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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第30節「鏡に映る、光も闇も何もかも」

 
前書き
昨日のキャスを聴きに来てくれた皆さん、ありがとうございました!
アクシデントあったり、ほぼ一人で盛り上がってたりしましたが、楽しんでいただけたのでしたら幸いです。

さて、今回はいよいよ……そうです、サブタイが仕事しすぎてますので、説明不要ですね。

次回からの新章へと向けて、いつもより少し長めでお届けします!
それではお楽しみください!
 

 
響達が弦十郎と特訓している頃、本部発令所では了子が米国F.I.S.との通信を行っていた。

「久しぶり、それともはじめましてかしら? ドクター・アドルフ」
『好きにしろ。俺はフィーネだった頃のあんたは知ってるが、今のあんたは俺の知ってるあんたじゃない。それだけだ』
「そう。じゃあ、アドルフくんでいいわね?」
『フン……。それでドクター・櫻井、フィーネの抜けたあんたが今更俺に何の用だ? 旧交を温めにってわけじゃあないんだろ?』
「頼みたい事があるの。協力してくれないかしら?」

そう言って了子は、響と翔の融合症例に関して掻い摘んで説明する。

アドルフはそれを暫く聞いて、そして苦い顔をしながら言った。

『──なるほどな。こいつは確かに不味いな。普通の手術じゃどうにもならんだろうよ』
「ええ、そうね。だから必要なのよ。フィーネがかつて皆神山の発掘チームから強奪し、あなた達の元で完成させたSG-i03……神獣鏡のシンフォギアが」

神獣鏡。その名前を聞いたアドルフ博士の表情が、一瞬険しくなる。

「その表情、やっぱりウェルくん達に持ってかれちゃってるのね」
『ご明察だよ。ったく、ウェルのヤツめ……俺が苦労して集めた資料まで横取りしやがって……』
「資料? フロンティア関連のものとは違うの?」
『……』

首を傾げる了子に、アドルフは答えるか否か迷っているようだった。

「アドルフくん?」
『……あんたになら、聞かせてやってもいいだろう。知る権利がある』

やがて、アドルフ博士はそう前置きして語り始めた。

『以前、フィーネが聖遺物、生弓矢を狙った事があるだろう?』
「ええ。私も朧気な記憶と、記録で閲覧した程度だけどね」
『フィーネに生弓矢の捜索を依頼したのは、この俺だ』
「えっ!?」
「なんですって!?」

傍聴していた藤尭、友里が口を開き、了子も明かされた衝撃の事実に驚く。

「どういう事なの?」
『順を追って話すか……』

そう言ってアドルフ博士は、あるデータをモニターに映す。

『こいつは、俺がセレナを治療する方法を模索する中で辿り着いた、東洋の聖遺物に関する資料だ』
「セレナって、確か……F.I.S.に所属していた第一種適合者で、アガートラームのシンフォギア装者よね?」
『そうだ。レセプターチルドレンについては、説明不要だな?』
「ええ……。だからこそ、こうしてあなたに繋いでいるのよ。アドルフくん、子供達のこと大事にしてくれてたでしょ?」
『身寄りのないガキ共とはいえ、大事な被検体だからな。子供一人満足に治療できん医者に価値はないね……』

そう言うと、アドルフ博士はファイルの一つを開く。

そこには日本や中国、東洋の古い文献のデータが並んでいた。

「これは……」
『6年前のネフィリム起動実験、暴走したネフィリム暴走を食い止めようとしたセレナは、絶唱の負荷と崩壊した施設の火災で負った大火傷で、ほぼ助からないと判断された。だが、俺が無理を言って冷凍保存させる事で、何とかギリギリ生命を繋いでいたんだ』
「まさか、これ全部、治癒の力を持つ聖遺物に関する資料なの!?」
『ああ、そうだ。──諦めきれなかったんだよ、あの子の担当医としてな……』

