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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga6-A遭遇~T.C.~

 
前書き
エリオがクローンだってことを、今になって思い出しました。 

 
†††Sideエリオ†††

最後の大隊による“イリュリア・クーデター事件”も終わって、管理世界も事件前に戻った。それと同時に犯罪発生率も元に戻っちゃったけど。
僕やキャロの親代わりとなってくれたフェイトさんやアリシアさんも執務官として管理世界の海を渡ってるけど、明らかに忙しくなったってぼやいてた。でも、そんな中でも休みを取ってくれて、僕たちの仕事先である第61管理世界スプールスにまで来てくれる。

「せいっ、やぁっ、たぁっ!」

日課の早朝練習、イメージの中の仮想敵との交戦。槍型のアームドデバイス“ストラーダ”を振るって、仮想敵に一撃、また一撃を与えていくけど、僕もそれ以上に一撃を貰っていく。

(やっぱりまだ、フェイトさんには勝てないな~)

早朝練習の仮想敵は基本的にフェイトさん、そしてシグナム副隊ち――じゃなくて一尉。六課時代によく相手をしてもらっていたからイメージがしやすいんだけど、なかなかイメージの中でも勝てない。もっと精進あるのみだ。

「エリオくーん!」

一息吐いてたところで僕の名前を呼んだのはキャロだった。キャロも、フェイトさんとアリシアさんが親代わりとなってくれていて、初めて顔を合わせたのは機動六課時代。解散後は、ここスプールスで管理局の外部組織の1つ、自然保護隊で保護官としてキャロと一緒に働いてる。

「エリオ君。タントさんとミラさんが、待ち合わせの街まで車を出してくれるって」

キャロの周りを飛ぶ小さな飛竜フリードの首を撫でて、「え、そうなの?」って聞き返した。スプールスに常駐してる保護隊は12組あって、タントさんとミラさんは僕とキャロの上司で、第4班になる。

「うん。フェイトさんとアリシアさんにも挨拶しておきたいからって」

「そっか。うん、判った。ありがとう、キャロ、フリード」

「うんっ!」「きゅくるー!」

“ストラーダ”を待機モードの腕時計に戻していると、キャロが「はい。エリオ君」と近くの切り株テーブルに置いてあったタオルを手渡してくれた。それにお礼を言いながらタオルを受け取って、汗を拭い去る。
キャロやフリードと一緒に事務所兼住宅へ戻ると、「おかえり~!」と迎えてくれたのは「ただいま、タントさん、ミラさん」だ。朝ご飯の用意をしてくれている最中で、僕とキャロは「手伝いますね!」とキッチンカウンターからダイニングテーブルにお皿を運ぶ。

「「「「いただきます!」」」」

食事前の挨拶をして、ミラさんの美味しいご飯をいただく。食事の間、フェイトさん達と今日はどこに遊びに行くかとか、キャロと数日前から考えてた予定を楽しく話し合う。そして朝ご飯とその片付けが済んだ後は、外出の準備だ。

「何か手伝おうか、キャロ?」

「あ、大丈夫。あとはランチボックスに詰めるだけだから」

シャワーできっちり汗を流した後、キッチンでは自分で作った料理をランチボックスに詰める作業をしてるキャロにそう声を掛けた。テーブルの上にはサンドイッチの他に「美味しそう」なおかずがたくさん。そんな無意識に口にした僕の言葉に、キャロは「1つ味見してみる?」って、短い竹串に刺さってる軽く焼かれたハムを巻いた卵焼きを差し出してくれた。

「あ、ありが――」

「あーん」

串を受け取ろうとしたら、キャロが僕の口に向かってハム巻を向けてきたからさぁ大変。ドギマギして口を開けない僕の様子に、「エリオ君?」って首を傾げるキャロ。変に意識するのも失礼かと思って、いざ口を開けて食べようとしたら、「あぅ。やっぱりダメ、恥ずかしいぃ~」キャロは顔を真っ赤にした。

