、何だと思います?」
「魂の、正体……?」
「魂に関しては未だ謎が多い未開拓の研究分野ですが、何も霊的なものではありません。脳が活動し処理する電気信号と、そこに刻まれた記憶……『想い出』の総体がこそが精神であり魂です」
「記憶こそが、人間の魂……」
「歌や音楽には、聴く者の記憶を呼び起こす作用があるのは知っていますね? この天詔琴には、音を奏でることで他者の記憶を呼び起こし、失われた魂を復元する力があるんですよッ!」
「魂を復元する聖遺物……ッ!?」

あまりに突拍子もないウェルの言葉に、純は度肝を抜かれる。

それは文字通り、生殺与奪の権利を握る事が出来る聖遺物。
殺した人間を自在に蘇らせる事が出来るとしたら、それは……この男に最も渡してはいけない力だ。

だからこそ、飛びかかってやりたい衝動を抑えてウェルの話を聞く。
その中に、奏を取り戻すヒントがあると信じて。

「魂を入れる肉体はどうした? 肉体が無けりゃ、魂が復元しても意味がないだろうが」
「水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素……」
「……は?」
「僕がまだイェールに在籍していた頃、とある秘密結社で小耳に挟んだ人体の錬成方法です。ホムンクルス、でしたかね。自我の存在しないまっさらな人体……そこに風鳴翼の歌と記憶、彼女の周囲に残留し続けていた電気信号から復元した天羽奏の魂を入れることで、彼女はこの世に蘇ったんですよッ!」
「ホムンクルスって……オカルトの存在じゃないのか!?」
「ふふふ……オカルトの中にこそ真実があるッ! この異端技術の存在に確証を得た僕は、ついに実現したのさッ!」

つまり、話を纏めるとこうだ。

天詔琴には“魂”と呼ばれる存在を復元する力があり、翼の周囲には奏の残留思念とも言うべきものが漂っていた。
ウェルはその残留思念を天詔琴の力で復元し、奏の魂としてホムンクルスに宿す事で復活させたのだ。翼の歌とそのフォニックゲインを鍵として。

「おいおい、話が長すぎやしないか?」

そこへ如何にもかったるそうに口を挟んだのは、当の奏本人だ。

「あたしは戦いたいんだよ……いいだろ?」
「ええ。その為に私はあなたを呼んだのですからねぇ」

ウェルの方を振り返りながら、奏は好戦的な笑みを浮かべる。

「奏さん……ッ!」
「お前がどこの誰だかは知らないが、せいぜいあたしを楽しませてくれよ……なぁッ!」
「──ッ!」

突き出された槍を、すんでのところで回避する。
そのまま横薙ぎに振るわれた槍を盾で弾き、バックステップで離れる。

「へぇ……やるじゃないか。面白いな、お前」
「く……ッ!」

奏の槍のレンジ外まで離れた純は、奏を睨んだまま構え直す。

(一撃が重い……ッ! あれをまともに受け止めるのは不味いな……)

目元を隠す、鋭角的なバイザー型の仮面。
奏の口元には、やはり笑みが浮かんでいる。

(ダイレクトフィードバックシステムと同様のものか……。だが、シェンショウジンに搭載されてたのとは、おそらく勝手が違うだろう。その違いさえ分かれば……)

「じゃあ、加減の必要はないってわけだ。あたしの唄を聴かせてやるよ」
「そうだ、そいつに聴かせてやるといい。君からのレクイエムをねぇッ!」

囃し立てるウェルを睨み、純は怒りの限り叫んだ。

「許されねぇッ! てめぇのやったことは……許されねぇッ!!」
「許しを請う理由などありませんよッ! さあ、ガングニールの乙女よッ! その力を僕に示してくれぇぇぇッ!」
「さあ、満足させてくれよ? クク……アハハハハ……ッ!」