サングラスの奥で読み取りにくいが、アドルフ博士の表情は、どこか悔しげだった。

セレナの治療は、現代医学では不可能だった。
だから彼は、あらゆる文献を漁り、彼女を治療する方法を模索したのだろう。

それを横からかっさらわれたのだ。彼の悔しさは語るまでもない。

『西洋圏の聖遺物は、独国やロシアなんかの研究機関、それにパヴァリア光明結社とかいうカルト組織なんかも手を伸ばしてるだろうから面倒な事になる。だから東洋方面、特にフィーネがいる日本を中心に絞ってみた結果、俺が行き着いた答え。それが──』
「生命を司り、死者すら蘇らせるといわれる生弓矢だった……」
『そうだ。まあ、現地でアクシデントが発生し、取引がおじゃんになったって聞いた時は、あまりの悔しさに荒れたもんだ。……まさか、子供の胸ん中に突き刺さってるとは、思いもよらなかったがな』
「その資料がウェルくんに奪われた、と。ウェルくん達は、奪った生弓矢の欠片で何を……」
『コールドスリープさせていたセレナのカプセルも、一緒に持ってかれちまってたよ』

そう言って、アドルフ博士は生弓矢の関連資料を拡大する。

拡大された資料の隣には、経年劣化で読めなくなった部分まで解析した翻訳が付いている。

『おそらくマリア達だろう。フロンティアを起動させた後、セレナの傷を癒して蘇生する。生命力を活性化させる“命の旋律”なら、不可能な事じゃない』
「でも、あっちにはウェルくんがいるのよねー……」
『ろくな事を考えないだろうからな……。あの英雄バカは』

科学者2人は溜息を吐いた。
それだけウェルの人となりは知っているのである。

もっとも、了子はフィーネの記憶から知っているだけなのだが、それでも呆れるほどの自意識過剰っぷりなのだから仕方がない。

そして、二人の悪い予感は当たろうとしていた……。

ff

『じゃあ、小日向は無事なんだな!?』
「ああ。だが、ウェルの野郎が何か企んでるらしい。取り返しのつかない事になる前に、なんとかそちらへ返せればいいんだが……」

その夜、ウェルが研究室へ篭った隙にエアキャリアの外へ出て、ツェルトは翔に未来の無事と組織の現状を伝えていた。

認めるのは癪だが、もはや自分一人でどうにかなる範疇ではなくなった。自分でも動ける範囲で行動するつもりだが、協力を仰ぐのに越したことはない。
それがツェルトの判断だった。

『本部では今、F資料の解析が行われている。終了次第、フロンティアへ向かう予定だ』
「そこで合流だな。お前らのお友達と、それから封印解除に必要な神獣鏡。これら2つを手にヘリキャリアから飛び降りる。回収はできるな?」
『いけるよね、叔父さん?』
『アウフヴァッヘン波形を捉え、落下予測ポイントに本部を回す。それでいいな?』
「充分だ。落下は俺が自力で何とかするさ。女の子一人抱えて飛び降りるくらい、余裕でやってのけるとも」

ツェルト不敵に笑い、だが、と付け足す。

「忘れるなよ。俺が信用しているのは、あくまで翔だ。コマンダー、俺はまだあんたを……」
『皆まで言うな。甥っ子の友達がそこまで腹括ってるんだ。必ず応えてみせるさ』
「フン……。そうでなくちゃ困るっての」

周囲を見回し、そしてツェルトは通話を切る。

脱出後の算段は立てた。
次は脱出までの、神獣鏡と未来を奪還する方法だ。

神獣鏡は最悪、奪取できない可能性もある。
だが、人質とされかねない未来だけは必ず連れ出せるようにしたい。

(ドクターの目を盗んで格納庫へ。あの子を連れて格納庫のハッチを開き、海へとダイブ……。これがベストか。問題は、ドクターが目を離してくれるタイミングだが……)

ツェルトは明日の行動を脳内でシミュレートしながら、エアキャリアへと戻って行く。

たとえそれが、愛する人を置いていく事になるとしても。

君を助けに、必ず戻る。

固く誓いながら、欠けた月を見上げた。





そして迎えた翌日早朝。エアキャリアはフロンティアが沈む海域に向け、空を進んでいた。

「マムの具合はどうなのデスか?」
「少し安静にする必要があるわ……。疲労に加えて病状も進行しているみたい」
「そんな……」
「つまり、のんびり構えていられないということですよ! 月が落下する前に、人類は新天地にてひとつに結集しなければならない! その旗振りこそが、僕たちに課せられた使命なのですから!」

