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インフィニット・ソード

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SCENE9「一夏の軌跡」

 
前書き
一夏のネクストワンデビューの話です。 

 
 一夏が、IS学園へ入る数か月前の出来事であった。その時彼は第一希望である藍越学園の試験会場とIS学園の試験会場を間違えてはいってしまい、そこで展示されていた一機のISに触れた途端に偶然ともいえる奇跡で、女にしか扱えない兵器を男である自分が起動させてしまったのである。そこを、運悪く試験に入ってきた関係者の女たちに見られてしまったことから、世界的イレギュラーなレッテルを張られてしまう羽目になる。
 そんな彼を見かねた姉の千冬は、弟である一夏をIS学園へ入学させることにしたという。しかし、考えてみればイレギュラーの彼がその原因である巣窟に入るというのだから、大いに逆効果だといえよう。当然一夏は拒否して藍越学園の受験を希望するのだが、千冬は一向に耳を貸さず、多忙すぎる仕事ゆえに滅多なことでは一夏の前に帰ってくることはなかった。
 そんなことで、結局一夏は自身で一人悩むことなる状況へと陥ってしまう。
 「……よし!」
 自室で荷造りを終えて、リュックを背負った。クシでオールバックの髪型を整え、愛用の革ジャンを羽織り、首元にアクセサリーをかけた。そして両耳に――ピアスに変わってイヤリングを付けた。
 「今日こそ、家を出るぞ!」
 今日こそはという、一夏の選択の意思は強かった。
 自身の選択を聞いてくれない、世界から敵視される、今後は誰かに監視されながらの生活、それならいっそのことこんな世界から違う世界へ移り住んだほうがましだと思った彼は、家出を決意。そもそも、これは自分がISを起動させなくても薄々考えていたことだった。
 彼がISに振れようが触れなかろうが、織斑千冬の弟というレッテルによって誰も彼を一個人とは認めてくれない。千冬の弟ならできて当たり前、千冬の弟なのに何故できない? そんな劣等感に苦しめられる生活なんてまさに地獄だった。
 だから、彼は今回ISの一件によってこの家から出て、姉から逃げようと思ったのだ。
 置手紙も残して、いざ家を出ようとしたときだった。
 玄関の前でインターホンが鳴った。それにビクッとする一夏は恐る恐るドアを開けてみると……
 「あら、こんにちは」
 そこには、見知らぬ女性と数人のスーツを着た男性たちが彼の元を訪ねてきた。
 「は、はい――誰?」 
 「ああ、ごめんね。国連軍の者よ」  
 「!?」 
 軍と聞いて、自分をモルモットにするために攫いにきたのかという警戒感と疑心が芽生え、とっさに身構えを取った。
 が、女性は慌てて誤解を取り始める。
 「ああ、誤解しないでちょうだい。別に貴方を誘拐しに来たわけじゃないから。どっちかっていうとスカウトしに来たのよ」
 「す、スカウト?」
 「とりあえず、此処じゃ何だし――上がってもいいかしら?」
 「……俺、今から出かけるんですけど」
 「家出しに?」
 「ど、どうしてそれを――」
 「あなたのデータは一様見させてもらったから。とりあえず、本当に悪いようにはしないから、家に上がらせてもらってから話をしてもいい?」 
 「……」
 隙を見て逃げ出そうとするわけにはいくまい。後ろにはスーツを着た男たちはいかにも強そうだし……
 「手短になら」
 そういって、玄関に男性たちを残して彼女一人が家に上がらせた。
 「何か飲みますか?」
 家に上がらせた以上、客としてもてなさなくてはならないと篠ノ之家の恩師に教わったこともあって、彼は一様この女性も客としてもてなすことにした。
 「じゃあ、紅茶貰えるかしら? なかったコーヒーでいいわよ」
 「どうぞ――」
 そういって、彼は女性の前に紅茶を置いた。
 「それで、話って?」
 向かい合わせのソファーに座って、一夏は紅茶を飲む彼女に訊ねた。
 「ああ、そうだったわね。実は……」
 そういうと、女性は一枚の名刺を彼に手渡した。