「えっと、ごめんね? はい、どうぞ」

「あ、うん、いただきます」

何度か深呼吸した後のキャロから串を受け取って、パクっと一口で食べる。少し冷めてるけど、それでも十分美味しい。だから「美味しいよ、キャロ」って素直な感想を伝えた。キャロはさっきほどじゃないけど顔を少し赤くして「よかった~」って安堵。キャロは六課が解散して原隊である自然保護隊に戻ってから、ミラさんに料理を習い始めた。それも、今日みたいにフェイトさん達に喜んでもらいたいから。

「よしっ。完成! なんとか間に合った~」

キャロがいくつものランチボックスをバスケットの中に収めて、最後にハンカチを被せたところでホッと一息。フェイトさん達と決めた待ち合わせの時刻は10時30分に次元港で、だ。今は9時40分。ここから車で30分くらいだから、時間的にはまだ余裕がある。

「車を出してもらえることになって、公共交通機関(バス)を利用しなくていいからってちょっと遅めにお弁当作り始めたんだけど、結構ギリギリだったね。・・・えっと、じゃあ着替えてくるね」

「あ、うん」

そう言って自分の部屋に向かうキャロを見送って、僕も自分の準備の最終チェックに入る。今着ている服は、以前フェイトさんとアリシアさんに選んでもらった、Tシャツにパーカとカーゴパンツ。髪型とかは別に普段通りで、後ろ髪をゴムで結うだけ。それに水筒とレジャーシートを収めたリュック。あとは、財布の中身も確認。14才とはいえ管理局に籍を置いてる公務員だ。無駄遣いは出来ないけど、普通の生活は送れるだけの給金は貰ってる。

(今日こそ、フェイトさんとアリシアさんからのお小遣いを貰わないようにしないと)

知らない間に口座にお小遣いが振り込まれてた時は、当時は嬉しかったけど今はちょっと・・・ってなる。フェイトさんとアリシアさんの子どもであるという誇りはあるし、恥ずかしくないように胸を張って生きていきたい。でも、やっぱり昔から変わらない子ども扱いはそろそろやめてほしい。

「エリオ君、お待たせ~!」

軽い足取りで戻ってきたキャロ。Tシャツにロングフレアスカートにショートジャケット、そしてスラウチハットという服装だ。

「どうかな?」

「うん、とっても可愛いと思う!」

「えへへ、ありがと~♪」

キャロと笑顔を交わしていると、「エリオ君、キャロちゃん。そろそろ出ようか」と声を掛けてくれたタントさんに「はい!」頷いて、タントさん達と一緒に街、タンシ区へと向かう。スプールスは自然が多く、この辺りは1番近い街に着くまではのどかな風景が続く。

「今春も、フラワークラウンバードもやって来たね」

「例年通りのルートで、B2エリアに向かってます」

「元気な雛が生まれるといいですね」

「うん」

スプールス固有種のフラワークラウンバードは渡り鳥で、春頃になると北部から南部のこの辺りにまで飛んで来て、卵を産む。そこで秋に入るまで雛を育てて、また北部に戻っていくを繰り返す。その綺麗な花弁のような冠羽や羽根はもちろん、その肉や卵も貴重ということで密猟や違法売買の被害に遭ってる。僕たちは保護官はそう言った動物たちを守るためにいる。

「あ、見えてきた・・・!」

フェイトさん達との待ち合わせをしてる街、タンシ区が見えてきた。フェイトさん達は次元港のあるアーカンサス区でレンタカーをレンタルして、待ち合わせのタンシ区にまで来てくれることになってる。タントさんの運転するもタンシ区に入って、待ち合わせ場所の公園の駐車場に入る。

「「フェイトさん、アリシアさん!」」

駐車場と公園を繋ぐ石畳の道の両サイドに設けられてるベンチに座る2人を見つけた。窓を開けずにだけど手を振ると、笑顔で手を振り返してくれた。そして、僕たちの車も空いてるスペースに駐車して、タントさん達と車を降りる。

「「エリオ、キャロ!」」

「「フェイトさん、アリシアさん!」」

僕とキャロはフェイトさんとアリシアさんの元に駆け出して、「スプールスにいらっしゃい!」と挨拶した。2人がスプールスを訪れるのは今回で2回目。1回目は、僕とキャロが保護隊に入るとき、タントさんとミラさんに挨拶するために。