壁にもたれながら、すっかりニューリーダー気取りのウェル博士に、ツェルトは誰よりも苦い顔をする。

「生弓矢さえ使えれば、マムの病気を癒すことだって……」
「コンバーターの最終調整がまだ終わっていないですし、何より、使えたところでナスターシャの身体は老いていますからね。活性化できるほどの生命力が残っているかどうか──」
「ドクター」
「──はいはい、分かってますよ。喧嘩するなっていうんでしょう?」

マリアの咎めるような声に、ウェルは肩を竦める。
一方、ツェルトは忌々し気にウェルを睨んでいた。

(おそらく二課もF資料を辿り、フロンティアを目指しているはず……。合流できれば、このシロゴキブリ野郎がふんぞり返っているこの状況も──)

その時、警告アラートと共にモニターが海上を進む一隻の艦艇を映し出す。

「これは?」
「米国の哨戒艦艇デスか!?」

どうやら、海上からエアキャリアを捕捉しているらしい。

「バカな、ウィザードリィステルスは……まさかッ!?」
「こうなるのも予想の範疇。せいぜい連中を派手に葬って世間の目をこちらに向けさせるのはどうでしょう?」
「テメェッ!」

ウィザードリィステルスを発動する為に接続されていた神獣鏡のギアコンバーターが、制御装置から取り外されていた。

ウェルは始めから、哨戒艦艇に自分達を見つけさせるつもりだったのだ。

「そんなのは弱者を生みだす強者のやり方──」
「世界に私たちの主張を届けるためには格好のデモンストレーションかもしれないわね」
「マリィ──ッ!」
「私は……私たちはフィーネ……。弱者を支配する強者の世界構造を終わらせる者……この道を行くことを恐れはしない」

調の言葉も、ツェルトの声も遮って、マリアはそう言った。

自分に言い聞かせているかのような、そのいたたまれない様子に調は口を噤み、ツェルトは奥歯を思いっきり食いしばった。

ff

その頃、二課仮設本部ネオ・ノーチラスは、F資料に記された通りの海域……東経135.72度、北緯21.37度、沖ノ鳥島付近を目指し、潜行していた。

「それで了子くん、フロンティアとは一体……」
「フロンティア、それはこの海域の底に沈む超巨大遺跡に与えられたコードネームよ」

そう言って了子は、F資料の一部をモニターに映し出す。

「正式名称は『鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)』、日本神話に登場する天翔ける船。遥かな昔、カストディアンが異なる天地より飛来してきた際に用いた星間航行船のひとつと伝えられているわ。巨大な結界の内側に封じられてるから、通常の探査方法では知覚する事すら不可能ね」
「こんなにデカいものが日本国内に存在しながら、我々にさえ発見されていなかったのはそれが原因か……」
「だが、F.I.S.の連中は一体、その宙船で何を……」

弦十郎と翼の質問に答えるように、了子は別のページをモニターに出す。

「統一言語を取り戻すため、相互理解を阻害するバラルの呪詛を司る月の破壊を目論んだフィーネはあらかじめ、新天地となるフロンティアと、その封印解除に必要な神獣鏡、および動力源となるネフィリムを揃え、月破壊後の世界にて生じる重力バランスの崩壊への対応策も進めてきていた……」
「じゃあ、あの時の行動はやけっぱちなんかじゃなくて……」
「重力崩壊による世界危機の中、リンカーネイションによって再誕し、自らに付き従う者達をフロンティアに集めて君臨する……そんな腹積もりだったんだろうな」
「フィーネならやりかねないな……アイツはそういう女だ」

クリスは渋い顔で呟く。
純も、あの時のフィーネの行動にようやく納得がいったようだ。

「私欲にまみれた者達が舵を握る方舟か……。どちらの手に転ぼうが、ロクなもんじゃないな」
「つまり、米国政府は自分達だけフロンティアに乗って、地球外へトンズラしようとしていたって事か……」
「国に生きる民さえをも見捨てて逃げるなど……恥知らずなッ!」