 「アナハイム・エレクトロニクス社の、エメリア・サリバン?」
 「そう、ISをやめてその対なる存在『SWORD』を中心に研究している一大企業よ」
 SWORD(ソード)、それは近年になって発表された人型機動兵器だ。その存在にはいまだにIS社会から賛否両論が激しいものの、賛成派である一夏は人型兵器というロマンを感じており、SWORDには幾分興味があった。
 「それで……キミに相談があるの」
 「俺に、ですか?」
 「そう! 実はね、近年わが社はSWORD開発研究部門『ネオファリア』を立ち上げて、本格的なSWORDの運用計画を開始したの。その中でテストパイロットになってくれる人材が欲しいのよ」
 「へぇ~……」
 「でさ」
 と、女性エメリアはアップで一夏の顔をじろりと見た。
 「え?」 
 他人事のように聞き流していた彼はきょとんとした目を彼女に向ける。
 「どう」 
 「何がですか?」
 「SWORDのテストパイロット」
 「……は?」
 「SWORDのテストパイロットとして君をスカウトしに来たのよ」
 「何の冗談だ?」
 「冗談じゃなければ今頃君とこうして話したりしていないわ」
 「言っときますけど、俺は単なる民間人だし軍人じゃありませんよ」
 「そうだけど、君からSWORDパイロットとしての要素が強く検出されたのよ」
 「どっからそれを調べたんだよ……」
 なんだか胡散臭そうだ。
 「まぁまぁ、そう言わずにどうかしら? 別に今ここで決断しなくてもいいわよ。ゆっくり考えればいいし」
 「そうですか、じゃあ家出しながら考えておきますね」
 「ごめんなさい、今この場で考えて頂戴」
 エメリアが即答した。
 「俺、これからこの家を出てくんで、急なことはやめてくださいよ」
 「SWORDのパイロットになりたくないの?」
 「っていうか、怪しいんですよ。どうして民間人の俺に対していきなりSWORDのパイロットなんかさせるんだ?」
 「だから、要素が強く検出されたって言ったじゃない?」
 「それが怪しいんですって、俺が前回のモンドグロッソで誘拐されたのを知ってるだろ?」 
 前回二度目のIS世界大会モンドグロッソで彼は千冬の弟であるという立場上、千冬をライバル視する某国の人間から人質として誘拐されたことがあった。その後千冬が試合を放棄して助けに来てくれたのには感謝しているが、それによって彼は千冬の名誉を貶したという罵声を浴びせられて虐めがさらにエスカレートしたことであった。そのこともあってか、一夏は千冬がいないことをいいことに反抗で不良になった。だから、今の身形だあるオールバックに革ジャン、首元のアクセサリも上等、しかしピアスだけは付けるのが怖いから適当に雑貨屋で買ったイヤリングを付けている姿はそれが理由だ。
 学校へ行かないのは毎日のことで、タバコは吸わずとも喧嘩や飲酒は当たり前、バイクを無免許運転したりと相当なことに明け暮れるようになっていた。この前だったスケバンの女子と喧嘩して半殺しにしてやったのだ。チクったら次は殺すと口止めをしておいたから一夏だとバレる心配はないが……
 よって、今の彼はガラの悪い風格で目つきはやや鋭い憎悪の目をしていた。エメリアも、そんな彼が随分と身形風格が変わったことで、一年前の写真を見比べては心底驚いた。
 「貴方がどこへ行っても結局は織斑千冬の弟っていうレッテルが付いて回るわよ。家出したって意味ないもの。それよりも、新しい自分になるために私の所へ来る気はない? 前回誘拐されたトラウマっていうのも否定できないけど――もう一度信じてくれるなら」
 そういって、彼に黒い塊を取り出した。拳銃だ。ちゃんと安全ロックも外している。
 「こ、これって――」
 そのずっしりとした本物の重みに彼は顔を青くした。
 「弾を入っているし、あとは引き金をひけばいつでも撃てるわよ」
 「どういうことだ!?」 
 「もし、私達を怪しく思うのならその銃で私を撃ちなさい。後ろの部下たちにも前もって伝えてあるから」
 「……!」
 そこまでするのか――
 もっとベタな言い回しだけで終わると言ったのに、彼女は命を懸けているってことなのか?