「フェイト執務官、アリシア執務官補、ご無沙汰しております」

「お久しぶりです」

「お久しぶりです、タント保護官、ミラ保護官」

「うちのエリオとキャロがお世話になってます!」

大人な挨拶と軽い談笑をするフェイトさん達の側で待つこと少し。タントさんとミラさんは、「目一杯楽しんでおいで」と僕たちに笑顔を向けて、車に乗って巡回に入った。僕とキャロは車が見えなくなるまで手を振った。

†††Sideエリオ⇒キャロ†††

タントさんとミラさんを見送った後、ふとアリシアさんがニヤニヤしてるのに気が付いた。こうして直接逢うのはかなり久しぶりだし、それを嬉しがってくれてるのかな?って思ったんだけど・・・。

「さ、車はこっちだよ」

「車は私が運転するからね~♪」

「「え?・・え?・・・あれ?」」

ベンチに置かれたままのスポーツバッグに、私とエリオ君はフェイトさん達とバッグを交互に見て混乱。するともう1つのスポーツバッグを肩に提げてるアリシアさんが「あ、ごめん! 持ってきてー!」って言ったから、エリオ君が返事をしてバッグに近付いた。と、その時、バッグが小さく動いたと思ったら・・・

「どぉーん!!」

「「っ!!?」」

バッグから突然なにかが飛び出してきた。私は思わずエリオ君の背中に隠れて、ソレが何かを確認する・・・までもなく、「アルフ!?」だってことが判った。オレンジ色の長い髪に狼耳にしっぽ。私やエリオ君にとってはお姉ちゃんのような存在。それがアルフだ。

「久しぶりだな、エリオ、キャロ! しばらく逢わない間にまた大きくなった・・・のは、エリオだけか。キャロは全然伸びないな~。ちゃんとご飯食べってか?」

バッグから飛び出した時の身長は5歳くらいだったけど、地面に降り立った時にはニョキニョキと身長が伸び始めて、なのはさん位の身長になった。そんなアルフに「ちゃんと食べてるんだけど・・・」って嘆息。エリオ君はぐんぐん伸びるし、ルールーもリヴィも・・・。

(ルーちゃんも女の子らしいスタイルになってるし、リヴィちゃんなんてモデルさんみたいなってるし・・・)

同じ歳でこの差はいかがなものか、ってずっと悩んでる。エリオ君たちに背を向けて、自分の貧相な胸をペタッと触って、「なんでかな~?」って落ち込む。そんな私の肩に手を置いたアルフが「ま、そんなに落ち込むことないって。エリオだって、そんなの気にしないだろうし」そう耳打ちしてきた。

「えっ!?」

脳裏にチラッと浮かんでたのがエリオ君だって言い当てられたみたいで驚いた。アルフに振り向くと、アリシアさんと同じくらいにニヤニヤしていて、フェイトさんだけが「どうしたの?」って首を傾げた。

「いやさ? キャロがスタイ――」

「ああああああああああ!!」

エリオ君が居る中でそれだけは。必死に大きな声を出しながらアルフの口を押える。という、出だしから疲れちゃうことばかりだったけど、なんとかアリシアさんの運転するレンタカーに乗り込んで、ピクニックする場所のプレアの丘を目指す。

「そう言えばさ。ルーテシアとリヴィア、7月にミッドに来るんだよね?」

「あの子たちもインターミドルに出るって話だったっけ」

ハンドルを握るアリシアさんがそう言うと、後部座席に座る私とエリオ君の間に座るフェイトさんも続いた。

「うん。ちょっと前に、セコンドをお願いされて・・・。私はルーちゃんのセコンドを」

「僕はリヴィのセコンドをすることになってます」

インターミドル期間中はシャルさんのお家で寝泊りするみたいで、今から楽しみだって言ってたのを思い返してると、アルフが「エリオとキャロは出ないのかい? 2人なら結構いいとこまで行くんじゃないかい?」って聞いてきた。私とエリオ君は顔を見合わせて、小さく頷き合った。