風鳴の血を引く三人が腕組み、呆れ、怒りを滲ませる。

国とは土地ではなく、その土地に生きる民である。
それを信条とする翔や弦十郎、翼にとって、その計画は身勝手極まりない邪なるものに思えた。

「F.I.S.は、救える人間の分母を増やすことが目的だ。ジョセフ・ツェルトコーン・ルクスはそう言っていたが……」
「翔くん、昨日彼から聞いた情報の通りなら、ナスターシャ教授は今、床に臥せっているのよね?」
「ああ。今、F.I.S.の指揮権はウェル博士にある……そう聞いている」
「だとしたら、急がないと。自分が英雄になる日を夢に見続けてきたウェルくんは、きっと野心を抑えられなくなっているはず……。フロンティアが浮上すれば、彼の野望が現実のものになってしまうわ!」

その時、警報のアラートが鳴り響く。

「ノイズのパターンを検知ッ!」
「米国所属艦艇より応援の要請ッ!」

モニターに映る、米国の哨戒艦。
船上では、既に米軍とノイズが交戦を始めている。

「っ!」
「この海域から遠くないッ! 急行するぞッ!」
「応援の準備に当たりますッ!」
「クリスちゃん、先行くよッ!」

翼と純が発令所から駆け出していく。

「わたしも……」
「響──ッ」
「死ぬ気かお前ッ!」

翼達に着いて行こうとする響の肩を、クリスが掴んで止める。
翔が口を開くより先に、クリスの手は響のネクタイを掴んでいた。

「ぅ……」
「ここにいろって──な。お前はここからいなくなっちゃいけないんだからよ……」

クリスの脳裏に浮かんでいるのは、攫われた未来の顔だ。
帰って来た時、ここに響がいなかったら、彼女が一番悲しむのは目に見えている。

「頼んだからな」

響のネクタイを元に戻し、クリスは翔の方を見てそう言った。

そして、翼と純の後を追って走り出す。

「響……分かるな?」
「うん……」

発令所を出ていくクリスの背中を、翔は響と共に見送った。

ff

「うわあッ!」
「ぐ……あああッ!」
「うう、ぐうッ!」

ノイズによって、次々とやられていく海兵隊たち。

それでも懸命に戦っているが、甲板では既に地獄のような光景が広がっている。

「…………ッ」

その凄惨な光景に、マリアは血が出る程に唇を噛みしめる。

国や人々を護る為に戦う彼ら兵士に、罪は無いはずなのだ。
今この場に於いて、彼らから見た自分達は「ノイズを操る力を持ったテロ組織」であり、自分達を襲ってくる兵士の全てが権力の犬ではなく、人々を脅かす脅威に立ち向かう気高き者達も含まれているのだ。

それでも、彼らに情けをかけることが許されない。
邪魔する者は全てなぎ倒して進まなければ、ナスターシャが唱えた人類救済の道には届かないのだから……。

そんな思いが、誰より優しいマリアの心を縛り付け、締め付けていく。

「こんなことがマリアの望んでいることなの? 弱い人達を守るために本当に必要なことなの?」

モニターに映し出される地獄絵図を前に、調はマリアに問いかける。

「──ッ」
「……」
「何とか言えよ……答えろよ、マリィッ!」

何も答えないマリア。

彼女の沈黙を受け、調は操縦室を飛び出した。

「──調ッ!?」

飛び出していく調を追いかけ、切歌も操縦室を出る。

「やれやれ、やはり彼女もまだまだお年頃……というわけですか。仕方ありませんね」

そう言って、ウェル博士も後に続く。

(ウェルの目が離れた……今だッ!)