 「素人の民間人に拳銃渡されたって、うまく扱えないでしょうが」
 「引き金をひくのなら誰だってできるわよ。軍人やお巡りさんだって最初は慣れない手つきで拳銃を握ったもんだし」
 「今この場で、俺がアンタを撃っても文句はいわないってことだよな?」 
 そういうと、一夏は恐る恐る銃口をエメリアへ向けだした。
 「ええ、貴方が私を信用できないというのなら正当防衛として撃って構わないわ。もっとも、私達を信じてないならね」
 「……」
 ため息をついた一夏は、しばらくの間を置いた後にこう拳銃を懐へしまった。そしてもういちどエメリアに問う。 
 「SWORDって、本当にISなんかよりすごいんですか?」 
 「事実上はね。ただ、それをこの世界が認めていないだけ」
 「――話だけでも聞いてやるか……」
 本当に、お人よしな性格だけは治らないようだと一夏は困ったようにまたため息をついた。
 


 それから数日後、気づけフランスの国連軍駐在基地へ飛んでいた。まさか、話を聞くつもりがこんな展開になるとは思ってもみなかった。
 「さ、ここが今日からあなたの居場所よ」
 どや顔するエメリアに一夏はあんぐりと口を開けたまま在フランス国連軍基地の施設内を見渡した。滑走路にいくつもの巨大な格納施設があり、その他いろいろな建物が立ち聳える巨大軍事施設だ。そのごく一部に自分がちっぽけに立ち尽くしてるに過ぎない。
 「ここが――本当に、俺ってどうなっちまうんだよ?」
 自分が今ここにいること自体あまりにも非現実的すぎるために、一夏はこれが現実か否かが区別するのに難しく思った。
 「まぁいいわ。とりあえず貴方が担当するSWORDは明日から運用試験が開始されるんだし、今日はこのあたりの見学やフランス市内を観光するといいわ。なんなら、私が連れて行ってあげましょうか?」
 「い、いいえ――っていうか、本当に俺をパイロットにするつもりなのかよ?」
 「そのためにわざわざここまで呼んだのよ?」
 「仮に断ったらどうする?」
 恐る恐るそう訊ねると。エメリアは意外な答えをだしてきた。
 「いいえ、SWORDに触れた以上貴方は逃げることはできないわ。定として受け入れるしかないもの――」
 「あまりにも強引過ぎだな」
 そこまで自信過剰なのにもほどがあると思ったが、
 「私じゃなくて貴方がそう悟ることになるわ」
 「は?」
 「まぁ、貴方にしては初めてのフランス何だし――どうかしら、パリでも見学しにきたら? 日本人としては憧れる『花の都』なんでしょ?」
 「まぁ――パリか」
 別にパリには興味がある。一度はフランスの街を歩き回りたいと思っていたことだし、ここまで来た以上は成る様になれ、成すがままという流れで彼は基地内を軽く見学した後に、許可を取ってフランスのパリへエメリアに送ってもらった。
 「帰るときは、私の名前を呼んでもらえない。名前、覚えてるかしら?」
 「エメリアさんだろ?」
 「まぁ、忘れても貴方自身の名前を言えば私が出てくるから安心して」
 「じゃあ……」
 「ええ、日本以外の世界を思う存分堪能していらっしゃい」 
 「……本当に、俺はパイロットという位置づけで生かしてもらえるのか?」 
 ここまでしたのだから、逆に恐ろしいほどにありがたかった。
 「まだ言ってるの? 貴方にはSWORDを動かす資格があるの。あなた以外じゃなければできない特別なこと。私たちは貴女を必要沿ているからここまで連れてきたんじゃない」
 「まぁ……それなら」
 「うん、いってらっしゃい」
 「は、はい……」 
