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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第35節「わたし達に出来ることで」

 
前書き
遅れたけれど、なんとか完成!

ウェルのカルマ値が振り切れるシーンがやって来ましたね。
皆さん、殺気立たないように。怒りに我を忘れてコメ欄荒らすとかしないでくださいね?
後でちゃんとこれまでの分を返しますので。

それから一部のファンの皆さんへ。
とうとう姫須さんが本編デビューです。拍手でお迎えください。

推奨BGMは『Bay-Bay Lullaby』でお送りいたします。 

 
『御覧くださいッ! 大規模な地殻変動が発表された海域にて、軍事衝突ですッ! 米国所属の艦隊が一瞬で……ッ!? うわぁーッ!?』

沖ノ鳥島での騒ぎを全国中継していた取材ヘリが潰され、テレビの映像は『緊急警報放送テスト』と書かれた文字が映る画面に切り替えられる。

「テラジ、こういう事件って……」
「まさか立花さん達も……?」
「関係してたりして……」

リディアン三人娘は、街角で街頭テレビを見上げる。

「ってことは翔や純は今……」
「戦っているんだね……?」
「ああ……僕達を守るために……」
「小日向さん……」

そしてUFZの四人もまた、今朝から学園を休んでいる親友達を憂い、拳を握るのだった。

ff

「ドクター……ッ!」
「行きがけの駄賃に、月を引き寄せちゃいましたよ」
「月をッ!? 落下を早めたのかッ!? 退きなさいッ!」

悪びれもせずに自分が今やらかした大暴挙を語るウェル。
マリアは彼を押しのけると、慌ててコンソールに触れる。

「救済の準備は何もできてないッ!これでは本当に人類は絶滅してしまうッ!」

しかし、コンソールは全く反応せず、発光していた幾何学模様の光が消える。

「……どうして、私の操作を受け付けないのッ!?」
「うひひひ……LiNKERが作用している限り、制御権は僕にあるのです。この左手は、触れた箇所から全てをコンソールとして扱えるんですからねぇ」
「そんなッ!?」
「他方からの制御も全て僕の承認が必要。勿論、委任も解任も自由自在……フロンティアの支配者は僕なんですよッ!」

マリアは絶句した。

こんな男を自分は庇ったのかと後悔した。こんな男に自分は付き従ってしまったのかと、今になって自らを呪った。

「なぁに、人類は絶滅なんてしませんよ。僕が生きている限りはね。これが僕の提唱する、一番確実な人類の救済方法ですッ!」
「圧倒的な力を以て蹂躙し、自らを讃える者だけを生かす……それが救済だとッ!? そんな事の為に、私は悪を背負ってきたわけではないッ!」
「ハッ!」

ウェルに掴みかかろうとするマリア。
だが、彼女がそうすることを見越していたウェルは容赦なく、嘲笑と共に彼女の頬を打った。

彼女の妹を殺した存在の因子が宿った、その左手で。

「う……ッ!」
「ここで僕に手をかけても、地球の余命があと僅かなのは変わらない事実だろう? ダメな女だなぁ!」
「うぅ……ッ」
「フィーネを気取っていた頃でも思い出して、そこで恥ずかしさに悶えていなッ!」

倒れたマリアの目に、涙が浮かぶ。
それさえも、他人を顧みる心を持たない“天才(テンサイ)”は嘲笑った。

「セレナ……ツェルトぉ……わたしは……ッ! うっ……うぅっ……」
「気の済むまで泣いてなさい。帰ったらぁ~、僅かに残った地球人類をどう増やしていくか、一緒に考えましょう」

遂に心が折れ、嗚咽と共に泣き崩れるマリアを見下ろして、ウェルは外へのエレベーターへと向かって行く。

「そうそう、愛しのツェルトくんですが……彼、もうこの世には居ませんよ」
「え…………?」

信じられない。そう言いたげなマリアの顔を振り返り、ウェルは口元を吊り上げた。

「最後まで僕の夢を邪魔しようとしてましたからねぇ。あんな駄犬、手元に置いておくだけ危険ですし」
「そんな……ツェルトが、死んだ……?」
「ええ。今頃は波風に吹かれ、海の底に沈んでるんじゃないですかねぇ~。懺悔しながら弔ってあげれば、彼も満足するんじゃないかなぁ」

ウェルの言葉は、マリアの心を深く抉った。

(私のせいだ……。私が悪を背負おうとなんてしなければ……私が道を外れたから、ツェルトは私の代わりに正義を為そうとして……ッ)

