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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga6-C遭遇~Huckebein 2~

†††Sideイリス†††

・―・―・初っ端から回想な~のだ・―・―・

「はーい! みんな注目~!」

特務零課のオフィスに居る部下、というより仲間たちにわたしは大声で伝える。部隊長デスクの前で立つわたしは、「脅威対策室より新しい指令が下ったので伝えまーす!」と告げ、それぞれのデスクにモニターを展開させる。

「T.C.か」

「そう。最近、管理・管理外問わずに出現するようになった盗賊集団」

モニターに表示させているのは、部隊長デスクの側に置かれてる副隊長デスクに着くルシルの言うように“T.C.”と名乗ってる組織のメンバーの静止画。仲間たちは口々に「誰に見える?」って聞き合ってる。

「もう判ってると思うけど、T.C.は妙な幻術魔法か変身魔法、もしくはスキルを駆使して、視覚やカメラを騙してる」

連中が身バレしないように発動してる魔法かスキルは、見てる人がトラウマを抱いてる人や物の姿に見せるというもの。今モニターに映ってるメンバーの姿は、わたしから見ればプラダマンテの姿をしてる。ルシルやルミナ達みんなはどんな風に見えてるんだろう・・・。

「連中が盗んでいるのは基本的に高魔力を宿した物品で、中にはロストロギアも含まれてる。さらに、魔導犯罪者のリンカーコアもついでと言わんばかりに奪い取って、魔導師としては再起不能にして、中には精神を破壊して傷害を負わせることもある。あと、高魔力を保有する動物も標的になってるようで、保護指定を受けてる動物が被害に遭ってることで本局にクレームが入ってるみたい」

「魔導犯罪者については因果応報って感じでザマァだけど・・・」

「ロストロギアの奪取はいただけないですね」

「あと動物たちも。私は召喚騎士だから、そういう子たちがひどい目に遭うのは許せない」

ルミナとセラティナとクラリスの思いを聞き終えて、「で、連中の戦力だけど・・・」ニターの映像を切り替える。映し出すのはこれまでの“T.C.”と局員の交戦記録。

「これ、防御魔法? それにしては魔法を弾いてる感じ」

「AMFのような魔力結合に干渉するような物には見えないですね」

セレスとミヤビがそこまで言ったところで、「魔術、神秘による無力化だな」って言ったルシルが大きく溜息を吐いた。魔術のアドバンテージを実体験してるルミナ達は「あぁ、それだ」って頷いた。

「そ。つまりT.C.を潰すことが出来るのは、次元世界広しといえどわたしたち特騎隊のみ。だから脅威対策室からお呼びがかかったわけ」

魔術は管理局の上層部や脅威対策室にしか出回ってない情報だ。神秘だとかそういう詳しいのは端折って、魔法や物理を基本的に完全に無力化できる特別な魔力を扱う、みたいな感じだ。

「えっと、T.C.の動向なんだけど、局をナメてるのか判りやすい動向で世界を渡り歩いてる」

次に表示するのは“T.C.”の出現した世界順。連中は第3管理世界ヴァイゼンから第68管理世界ヴィエルヴァキアまでのミッドを除く全管理世界で強奪行為をした後、第1管理外世界アラゴルンから第6管理外世界バルべラムにまで強奪を行ってる。

「うわ、ホント綺麗に順番通り」

「じゃあ次は第7管理外世界ダーハになるわけだな」

「いやいや。それより全管理世界で強奪食らったことにツッコミを入れないと!」

「うん。そうなる前に、特騎隊に対応するように指令を出せばいいのに」

「うーん、まぁそうだけど。ロストロギアも狙われてるっことで、機動四課がT.C.を追ってたんだけど、さっき観せたように全然相手にならなかったってことで、とうとうこっちに回ってきたの。それにT.C.は盗みもするし保護動物からリンカーコアも奪うけど、民間人や局員には危害を加えてないからね」

相手が悪すぎたってこともあるけど局の不甲斐なさも理由にあるから、セレスとルミナが嘆息した。わたしはそんな2人に対してそうフォローするけど、すぐに特騎隊に対応要請を出さなかったことには少しばかり不満がある。

「ダーハには測定不能量の魔力を宿す竜玉っていう物があるから、間違いなくT.C.は狙ってくる。ダーハが管理外世界で、何年か前に管理世界入りを断った経緯を持つ世界なのはみんなも知ってると思う。でも今回の一件で局に不干渉を伝えたダーハで一番の文明国ネツァッハ首長国のイツァムナ首長に、本局も何度か力を貸したいと打診し続けた結果・・・」