そして彼女は、所々にノイズが混じった旋律を奏で始めた。



「どういうつもりだよッ! みんな、あんたの事信じてたんだぞッ!?」

クリスは湧き上がる感情のままに叫んだ。

「……」
「あんたを信じた翔を……響を……あんたはッ!」
「私とて……望んでこのようなこと、するものか……ッ! 私は……ただ、奏ともう一度唄いたかった。それだけなのに……ッ!」
「……ッ!」

翼の顔は、今にも泣きそうだ。
クリスには、その気持ちが理解できてしまう。

もしも、死んだ両親を蘇らせることが出来るなら……自分の心は揺れるだろう。
仲間を裏切ってでも叶えたくなってしまうかもしれない。

だが……だからこそ──

「大事な人を蘇らせたい……? あんなクソッタレのあやつり人形としてかッ!? ふざっけんなッ! あんたが望んだものは……こんな事じゃないだろッ!」
「……ッ! それ、は……」

だからこそ、敢えてクリスは今の翼を認めない。

それは8年前、大切な家族との離別を経験したクリスだからこその言葉だった。

「それであの装者が喜ぶと思うのかッ!? 今のあんたはあの装者に胸を張れるのかッ!? あんたが笑ってないんじゃ、意味がねぇだろッ!」
「それでも……私は……私はあああッ!」

〈蒼ノ一閃〉

アームドギアが大剣へと変わり、弾丸を弾きながら蒼き斬撃が飛ばされる。

「てぇぇいッ!」

クリスはそれを避けて跳躍、発砲する。

大剣で弾丸を防いだ翼は、大剣を刀へ戻すとそのまま接近。
着地したクリスに斬りかかる。

クリスは再び銃を交差させてそれを防ごうとするが、翼は寸前で刀を地面に突き刺し、それを軸に回し蹴りを放った。

「ぐあッ!?」

クリスは後方へと吹っ飛ばされる。

蹴られる瞬間、クリスは翼の首に嵌められているそれが、赤く点滅を始めていることに気が付いた。

ff

「切ちゃんが、切ちゃんでいられるうちにって、どういうこと?」

もう隠し通すことは出来ない。そう悟った切歌は、抱え続けてきた恐怖を遂に打ち明ける。

「アタシの中にフィーネの魂が──覚醒しそうなんデス。施設に集められたレセプターチルドレンだもの……こうなる可能性はあったデス」

ようやく聞き出せた、切歌の真意。
だからこそ、調が返す言葉は決まっていた。

「だとしたら、わたしは尚の事、切ちゃんを止めてみせる」
「──えッ!?」
「これ以上、塗りつぶされないために──大好きな切ちゃんを守るために……ッ!」

だが、切歌にも譲れないものがある。
それが猶予のない自分に出来る、唯一の事だと信じて……。

「大好きとか言うなッ! アタシの方がずっと調が大好きデスッ! だから、大好きな人達がいる世界を守るんデスッ! だから、大好きな人たちが居る世界を守るんデスッ!」
「切ちゃん……ッ!」

調はアームを上下に展開、回転率を上げた丸鋸をローターとし、宙へと浮かぶ。

〈緊急Φ式・双月カルマ〉

「調……ッ!」

切歌もまた、両肩のアームを四方に伸ばし、肩アーマーに装備された鎌の刃を展開する。

封伐(ふうばつ)PィNo奇ぉ(ピノキオ)

