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提督はBarにいる。

作者:ごません
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暑気払いに夏を感じる1杯を・1

「ふぅ、5月だってのに暑いなぁ毎日」

「まぁ、ブルネイは赤道に近いですから仕方無いのでは?」

「そういう冷める事言うなよ早霜ぉ」

 そうは言ってもジリジリと灼け付く様な陽射し、南国的な湿度の高さ。ジメジメと纏わりつくような日本の夏よりは不快感は少ないが、暑さに関してはこちらの方が上だろう。

「ひゃあ~、暑い暑い!堪んないなぁこの暑さは」

 そんな事を喚きながら、今宵の一番乗りの客が入ってきた。

「いらっしゃい長波姉さん」

「よう早霜、今日もあっち~なぁ」

「そうですか?」

「長波ぃ、お前と早霜じゃあ付いてるモノが違うんだから察してやれよ」

 そういって身体の一部分に視線を送ると、長波は漸く気付いて両腕で覆い隠すようにそこをムギュッと押し潰す。

「提督のスケベ」

「……モロなセクハラは駄目だと思いますよ?店長」

 流れるようにセクハラ発言。普通の鎮守府なら即座に憲兵に通報されても可笑しくないような案件だが、ウチじゃあ出会い頭の挨拶みたいなモンだ。

「何を今更。んで、注文は?」

「あ~……とりあえずビールと、ツマミを適当に」

「あいよ。ツマミは少し時間もらうから、お通しでもつついててくれ」

 そう言って本日のお通し『ワラビと木綿豆腐の炒め煮』を出してやる。

《簡単!ワラビと木綿豆腐の炒め煮》※分量:作りやすい量

・ワラビ(アク抜きしたもの):200g

・木綿豆腐:1/2パック(200g)

・砂糖:小さじ1

・めんつゆ:大さじ4

・ごま油:大さじ1

・削り節:小分けパックで2つ

・七味唐辛子:適量


 ワラビは食べやすい大きさに切り、木綿豆腐は水切りをして粗く崩しておく。

 フライパンにごま油を引いて熱し、ワラビを炒める。ワラビがしんなりしてきたら、豆腐を加えて更に炒める。

 豆腐にも油が回ったら、めんつゆ、砂糖、削り節を加える。少し煮て味見をし、甘いと感じたら醤油を適量垂らして調整。

 仕上げに七味を振れば完成。

※提督のワンポイントアドバイス!※

 つゆだくがいい場合は豆腐は水切りしなくてOK。卵とじにして、丼の具にしても美味いぞ!



「あ~美味い。もうこれで普通にビール飲めるわ」

 お通しを突っつきながら、うっすらと霜の付いたジョッキを煽る長波。冷凍庫でキンキンに冷やしたジョッキに、これまたキンキンに冷やした『スーパードライ』を注ぐ。唇を付けたらくっつくんじゃないかと思う程の冷たさだ。日中暑かった事を考えれば、その冷たさは甘露だろう。

「んで、提督は何作ってくれてんだ~?」

「あぁ、これか?『空豆のチーズ和え』」

 塩ゆでにした空豆の皮を剥いて、レンチンして柔らかくしたクリームチーズにワサビと醤油をチョイと垂らして和えるだけ。簡単だが、ビールに日本酒、ウィスキーなんかの洋酒にも合う万能おつまみだ。

「お~♪美味そうじゃん!早くくれよぉ」

「待て待て、焦んなって。ほらよ」

 小鉢に盛り付けたチーズ和えを受け取った長波が、早速とばかりに頬張る。茹でてホクホクとした食感になった空豆と滑らかなクリームチーズが、咀嚼する度に混じりあっていく。そこに醤油の旨味と塩気、そしてワサビの辛味がアクセントを添える。飲み込んで、味がまだ口の中に残っている所にビール。グビリ、グビリと喉を鳴らして黄金の液体を流し込んでいく。