「ようやく叶ってダーハに入ることを許された、と。それで、何か条件を出されたか? その浮かない顔を見れば判るぞ」

ルシルのその言葉にニヤニヤしながら、「えっと、国教の神官に変装して、首長国の国民に紛れて首都に入ってほしいみたい」って伝える。次元世界を知るのは首長とその側近だけで、政府内にも国民にも知られてない話。だからいきなり首都や政府中枢に出現するような真似は出来ない。

「あ、それでね。ダーハにはわたしとルシルとミヤビの3人で向かうつもり。ルミナとセレスとクラリスは、次の第10管理外世界コン・フォルツァに先行していてほしいの」

「10? 8と9はいいの?」

「8と9の管理外世界には高魔力物品や動物なんかは無いから、たぶん現れないと思うの。でもコン・フォルツァには高魔力を有する動物が数種類確認されてるからね。それじゃ! 特務零課、出動!」

わたしの号令にみんなは一斉に立ち上がって「了解!」って敬礼した。

・―・―・お~わり・―・―・

イツァムナ首長の条件に沿ってダーハに来て、用意されてた神官の祭服に着替えて首都往きの隊商の馬車に相乗りさせてもらい、およそ半日ちょっと掛けて首都近くにまでやって来てみれば、“T.C.”以上にヤバい連中だって指名手配を受けてるフッケバイン一家と遭遇したわけだけど・・・。

「この濃い血の臭い。お前たち、この世界でどれだけの人を殺した?」

こっちの体が震えそうなほどに冷たい声色で問い質したルシルに向かって、ガラの悪そうな男が、ぺっ、と唾を吐いた。唾はルシルに届くことなく宙でボっと燃えた。

――舞い振るは汝の獄火(コード・サラヒエル)――

「ぐぼぁ!?」

「「っ!?」」

知覚する暇すら与えないようにガラの悪い男の背後に炎槍3本を展開して、反応される前に即座に発射。炎槍は男の心臓を避けるようにお腹を貫通して、地面に縫い留めた。魔術である以上は非殺傷なんて優しいものはなく、「ぐがあああああああ!?」体内を焼かれる痛みで男は絶叫。

「ルシル。生命維持活動に必要そうな心臓や肺は燃やさないようにね」

「ヴェイ!」「ヴェイロン!」

男の名前はヴェイロンっていうらしくて、女剣士と半裸男がルシルに攻撃しようとしたから、わたしとミヤビも交戦開始。わたしも魔術師化して、“キルシュブリューテ”に炎を纏わせての直接斬撃、「炎牙月閃刃!」で女剣士の右腕を斬り飛ばして、ついでに半裸男の左脚を斬り飛ばす。

「「っ!?」」

「ミヤビ!」

「はいっ! 一応手加減はします!」

――風塵蹴波――

ミヤビは両脚に風を纏わせると、ゴツイ片手斧を支えにして倒れるのを避けた半裸男へと左脚での連続蹴りを打ち込んで、最後に右脚での回し蹴りで放った暴風で半裸男と女剣士を吹っ飛ばし、2人は地面に墜落した。

「て、てめぇら・・・! こんなことしてタダで済むとおも――がっ!?」

ヴェイロンが何かを喋ろうとしたけど、ルシルが起動した“エヴェストルム”で彼の下あごを斬り飛ばしたから続けることは出来なかった。

「以後の言葉と態度には気を付けろ、フッケバイン。殺さないように気を付けてはいるが、何か間違って殺してしまうかもしれないからな」

「そ、それが公僕のセリフとは思えんな」

わたしが腕を斬り飛ばした女剣士と、ミヤビと一緒にボロボロにしてやった半裸男は、その欠損した腕や脚、裂傷もすべて綺麗に再生させていた。

「(病化による肉体再生能力ね・・・)公僕ってね、あなた。公僕も人間なのよ。局員(みうち)だけでなく、何の罪もない民間人を殺されまくって怒らないわけないでしょうが」

「そうです! 仕事に私情を持ち込むのは厳禁ですけど、あなた達の度が過ぎた犯罪行為にはさすがに抑えられません!」

「そういうわけだ。俺個人としてはあまり偉そうなことは言えないが、お前たちを許すわけにはいかない。大人しく投降するよう促しはしない。これまで殺されてきた人の無念を晴らすため、最後まで抵抗してくれよ?」

珍しく殺気立ってるルシルと、怒りで拳を震わせてるミヤビ。わたしはかえって冷静にいられる。本来の任務である首長や“竜玉”の護衛も大事だけど、フッケバインの壊滅もまた重要だ。だから「そういうわけで、フッケバイン。今日で潰れてもらう」って“キルシュブリューテ”の剣先をヴェイロン達に向けた。

