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Fate/WizarDragonknight

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夜の奇襲

「葬る!」

 信じられないスピード。黒髪の女性は一気にこちらへ詰め寄り、ウィザードへ斬りかかる。

「っ!」

 ウィザードはソードガンで、その太刀を防いだ。銀の刃が、日本刀を受け止める。
 彼女は身を翻し、さらなる斬撃で攻め立てる。
日本刀を使う敵。可奈美という比較対象と比べてみると、どちらの技量が上か、優劣などつけられなかった。
だが、彼女が可奈美よりも明らかに優れている点が一つ。

「喉元を狙ってくる……っ!」

 黒髪の女性は、ソードガンとの打ち合いではなく、ウィザードの急所へ刃を走らせていた。ウィザードとしての肉体強化がなければ、すでにこの世にはいられない猛攻に、ウィザードは冷や汗を流す。

「重い……っ!」

 華奢な女性の腕力としては信じられない力量に、ウィザードは慄く。
 可奈美のそれとは比べ物にならない、攻撃性と容赦のなさ。ファントム以上の脅威に、ウィザードのソードガンを握る力が強まる。

『ディフェンド プリーズ』

 ウィザードが盾とした魔法陣を容易く両断し、黒髪の女性は更に詰め寄る。

「またか!」
『ディフェンド プリーズ』

 再び発生する魔法陣。今度は防御としてではなく、黒髪の女性を突き飛ばすためのものとしての使用だった。
 腕でガードした彼女は、そのまま地面を転がる。

「……やるな」
「まだだ!」

 すさかずウィザードは、ルビーの指輪をサファイアに取り換える。起動したウィザードライバーへ、サファイアの指輪を投げるように読ませる。

『ウォーター プリーズ』

 発生した青い魔法陣を突っ切り、ウィザードの姿が火から水へ変わっていく。

『スイ~スイ~スイ~』

 水のウィザードは、敵へ斬り結ぶ前に指輪を入れる。

『リキッド プリーズ』

 水のウィザードの特性たる、魔力の多さ。それが可能にした体の液状化により、彼女の刃が体を貫通した。

「……⁉」

 黒髪の女性は、少なからず驚愕を露にした。その隙を見逃さず、彼女の肩に蹴りを入れる。
 怯んだところへ、さらにウィザードは指輪を入れる。

『ライト プリーズ』

 ウィザードの手から、眩い光が放たれる。それは、暗闇に慣れた黒髪の女性の視力を麻痺させた。

「っ……!」
『ウォーター スラッシュストライク』

 目を奪われている彼女へ、ウィザードは青い斬撃を与える。
 だが、敵もさるもの引っ搔くもの。視界を潰したというのに、その日本刀でウィザードの斬撃を防いだ。

「すごっ……!」
「造作もない」
「造作もないの基準が絶対におかしい……!」

 目が慣れてきたのだろう。黒髪の女性は、すぐにこちらを睨めるまで回復した。

「お前……サーヴァントではなくマスターが戦うのか」

 赤く、冷たい眼差しで黒髪の女性が語る。
 彼女の言葉を理解する前に、黒髪の女性が突進してきた。卓越した動きは、ウィザードの反撃を掻い潜り、その刃を仮面へ迫らせる。

「もう止めてください!」

 間に割って入る、黄と白の鋼鉄。
 ガントレットで刃を防ぎ、そのまま黒髪の女性の腹へ掌底を食らわせる。

「っ!」

 反対側のウィザードにも跳ね返る衝撃。
 だが、黒髪の女性は数度地面を跳ねた後、 その反動を利用して着地。足が地面を引きずったが、ほとんど無傷のままこちらを見返した。
 響は彼女へ向き合う。

「どうして戦うんですか? 私たちは、語り合うことだってできるはずです!」
「語り合う……?」

 彼女の前髪が、赤い右目を隠す。顔に陰りがある彼女は、そのまま冷たい声で語った。

「聖杯戦争。そのサーヴァントならば、語り合う必要もない。私たちはそれぞれの願いのために戦う。それだけだ」
「違います! そもそも、私たちサーヴァントがいること自体が間違っています」