「っかぁ~!堪んないなぁこれは!」

「おっさん臭いぞ、長波ぃ」

「うっせぇなぁ、提督の影響だぞ?しかたねぇだろ」

 そう言って長波は胸の内ポケットに入っていた『セブンスター』を取り出すと、1本咥えて火を点けた。





 1本吸い終えた所で、長波が僅かに残っていたビールを飲み干す。

「お次はどうする?またビールにするか?」

「う~ん、ビールもいいんだけどさぁ……なんかこう、暑いからこそ美味しいカクテルみたいなの無い?」

「まぁ、無い事もないが……」

「んじゃそれで」

「ざっくりな注文だなぁ……」

「まあまぁ、それだけ提督の腕を信用してんだって」

 上手くはぐらかされた気がするが、まぁいいか。俺は冷凍庫から『ある物』を取り出した。

「んぉ?何だそれ」

「これか?クラッシュアイスを軽く握って丸くしたの。まぁ要するに氷の球だな」

「だったらいつものボールアイスでいいんじゃねぇの?」

「まあまぁ、これはこれで大事な使い道があるんだよ」

 俺はその氷の球をソーサー型のシャンパングラスに入れる。

「あ、長波。何かける?」

「は?かける?何を?」

「こいつは仕上げにリキュールをかけるんだ。甘味の強いのがいいと思うぜ?」

「あ~……んじゃあブルー・キュラソーで」

「あいよ」

 俺はグラスに入れた氷の球に、キュラソーをかけていく。球の半分くらいが沈む位がオススメだ。後はティースプーンを添えれば出来上がり。

「はいよ、『リキュール・ボール』」

「ってこれかき氷じゃんかよ!」

 そう、見た目はちょっとお洒落なシロップ多めのかき氷。だがこれはこれで多彩な楽しみ方の出来る1杯なんだぞ?

「まぁまぁ。まずは氷と混ぜずに、キュラソーだけ飲んでみな?」

「……あ、冷えてて美味しい」

 まぁ、オンザロックみたいな物だしな。お次はスプーンで氷を食べる。

「ほんのりキュラソーの味がすんな」

「上からドボドボかけたからな。少しは味が浸透してんのさ」

 仕上げに氷全体を崩しながらかき混ぜる。こうすればフラッペのようにシャリシャリとした食感を楽しみながらリキュールを楽しめる。

「な?氷にリキュールをかけただけだが、面白いだろ?」

「あぁ。こういうの好きだぜ?」

 他にもメロンリキュールの『ミドリ』をかければまんまメロン味のかき氷みたいな見た目になるし、ウォーターメロンリキュールや、『バカルディ』のモヒートやダイキリ、梅酒なんかの甘味の強いリキュールをかけると美味しい大人専用かき氷が楽しめる。




「あら、何だか美味しそうな物を食べてるわね?長波さん」

「げっ、姉貴……」

「げっ、とはなんです?人を化け物みたいに……。こんばんは提督、良い夜ですね」

「よう夕雲」

 やって来たのは長波の姉であり夕雲型駆逐艦の長女、夕雲だった。着任当初から俺に迫ってくる肉食系駆逐艦であり、改二になってからは元々あった色気が更に増して正直耐えるのがツラい。でもまだケッコンしてないのでウチのルール上手が出せないので余計にツラい……いや、正確には俺から迫ったならケッコン前でも『お手付き』するのは艦娘達的にはアリらしいのだが、一度それを許してしまうと仕事中もアピール合戦が今以上にヒートアップするし、嫁共も仕事してようがお構い無しに襲い掛かって来る(意味深)だろう。流石にそれは不味いだろうという事で、鎮守府の治安と風紀を守る為にも俺が鋼の精神で耐えねばならん。

「まったく……5月だというのに暑いですねぇ」

 夕雲が襟元を大きく開けて、指で引っ掛けてシャツを前後にパタパタと動かして空気を入れている。その際、チラリチラリと駆逐艦らしからぬ豊満な谷間が見え隠れする。黒いレースの縁取りで紫の生地のブラがまた艶かしい。思わず視線を送ってしまう。

「あら提督、そんな盗み見なくても……『見せろ』と一言仰って下されば幾らでもお見せしますよ?勿論、ベッドのう・え・で♡」

 そう言って両腕で胸を寄せて上げて、俺に見せつけるようにアピールしてくる夕雲。……いかんな、最近書類仕事が忙しくて溜まってるからか思わずそういう思考に向いている。

「言ってろ。んで、注文は」

「もう……私にも、冷たくて美味しいカクテルくださる?」

 
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