妹が目を覚まさなくなって以降、ずっとすぐ傍で支えてくれた少年。

心が弱い自分を守ってくれた彼。寄り添ってくれたパートナー。

そして、今更ながらようやく気付いた……大切な人。

今、世界で最も自分を愛してくれた存在はと聞かれれば、彼女はきっと彼の名を挙げるだろう。

……だが、そのツェルトはもう、この世に居ない。

幼い頃、彼女のヒーローになると……読み古したコミック本を片手に語った彼は、自分の与り知らぬところで命を散らしていた。

その報せが、マリアの折れた心に更なる絶望を群がらせていった……。

「うぅ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「では、僕はまだやることがあるので失礼しますよ。僕が最高の英雄になる為の、最後のピース……うひょひょひょひょひょ……楽しみだなぁ……ッ!」

ウェルの姿が階下へと消えていく。

残されたマリアはただ泣き叫ぶのみで、ブリッジには彼女の慟哭だけがこだまし続けていた……。











「……マリィッ!」

飛び起きると、白い天井が見えた。
見回せば見慣れない部屋……どうやらどこかの医務室らしい。

「っ……助かった……のか……?」

ベッド脇のモニターには、ヘ音記号の下に『S.D.A.U』と書かれたエンブレムが表示されていた。
どうやら俺は、特異災害対策機動部二課に助けられらしい。

ウェルの野郎にエアキャリアから落とされた俺は、迫るノイズを前に死を覚悟した。

でも……俺は諦めきれなかった。
声が聞こえたんだ。どこか懐かしくて優しい声が、諦めないで……って。

だから俺は、血反吐を吐きながら起動したエンキドゥでノイズを全て迎撃し、海へと落ちたわけだ。

その後の事は覚えていない。
ただ……夢を見ていた事だけは覚えている。

「マリィが……泣いていた……」

夢の中で、マリィが泣き叫んでいた。
俺が何度手を伸ばしても、その手は届かなくて……そして次の瞬間、誰かに背中を押されたような気がする……。

あの声といい、あの手といい……まるで俺を励ますような温かさは……。
もしかすると、セレナが俺を守ってくれたのかもしれないな。

──とにかく、まずはあいつらと話さないと……。情報の共有を……。

ベッドから降り、着替えようとしたその時……

「な……何してるんですか……?」

振り向くとそこには……二課の制服を着た、気の弱そうな女性が立っていた。

ff

その頃。二課仮設本部ネオ・ノーチラスはフロンティアの浮上に巻き込まれ、大陸の片隅に打ち上げられた状態となっていた。

「下からいいのを貰ったみたいだ」
「計測結果が出ましたッ!」

友里は、藤尭が計測を終えたデータをモニターへと回し、報告する。

「直下からの地殻上昇は、奴らが月にアンカーを打ち込むことで──」
「フロンティアを引き上げたッ!?」
「はい、それだけでなく、月の公転軌道にも影響が……ッ!」

弦十郎を始め、緒川や了子までもが驚いて口を開けた。

「ウェルくん……これがあなたの言う“英雄”の姿なのね……」
「奴らの目的が何であるにせよ、フロンティアを止めねばならない……クリスくん、純くん──いけるか?」
「ったりめぇだッ!」
「無論です」

クリスと純は包帯を外し、ブレスレットを嵌め直す。

「──クリスちゃんッ!」
「心配すんな。あたしはもう、独りじゃねぇよ」

自分を案じて声をかける響に、クリスは微笑みながら答えた。

「行ってくるよ」
「ああ。健闘を祈る」

翔は純と拳を突き合わせ、笑みを交わした。

そして、赤き装者と白銀の伴装者は共にハッチへと向かい、出撃していった。

ff

「──というわけで、俺はエアキャリアから落とされることになったわけだ」

俺は着替えながら、彼女にここまでの経緯をかいつまんで語った。

その職員は、話してみればとても人の善い性質(たち)をしていた。
どうやら、眠っている俺を見張る事を任された職員らしい。

さっきまで見張っていた職員と交代したところで、起きた俺と出くわした……という事らしい。
あまり厳重な体制でない辺り、信用されている……という事だろうか?