 そんな彼をとりあえず落ち着かせるためにフランスのパリ市内へ散歩に生かすことにした。基地の正門から出ていく一夏を後ろにエメリアの背後へもう一人の人物が彼女へ駆け寄った。エメリアの副主任であるパトリック・レノンという男性である。
 ずれた眼鏡をかけなおしてから、先輩のエメリアへこう尋ねた。
 「本当に彼をパイロットにしていいんですか?」
 「私の推測では、彼の適応は100パーセントよ。彼は必ず『ユニコーン』のパイロットになるはず」
 「適応能力SSだなんて――彼、本当に『人間』なんですかね?」 
 「例のプロジェクトに関係している人物っていうのは確かなそうよ。それを``奴ら``よりも先にこちらで保護という形でパイロットにすればこっちのもの」
 「かわいそうな気がします……」
 「いいえ、あの子もおのずと自身の運命を受け入れるわ。もう、後戻りはできないって状況になっているんですもの」
 「そう上手くいきますか?」
 「大丈夫よ」
 

 「っといってもなぁ~……」
 とりあえず、パリまで来てしまった経路にため息をつきながらも一夏は適当にぶらぶらとパリ市街を歩き回った。
 いつもはテレビで見る光景が、こうして生で肉眼に飛び込んでくるのだから斬新な光景である。
 「でも……華やかじゃないな?」
 花の都と言われているのに、パリ市街は妙に華やかじゃない。周囲を行きかうフランス市民の様子がどうも皆暗い表情であり、特に男性達からは笑顔が消えていた。
 対して、女性は笑顔で行き交う人々が多く、処かしこから笑い声が聞こえてきた。しかし、それでも華やかなイメージはない。
 ――女尊男卑で大変だろうな。
 考えられる理由と言えばそれぐらいしか思い当たらない。町中を歩きながらすれ違う男性たちを見ると、大半が心身ともに疲れ果てたような顔をしている。
 気づけばシャンゼリゼ通りまで歩いていた。巨大な白い門を見つめながら、前を向かずについつい見とれて歩いていると、ドン! と鈍い音と共に誰かとぶつかってしまった。
 「きゃっ」
 相手はしりもちをついてしまった。
 「あ、すまん!」
 ついよそ見をしていたと、ぶつかった相手に詫びようとした途端運悪くその相手は――女性であった。男性である自分がこんなことをしたら最悪恐喝されるんじゃないかと思った彼は、持ち前の不良っぷりを見せる。
 「――テメェ、何処みてあるいてんだぁッ!!」
 こうでもしないと自分の身を守れないのだ。学校だって女子に因縁つけられたり、わざとぶつかってカツアゲしてくる女子に対しては大抵この容子で怒号を上げれば半泣きして「ごめんなさい――」って泣いて逃げていくのが常だ。そもそも、 不良相手にその女子も脳みその無い奴らだと思う。
 「あ、あの――」
 すると、ぶつかった少女――背まで伸ばした金髪で、前髪で目が隠れかけた瞳は怯えながら一夏を見上げた。
 「そ、そのぉ……はうぅっ」
 おどおどしてしまう少女を見て、一夏は妙な奴だと首を傾げた。
 ――なんだコイツ?
 「ご、ご、ごめんなさい……!」
 立ち上がった彼女は、着こんだワンピースを手で叩いて何度もペコペコとお辞儀をして立ち去っていった。
 「なんだったんだ?」
 女とはいえ、おとなしそうな奴で助かった。あのまま警察に通報するなんて言われてたら今頃エメリア達に迷惑をかけていたころだろう。
 「……?」
 散歩を再開しようとしたところ、彼の足元に何かが落ちていた。
 銀色のペンダントのようだ。それもロケット上になっており、平たい円状を指先で開けると、なかには美しい金髪の女性が微笑んで写っている写真が入っており、そんな彼女の胸元には無邪気に抱き着く幼い少女の姿が、推測する限り親子か?
 ――もしかして……
 先程の少女が落とした物か?