「フォルセティが出たらちょっと考えたけど・・・。知り合いがいないとやる気が・・・」

「私はそもそもあんまり興味なくて。下手するとヴィヴィオにも負けちゃいそうだし」

この前、ヴィヴィオ達チームナカジマの練習映像がルーちゃんから送られてきたけど、その強さにビックリしちゃった。詰められたら何も出来ずにKOされるイメージしかない。でもエリオ君とフォルセティの全力試合はちょっと見てみたいかもって思う。
そんなインターミドルの話や、他にもお互いの近況報告をしてると、「お、見えてきたぞ!」アルフが窓から身を乗り出してそう言った。私たちが今日ピクニックするプレアの丘は、なだらかな丘が続く場所で、近くには山もあるからハイキングに移行できるし、加えて川もあるから釣りも出来る、休日を過ごすには1番のロケーションだ。

「アルフ。アレは持ってくれた?」

「おう、バッチリ!」

アルフが隠れてたスポーツバッグとは別、アリシアさんが初めから持ってたスポーツバッグをトランクから出した。アルフは自分の肩に提げて、「ほら、行くぞー」って私とエリオ君の背中を押した。

「よし。行こうか!」

「「「「おおー!」」」」

フェイトさんの言葉の私たちは拳を空に向かって突き上げた。他にもピクニックに来てる人たちが居て、「こんにちは~」挨拶を交わしながら人気の少ない場所を歩く。そしてたどり着いた小高い丘の大きな樹の下で、エリオ君のリュックから取り出したレジャーシートを広げる。

「アリシア。シートが飛ばないように重石になる石を拾うの手伝って」

「オッケー♪」

「キャロはバスケット、エリオは水筒を置いておこうか。アルフはバッグから色々出しておいて」

「「はい!」」「あいよー!」

シートを押さえるための石を探しに行くフェイトさんとアリシアさんを見送りながら私は持ってたバスケットをシートの上に置いて、エリオ君も水筒3本を置いた。アルフもバッグを降ろして、そこからラケットと羽根、それにボールを取り出した。

「キャロが作ってくれた昼ご飯を美味しく食べるために、スポーツで腹ごしらえだ」

そう言ってアルフは私とエリオ君にラケットを手渡して、アルフもラケットを軽く素振り。

「ただいまー」

「あ、最初はバドミントンからなんだね。よし。私もラケット~っと!」

フェイトさんとアリシアさんは拾ってきた拳大の石をシートの四隅を置いて、残り2つのラケットを手にした。私たちは少し離れたところで円になるように並んで、「いっくよー!」最初はアリシアさんで、パシン!と羽根を打った。

「あ、私いきます! えーい!」

私が打った羽根はフェイトさんのところへ向かって、「さ、エリオ!」君のところに打った。エリオ君は「はい! アルフ!」のところに打って、アルフからアリシアさん、そして私の順が3周くらいした後、アリシアさんは「おらぁ!」突然フルスイングで羽根を打った。

「うわぁ!?」

それでも反応できたエリオ君は、高速で飛んできた羽根を打ち返した。打ち上げられた羽根はアルフのところに向かって落下。そんなアルフもニヤニヤとラケットを振りかぶった。私だけじゃなくてフェイトさんもエリオ君も察したはず。アルフも全力で打ってくるって。

「いくよ!」

「うええええ!? 私!? 来なくていいよ!」

アルフが私を見たからラケットを両手持ちして震えながら待っていると、アルフは落ちてきた羽根を「エリオ!」君に打ち込んだ。でも今度は心構えがしっかりしてたから「お返しです!」フルスイングで、アリシアさんに向かって打った。

「ひゃうわっ!?」

「おわふ!」

アリシアさんが適当に振ったラケットは羽根をアルフの方に打ち返して、アルフはしゃがむことで避けた。フェイトさんが「はーい。はしゃぎ過ぎはダメだよ~」パンパンと手を叩いて、アリシアさんとアルフにニッコリ。