「──そう……翔くんの友達なんだ」
「友達って程じゃない。ただ、アイツは俺に道を示してくれた。だから信じただけだ」
「でも、翔くんと君って、似た者同士だと思うよ?」
「どういう事だ?」

着替え終えた俺は、義手を着け直しながら首を傾げる。
RN式とMark-Ⅴはどうやら、ドクター櫻井に預けられているらしい。当然の処置だな。

「翔くんから聞いたところ、ジョセフくんはマリアさんを守る為に戦ってきたんだよね?」
「ああ……だからこそ、俺はこんなところで寝ている暇はないんだ」
「うん、やっぱり似てるよ。翔くんは響ちゃんや翼ちゃん、大好きな人達を守る為に戦っているの」
「そうなのか……?」

そう言えば、あいつがどうして戦っているのか……その信念まではまだ知らないな……。

その職員は頷き、静かに語りだした。

「翔くんはね、お姉さん……翼さんや風鳴司令、それからお父さん、家族みんなが大好きなの。この国に住まう人々を護るために戦う……そういう家系に生まれて、そんな家族に憧れて、そして自分もそうなりたくて、二課への編入を志願していたの」
「そうだったのか……」

家族、か……。
俺もマリア達もみんな、血のつながった家族は何らかの形で喪ってしまったが、F.I.S.の皆は家族みたいなもんだからな……。

マムは厳しいけど……でも、本当は優しい人だって知っている。

なんだ……あいつが守りたいものってのは、俺と同じものじゃないか……。

「それじゃジョセフくん、私についてきて。あなたが起きたら発令所に連れて来るようにって言われてるの」
「分かった、案内よろしく頼む。……えっと……」

しまった、そう言えばまだ名前を聞いていなかった。

すると彼女は俺の意図を察したようで、屈託のない笑顔で名乗ってくれた。

「私は二課娯楽施設管理担当、姫須晶(ひめすあきら)。よろしく、ジョセフくん」

ff

『挨拶模様のガトリング ゴミ箱行きへのデスパーリィー──』

イチイバルの圧倒的な火力による広範囲殲滅射撃。
それを抱え、戦場を駆け抜けるアキレウスの超スピード。

純がクリスをおぶって戦場を疾走し、尚且つクリスがスカートパーツを純の動きに干渉しない位置へとスライドさせることで、二人の装者は、二人で一人の移動砲台となっていた。

足アーマー側部から展開されたホイールで加速する純を、阻める者はいない。
その速さはノイズに先制の権利も、反撃の隙も認めず、クリスはただひたすら引き金を引く事に集中できる。

形容するならば、自動砲撃型バックパックを装備した地上戦用人型強襲機。
迫るノイズはどんどん殲滅されていく。

「さすが、クリスちゃんと純くん……ッ!」
「こちらの戦力は、装者が2人……。対するあちらには、装者が2人にソロモンの杖、更には翼さんとも戦闘になる可能性がありますからね……」
「姉さん、手加減とかしてくれないだろうからな……」

だが、不安はある。
これだけ連携の取れた二人でも、戦力はあちらの方が上なのだ。

更に、フロンティアの内部に侵入者に対する迎撃システムが存在しないとも言い切れない。
楽観はできないのだ。

「……いえ、シンフォギア装者は2人だけじゃありませんッ!」

響の言葉に、弦十郎が厳しい顔で振り返る。

「ギアのない響くんや翔を戦わせるつもりは無いからなッ!」
「戦うのは、わたしじゃありませんッ!」

何処か確信めいた表情で言う響。
その時、発令所の自動扉が開く。

「そうだ……お前達だけに、任せておけるかよ……ッ!」
「ツェルトッ!?」

そこには、姫須に案内されて来たツェルトが立っていた。



「捕虜に出撃要請って──どこまで本気なの?」

手錠を外されながら、調は訝し気な表情でそう言った。

「もちろん全部ッ!」
「あなたのそういうところ、好きじゃない──。正しさを振りかざす、偽善者のあなたが……」
「調ッ!」

調の言葉に、ツェルトが厳しい顔をする。
まるで、娘の非礼を叱る父親のようだ。

だが響は、今度は調の言葉に表情を曇らせることなく、ただ困ったように笑った。

「わたし、自分のやってることが正しいだなんて、思ってないよ……」
「……ッ」
「以前大きな怪我をした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね……。わたしが家に帰ってから、お母さんもお祖母ちゃんもずっと暗い顔ばかりしてた……」
「響……」
「それでもわたしは、自分の気持ちだけは偽りたくない……。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる──」

