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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第26節「安らぎ守る為に孤独選ぶより」

 
前書き
危なッ!?
更新時間超ギリギリチャンバラでしたわ。

取り敢えず、第26話です。
推奨BGMはお好みでお楽しみください。 

 
「デタラメ……だと?」

友里からの報告に、弦十郎はそう聞き返した。

「はい……、NASAが発表している月の公転軌道には、僅かながら差異がある事を確認しました……」
「誤差は、非常に小さなものですが、間違いありません。そして、この数値のズレがもたらすものは──」

藤尭がモニターに回した月軌道の算出結果は、やはり、月の落下を指し示していた。

「ルナアタックの破損による、月の公転軌道のズレは今後数百年の間は問題ないという、米国政府の公式見解を鵜呑みにはできないということか……。いや、遠くない未来に落ちてくるからこそ、F.I.S.は動いていたわけだな……」

ウェル博士の語った月の落下が事実であることが裏付けられ、弦十郎は歯噛みした。

『弦十郎くん、大至急頼みたいことがあるんだけど、いいかしら?』
「どうした、了子くん?」

そこへ、ラボにいる了子からの通信が入る。

『響ちゃん達の治療について、ほぼ確実って言えるくらい有効な手があるんだけど……』
「本当か!?」

ほぼ確実、その弦十郎は思わず身を乗り出した。

『でも、その為に必要なものは今、私達の手元にはないの』
「どういうことだ?」
『後で説明するから、取り敢えず今は米国F.I.S.のアドルフ博士に繋げるよう、取り計らってくれないかしら?』
「米国F.I.S.だと? まさか、フィーネの記憶からか!?」

驚く弦十郎に、モニターの向こうで頷く了子。

『確認したいの。この記憶の通りなら、それはおそらく──』

了子がそこまで言いかけた、その時……。

『叔父さん! 緊急事態だ!』

モニターに翔の端末からのカメラ映像が表示された。

「どうした、翔!?」
『取り敢えず、彼の話を聞いてやってくれないか?』
「む?」

翔が端末を渡したことで、カメラにその人物の顔が映される。

その人物に、弦十郎や藤尭、友里らは大いに驚愕した。

「お、お前は──ッ!?」

ff

(……死ぬ……。戦えば、死ぬ……。考えてみれば、当たり前のこと……。でも、いつか麻痺してしまって、それはとても、遠い事だと錯覚していた……)

正午の都内、スカイタワーの地下にある水族館。
小型のサメやエイ、マンボウが泳ぐ大水槽の前で響は、昨日、翼に言われた言葉を思い出していた。

「どうした、響」
「翔くんはさ……戦う時、怖くないの?」

響の言葉に、翔は少し考えてから口を開いた。

「そうだな……。実を言うと、あまり考えないようにしていたんだ」
「え?」

翔の顔を見ると、彼は水槽の方に視線を移しながら答える。

「確かに、戦うのは怖いさ。でも、それ以上に……逃げ出すことの方がもっと怖いんだ」
「どうして?」
「だって、もしも恐怖に負けて逃げ出してしまったら、手を伸ばせたはずの誰かに手が届かなくなってしまうかもしれないだろ? 逃げて振り返った時、大切な人が遠くへ行ってしまうなんて、俺は絶対嫌だ。……そうだ、俺は繋いだこの手が離れてしまうのが怖いから、戦ってきたんだ……」

翔は自分の胸、傷跡がある場所に手を置きながら、再び響の方を見た。

「響はどうなんだ? どうしてガングニールを纏い、戦場に立っている?」
「わたしは……」

響もまた、自分の胸に手を当てて考える。

「……わたしは、この力で困ってる人達を助けたい。あの時、奏さんに助けられたこの命で、誰かに手を伸ばしたい」

そこまで言ったところで、ここ数日の間に何度も思い出した言葉が浮かび、響は目を伏せる。

「でも……戦えないわたしって、誰からも必要とされないわたしなのかなって……。わたしが頑張っても、誰かを傷つけて、悲しませることしかできないのかなって……」
「響」