 直ぐにもぶつかった少女を呼び止めようとしたが、既に彼女の姿はシャンゼリゼ通りを行く人ごみの中へ消えていった。
 「交番にでも届けるか?」
 面倒だが、近場に交番を探さないといけないようだと、また一夏はパリ市街をさまよう羽目になる。しかし、さまよってばかりいるせいで基地への帰り道がわからなくなってしまうという落ちになってしまい、間抜けであるが迷子になってしまったのだ。
 「――やべ、ここどこだっけ?」
 冷や汗まみれになった彼は必死でエッフェル塔のあたりを徘徊し続けていると、気づけば陽が落ちかけている時刻へ……
 人に道聞いてみたところ、成れない現地の名称や通りでまったくわかりにくい。どうすればいいいのか途方に暮れながらエッフェル塔から別の市街地へさまよい続けた。
 さらに気づくと、あたりは暗くなって夜空には星が瞬きだす時刻になっている。フランスは、日本と比べて治安が悪化していると聞いた。なによりも女性たちによる男性弾圧デモがこの時刻がピークとなる。警察も婦警でなければ対応できない。
 パリへ来るまでの途中、エメリアから聞かされていたことを思い出してハッとしたが、既に遅い。
 目の前の角からデモ団体と思われる女たちの叫び声が聞こえてきた。もしあんな連中に見つかったりでもしたら……
 「やばい――!」
 とりあえず、一夏は裏路地へ隠れた。影から顔を出して一段が通り過ぎるのを待ち続けた。
 「男はこの世から消えろ! 男は悪魔の申し子だ!!」
 「ISこそ正義、我々女性は女神に見入られた神の申し子だッ!!」
 過激でカルトな女たちはプラカードを掲げながら夜のパリの静寂さを妨げながら堂々と通りすぎていった。
 「……いったか?」
 表路地から出てきた一夏は、ホッと胸をなでおろした。ああいうのが海外にいるんじゃ、男もぼちぼち夜道を出歩くことはできないな。
 早いとこ基地へ帰らないと……そう彼は再びフランスをさ迷い歩き続ける。
 「――ん?」 
 そんなとき、裏路地からふと声が聞こえてきた。悲鳴である。それも少女の悲鳴だ。
 「ひょっとして……!」
 嫌な予感がすると、一夏は危険を承知でその悲鳴がする裏路地の奥へと走って行った。
 裏路地を走って、行きついた場所は人気のない広場で会った。朽ち果てた家々の裏側で囲まれたそこは、よく見ると色褪せたフェンスが囲い、ブランコや滑り台が錆びついた、人知れぬ鄙びた公園で会った。こんなところ、子供が遊ぶような場所じゃない。もはや悪党のたまり場といってもいい場所である。
 そこへ――
 「や、やめてぇ――」
 弱々しい声を上げて震えている少女が、大多数``女``たちに抑え込まれていた。上着をたくし上げられて、そこから丸出しにされた白い腹部と細いヘソと括れ、ブラの下側が露わとなる。その一部を見て一夏は知った。
 ――レイプだッ!
 それも、女が女を襲っている――これは、この女尊男卑の風習で生まれてしまった同性レイプである。ISがもたらした女尊男卑の風習によって女性の権力が男性を追い起こってしまったことによって生じたイレギュラー的デメリットだ。
 すなわち、男女の性欲が逆転してしまったのである。この女尊男卑によって独占欲が増えた女性が男性以上の性欲を持ってして、男性――それも幼い男児を襲うショタコン犯罪や中には男を嫌うミサンドリーや過激なレズビアンらが、こういった同性をターゲットにした強姦被害を起こすようになったのである。
 もちろん、不良でも正義感を捨てきれない彼はこの場を見て見ぬふりはできあなった。
 「ん? あいつって――まさか!」
 襲われている少女は、今日の昼に自分とぶつかった気弱で根暗そうな少女であった。
 「あの娘が……!」
 あっていつもの防衛本能でどやしてしまったこともあってか、それ以上に接触はないにしろ見覚えのある人が目の前でひどい目にあうのなんて見ていて耐えられない。
 ――レイプなんてするやつは外道だ。それが男だろうが女だろうとも関係ねぇ!