「「大好きだって……言ってるでしょうおおおおおッ!!」」

互いを思い合うからこそ、その心はすれ違う。
振るわれた望まぬ刃が、大好きな親友を傷つけていく。

そこに、大きな見落としがあるとも気付かずに……。

ff


「世話の焼ける弟子のおかげでこれだ……」
「きっかけを作ってくれたと素直に喜ぶべきでは?」
「フッ……」

弦十郎と緒川は格納庫のジープに搭乗し、出撃の準備を整えていた。

指揮系統は了子が変わってくれている。弦十郎が心置きなく暴れられるよう、取り計らってくれたのだ。

そこへ、インカムが入電のアラートを鳴らす。

「ん?」
『司令!』
「何だ?」
『出撃の前に、これをご覧下さいッ!』

藤尭に言われた通り、緒川がタブレットを開くとそこには……。

『私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるために、フィーネの名を騙った者だ』

フロンティアのブリッジから全世界へと向けて呼びかけるマリアの姿が、テレビ回線を通じて映し出されていた。

『フロンティアから発信されている映像情報です。世界各地に中継されています』
「この期にF.I.S.は何を狙って……?」

緒川と同じ疑問を浮かべていた弦十郎は、眉をひそめながらその言葉に耳を傾ける。

ff

『3ヶ月前のルナアタック──これに端を発する月の公転軌道の異常は、米国・国家安全保障局、並びにパヴァリアの光明結社によって隠蔽されてきた。彼らのように政界、財界の一角を専有する特権階級にとって、月の異常は極めて不都合であり、不利益をもたらす事態だったからに過ぎない。そうして彼らは、自己の保身のみに終始した』

フロンティアの機能により、全世界に向けて放送されるマリアの言葉は、リディアン3人娘やUFZの4人にも聞こえていた。

『──今、月は落ちてこようとしている。これが落ちれば、未曽有の災害となり、多くの犠牲者が出るだろう。私は……、私たちはそれを止めたい。だから、みんなの力を貸してほしい。手立てはある。だが、私1人では足りない。全世界の──皆の協力が必要だ。歌には力がある。冗談でも比喩でもない。本当に歌には力が──『フォニックゲイン』がある。大量のフォニックゲイン、全世界を震わせる歌があれば、月を公転軌道上に戻す事が出来る』

迫る危機への現状を伝えながら、マリアは放送を始める前、ナスターシャ教授から世界を救う方法を示された時の事を思い出す。



「月を? 私の歌で?」
『月は地球人類より相互理解を剥奪するため、カストディアンが設置した監視装置。ルナアタックで一部不全となった月機能を再起動出来れば、公転軌道上に修正可能です……うっ! ごほッ……!』
「マムッ!? マムッ!」
『あなたの歌で世界を救いなさい……』



血反吐を吐きながらナスターシャ教授が伝えてくれた、世界を救う方法。
マリアはそれを実行する為、声を振り絞る。

「目的があったにせよ、私たちがテロという手段に走り、世間を騒がせ、混乱の種を撒いたのは確かだ。全てを偽ってきた私の言葉が、どれほど届くか自信はない……──だが、歌が力となるという、この事実だけは信じてほしいッ!」

そしてマリアは、自らの胸の歌を口ずさんだ。

悪を背負う為ではなく、今度こそ世界を救う為に……。
立ち塞がる現実の只中でなお、世界を救う者(えいゆう)となることを望み望まれたのだから。

「──Granzizel bilfen gungnir zizzl──」

世界中の人々が見る中で、マリアはガングニールを身に纏う。

「私ひとりの力では、落下する月を受け止めきれない……ッ! だから貸してほしい──皆の歌を届けてほしいッ!」

そしてマリアは唄い始める。
溢れはじめる秘めた熱情を、鎧う烈槍に血と通して。

(セレナが助けてくれた私の命で、ツェルトが示そうとしていた気高き精神で、誰かの命も救ってみせる。──それだけが、二人の死に報いられるッ!)



『誰が為にこの声 鳴り渡るのか? そして誰が為にこの詩は 在ればいいか? もう何も失うものかと決めた 想いを重ねた奇跡よ 運命(さだめ)を蹴散らせ──』
「緒川ッ!」
「わかっています。この映像の発信源を辿れますッ!」

緒川がキーを回した、その時だった。

「慎次様、私も同行します」

金髪を右でサイドテールに纏めた青い目の女性黒服職員が、後部の座席に飛び乗って来た。

「春谷さんッ!?」
「櫻井女史より、預かってきたものがあります。これを純くんに届けるように言われました」
「分かりました……しっかり掴まっててくださいッ!」

背負ってきた唐草模様の風呂敷を降ろし、素早くシートベルトを締める春谷。
緒川がアクセルを思いっきり踏み込むと、ジープは全速力で格納庫から発進した。



(ここを登れば、後はまっすぐ進むのみッ!)
(誰かが頑張っている……私も、負けられないッ!)