 響の言葉に、ウィザードは押し黙っていた。

「響ちゃん……それって……」
「ハルトさん……」

 響は数秒ウィザードを振り替える。彼女はしばらくウィザードを見返したあと、ゆっくりと頷いた。

「分かっていますよね? ここは、私たちがいるべき世界じゃない……! この世界は、この世界の人たちに任せるべきです!」
「……サーヴァントなのに、聖杯戦争には消極的なのか」
「私たちは、英霊でしょう⁉ 人を傷つけるためにその力を振るったわけじゃないでしょ⁉」

 だが、その言葉は黒髪の女性を押し黙らせた。彼女は静かに目を落とし、自らの刀を見下ろす。
 やがて、響に向けられた彼女の深紅の眼差しは、赤特有の明るさはなく、暗い闇ばかりが広がっていた。
 
「私に、和解などというものはあり得ない。生き延びたいのなら去れ」
「去らない!」

 だが、響は諦めない。

「私は立花響ッ! 十五歳! 誕生日は九月の十三日で、血液型はO型! 身長は157㎝、趣味は人助けで好きなものはごはん! 彼氏いない歴は年齢と同じ! ……私はあなたのことも知りたい!」

 彼女のひたむきな声に、ウィザードは呼吸すら忘れていた。
 
「響ちゃん……?」
「私たちは、分かり合うための言葉がある! 手をつなぐことだってできる! 殺し合う理由なんてない!」
「……」

 黒髪の女性は大きく息を吐く。

「言葉があれば、分かり合えるとでも……?」
「?」
「戯言だな」

 吐き捨てた彼女は、刀を数度回転させる。

「言葉が通じる怪物が、この世には大勢いる。お前にとって、私がそうであるように」
「だとしてもっ! 私は、手をつなぐことを諦めたくない!」
「時間の無駄だ。サーヴァント、アサシン。来い。ランサー。ランサーのマスター」

 黒髪の女性、アサシンが身構える。

「葬る!」

アサシンは、弾丸のようなスピードで迫ってくる。
 
「! 響ちゃん!」

 アサシンのダークカブトに匹敵する速度に、反応が遅れた。
 ウィザードは響を突き飛ばし、その体にまともにアサシンの刀を受けた。

「うっ!」

 サファイアのプロテクターを貫通し、生身の体に傷が入る。リキッドの効果が切れた体を地面に放り投げられた。

「っ……⁉」

 起き上がった瞬間、ウィザードは体を締め付ける圧迫感に押された。

「何だこれ?」
「終わりだ」

 アサシンは吐き捨てる。
 その瞬間、ウィザードの全身に黒い文字模様が走り出した。
 それは、彼女によってつけられた胸の刀傷からのものだった。
 アサシンは静かに告げる。

「村雨は一撃必殺。傷を付けられたものは死ぬ」
「なんだよそれ……反則だろ……!」

 ウィザードは、ひざを折った。呪詛がじりじりと体を駆け巡っていく。
 首に、心臓に達し、もうだめだと目を閉じたその時。

『ゴー! ド ド ド ド ドルフィン』

 ウィザードの体に、紫の光が降り注ぐ。
 光の粒子が体に蓄積されればされるほど、ウィザードの苦しみも和らいでいった。

「何?」

 アサシンは怪訝な顔を見せる。
 毒素が抜けた。
 立ち上がり、両手を見下ろしたウィザードは、間違いなく生きていることを確認するように全身に触れる。

「助かった……のか?」
「ああ。助かったぜ」

 突如として、背後から駆けられる新たな声。
 振り向けばそこには、金色の人影がいた。
 ライオンを人型にしたような人物。緑の瞳と黒い下地のライダースーツの他は、金色のアーマーを付けていた。

「くぅ~! 苦しんでいるライバルを助けるとか、俺って良い奴~!」

 金色のライオンは両手を腰に手を当てて感激した声を上げている。
 彼はそのまま、響へ手を振る。

「おい! 響! こんなところで何してんだ? 変身までして」
「コウスケさん!」
「コウスケって……」

 金色のライオンの姿を見る。以前あった行き倒れの大学生の姿を、どうしても重ねることはできない。
 それを察したのか、コウスケらしき金色のライオンは、両手をパンパンと叩いた。

