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肉吸い

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第三章

「それは」
「何故最初からそうした弾を持っていたか」
「鉄砲には弾が必要です」
 どうしてもという言葉だった。
「それは」
「そうですね」
「鉄砲は弾がなければ」
 それこそと言うのだった。
「只の荷物です」
「殴るには使えるにしても」
「それだけのものです」
「だからですな」
「弾は必要ですが」
 鉄砲にはというのだ。
「しかしです」
「わざわざ南無阿弥陀仏と書いたものを持っているか」
「それがです」
 老人に話すのだった。
「私としてはです」
「妙にですね」
「思いますが」
「それがです」
 老人は南方にすぐに話シタ。
「こうした話の不思議なところですね」
「最初から何故持っていたか」
「はい、ですが」
「その猟師はその弾を持っていて」
「そしてです」
 そのうえでというのだ。
「それを妖怪に向けてです」
「撃とうとすると」
「それで、です」
 まさにというのだ。
「消えたのです」
「左様ですな」
「わしもおかしな話だと思います」
 話す老人もだった、このことは。
「何故です」
「最初から南無阿弥陀仏と書いていたか」
「それが謎です」
「ですな、その言葉自体はよく使われますが」
 妖怪に対する時にだ、お経等は日本では妖怪だの悪霊だのに対して非常に効果があるものの一つだからだ。
「しかしです」
「最初から弾に刻んでいるとは」
「まるで最初から」
 まさにとだ、南方は言った。
「妖怪が出ることを知っている様な」
「既に肉吸いの話を聞いていたのか」
「ということは」
「既に肉吸いから助かった者がいる」
「触ろうとしてきたが」
 それがというのだ。
「気付いて」
「そうなりますね」
「いや、むしろ」
 ここでだ、南方は老人に言った。
「山に入った猟師はです」
「既にですね」
「そうです、もうです」
 それこそというのだ。
「山に女がいること自体がです」
「おかしいと思っていた」
「山の民なら」
 南方は彼等の名前も出した。
「言葉の訛りが違います」
「この紀伊にいても」
「私達は紀伊訛りの言葉ですが」
 南方にしてもだ、彼の生まれはここだからだ。それで東京の学校に行ったりイギリスに行ったりしてきたのだ。
「しかしです」
「山の民は、ですね」
「山の民の訛りです」
「違う言葉も使いますね」
「もっと言えば身なりもです」
 それもというのだ。
「私達とは違います」
「街や田畑の者とは」
「山の中での動きも」
 これも違うというのだ。
「何しろ代々山の中にいるのですから」
「猟師は山に入っても」
「それでもです」
 どうしてもという口調でだ、南方は話した。
「普段は里にいます」
「そうですな」
「それではです」
「動きは里の者のそれで」
「山の民とは全く違います」
「そうした女が山の中で出て来ると」
「こんな面妖なことはありません」
 それこそという口調での言葉だった。 
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