・―・―・―・―・

フッケバイン、特務零課、ともに管理外世界で遭遇することなど考えもしなかった。そしてそれは、イリスら零課にとっては僥倖でもあった。同じ局員という身内や、民間人を殺害している犯罪者集団を潰せる機会を得たことは。

「フッケバインを潰す、か。それは我々の本質を見た後でも同じことを言えるか?」

サイファーは右手に持つ刀を地面に突き刺し、左手に持つ鞘を放り投げて両手をフリーにすると、ベルカ語でケーニッヒと刻印された小さなナイフを手にし、左手の平に突き刺した。

≪React≫

左手に飲み込まれていくナイフよりそんな音声が発せられると同時、サイファーを飲み込むようなエネルギーの奔流が空にまで噴き上がった。その奔流が治まると、サイファーの両手には黒い刀が握られていた。右手の刀には銃のシリンダーとトリガーがあるが、左手の短い刀にはそれはない。しかしともに複数本の両刃短剣が外に向かって伸びたナックルガードを有している。

「これがディバイダーの真の姿、リアクト形態。ディバイダー944ケーニッヒ・リアクテッド」

続いてドゥビルも、銃床とトリガー、グレネードランチャーサイズのシリンダーを有した両刃の片手斧型の“ディバイダー”を持ち上げ、その刃で左腕を斬った。

≪React≫

彼もまた空へと昇り立つエネルギーの奔流に飲まれた。そして治まると、半裸だったドゥビルの姿は一変していた。肌が青く変色し、髪は無造作に伸び、腕と上半身は頑強な鎧を纏い、片手斧は両手でなければ持てないほどに大きな戦斧へと変形していた。

「ディバイダー695ランゲ・リアクテッド」

サイファーの“ディバイダー”が二刀一対になったことにも、ドゥビルが変身したことにも大して驚きを見せないイリス達。最初に口を開いたのはルシリオンで、「ヴェイロン。お前にもリアクトの機会をやろう」と炎槍を解除した。

「・・・」

下あごがまだ再生し切っていない所為で睨むことしか出来ないヴェイロンに代わりサイファーが「それは無理だ。リアクターがない」と言った。イリス達の視線を受けたサイファーは、感染者がその真価を発揮するには“ディバイダー”と“リアクター”が必要であることを伝えた。

「割と重要そうな情報だけど、ここで話したってことはわたし達を生かして帰さないってことかな?」

「そういうことだ」

――短距離瞬間移動(ショートジャンプ)――

イリスの問いに答えると同時、その巨体や戦斧など何でもないとでも言うようにドゥビルの姿が掻き消える。しかしそれでも慌てないイリス達。ドゥビルは一瞬でミヤビの背後を取り、戦斧を横薙ぎに払う。標的となったミヤビは振り向きざまに掲げた両腕で戦斧の刃をガードしたが、「ぅぐ!」その威力には踏ん張り切れず、今度は彼女が数十mと吹っ飛ばされた。

「あの女は俺に任せてもらおう」

一足飛びで追撃に入るドゥビルを、サイファーとヴェイロン、イリスとルシリオンは黙って見送った。サイファーは「余裕そうだな」とヴェイロンの側から少しずつ距離を取っていく。対するイリスも逆手持ちになるように鞘を具現化させて「だって余裕だし」とルシリオンから離れていく。剣士は剣士で勝敗を決する。言葉にせずともイリスとサイファーは決めていた。

「フッ。管理局最強の剣士の実力、見せてもらおうか!」

「魔導殺しの真価とやら、見せてもらおうか!」

ある程度ヴェイロンとルシリオンから距離を取った瞬間、2人は同時に攻撃に出た。高速に振るわれる互いの必傷の剣戟。さらに別の方角からは、ミヤビとドゥビルの攻防による激突音が聞こえてきた。ルシリオンはその様子を黙って見守っている。

「どうなってんだ・・・!? ディバイダーは稼働してんだぞ! 分断だって機能してるはずだ! なのにどうして、公僕にいいようにやられてんだ!」

ヴェイロンは混乱していた。エクリプスウイルスの感染によって得られた対魔導師へのアドバンテージ。そのおかげでこれまで楽に人を殺してこられた。何せ魔法もその他の攻撃も通用しない体、そして魔導師の防御魔法すら無意味と化す攻撃手段を手に入れたのだ。それだからこそ今、その魔導師を相手に防戦一方で、ただひたすら傷付けられているサイファーとドゥビルの姿に、ヴェイロンは初めて恐怖に似た感情を抱いた。