肩を抱き寄せられ、響は顔を上げる。
見上げた翔の顔は、水槽からの青い光に照らされ、なんだか少しだけ色っぽい。

「寂しい事言うなよ。戦えなくたって、俺には響が必要なんだ。響の優しさに、温かさに救われて、俺はここに立ってるんだ」
「翔くん……」
「だから、忘れないでくれ。胸のガングニールが無くたって、君の優しさは誰かの生きる理由になっていることを。いつだって君が、誰かに愛されてることを」
「ん……」

胸に刺さっていたトゲが、抜けたような気がした。
翔の肩に身を寄せて、響は実感する。

(一人じゃない。いつの日も、どこまでも、わたしの隣に居てくれた人達がいる。お母さんやおばあちゃん。それから──未来。わたしの陽だまり。そうだ……わたし、あの時から、いろんな人達に支えられてきたんだ……)

あの日、翔に言われた言葉を、改めて思い返す。

『もっと周りを頼れ!必要以上に堪えるな!』

(わたしを支えてくれた人達に感謝する為にも……わたしは、精一杯生きていかなくちゃ)

響は翔の顔を見上げながら……。

「翔くん」
「ん?」
「ありが──ふええぇぇあああぁぁ……ッ!?」
「おおおおおっとぉぉ!?」

頬に伝わる冷たい感触に、二人は思わず悲鳴を上げて飛び退いた。
周囲の客の視線が、一斉に二人の方へと集中する。

「大きな声を出さないで」

二人が振り返ると、そこには缶ジュースを持った未来と恭一郎が立っていた。

「だだだ、だって、いきなりこんな事されたら、誰だって声が出ちゃうってッ!」
「恭一郎、小日向、お前らなぁ……」
「すまない。でも、悪いのは小日向さんを不機嫌にさせた君達の方だからね」

翔にジュースの缶を渡し、恭一郎は微笑みながらそう言った。

「だって……二人とも、せっかく遊びに来たのに、ずっとつまらなさそうにしてるから……。今もな~んか暗い話、してたんでしょ?」
「あ、あああぁ……ごめん……」

不満そうな未来の顔に、響は慌てて謝った。

「二人とも、ありがとう。だが、心配は無用だ」

翔は未来と恭一郎を交互に見て、ニヤッと笑った。

「今日は久しぶりのデートなんだからな。わざわざ呼んでくれたんだ、ここからは楽しくいこうじゃないか」
「デートッ!? あ、いや、僕と小日向さんは付き合ってるわけじゃ……」
「さあさあ、デートの続きだよッ! せっかくのスカイタワー、4人で丸ごと楽しまなきゃッ!」
「ん……」

響は未来の手を引き、翔は恭一郎の背中を押しながら進む。

「未来~、次はどの水槽見よっか~?」
「う~ん……クラゲかな」
「ほらほら、次行くぞ~」
「だからって押す必要は……」

賑やかな四人。戦いとは無縁の平和で、穏やかな時間の中で歳相応に遊び、笑い合う四人。

そんな四人の後をこっそりつけている灰髪の青年がいることを、彼らは知らない。

勿論、サングラスに隠したその青年の表情が、焦燥に焦がれているということも……。

ff

同じ頃、スカイタワー58階のエレベーターからは、意外な人物達が降りてきていた。

「マム、あれはどういう?」

車椅子を押しながら、マリアはナスターシャ教授に先日の言葉の意味を問いかける。

「言葉通りです。私達のしてきたことは、所詮テロリストの真似事に過ぎません。真になすべき事は、月がもたらす被害をいかに抑えるか……。違いますか?」
「──つまり、今の私達では世界を救えないと……」
「ツェルトにはああ言われましたが、こうするより他ありません」

大きな窓から街を見渡せるイベントホール。
企業の式典、または祝いの席として貸し切れるその部屋へと入ると……そこには、黒服の男達が並んでいた。

「……マム、これは──ッ!?」
「米国政府のエージェントです。講和を持ちかけるため、私が招集しました」
「──講和を……結ぶつもりなの?」
「ドクター・ウェルには通達済みです。さあ、これからの大切な話をしましょう」

