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誰が恐れるか

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第一章

               誰が恐れるか
 ヨシップ=ブロズ=チトー本名ヨシップ=ブロスについてソ連の書記長にして独裁者であるスターリンは不快感を露わにしていた。そのうえで側近達に問うた。
「ヨシップ=ブロズは共産党員だな」
「はい、紛れもなく」
「かつてロシア共産党にも所属していました」
「共産主義者です」
「このことは間違いありません」
「そうだな、しかしだ」
 それでもとだ、スターリンは言うのだった。
「何故彼は私に従わない」
「アメリカやイギリスとは明らかに距離を置いていますが」
「明らかにそうした態度ですね」
「ソビエトに従いません」
「コミンテルンの指示にも」
「ユーゴスラビアはユーゴスラビアだ」
 スターリンはこうも言った。
「そうした態度だな」
「明らかにそうですね」
「我がコミンテルンとも距離を置き」
「別の路線を歩もうとしています」
「その様なことは許されない」
 スターリンは強い声で言った。
「若しあの男が私に従わないならな」
「それならばですね」
「その態度を明確にするなら」
「コミンテルンに従わないのなら」
「コミンテルンから排除してだ」
 スターリンはさらに続けた。
「条約も破棄し彼自身もだ」
「粛清ですか」
「そうされますか」
「そうだ、私に逆らう者は国外の者でもだ」
 例えソ連におらずともというのだ。
「許す訳にはいかないからな」
「だからですね」
「あの男も」
「他の者達と同じ様に」
「思い知らせてやる」
 スターリンは冷酷な顔で言った、だが。
 チトーはベオグラードにおいてその頑健そのものの体格とその体格に相応しい男らしく精悍な顔で言った。
「スターリンに注意しろ」
「まさか」
「まさかと思いますが」
「そのまさかだ、ヒトラーは退けたが」
 それでもとだ、チトーは自身の同志達に話した。
「我々はもう一人の独裁者との戦いを迎えている」
「今度はスターリンですか」
「あの男ですか」
「かつて多くの人物を粛清した」
「あの男が次の敵ですか」
「同じ共産主義者だから安心していい」
 チトーはにこりともせずに言った。
「それは幻想だ」
「むしろですね」
「同じ共産主義者にこと注意しろ」
「そうすべきですね」
「資本主義者よりも」
「資本主義や共産主義よりもだ」
 チトーはさらに言った。
「重要なことがあるな」
「はい、この国を治めることです」
「ユーゴスラビアを」
「この複雑な国をどう治めるか」
「多くの血が流れた国を」
「文字は二つある」
 チトーはまずこのことから話した。
「宗教は三つ、言語は四つ」
「民族は五つ、共和国は六つ」
「国家は七つ、国境は八つです」
「このユーゴスラビアは小さな国ですが」
「そうした国です」
「ここまで複雑な国はない」
 チトーは自分達の国であるユーゴスラビアのことを話した。 
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