 近くに転がっていた木片の某を片手に、強姦の女グループが一斉に背を向けたすきをついて、
 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
 叫びと共に、目の前の女強姦グループたちへ襲い掛かった。
 内、一人の後頭部を木片でおもいっきり殴りつけ、続けてもう一人も顔面を角で殴りつけた。 
 突然の襲撃に女たちは悲鳴を上げて蹲る二人の残して後の数人は裏路地へと消えていった。
 「立てるか!?」
 一夏は少女の手を問って立ち上がらせた。
 「う、うん――」
 とにかくも、この場から逃げるために一夏は少女の手を引っ張ってその場から逃げだった。
 どれくらい逃げたかはわからないが、息が切れりうまで走ったのは言うまでもない。表通りへ出て、シャンゼリゼ通りより街頭が照らす歩道辺りまでたどり着けた。
 「どうにか助かったか」
 「あ、あの――」
 さっきから少女の顔が赤かった。それもそのはず、あれからずっと一夏が彼女の手を握りしめているからだ。
 「え? あぁ……すまん」
 手を放してから改めて両手を膝につけて、中腰で息を整える二人。そのうち一夏の方が彼女の身を案じて声をかけた。
 「大丈夫か? なにもされなかったか?」
 「う、うん――平気……その、ありがとう」
 「気にすんな。それよりも家は何処だ、送ってくから」
 「……」
 しかし、そう聞きだそうとしても彼女は話ししづらそうにじっと黙ったままだ。
 「どうしたよ?」 
 「その……」
 うつむいた様子からして不良歴三年の一夏は、直ぐにも彼女の状況を見破った。
 「――なるほど、家へは帰れないってわけか?」
 見た限り、自分みたいに不良でグレたまま家出をしたわけじゃなさそうだ。おそらく、大半は家庭の問題。それも身内がかかわっているのかもしれない。
 「どうすんだ?」
 家に戻るなんて出来やしないだろうに、かといってさっきみたいなことが起こったのに、こんな危険な場所で野宿でもするつもりか?
 「このあたりに、教会があるの。今夜はそこで一晩お世話になるから……」
 彼女の話によれば、仲のいい神父がいるのでそこでとりあえず泊まらせてもらおうと思っている。
 「そうか、まぁ教会まで送ってくか」
 「大丈夫、教会は一通りの多いところにあるから私一人でも平気」
 「まぁ――そういうならいいけど」
 「じゃあ……助けてくれて本当にありがとう」
 微笑んだ彼女はそう彼に背を向けて去って行った。運よく自分もここから基地までの帰り道は知っている場所のため迷子にならずにこれで無事に帰れる。
 「帰るか――」
 帰ったら叱られそうかな? そんな不安を考えながらシャンゼリゼを背に一夏も帰っていくのであるが……
 「ッ!」
 刹那、後方よりいくつかの爆発が起こった。
 「なんだ!?」
 それに振り返ると、シャンゼリゼ通りの夜景に炎が燃え盛っている。幾台もの車が燃え上がり、人々のうめきや横たわる姿までその視界に飛び込んできた。
 「何が――」
 何が起こったのか、わからずに上空から降り注ぐいくつものビームの柱がシャンゼリゼ通りを火の海にしていくではないか。
 燃え盛るシャンゼリゼ通りの火柱から照らし出される夜空に浮上する幾つもの正体、黒い人型のボディー、それはまさしくISであった。
 「テロか!?」
 最近世界を騒がす謎のISテロ組織だ。おそらく、フランスの軍事施設を襲撃するための見せしめに市街地を襲ったんだ。
 黒いISの両腕部より備えられた巨大な砲身からは大出力のビーム砲が放たれ、次々とパリの街を破壊していく。
 「くそっ! シェルターは何処だ!?」
 まずは避難したほうがいい。こんなところに居れば絶対に巻き添え食らって死ぬ。どうすればいいかと瓦礫や燃え盛る炎をよけながら避難所を探し出すが、行くところシェルターは皆……
 「マジかよッ!」
 ここ一帯のシェルターは殆ど「Ladysonly」と書かれた女性専用シェルターしかなかった。こんな非常事態だっていうのに……