翔と響は息を切らせながら、中央遺跡の階段を駆け上がる。

背後から爆発音が聞こえ、視界の隅で爆炎が上がっても振り返らずに走る二人。

(涙なんて、流している暇はないッ!)
(進むこと以外、答えなんてあるわけがないッ!)

向かうはブリッジ、マリアの元へ。
全てを一人で背負い込もうとしている彼女と、手を繋ぐために……。

ff

「ヤサシサ? 夢? 要ラナイ棄テタ全テ 夢に見たような 優しい日々も今は──」

突き、薙ぎ、払い……息を吐く暇もなく繰り出される槍さばきを、両腕に盾を構えた純は躱し、防ぎ、受け流す。

刺突武器の一番厄介なところは、その細さで急所をピンポイントに狙えることだ。
奏の撃槍は躊躇なく、純の関節やプロテクターの装着されていない二の腕や腿の部分だった。

突き破られる可能性がないとは言い切れない。
仮にバリアコーティングで出血にまでは至らなかったとしても、痛みは確実に純の俊敏な動きから精彩を削るだろう。

「儚ク消エ マルデ魔法ガ解カレ すべテノ日常が ガラクタと知った──」

その上、アキレウスのアームドギアは盾だ。
形状こそ変幻自在であるとはいえ、直接攻撃の手段としては心許ない。

そして何より、純と奏では戦闘経験に差があり過ぎるのだ。

三ヶ月前、フィーネにRN式Model-0を与えられたことで伴装者となった純。
実戦経験やバトルセンス、潜り抜けた修羅場の数では当然、奏との差が開きすぎてしまっている。

それでも、自分の感覚全てを駆使して奏の動きを読み、なんとか大きなダメージを受けないように立ち回っている。それが奏には面白いのか、その口元が吊り上がる。

「曇リナキ青空の下で唄うより──ハハハハッ! お前、結構やるじゃないかッ!」
「くッ……! 奏さん、目を覚ましてくれッ!」
「目を覚ませ? あたしが寝惚けてるように見えるってかッ!」
「ぐッ!?」

槍撃に織り交ぜられた蹴りを受け、純は後退る。

「ならこいつを受けてみなッ!」

奏が投擲した槍が分裂、大量に複製され、純へと迫る。

〈STARDUST∞FOTON〉

「させるかぁぁぁぁぁッ!」

〈Zero×ディフェンダー〉

純の前面へと、シールドを中心にバリアが展開される。

真っ直ぐに向かってきた槍はバリアに防がれ、奏の手元へと戻っていく。

だが、奏はそこで更に大技を重ねる。
跳躍すると槍を巨大化させ、純へと向かって蹴り貫く構えを取ったのだ。

その姿は、翼の〈天ノ逆鱗〉とよく似ていた。

〈GRAVITY∞PAIN〉

面攻撃だった先程とは違い、大質量による一点集中攻撃……しかも上空から落下する勢いが乗った一撃は、アキレウスから展開されたバリアに亀裂を刻んでいく。

「ぐううう……ッ!」
「頑張るねぇ。だが……果たしていつまで保つかなッ!」
「おおおおおおおッ!」

槍の穂先が深く突き刺さっていくにつれて、バリアに亀裂が広がっていく。

このままでは貫かれる。そう確信した純は、両脚のジャッキを起動して膝を曲げる。

そしてバリアが突き破られた瞬間、純はジャッキが縮む勢いで跳躍した。

「ちッ……外したか」
「はぁ……はぁ……」

舌打ちする奏から少し離れた場所に着地し、純は息を整える。

「まあいい。これで分かったろ? あたしは見ての通りピンピンしてるんだ。寝惚けてちゃ楽しめないだろ?」
「楽しむ……何を?」
「おいおい、何言ってんだ。決まってんだろ?」

