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戦国異伝供書

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第九十一話 会心の夜襲その五

「それでも傷は最低限で済む」
「だからですな」
「この度は、ですな」
「ここで退く」
「それも全軍で」
「そうせよ、安芸の国人達にも逃げる様に告げよ」 
 先陣を務めている彼等もというのだ。
「後詰はわしが引き受ける」
「陶殿がですか」
「その様にされますか」
「この度は」
「うむ、そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「軍を退かせる、よいな」
「そうされますか」
「後詰は危ういですが」
「それを果たされますか」
「この度わしは安芸を飲み込むつもりであった」
 陶は強い声で述べた。
「しかしそれが果たせぬならな」
「それならばですか」
「せめてな」
 やはり強い声で言うのだった。
「後詰を務めてじゃ」
「軍をですか」
「退かせますか」
「この安芸から」
「そうする、すぐに退くぞ」
 陶は周りに命じてすぐに軍をまとめて退きに入った、彼は自ら後詰を務めつつ即座に兵を退かせると。
 すぐにだ、元就はその動きを見て言った。
「ではここでじゃ」
「軍を退かせますか」
「大内家の軍勢を」
「そうされますか」
「うむ、これで勝った」
 まさにというのだ。
「ならな」
「ここで、ですか」
「軍を退かせ」
「戻らせますか」
「大軍に下手に意固地になられては困る」
 こう判断してだった。
「だからな」
「それでは」
「この度は」
「攻めるのはこれまで、ですか」
「そうする、よいな」
「それでは」
「下がるとしよう」
 こう言ってだ、そしてだった。
 元就は素早く兵を退かせた、大内の兵達は安芸の国人達の軍勢の追撃やさらなる奇襲を恐れてそうして懸命に逃れ安芸の国を出た、ここでだった。
 陶は兵をまとめて言った。
「うむ、失った兵はな」
「あまり多くないですな」
「二万五千で攻めましたが」
「七百程度です」
「兵の数を思えば」
「然程、ですな」
「左様じゃな、並の戦なら多く討たれたが」
 そう言っていいがとだ、陶は周りの者達に話した。
「しかしな」
「それでもですな」
「あそこまで攻められたにしては」
「然程失ってはいませんな」
「そう言っていいですな」
「何よりも殿がご無事じゃ」
 陶は次は義隆のことを話した。
「このことが何よりも有り難い」
「はい、まさに」
「まさか総大将が討たれたとなると」
「最早大内家の名折れ」
「その汚名は覆せませぬ」
「そうなっておったからな」
 だからだというのだ。 
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