 「おい! 入れてくれ!?」
 しかし、ハッチの奥から帰ってくる声は皆「男は他を探しなさい!」、「ここは女性専用よ!?」だけでどこのシェルターも男性である自分を受け入れてくれない。
 そうこうしているまにも道端で倒れている男性たちを次々に見つけた。そのほとんどが男性用シェルターを探せずに逃げ遅れて負傷した人間が多かった。
 「大丈夫か?」
 一夏は、目の前で額を負傷して呻いている青年を見つけて起こした。
 「立てるか!」
 「あ、あぁ……」
 その後も、一夏は動けるものと共に目の前に倒れている負傷者の男性たちを次々に助けていき、彼らを連れて警察か消防をさがそうとするが、その警察のパトカーや消防車もISによって火だるまにされていた。
 「……裏路地へ行くか?」
 額にけがをした青年が、そう訊ねた。
 「そこしかないか――」
 一夏もそれに同意するしかない。地下道なんてこんなにISが暴れまわっているんじゃ生き埋めになって終わりだ。なら、人気のない裏路地で身をひそめるしかないのだろうか……
 動けるものは歩けない負傷者を担いで共に裏路地へ向かおうとしたところ、
 「皆さん! こちらです」
 黒衣を着た中高年の男性、それは教会の神父であった。そして、その神父と共にこちらへ駆け寄ってきたのは、
 「お前は!」
 「よかった! 無事だったんだね」
 あの時の少女だった。確か、彼女は確か教会で夜を過ごすと言っていた。
 「皆さん、早く協会へ来てください。こちらに強固なシェルターがございます!」
 神父の一言は、まさに神の救いだった。周囲は笑みを取り戻して歩ける者は再び歩けない怪我人を担いで協会へと急いだ。
 一夏と少女も、ガタイの大きな男性を担いで神父の誘導の元、この一帯では有名な教会へと向かった。勿論協会の内部に設けられたシェルターは男女関係なく入れる。
 教会の室内から十字架の根本より設けられた入り口からシェルターへ通じている。そこへ焦らず冷静に怪我人を優先して入っていく。
 しかし、
 「誰か! 誰か、俺の息子を知らんか!? こんぐらいの小さな子供なんだ!!」
 一人の男が必死になって皆に聞いているのを一夏が見た。
 「まだ一人いないんですか!?」
 「息子が居ないんだ!」
 「くっ……!」 
 一夏は、すぐさま神父に知らせた。
 「子供が一人いません!」
 「何と!」
 「そんな……」
 少女も、慌てて協会のあたりを見渡すが子供らしき影は見当たらない。
 「先にシェルターへ行っててくれ! その子を探してくる!!」
 「わ、私も行く!」
 一夏に続いて少女も彼の後を急いだ。
 「お待ちなさい二人とも!」
 呼び止めようとする神父だが、外の状況が激しい戦闘の音が彼の声をかき消してしまう。
 協会から出た二人は、声を上げて呼び続けた。そんな彼らの上空を数機のISが通過した。フランス軍の所有ISミラージュ・アテネだ。一世代前の機体である本機であるが、新型のラファール・リヴァイブの部隊がこちらへ到着するまでの間は最前線の戦力として敵のISを迎撃しなくてはならない。
 しかし、地上から黒いISの両腕部より放たれる図太いビームの柱は上空を飛ぶミラージュ・アテネの防衛シールドを一発で突き破り、あっけなく一機のミラージュが撃ち落とされた。
 対して、ミラージュ・アテネの主装備は30ミリ突撃機関砲とミサイル、コンバットナイフの平均的な戦力だ。対して敵のISは重火器のビーム兵器で接近を許さずに次々とミラージュ・アテネを地上や上空から撃ち落としていく。
 「フランスのISが負けてるの!?」
 地上の路地を一夏の後ろを走りっている少女は周囲から燃え盛る炎で照らされた夜空を見た。軍がテロリストを相手に劣勢に陥っているのは許しがたいことだ。
 「あれは――!」
 そのとき、一夏は火の粉が吹き荒れる前方の一角から子供らしき姿を見つけた。急いでかけよってみると、そこには小さい少年が蹲って泣いている。
 「大丈夫か! お父さんとはぐれたのか?」