「安心しろ。この姿はビーストっていうんだ。そのまんま、ビーストって呼んでくれよハルト」
「俺の正体は知っているのかよ……」
「声一回聞いたんだから分かんだろうが」
「いや、覚えてないんだけど……」
「かぁーっ! お前も結構冷たいねえ!」

 コウスケが正体らしき金色のライオン改めビーストは、そのままウィザードとアサシンの間に立ち入る。

「んで? 響、あれが人様のサーヴァントって訳だな?」
「うん。アサシンだって」
「あいつからサーヴァント全員倒したら、願いが叶う……と」

 サーヴァントを倒したら、願いが叶う。そのことを理解していることから、ウィザードは彼が聖杯戦争の参加者だということを理解した。

「おい、コウスケ……まさか……」
「ああ。俺が、響の……ここはマスターらしく言うか。ランサーのマスターだ」
「っ!」
「……コウスケさん」
「だぁーっ! 皆まで言うな」

 ビーストは響の言葉を遮った。

「俺は別に願いなんて興味ねえよ。こちとら大学終わった帰り道で疲れているんだっつーの。早くテントに戻ってバタンキューしてえだけだ」

 ビーストがため息をつく。その一拍の中で、
 アサシンが肉薄する。

「!」
「葬る」

 彼女の冷たい声。ビーストの運動神経が優れていなければ、明らかに彼の命はなかった。

「危ねえな!」
 
 ビーストは足技で反撃する。だが、斬られただけで命を奪う刀を持つアサシンに対し、ビーストは全力で攻撃できなかった。

「だあもうっ! めんどくせえ!」

 ビーストは声を荒げる。ライオンが彫られたベルトに付いたホルスターから、何かを取り出した。右手中指に取り付けたそれは、ウィザードにとっては見慣れたものだった。

「俺と同じ……指輪?」

 ビーストはその声には応えず、ベルト上部に取り付けられたソケットに押し当てる。そのまま捻ることで、ベルトの音声が起動した。

『カメレオン ゴー カカッ カッカカッ カメレオー』

 ビーストの右側に、緑の魔法陣が出現する。ウィザードのものが円形なら、それは角ばった直線的な魔法陣。それがビーストの右肩___紫のイルカを肩に乗せた紫マント___を通過する。すると、イルカの頭は、緑のカメレオンのそれに変わった。マントもまた緑のものへ交換され、ビーストはそのマフラーをはためかせる。

「これでも食らいやがれ!」

 ビーストが大きく肩を振る。カメレオンの舌部分が大きく伸び、アサシンの腕右腕を捉える。

「その物騒なもん、放しやがれ!」

 勢いよく引き寄せると、アサシンの体が宙を浮いた。

「響!」
「はい!」

 ビーストの掛け声に、響が応じる。
 彼女は一直線にアサシンへ接近。かかと落としで妖刀を地面に叩き落とす。
 そのまま響は、アサシンと格闘戦に持ち込む。二人が同時に着地したとき、すでにアサシンの腹には、響の掌が当てられていた。

「はっ!」

 響の大声。ハッケイと呼ばれる中国武術が、アサシンを大きく突き飛ばす。

「……くっ……」

 だが、それでもアサシンは倒れなかった。少し体勢を崩しかけた程度で、変わらぬ殺意の目を響とビーストを睨んでいた。
 だが、臆することを知らぬ響は、彼女へ尋ねる。

「どうしても、戦いを止めてはくれませんか?」

 その問いに、アサシンはしばらく黙っていた。
 やがて、ゆっくりと口を開く。

「争わずに済むのなら、それに越したことはない」
「!」
「だったら……!」
「私の命は、無数の命の上にある。戦いを止めることは、もうできない」
「そんな……」
「話は終わりだ」

 アサシンはそれ以上耳を貸さず、静かに刀を拾い上げる。

「葬……」

 踏み出した彼女の足が止まった。

 同時に、響もビーストも、ウィザードも止まった。
 上空から、溢れていたのだ。
 黒い光が。
 そして、その中心にいる、黒衣の天使が。

「……キャスター……っ!」

 聖杯戦争始まって以来の最初の敵であり、ウィザードにとっての最強の敵。

 キャスターがいた。 
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