響はそう言って自分の両の掌を見つめ、そして調の目を真っ直ぐに見つめた。

「手を繋ぐ……そんなこと本気で……」
「だから調ちゃんにも、やりたい事をやり遂げてほしい……。もしもそれがわたし達と同じ目的なら、少しだけ力を貸してほしいんだ」

そう言って響は、調の手を両手で包むように握る。

調は驚いたように目を見開いて、そして瞳を揺らす。

「わたしの、やりたい事……」
「やりたい事は、暴走する仲間達を止めること──でしたよね?」

緒川からの言葉に、調は響の手を離すと顔を後ろに背ける。
彼女の両目に涙が浮かんでいたのを、その場の誰もが見逃さなかった。

「……みんなを助けるためなら、手伝ってもいい。だけど、信じるの?敵だったのよ?」
「安心しろ。こいつらはそんな、みみっちい事言わないお人好しだ」

ツェルトは肩を竦めながら、この場の全員を見回し苦笑した。

「敵だとか味方とか言う前に、子供のやりたい事を支えてやれない大人なんて、格好悪くて適わないんだよ」
「師匠ううぉぉぉぉーーーッ!」
「ッ! そうか……あんたもドクター・アドルフと同じことを言うんだな……」

弦十郎の言葉に、ツェルトはF.I.S.で最も信頼した男を重ねる。
そして彼は確信した。翔だけではない、彼らは……特異災害対策機動部二課は、信頼に値する者達なのだと。

「はい、あなた達のギアよ。念の為、しっかりメンテナンスしておいたわ」

了子から調とツェルトへ、それぞれのギアが返される。

「こいつは可能性だ。君達の行動が、最終的にフロンティアを止める事に繋がると信じている」
「……相変わらずなのね」
「甘いのは分かってる、性分だ」

と、いつか言ったような気がする言葉に、弦十郎は目を見開く。

(──ッ!?相変わらず、だと……?)
(今の言動……まさか、彼女は──?)

弦十郎と了子は、調の微笑みの中に、遠く懐かしき彼女の面影を垣間見た気がした。

「ハッチまで案内してあげるッ!急ごうッ!」
「バイクはあるか?貸してもらえるとありがたいんだが……」
「調査部が使用しているものがある。叔父さん、一台貸してもいいよな?」

調は響に引っ張られるように。
ツェルトは翔に案内される形で下へと降りていく。

それからしばらくして、格納庫より降下されたタラップから二つの影が発進した。

「あっ!?響、翔くんッ!?」

未来の声に、友里が慌てて映像を拡大する。
そこには、調の禁月輪に乗った響と、ツェルトが借りたバイクの後ろに跨る翔の姿が。

「何をやっているッ!お前達を戦わせるつもりは無いと言ったはずだッ!」
『戦いじゃありませんッ!人助けですッ!』
「減らず口の上手い映画など、見せた覚えは……翔、お前かッ!」
『叔父さん、許して欲しい。でも、ジーッとしててもドーにもならないんだ。戦う力がなくたって、できる事はあるッ!』
「むぅ……ッ!」
「まあまあ、いいじゃない。こうなると思って、私も翔くんにRN式返しちゃったし」
「了子くん、君も共犯かッ!」

弦十郎は思わず舌を巻いた。
こうなった二人を止めることは出来ないと分かっているからだ。

「行かせてあげてください。人助けは、一番あの二人らしいことですから……」

そんな二人を見て、未来は微笑む。
どんなに響が遠くに行っても、心配しながらも彼女の帰りを信じて待つ。

それが本来の小日向未来、立花響の尊き陽だまりなのだ。
神獣鏡の呪縛から解き放たれ、改めて彼女は自分に出来ることを再認識した。

「ふっ……こういう無理無茶無謀は、本来、俺の役目だったはずなんだがな」
「弦十郎さんも?」

愛弟子達に先を越されてしまったものの、その成長は何処か嬉しいものが込み上げる。
弦十郎の顔には、笑みが浮かんでいた。

「帰ったらお灸ですか?」
「特大のをくれてやるッ!だから俺達はッ!」
「バックアップは任せてくださいッ!」
「私達のやれる事でサポートしますッ!」
「弦十郎くんが出た後の指揮は任せて。戻るまでの間くらい、私がもたせてみせるわッ!」

ギアがなくとも出撃した二人に続くように、大人達が次々と気合を入れ直していく。
夢を抱いた子供達の前に道を切り拓くためなら、冗談抜きで命を懸ける。

特異災害対策機動部二課は今、この未曽有の危機に対して不退転の意志を以て立ち向かう事を宣言した。

「子供ばかりに、いい格好させてたまるかッ!」 
 

 
後書き
……というわけで、ツェルトは無事でした。
でもマリアさんのメンタルはボドボドです。おのれウェル!

え?純クリなんかシュールな気がする?戦場で何をバカなことをって?
いや~、シンフォギアならこのくらいの戦法はやるでしょ()

そして名有り職員ファンの皆さんへのサービス、姫須さん本編デビュー!
ぞの内他の皆さんも出て来ることでしょう。

それでは次回もお楽しみに! 
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