 一夏の呼びかけに少年は泣きながら頷いた。
 「しっかりつかまってろ!」
 一夏は子供を背負ってすぐさま協会へと戻っていく。
 「おーい!」 
 すると、途中から意を決して教会を抜け出してきた少年の父親が現れた。
 「パパァ!」
 すぐさま一夏は彼に息子を渡してやった。
 「助かった! ありがとう――」
 涙ながらに礼を言う男だったが、そんな彼と二人の間に巨大な瓦礫が崩れ落ちてきたではないか。幸い彼らは無事であったが、巨大な瓦礫によって目の前の道がふさがれてしまったことで一夏と少女は教会へ戻れない状況になった。
 「大丈夫か!?」
 息子を抱きかかえる男が瓦礫で隔てられた側の一夏たちへ叫んだ。
 「大丈夫です! そっちは!?」
 「問題ない!」
 「俺たちは回り道を探して協会に戻ります。先に戻っていてください!」
 「す、すまない――死ぬんじゃないぞ!」
 未成年の二人を残して先に行くのは大人として心が居たいが、しかし今は息子と共に協会へ戻らなければならない。
 男は悔しくも、二人よりも先に教会へと走って行った。
 「ほかに行ける道はないか!?」
 「こ、こっちです!」 
 幾つもの巨大な火柱が燃え上がるパリの惨状を二人は走った。
 少女は一夏を連れて別の道へ走り出すが、行くところ燃え盛る炎に塞がれて上手く進めない。
 「くそ! ここまで来て……」
 「あ、あぶないっ!」
 少女が叫ぶ。刹那、二人の前に黒いISの一機が上空から目の前の地上へ降り立った。
 「ッ――!」
 彼女の前に出て、一夏は身構えた。黒いISは片手のビーム砲を二人へ向けだした。
 「くそっ……!」
 最後の最後になって――せめて後の少女だけでもと一夏は思考をめぐらすが、そんな二人のことなど構わずに黒いISがズシズシとこちらへ歩み寄ってくるではないか。
 「お前は逃げろ! ここは俺が何とかする!!」
 後の少女へ振り向く一夏だが、
 「そんな――無茶だよ! 生身でISに……」
 「こうしていても二人とも助からないんだ。誰かがおとりになれば……」
 「どうしよう――こんな時にISさえあれば……」
 と、少女はそうぶつぶつと何かを呟いた。
 ――このIS、もしかして!?
 黒いIS、その胸元に記されたエンブレムに一夏はハッとした。エンブレムにはウサギの耳が描かれていた。
 ――間違いない! このIS、「あの人」の……
 一夏は、自分が知る存在を思い出した。思い浮かぶは、笑顔の裏に隠れたエゴイズムをもつ歪んだ科学者……
 あの人は、こんなところまできて何をしているんだ!?
 刹那、上空よりとどろく銃撃音が聞こえた。
 二人の前に立つISの頭上より降り注がれたその幾つもの光弾は、瞬く間に黒いISをミンチにしてしまった。
 「なんだ!?」
 突然の出来事に一夏はすぐにも上空を見た。二人をフランス軍のISが助けてくれたのかと最初はそう思ったが、違った。
 燃え盛る夜空より降り立つ、その巨大な人型の機影は白いフォルムに頭部には一角獣を思わせる白いブレードが着き聳えたそれに一夏はつぶやいた。
 「……SWORD?」
  *
 「``パリは燃えているか``、悪い意味でパリは燃えているな。あのウサギ婆、ダチの弟がISを拒絶してSWORDを選んだことに発狂してやんのか?」
 エッフェル塔の頂上から燃え盛るパリの光景を見下ろす、フードを被った少年はそうつぶやいた。
 「ユニコーンの適合者を白式へ無理やり装着させようとか、どれだけ強引のキチだよ。本来なら俺のペットで婆の玩具を壊してやろうと思ったけど……ユニコーン・ソードか」
 少年はその機体に興味を持った。
 「今回だけは、例のSWORDの見物と行くか――」
 フード越しの視界から、戦場と化した夜のパリから降り立つ、その白き鋼の一角獣を遠くから宥めた。
 
 
 
 

 
後書き
「次回」は後編に続く。 
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