「「はい」」

それからは普通にバドミントン(フェイトさん達が子供の暮らしてた国だとそんな名前みたい)などでお腹を減らして・・・。

「どうぞ召し上がれ!」

「「おお!」」

「わぁ、美味しそう! 頑張ってくれたんだね、キャロ! ありがとう!」

ちょうどお昼時になったことで、バスケットからランチボックスを取り出して蓋を開ける。アリシアさんとアルフはランチボックスに顔を近付けて歓声を、フェイトさんは私の頭を撫でて褒めてくれた。

「えへへ♪ 喜んでもらいたくて張り切っちゃいました!」

みんなで手を合わせて「いただきます!」をして、フェイトさん達が思い思いに料理を手に取ったり割り箸で掴み上げたりして食べるのを緊張しながら見守る。

「「美味しいぃぃぃーーーー!!」」

「うん、本当に美味しい!」

わざわざ立ち上がってから叫ぶアリシアさんとアルフに驚いちゃったけど、続いたフェイトさんからの感想で緊張がようやく解けて、エリオ君からも改めて「キャロ、すごく美味しいよ!」そんな感想を貰って、心底ホッとした。私も割り箸を手に卵焼きから食べ始めた。

「「「「ごちそうさまでした!」」」」

「お粗末様でした♪」

楽しいお喋りをしながらのお昼ご飯を終えて、休憩を兼ねてゴロゴロする。私はフェイトさんの膝枕で横になって、エリオ君はアリシアさんの、アルフはフェイトさんの肩を揉んだり、交代でアリシアさんがエリオ君の肩を揉んだり、私とフェイトさんでアルフをブラッシングしたり、穏やかな時間を過ごした。

「さて。次の予定はどうだったっけ?」

「あ、ちょっと辺りをぐるっと見て歩こうかと」

アリシアさんにそう答えて、車に水筒以外の荷物を置いてから散歩コースに入る。春から夏へ移る間に吹く風や、レンガで舗装された道の両側に咲く花の香りが心地いい。

「良いところだね、プレアの丘って」

「うん。家族でゆったり過ごすにはうってつけかも」

「でも狼のあたしにとっちゃ、ちょいと花の香りが強すぎだな。いや良いところなのは同感だけど」

「あ、ごめんね、アルフ。マスクとかあればいいんだけど・・・」

嗅覚が鋭いアルフにはちょっと辛いかも。エリオ君と一緒にしょんぼりしてると、アルフは豪快に笑いながら「あ、いやいや。サプライズのために黙ってたのはこっちだしな!」って私とエリオ君の頭を撫でた。それでホッとした私たちは、軽やかな足取りで沢の方に向かったんだけど・・・。

「「「「「っ!!?」」」」」

川のせせらぎと風で揺れる葉音だけの沢。その川辺に目を疑うような、この場で居ないはずの人が居たから、反射的に木の幹の裏に隠れちゃった。

「族長さん・・・!?」「僕のオリジナル・・・!?」

エリオ君と声が重なって、「え?」って顔を見合わせる。私の目にはル・ルシエ一族の族長さんが映ってる。でもエリオ君は今、僕のオリジナルって漏らした。エリオ君は、フェイトさんやヴィヴィオ、フォルセティと同じ、“プロジェクトF.A.T.E”で生み出されたクローンだって聞いてるけど・・・。

「エリオ、キャロ。2人それぞれ別の人が見えてるんだよね・・・?」

フェイトさんの震える声での確認に、私たちは同じように震える声で「はい」頷き返した。フェイトさんとアリシアさんとアルフも顔を見合わせてから、自分たちがどのように見えてるかを口にした。

「リニス」「プレシア」「酢鯖寿司」

「「「「「・・・え?」」」」」

フェイトさんとアルフからは、以前聞いたことのある名前が出てきたけど、アリシアさんは今なんて言ったんだろう。アリシアさんが「だって、日本で食べた時、あまりの酸っぱさで戻しちゃったじゃん! あれ、結構トラウマだったの!」って大きな声を出した。