純の疑問に、奏はさも当然のように笑って答える。

「殺し合いだよ」
「ッ!?」

まるで、ゲームでも楽しんでいるかのような笑みと共に返された答え。
奏の変貌ぶりに、純は絶句した。

「命と命のやり取り……肌を焦がすほどのヒリヒリした感触ッ! 研ぎ澄ましたこの槍で敵を貫くこの感覚ッ! 血反吐吐いてギリギリまでやりあうこの快感ッ! 戦士として生きる者にとって、こいつは堪らないよなぁ?」
「何故だ……奏さん、あんたはそんな人じゃないだろッ! 翼さんと、あんなに楽しそうに唄っていたあんたはどこへ消えたッ!」
「──歌……? うた……うッ……!」

その言葉に、奏は一瞬頭を抑える。

(ッ!? 洗脳が……揺らいだ?)

だが、すぐに先程までの調子に戻ると、冷たい口調で言い放つ。

「……戦士に歌なんて必要ない。そんなもの、殺し合いの邪魔になるだけだ」
「奏さんッ!」
「歌ってる暇があったら、その分だけ技の冴えを、槍の鋭さを磨いてもっと沢山の敵を斃すべきだ。違うか?」
「違うッ! 俺達を鎧うこのギアは、歌で繋がる力の象徴ッ! 唄い奏でて力と束ねる、それが俺達シンフォギア装者じゃないのかッ!?」
「シンフォギアを纏うための聖詠だけで充分だろ。現にあたしは、()()()()()()()()()()()()だろ?」
「──ッ!?」

その一言で、純はハッとした。

(そういえば、さっきから奏さんは唄っていない……ッ!? なのに大技を連続で使うなんて……技を発動する為のフォニックゲインは──ッ!? フォニックゲイン? まさか……)

そして、純はその予感を信じ、ウェルの方を見る。

そこには、RN式アメノノリゴトを奏で続けるウェルの姿があった。

「そうか……そういう事か……ッ!」

純は確信に満ちた顔で顔を上げる。

窮地の中、活路を見出した純はウェルを、そして奏を真っ直ぐに見据えた。

(見つけたぜ……逆転の一手ッ! 奏さんを正気に戻す方法をッ!) 
 

 
後書き
オリジナル入れるときの詰まっちゃう感じ、もどかしいんだよな……。

操られた奏さんの歪んでる感じ、ちゃんと出せてたら幸いです。
当初はキャラソンの歌詞弄って歌わせるつもりでしたが、中々上手くいかず難航しまして……。
じゃあいっそ、「シンフォギア装者なのに歌を大事にしない、ただ相手を倒す力と技のみで叩き潰す在り方」という表現で歪みを描いたらどうか、という天啓を得て今回の描写へと至りました。
歌って戦うのはシンフォギアのアイデンティティー。これまでずっと、唄ってる描写を大事にしてきた自分だからこそ、歌を蔑ろにする今回の描写で描ける何かがあるのではと思います。

あ、でもちょっとだけ歌ってる部分は残してます。歌詞の一部はサワグチさんが昔ボツにしたものを参考にさせて頂きました。
サワグチさん、ご協力ありがとうございます。

あと何気に春谷さんが本編出演。
外見は早坂さんなのに、唐草模様の風呂敷背負ってるギャップは面白いんじゃないかと思ってやりましたw

次回、純クリ覚醒。ルナアタックから確かに成長した二人の姿、お見逃しなく!



次回──

純「聴かせてやる……俺の音楽をなッ!」

奏「来いよ純、盾なんて捨ててかかって来なッ!」

翼「私は……どうすればよかったのだッ!」

クリス「あんたは……あたしの──」

第38話『先輩』

クリス「次で決めるッ! 昨日まで組み立てて来た、あたしのコンビネーションだッ!」





おまけ

?「ん? パヴァリア光明結社?」
?「あーし達、呼ばれてた?」
?「気のせいだろう。それより醤油とんこつ、おかわりなワケダ」 
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