そう言ってナスターシャ教授は、車椅子をテーブルへと着ける。

(嫌な予感がする……。とても、嫌な予感が……)

マリアの胸に、言い知れぬ不安が渦を巻き始めていた。

ff

あれから暫く。水族館を巡った翔達は、最上階の展望デッキを堪能していた。

翔がトイレで手を洗い、三人の座る場所へと戻ろうとしていたその時、聞き覚えのある呼び名で自分を呼び止める声があった。

「また会ったな、ファルコンボーイ」
「ッ!? その声、お前は……」
「シッ……声が大きい。二人きりで話せるか?」

人差し指を口に当て、ツェルトは周囲を見回す。

「……何のつもりだ?」
「疑われるのも無理はない。だが、お前にしか頼めないんだ。……特異災害対策機動部二課と話がしたい」
「それはどういう風の吹き回しだよ!?」

困惑する翔の目を真っ直ぐに見て、ツェルトは頭を下げた。

「マリィを……俺の大事な人達を、助けたいんだ」

ff

「マム、投降するつもりなんだろ?」

早朝、ツェルトはスカイタワーへと発つ前のナスターシャ教授を呼び止め、そう言った。

「投降ではありません。講和を結ぶだけです」
「米国政府が、裏切り者である俺達との約束を守るわけがない!」
「では、他にどうしろと?」

ナスターシャ教授に、ツェルトは毅然とした視線で答えを返す。

「特異災害対策機動部二課だ。政府の連中に比べて、俺には奴らの方がよっぽど信用できる」
「その根拠はあるのですか?」
「俺は二課の装者と何度もやり合った。そして、昨日の戦いで確信したんだ。アイツは信用に値する。あいつらは俺達の事を知ろうとしていたんだ。アイツらなら、きっと分かってくれる。なんたって、ルナアタックから世界を救った奴らだ。その二課と手を取り合えるなら、きっと──」
「いい加減にしなさいッ!」

ナスターシャ教授からの厳しい声に、ツェルトはビクッと肩を跳ねさせる。

「あなたが知っているのは二課の装者であって、二課そのものではありません。個人と組織とは別のもの。二課の装者が信用できる人間だからと言って、彼ら彼女らを擁する組織が政府の犬ではないとどうして言い切れるのですか?」
「ッ! ……それを言うなら、米国政府のエージェントなんて、公権力の犬でしかないじゃないかッ! この前俺達を始末しに来た連中だぞ!?」
「仮に二課が我々を受け容れたとして、日本政府までもが我々を受け容れてくれるとは限りません。もし我々が彼らの庇護下に入ったとして、その時は日本と米国の国際問題に発展しかねないでしょう。テロリストをかくまった組織と、それを庇おうとする国家として舌鋒鋭く非難され、日本は世界から孤立する可能性だってあり得ます。そうなった場合、あなたは彼らに顔向けできるのですか?」
「そ、それは……」

確かに、米国ならやりかねない。
そう確信があるだけに、ツェルトは反論できなかった。

「これが最も不要な犠牲を出さないための、最善の一手なのです。分かってください」
「でも……」
「それに、取引に使うチップのパスワードは私にしか分かりません。彼らにも考える頭くらいはあるでしょう。……あなたの言う道を選ぶには、遅すぎたのですよ……」
「マム……」
「では、私は行きます。留守を任せましたよ」

ナスターシャ教授の背中を、ツェルトはただ見つめるしかなかった。

彼女を止めるだけの意見が、彼にはなかったのだ。

だが、確信だけはあった。

(助けられるはずだったセレナの命を、ゴミクズのように見捨てた連中だぞ……? 目先の利益しか目にない、消費主義の権化だぞ? どうせどんな条件を取り付けようが、マムは確実に始末される……。パスワードなんか解析にかければいい、懸けた時間に見合ったものが入っている……そんなゲスい台詞と共に引き金に手をかける姿が目に浮かぶぜ、クソッ!)