「ん? ようやく喋られるようになったのか。ならば・・・」

――闇よ誘え汝の宵手(コード・カムエル)――

「あ゛っ!? 何してんだテメェ!」

「いちいち吠えるな、鬱陶しい。聴取は連行してからにするつもりだから、それまで大人しくしていろ」

自分の影から伸びてきたペラペラに薄い触手に拘束されたヴェイロンが怒鳴るが、触手は彼の口も塞ぐようにぐるぐる巻きにされたことで「むーむー!」と唸ることしか出来なくなった。

「そろそろうちの隊長と頼れる部下が、お前たちの仲間を完全に撃墜するぞ」

挑発するようにルシリオンはそう伝え、幼馴染であり所属する部隊の長、イリスを見た。サイファーはこれまで感じたこともないほどの焦りを抱いていた。手にする二刀一対の黒刀は今日まで何十人という魔導師や騎士、何の力もない民間人を斬り殺してきた。そしてそれはイリスを相手にしても変わらずの結果だと信じて疑わなかった。

「(なんだんだ、この女の魔法は・・・!)うおおおおおお!」

すべての攻撃魔法を防ぐ障壁に、すべての防御魔法を無力化する“ディバイダー”。この2つがあれば負けはないと信じていたサイファーは、懸命にイリスの首を刎ねようと黒刀を振るう。イリスは左手に持つ鞘や小さなシールドを連続展開して防御して、サイファーの見せる一瞬の隙を狙って「ていや!」と“キルシュブリューテ”を一閃。

「なっ!? ぐぅぅ・・・!」

サイファーの右腕が斬り飛ばされて宙を舞うが、彼女はそれで動きを止めることなく左の黒刀を横に払ってイリスの胸を斬ろうとするが、振り上げられた鞘の一撃で空に向かって弾かれ、「砕けろ!」の声と共に繰り出された後ろ回し蹴りを受けたサイファーは、自分の内臓がいくつも潰れた感覚を得ながら蹴り飛ばされた。

「がはっ・・・!(ディバイダーは稼働している。分断だって機能しているはず・・・! なのに!)なんなんだ・・・あの女は・・・!?」

ドボドボと多量の血を吐くサイファーが苛立ちを吐き捨てている中でも、斬り飛ばされた右腕や内臓が再生していく。それを間近で見たイリスは「すごいな~。事故や事件で体のどこかを欠損した人たちの力になればいいんだけど」と唸った。

「っく、くく、無理だな。我々のように選ばれなければ、ウィルスによる肉体の強制強化に耐え切れずに死ぬだけだ」

「そうらしいね。ま、あなた達のような人殺しを量産するわけにもいかないから、それは諦めよう。・・・さて、もうわたしには敵わないって理解したろうから、ちょっと話をしようか」

「ふざけるな。まだ私を殺してはいないぞ、公僕」

サイファーは地面に転がっている右腕に歩み寄ると、その手から黒刀を取り上げた。そして「これが全力だ」と再びエネルギーの奔流に飲まれた。わずかな時間で奔流は治まり、禍々しい籠手と上半身だけの鎧を装着したサイファーが姿を見せた。

「ソレは?」

「鎧装と呼ばれる完全戦闘形態だ。スピードはまぁ落ちるが、お前とスピード勝負をしても負けるだけだと解かっているからな。防御を固めてお前を斬る」

「そう・・・。あ、そうだ。最後の1つ聞いておきたいんだけど、あなた達って失血死ってする? もしするなら気を付けて攻撃しないといけないし」

イリスがそう尋ねながら“キルシュブリューテ”を鞘に納める。サイファーは「判らん。経験がないからな」と鼻で笑った。これまで致死ダメージを受けた経験がないため、本当に判らなかった。

「そっか。じゃ、脳と心臓を潰さないようにだけ気を付けるよ」

――剣神モード――

固有スキル・絶対切断アプゾルーテ・フェヒターを発動したイリスは、“キルシュブリューテ”を持つ右手を横に向かって水平に上げ、そして反対の左側へと右腕を曲げた。右の肘窩が口の前にまで来たことで「飛刃」と漏らした口を見られず、その声も聞こえなかったサイファーは、「絶つ!!」と無防備に突っ込んだ。

「一閃」

イリスが横薙ぎに振るった“キルシュブリューテ”より放たれる剣閃。サイファーは念のためにとダラリと下げていた両腕の内、左腕を振り上げた。振り上げた短い黒刀が剣閃に触れると、スパッと何の抵抗できずに斬られた。

