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神機楼戦記オクトメディウム

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第12話 作戦会議

 泉美がその日も一緒に千影と姫子と一緒に屋上にて仲良く昼食を食べた後の事である。それを見届けた姫子は、早速とばかりにこう言うのであった。
「それじゃあ、泉美ちゃん。『例のもの』を見せてくれる?」
 まるで、裏取引かのような物騒な物言いとなる姫子。だが、彼女が泉美に要求した事を考えれば、あながち大げさではないかも知れないだろう。
 その姫子の覚悟とも言える姿勢を受け取った泉美は心得たといった風にある物を懐から取り出すのであった。
 それは、折りたたみ式の携帯電話であり、泉美が愛してやまない技術の結晶たる『ガラホ』であった。
 決して前回に続いて『またかよ、いい加減にしろ!』等とは言ってはいけない。今回のそれの活躍は、前回の泉美の趣味や目標の為のこだわりな運用方法とは逸しているのだから。
 その証拠を彼女はこれから見せようとしているのであった。
「ええ、千影さんに姫子さん。驚かないで見て欲しいわ」
 そう言いながら泉美はガラホを開くと、画像を閲覧出来るデフォルトのデータベースを見られるアイコンを起動させ、そこで開かれたカテゴリーの内、撮影写真を見る為の所を開く。
 そこには、泉美が撮影した数多くの写真が存在していたのだ。こうして手軽に写真データを保存出来るのが、日本のケータイの強みなのだ。
「うわあ、綺麗なお花がいっぱい~♪」
 その画像集を見た姫子は思わず感嘆の声をあげてしまうのだった。それは彼女とて、女の子であるからそのような絵には心奪われる所であるからだ。
「……姫子さん、今はそういう時ではありませんよ」
「あ、ごめん……」
 だが、泉美に窘められて姫子は地に足を着けるのであった。そもそもこの真剣な話を切り出したのは姫子自身であるからだ。
 なので、彼女は気を引き締め直して泉美に先を促すのであった。
「じゃあ、改めて頼むね、泉美ちゃん」
「ええ、すぐに見せるわ」
 そう言って泉美は、『お目当ての写真データ』のファイルを開くのであった。
 それを見て、一同は刮目する。
「ここが、『敵の本拠地』という訳ね……」
 そう千影が呟く通り、そこには何やら物々しい画像が映っていたのである。
 そう彼女が決め込むのには理由があった。何故なら、その『部屋』の窓に映る景色がとてもこの世のものとは思えなかったからである。
 加えて、その部屋に居合わせている人物達からも、何か得体の知れない雰囲気が感じられるのもあった。
 それらの事を踏まえて、姫子は思わず驚きの声をあげる。
「泉美ちゃん、よくこんなの撮れたね……」
 そう、今敵対している者達の集う姿など、こうも容易く撮影など出来たのかという事であるのだった。
「それはね……」
 言って泉美は説明を始める。シスター・ミヤコの暗躍により大邪へと取り込まれ掛けた彼女。
 だが、そうなりつつも彼女は完全には大邪には染まってはいなかったのであり、故に彼女の中には自身を咎める心が存在していたのであった。
 その為、今後の事を考えて泉美はその時の自分の同志となる存在達の姿を写真に収めていたという事である。
「そうなんだ、さすがは泉美ちゃんだね♪」
 やっぱりこの子は常に抜け目が無いなと、相変わらずだなと姫子は舌を巻いてしまう。しかし、ここで当然のように先程抱いた疑問が再燃してくるのだ。
「でも、よく撮影なんかして咎められなかったね? ケータイで撮影するとシャッター音するし」
 そうであろう。ケータイの写真撮影機能では『常に』シャッター音が鳴る仕様になっているのだ。悪用を防止する意味合いであり、どこのケータイでもそれは変わらないのだ。
 だが、この質問は藪蛇だった事を、姫子はすぐに後悔する事になるのだった。
「よくぞ聞いてくれたわ♪」
 そういつになく意気揚々としながら泉美は、その種を明かす。
「そこで、この【無音カメラ】の出番だったって訳♪」
 そう言いながら泉美は、そこから百聞は一見にしかずという事で実演して見せたのであった。
 暫く泉美は千影と姫子の前でカメラを構えていたが、すぐに「はい、もういいわよ」と言って二人を解放したのであった。
「泉美さん……?」