ツェルトは自室へと走る。
ナスターシャ教授を止めることは出来なかったが、それでもツェルトは諦めていなかった。

何としてでも、ナスターシャ教授を。そして随伴するであろうマリアを守らなくては。
ツェルトは、自室に置いてあるRN式の入ったアタッシュケースに、こっそりと拝借してきたとある資料を忍ばせ、エアキャリアを飛び出した。

全ては、己が信じた正義の為に。
この瞬間、ずっと押し込め続けてきた自分自身の良心に従って、ツェルトは行動を起こすと決めたのだ。

ff

『お、お前は──ジョセフ・ツェルトコーン・ルクスッ!?』
「事態は一刻を争う。もう、あまり時間はない。だから、今説明できることだけ、簡潔に話す」

そう言ってツェルトは、話を切り出した。

「月の落下の真実を知っているのは、米国政府を始めとした一部特権階級の連中だって話は、この前ドクターがしていたな」
『ああ。こちらでも、つい今しがた、NASAが発表した月軌道との僅かな差異を確認したところだ』
「そのお偉いさん達が、その極大災厄に対抗して運用しようとしていた超巨大遺跡。それがコードネーム・フロンティアだ」
『フロンティア、だと……!?』
「そういえば、ウェル博士もフロンティアがどうとか言ってたような……」

ツェルトは翔と共に、タワーの階下へと駆け下りながら説明する。

目指すは58階。タワー内で一番、取引に向いている場所だ。

「フロンティアについての詳細は、今は省く。こいつに資料を預けておくから、そいつに目を通してくれ。ともかく、そのフロンティアを横から掻っ攫い、救える人間の母数を可能な限り増やすことを試みる……それがマム、ナスターシャ教授の『フロンティア計画』の概要だ」
『それで、君はどうして我々に助けを求めているんだ?』
「俺達は昨夜、フロンティアの封印解除を試みたんだが、失敗。更に、度重なる精神的な負担から、マリア達のメンタルがそろそろ限界でな……。負い目を感じたマムは今日、ここで米国政府と交渉するつもりなんだッ!」
「正気かッ!? 米国政府のやり方が気に食わなくて、お前らは自分達の国に反旗を翻したんだろ!?」

翔の困惑に、ツェルトは頷く。

「それが、最も無駄な被害を抑えられる手だとマムは言っていた。だが、当初の目的に照らし合わせて、それは矛盾でしかない。あいつらが、不都合な事実を知る裏切り者を生かしておくものかッ!」
「じゃあ、助けろってのは……」
「ああ。マムとマリィを助けたら、お前ら二課に投降するよう頼んでみるつもりだ。だから──」
「……俺は行くぜ」

弦十郎が答えるより先に、翔は即答した。

「叔父さん、構わないよな?」
『ああ。人命が懸かっている以上、悩んでいる暇はない。俺が許可するッ! 行ってこいッ!』

弦十郎の頼もしい言葉に、そして何より、迷わず即答してくれた翔に、ツェルトは思わず頭を下げた。

「風鳴翔……恩に着るッ!」
「翔でいい。フルネームじゃ長いだろ、ジョセフ」

その言葉に、ツェルトは顔を上げる。

「……ツェルトでいい。ニックネームの方が通りがいいだろ?」
「なら、ツェルト。よろしくなッ!」

そう言って、翔は開いた右手を差し伸べる。

ツェルトは一瞬迷いながらも、左手を差し出した。

「握るなら、生身の方の手にしてくれ」
「お、おう……。じゃあ──」

翔はツェルトの左手を硬く握り、握手を交わす。

ここに、二人の友情が確かに結ばれた。



──と、その時、基地内にノイズ出現のアラートが鳴り響いた。

『スカイタワー周辺に、ノイズのエネルギー反応を検知!』
「なんだとッ!?」

その瞬間、ツェルトの脳裏に浮かんだのは……今、この状況で最も損をする男の顔であった。

「お前の仕業か……ドクター・ウェルぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」 
 

 
後書き
サブタイは言うまでもなく主題歌からです。

次回もお楽しみに! 
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