ツェルトは操縦桿を握るマリアを振り返り、そして操縦室から格納庫へと向かって行った。



切歌が追い付くと、調はドアを開けていた。

「何やってるデスかッ!?」
「マリアが苦しんでいるのなら……私が助けてあげるんだッ!」
「──調ッ!」

肩を掴もうとした手を振り払い、調はエアキャリアを飛び降りる。

直後、切歌の耳に届いたのは彼女の聖詠だった。

「──Various(ヴァリアス) shul shagana(シュルシャガナ) tron(トロン)──」

薄紅色の光に包まれ、調はシュルシャガナのシンフォギアを纏い、米国の哨戒艦艇へとスカイダイブしていく。

「調っ!」
「連れ戻したいのなら、いい方法がありますよ」

肩に手を置かれて振り返ると、そこには善からぬ笑みを浮かべたウェル博士が立っていた。

ウェル博士は切歌に、いつもLiNKERを注入するのに使っている無針注射器を手渡す。
そこにはいつもの黄緑色ではなく、赤い薬品が入っていた。

「LiNKER?」
「いいえ、これはAnti_LiNKER。適合係数を引き下げる為に用います。その効果は折り紙つきですよ」

以前、廃病院での試験運用で得たデータを元に更に改良を重ね、主に即効性を高めてきたものがこの液体状の新バージョン。開発コード『ALi_model_K0074_L(リキッド)』である。

注射器を受け取った切歌は、一瞬躊躇ったが……やがて、それを懐に仕舞い、首筋に自分の注射器を当てた。

「調……」

LiNKERを注入し終え、切歌も調の後を追って飛び降りる。

「さて、あとは……一番邪魔くさいのを始末しますかね」

そう言ってウェルは、操縦席……ではなく格納庫の方へと足を運んだ。



「こ、こいつは……!?」

格納庫で見つけてしまったそれは、目を疑う光景だった。

ウェルの野郎がクソ野郎なのは知っていた。
だが……ここまでするかよ、あの野郎ッ!

「神獣鏡のギアコンバーターが見当たらないわけだ……。止めないと──」
「何を、どう止めるんです?」
「ッ!?」

気付いた時にはもう遅く、ツェルトの首筋からはAnti_LiNKERが注入されていた。

足元をふらつかせながら振り返り、忌々しいその名を叫ぶ。

「ウェル……てめぇ……ッ!」
「君のことです。ここに来るだろうとは思っていましたよ……。F資料がなくなっていたことに、この僕が気付かないと思いましたか?」
「くッ……転調、コード“イチイバル”ッ!」

RN式を起動し、銃を向ける。
もしもここでノイズを召喚しようと、RN式なら迎え撃てるからだ。

しかし……。

「ごはッ!? ──なん……だと……ッ!?」

ツェルトは口から血を吐き出し、RN式は強制的に解除された。

「僕特製のAnti_LiNKERです。よく効きますでしょう?」
「適合係数を……引き下げた、のか……ッ!?」
「適性のない聖遺物を、アームドギアのみの運用に絞ることで何とか振るってきた君には、致命的でしょうねぇ! 身の丈に合わないその力が、そのまま君を殺すのですからッ!」
「クソッ……身体が……」

ふらついたツェルトは身体を支えようと、ハッチへともたれかかる。

それを見たウェルは、ニヤリと嗤った。

「僕達を裏切ろうとした罪は大きい……。裏切り者には粛清を、それが組織として正しい在り方でしょう?」
「……ッ! まさか……ッ!?」
「許してくださいよぉ? 悪いのは君なんですからねッ!」

そう言ってウェルが押したのは、ハッチの開閉ボタンだった。

もたれかかっていたツェルトは、手すりに摑まる暇もなく……空へと投げ出された。

「さよならです。精々僕の夢が叶う瞬間を、あの世から祝福してくださいよッ!」
「ウェルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

落下していくツェルト。それを追うように、数体のフライトノイズが迫る。

万が一の生存すら許さず、不穏分子は確実に殺そうというウェルの意志。
迫る死を前に、ツェルトはマリアの顔を思い浮かべた。




(すまない、マリィ……。俺は──)




ff

その頃、艦上では……。

「……切ちゃん……何を……?」
「ドクターから貰ったAnti_LiNKER……強制的に適合係数を下げるものデス……」

ノイズを全て倒し終わった直後、近づいてきた切歌にAnti_LiNKERを注入される調。

足裏のローラーが勝手に収納され、ギアが強制的に解除される。

「ギアが……馴染まない……? う──ッ」

ふらつき、甲板に寄り掛かる調。
切歌は俯きながら、悲痛を訴えるような声で絞り出すように言う。

「アタシ、アタシじゃなくなってしまうかもしれないデス……そうなる前に何か残さなきゃ、調に忘れられちゃうデス……ッ!」
「……切ちゃん……?」
「例えアタシが消えたとしても、世界が残れば、あたしと調の想い出は残るデス。だからあたしは、ドクターのやり方で世界を守るデス。もうそうするしか……」