「ちょっ、アリシア!」

「声がデカいよ!」

「もがもが!」

フェイトさんとアルフがアリシアさんの口を押えて上で私たちは正体不明の人を見る。と、「目が合った!」ことで、フェイトさんとアリシアさんとアルフがバッと飛び出した。

「時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンです」

「同じく、執務官補のアリシア・T・ハラオウンです」

「「少しお話を伺ってもいいですか?」」

名前と管理局員を示す局員IDをモニターに展開して見せたフェイトさん達。私とエリオ君はアルフと一緒に2人の側へ移動して、同じように局員IDを提示しようとしたとき、正体不明の人が「結界!?」を展開した。正体不明の人を覆うかなり大きな四角柱のものと、私たちを覆う半球のものだ。

「すまないけど、今仕事中でね。局員さん達には申し訳ないけど少しその場に居てほしい」

「今すぐ結界を解除してください! 公務執行妨害ですよ!」

「あと、変な魔法も解除するように! 私たちがあなたを上手く認識できていないのは、幻術か特別な変身魔法を使っているからでしょ!」

フェイトさんとアリシアさんの言葉を聞き流してる正体不明の人は、「まあまあ。危害は加えないので、大人しくしていてください」って言いながら、両腕に炎のような真っ赤な魔力を付加した。そして「とりゃあああああ!」叫びながら地面に両拳を打ち込んだ。結界のおかげで爆発音や地面に破片が外に漏れないけど、土煙の所為で正体不明の人の姿が見えなくなった。

「アルフ! バリアブレイク!」

「あいよ! ひっさびさの魔法! いくよ!」

アルフはブレイク系魔法が得意ということで、魔法を発動した両拳で結界を「おらおらおらぁっ!」って殴り続けるけど、かなり強固みたいでヒビ1つ入らない。

「なんだいこの結界! 全くと言っていいほど魔法の効果が生まれないじゃないかい!」

「待って、アルフ。ありがと。フェイト」

「うんっ。アルフ、エリオ、キャロ、防護服を着用した後、ちょっと地面に伏せてて。私とアリシアでこじ開けてみる」

「バルディッシュ! ザンバーフォーム!」

「フォーチュンドロップ、ハリセンスマッシュでいくよ!」

「ストラーダ!」

「ケリュケイオン!」

「「「「セーットアーップ!」」」」

デバイスを起動して防護服を着用すれば、アリシアさんとフェイトさんの魔法を受けても重傷にはならない。準備が整ったところで、アリシアさんが“ハリセンスマッシュ”を振りかぶった。

「私が少しでも穴を空けるから、フェイトのザンバーで一気に斬り開いて!」

「判った!」

「いくよ! スマァァーーーッシュ!!」

“ハリセンスマッシュ”が結界の内面にヒット。ガキン!と甲高い音を立てて、結界に穴が・・・開かなかった。それどころか「うぁ!」アリシアさんが弾き飛ばされた。アルフとエリオ君が抱き留めたから転倒することはなかったけど・・・。

「待って、フェイト。コレ、かなりヤバいやつだ。下手に攻撃しない方が良いと思う・・・悔しいけど」

「・・・判った」

アリシアさんとフェイトさんがデバイスを待機モードに戻した直後、正体不明の人の結界内がボッと炎に包まれた。そして炎が消えると、そこにはやっぱり族長の姿をしたままのあの人が立っていた。

「何を持っているんですか?」

正体不明の人の手には剣と斧があって、それから「魔力が・・・」溢れ出してる。フェイトさんの問い掛けにその人は「すごい魔力を感じるでしょ? コレが欲しかったんだ」って答えた。

「・・・なんのために?」

「んー・・・。我らT.C.。王の御身のために、ってやつ」

「T.C.? それは誰かの名前? それとも組織の名前?」

「あー、それは答えてもいいって言われてるから答えるよ。それは組織名。ちょーっとの間、この次元世界で活動するから、出来ればあんまり関わらないで」

正体不明の人はフェイトさんとアリシアさんの質問にそこまで答えると自分だけの結界を解除して、「そっちの結界は10秒くらいで消えるから安心してね。そんじゃ!」と告げてから音もなくすぅっと消えた。

後日。プレアの丘の地下深くに広大な遺跡があったことが調査で判明。年代は数千年前のものらしくて、犯罪者に襲撃されたこと、未発見だった文明が見つかったことの、2つの意味で管理世界を賑わせた。
 
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