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油すまし

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第三章

「勿体ない」
「粗末にしたら駄目よね」
「そうだ、その加減が難しい」
「お爺さん昔からそう言うわね」
「当たり前だ、わしは油すましだ」
 老人は自分から名乗った。
「油の妖怪だ」
「油を粗末にすると怒るのよね」
「そしてこの店にもずっといる」
「江戸時代からね」
「この店が出来たのは大坂の陣の後だが」
 その後の復興の時に店が出来たのだ、店が出来てもう四〇〇年になる。大店であるだけでなく老舗でもある。
「その頃からいる」
「お店守ってくれてね」
「同時に粗末にする様なら叱ってきたが」
「あたしは大丈夫なのね」
「油を使う量をいつもしかと見極めている」
 それが確かだというのだ。
「だからこう言うのだ」
「見事だっていうのね」
「うむ、しかし油を使う料理をよく食べているが太らないな」
「動いているから?いつも」
「そうして家事もしてか」
「だから?あと胸にいくとか」
「油が胸の脂になっているか」
 妖怪は花梨の言葉を受けてこう言った。
「そう言うか」
「そうとか」
「あまり上手でない冗談だな、だが太らないことはいいことだ」
「あたしもそこ食べながら気をつけてるし」
 少し太ったと思ったら泳いだりしている、体調管理も忘れないタイプなのだ。
「だからね」
「そういうことだな」
「うん、じゃあ今日もね」
「油は適量でな」
「やっていくね」
 ジャーマンポテトを作った後はドレッシングを作る、こちらのオイルの使い方も見事だった。そうして。
 料理を作った後で夕食を家族全員で食べる、すると家族全員で花梨の炒めた料理とドレッシングを褒めた。
「いつも通りだな」
「油の使い方が特にいいわね」
「適量でね」
「ずっと油に囲まれてるから」
 それでとだ、花梨は家族に食べながら笑顔で応えた。
「だからね」
「そうだな」
「だから油の使い方もわかっていて」
「それでいいんだね」
「こんなに美味しいのね」
「うん、隣にお爺ちゃんもいるし」
 家族と一緒に夕食を食べている油すましに顔を向けた、実はこの妖怪はこの店にとって守り神でもあり店や家族の危機を幾度も救ってきているのだ。
「これからもちゃんとやってくね」
「その意気だ、ではこれからもね」
「宜しくね、お爺ちゃん」
「こちらこそな」 
 妖怪も笑顔で応える、そうしてだった。
 彼と笑顔のまま話しつつ食事を楽しんだ、油を適量に使った夕食は実に美味かった。


油すまし   完


                   2020・5・29 
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