その時、突然海の中から何かが飛び出してくる。

「「──ッ!?」」

「「はあッ!」」

ネオ・ノーチラスに搭載された運搬用ミサイルは、装者を格納し、水中からでも出撃を可能とする。
中から飛び出す翼とクリス、もう一発の中から飛び出した純は、それぞれ甲板の上に着地。

クリスは調を捕まえ、翼は切歌に斬りかかった。
純は生存者の確認、及び救助の為に戦場を離れ、船内へと向かった。

「邪魔するなぁぁぁッ!」

切歌は鎌で斬りかかるも、翼はその刃を全て流れるような動きで躱し、素早く斬り込んでいく。

「──切ちゃん!」
「おい! ウェルの野郎はここにはいないのか!? ソロモンの杖を使うあいつはどこにいやがる!」
「うっ……」

その一方でクリスは、捕まえた調を関節技で取り押さえている。
Anti_LiNKERで適合係数を下げられた調に、抵抗する手段はない。

「く──……ッ!」

やがて、喉元に刀の切っ先を突き付けられ、追い詰められる切歌。
全力の翼に、素人の切歌が勝てる見込みはない。

これで形勢は、二課の方へと一気に傾いた。



「切歌!」

切歌が追い詰められ、マリアは思わず叫ぶ。

『ならば、傾いた天秤を元に戻すとしましょうよ。出来るだけドラマティックに、出来るだけロマンティックに……ッ!』

格納庫からの通信、モニターを見ると、ウェルが良からぬ笑みを浮かべながら何かを操作していた。

「……まさか、あれをッ!?」



「──Rei(レイ) shen shou jing(シェンショウジン) rei(レイ) zizzl(ズィーズル)──」

誰も聞いたことが無い、第9の聖詠が響き渡り、エアキャリアから降下してきた者が光を放つ。

それは艦艇の上に落下し、その場所からは煙が上がった。

煙が晴れて、F.I.S.4人目の装者の姿がだんだんと見えてくる。

「う……」
「な、なんデスッ!?」
「新手かッ?」
「マリア……いや、違うッ!」
「君は……ッ!?」

戻ってきた純を含む、その場の全員が見守る中……彼女はその姿を露わにする。

「……………………」

モニターに映った装者の姿は……。

白地に紫を基調とした配色。中華風の白い前垂れ、両足は大型の厳ついアーマーに覆われ、甲板から少し浮かんでいる。

そして、頭部には冠のようなヘッドギアと、上下二つに分かれた顎のようなバイザー。
長らく装者不在だった第7のシンフォギア……歪鏡(わいきょう)と呼ばれし最凶にして最後の装束が、彼女の身体を鎧っていた。

「──未来……?」
「小日向が……シンフォギアを……ッ!?」

静かに開かれた未来の両目。

見慣れた筈のその瞳に光はなく、翳る陽だまりとでもいうべき虚ろな目へと変わっていた……。 
 

 
後書き
切ちゃんの「邪魔するなぁぁぁッ!」のとこ、アニメだと「邪魔するなデスッ!」なんデスよ。
XDで確認したところ、デスが消されてて「あっ、これええな……」となったので、そちらを採用デース。デス付ける余裕もない切ちゃん……。

陽だまり、陥落す。さて、とうとう未来さんが帰ってきました。
ただし、神獣鏡のギアを纏う、最凶の敵として……。

更にはツェルトも適合係数を下げられた上でボルガダイナマイト、しかもノイズを差し向けられて絶体絶命!

果たしてF.I.S.の、未来の、そして翔ひびの運命はどうなってしまうのか!

次章、「浮上のラストアーク」(仮)

お楽しみに! 
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