「は・・・?」

まずい。避けなければ。そう脳が判断する頃にはすでに手遅れ。絶対の自信を持っていた鎧装と一緒に腰が切断され、上半身と下半身が切り離された。

「所詮はエウリプスウィルスとディバイダーで強くなったと錯覚しただけか。よっわ」

フッケバイン一家に殺害された局員の中にはイリスの知人も居た。特別親しいわけではないが同じ剣を使う同僚ということで、何度か話をする程度の仲だった。その同僚を殺害されてイリスもまた怒りに燃えていた。だからこそ最後にせめてもの怒りの発散として、剣の腕を自負するサイファーに対して、弱い、と言い放った。



ミヤビとドゥビルの闘いもすでに決着がつきそうだった。鎧化によって圧倒的な防御力を得たドゥビルも、ヴェイロンやサイファーと同じように混乱を微かにだが抱いていた。

(この細い体に、どこにこんな力があるというのだ)

高速に振るわれる巨大な戦斧を軽やかに躱し、懐に入って右ローキックを打つミヤビ。その一撃でドゥビルの左脚がひしゃげ、彼の攻撃を中断させる。しかしその損傷も5秒とせずに再生され、ミヤビは「む。いい加減にしてほしいものです」と溜息を吐いた。

「俺の病化特性は高速再生。即死しない限り俺が負けることはない。うおおおおおおおお!」

「遅すぎて退屈ですよ?」

「なに・・・っ!?」

戦斧を振り回すドゥビルと、その大きな刃を両手で白刃取りするミヤビ。ミヤビはその戦斧ごととドゥビルを持ち上げると、「でぇぇぇぇい!!」と彼を背中から地面に叩き付けた。僅かに呻くドゥビルだが、その防御力のおかげで痛みすら感じない。ミヤビは戦斧の先端を踏みつけ、「この刃で殺めた方たちに謝罪なさい」と言い放った。

――地顎挟刃――

ドゥビルの右腕を挟み込むようにして地面がワニの口状に隆起し、装甲に覆われた右腕をガギンと挟み、そのままブチッと噛み千切った。それでもドゥビルは涼しい表情を崩さずスッと立ち上がって、一瞬でミヤビより距離を取った。

「これ以上はいたずらに傷付くだけですよ? 投降してください」

「つまらん冗談だ。俺からディバイダーを離したからと言って勝ったつもりか?」

そうは言うドゥビルだが、自慢の甲冑が役に立たず、“ディバイダー”と魔力結合を分断するディバイド能力を以てしてもミヤビに確実なダメージを与えられない今、どうやってこの場を切り抜けようかと考えるばかりだ。

「勘違いをしているようですね。あなた達は初めから私たちを殺そうとしていました。ですが私たちは違います」

――風炎鬼降臨――

ミヤビの額から生える2つの水晶角の色が茶色から翠色と赤色の二色へと変化した。すると彼女は大地の束縛から解放されたと言わんばかりに軽やかにその場で小さくジャンプを始めた。先程までミヤビは地鬼という力を使っていた。機動力が恐ろしく落ちるが圧倒的な打撃力と防御力を得ることが出来る形態だ。その地鬼から純粋な攻撃力を底上げさせる炎鬼、圧倒的な機動力を得る風鬼の2つの形態へと変化した。

――鉄兵風馳――

ジャンプからの一直線の高速移動でドゥビルへと肉薄し、右手に炎を付加しての拳打、「紅蓮拳殴!」を彼の心臓付近に打ち込んだ。炎の拳は胸部装甲を一撃で穿ち、強靭な筋肉すらも穿った。その瞬間には炎は消えたがミヤビの手は心臓付近にまで突き入れられ、その気になれば体内を燃やし尽くすことも出来るだろう。

「あなた達を簡単に殺せる術を持っていながらも、私たちは殺さないように注意していたんです。殺す気でいながらも殺せないあなた達と、殺せるのに殺さないでいる私たち。どちらが上か、理解できませんか?」

あと数㎝突き入れればドィビルの心臓に触れられるであろうミヤビは、「これで最後です。投降してください」と告げる。それでもドゥビルは「聞けんな」と瞬時に右腕を再生させ、その大きな両手でミヤビを握り潰そうとした。

「そうですか、残念です」

ミヤビは手を引き抜いて一足飛びで数mと後退すると、「ルシル副隊長に代わります」と言った。ドィビルが「なに?」と聞き返すと、ミヤビは「私は手加減が下手なので」と返した。その時。

「おぉぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!!」

空から少女の叫び声が響いてきた。ドゥビルはその声の主が誰であるか判っているため、地面になおも転がる千切れた右腕から戦斧を取るため動き出し、ミヤビは「新手!?」と空を見上げた。 
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