「今何してたの?」
 目の前でカメラを構えられただけで『何もされなかった』二人は当然首を傾げる。
 そんな二人に、泉美は今し方行った事を証明して見せる。
「はい、これが答えよ」
 そう言って泉美が見せたのは、千影と姫子が屋上にいる所の写真であった。そう、紛れもなく……。
「これってもしかして?」
「って事は、今泉美ちゃんは撮影したって事だよね?」
 それが答えであるのだった。泉美は今二人をまんまとケータイで撮影してしまったのであった。そう、正に『音もなく』である。
「そう、これが【無音カメラ】の力よ。シャッター音を出さずに撮影出来ちゃうものなのよ」
 この機能により、泉美は他の大邪衆に訝しがられる事なく彼等の姿をデータに収める事に成功したという事であるのだった。
「音が無かったからあっさり撮れたわ。ケータイを弄っていた事自体は『まあ、今時の子ならそういうものでしょう』って感じで特に咎められなかったわ」
「それもどうかと思うけどね……」
 姫子は敵の理解あるのか警戒心が無いのか判断に困る所に複雑な気分となるのであった。だが、泉美からすれば敵の姿を映せた事が重要なのであり、敵の思惑は問題にする所ではなかったのである。
 ちなみに、【無音カメラ】はその性質上悪用されるケースもあるのだが、賢明な読者はそのような事は決してしないように。泉美が大邪衆をこっそり撮ったのはどうなのか? となるが、これは大邪との戦いをより早く終わらせる為に必要な事なのであるから問題ない、多分。
 そう、泉美はその写真を二人に公開したのは、大邪との戦いを終わらせ再び平和を取り戻す為の作戦であるのだった。
 そして、今一度その写真を彼女は二人に見せるのであった。
 そこには、リーダー格とおぼしき修道女に、屈強さと紳士性を持った男性と、どこか出不精そうな眼鏡の女性の三人の姿が映っていた。その三人が誰であるか、幸いこの場にいる三人は知っていたのである。
「この男の人はプロボクサーの『ギロチン高嶺』さんよね?」
「それでこの女の人は漫画家の『春日レーコ』先生だよね?」
 その者達は千影と姫子にも見知った顔の有名人であった為に、彼女は皆一様に驚きの言葉で以って口にするのであった。
「こんな有名な人達が……大邪に……?」
「有名とか、そういうのは関係なくあの人と大邪は人の心の中に入り込んで来るわ……私の時のようにね!」
 そう言って泉美はあの時の自分がいい例だと、自らの例を利用して二人に言い聞かせるのであった。その説得力のある物言いに、二人は素直に頷く。
 そんな二人を見ながら懸命な態度だと感心しながら、泉美は話を進めて行くのであった。
「それで、このリーダー格とおぼしき修道女の人だけどね、こうして今同志を二人も引き抜かれていて、加えて増員で狙った私を手中に収める事にも失敗しているから……次は本腰を入れてくると思うわね」
 その自身の読みを、泉美は二人に伝えたのであった。
「あ、それじゃあ、次は残りの二人を同時に仕掛けて来るとか……」
 その可能性を示唆する姫子であったが、対して千影は首を横に振ったのである。
「姫子、その二人はプロボクサーと漫画家という、かなり対照的な役職の者よ。それを同時にけしかけるなんて相性が悪くなると思うわ」
 そうであろう。方や日頃の鍛錬が欠かせない肉体を行使する役職、方や部屋に籠もり手先を酷使するデスクワーク……どちらも相当の忍耐を要する役職であるという共通点はあれど、行使する内容は正に正反対と言える所であろう。
 そう意見する千影に、泉美は頷きながら同意する。
「さすがは千影さんね。忍者故に洞察力が鋭いわ。あ、勿論姫子さんがそうでないとは言ってはいないわ」
「ううん、構わないよ。抜け目のない千影ちゃんや、頭のいい泉美ちゃんと比べたら私は鈍チンもいい所だからね~☆」
 そうおどけて見せる姫子には、全くの自虐的な印象はなく、その天真爛漫さには千影も泉美も安心する所であるのだった。こういう気を張らない性格というのは二人にはない、評価すべき所なのだから。
 そう安堵する一人の泉美は、それを有難く思いつつも話を続ける。
「それで、千影さんの言う通り、リーダー格は高嶺さんとレーコ先生を同時には仕掛けないと思うわ。それで、ここからは私の読みとそれに対する作戦を言うわね……」 
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