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テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ―そして、僕の伝説―

作者:夕影
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第二十九話



「――ふぅー…やっと出られるようになったぁ…」


――医務室の扉から出ながら、僕はゆっくりと伸びをしながらそう言葉を出した。


ティランピオンを倒したあの後、僕達がアドリビトムに戻ると、ヘーゼル村の人達をオルタ・ビレッジへの案内を無事に開始し始めた。ヴェイグ達も無事に連行されたヘーゼル村の人達を救出、オルタ・ビレッジへと案内できたらしい。

ただ――あの後…僕は案の定、体の状態云々のおかげで、医務室に五日間監禁されてしまった。
僕、最近こんなんばっかだな……。アニーが戻って来た時、笑顔で『衛司さんは本当に、医務室のベッドが気に入っているんですね♪』、と言われた時は本気で泣きそうになった。


『(――…主、目から涙が……――)』


「……違うよヴォルト、これは汗なんだよ…」


『(――…お察し致しました…――)』


あの時のアニーの清々しい位の笑顔を思い出してしまい、不意に瞳がうるっと来る。頭に響いてきたヴォルトの声にそう返して置くと、ヴォルトは短くそう返してきて、静かになった。
うん、ありがとうヴォルト。

後、ヴェラトローパを呼び寄せる為の次元チューニング装置の方だけど…どうにも後一歩の所で止まっているらしい。
なんでもその後一歩に必要なのはヴェラトローパのドクメントらしく、そう簡単に見つかる筈もなく、研究室の皆頭を抱えていて先が進んでいない。


――とりあえず、久しぶりに依頼でも受けようと、ホールへの扉を開いた時であった。


「――ぁ……衛司…!」


ホールへと入ると、ちょうど目の前にスケッチブックを持ったカノンノが居た。彼女も此方に気付いたのか、少し驚いた表情で此方に駆け寄ってきた。


「もう体、大丈夫なの…?」


「うん、なんとかね…。カノンノは…また絵、描くの?」


「それもあるけど……実は描いた絵をセルシウスに見てもらおうと思って」


「セルシウスに……?」


カノンノの言葉に小さく首を傾げてしまう。どうしてまた…。



「うん。絵の風景に、精霊の世界とかあったりするのかなぁって。…ヴォルトの時にみたいに知らないって言われちゃうかもしれないけどね…」


「なる程……って、ヴォルトにも一回聞いてたんだ」


『(――はい。主が医務室で寝込んで居るときに……。…お役には立てませんでしたが…――)』


カノンノの理由を聞き納得していると、頭に響くヴォルトの声に小さく苦笑を浮かべてしまった。
そういえば僕、医務室に寝たきりで暇だろうからヴォルトを体から出してた時あったけど…その時か。



「中々依頼に行ってたりしてセルシウスに会えないから今日は居るといいんだけど…。でも、不思議だな。これらの風景がどこかにあるって思えてるのが…」

「そうだね……でも、ちゃんと僕は僕以外の皆が何と言おうが、本当にあるって信じてるからね」


「………ぁ……うん…、そうだね」


言いながら一瞬、どこかまた不安気な表情を浮かべたカノンノに僕がそう笑って答えると、カノンノは少し頬を赤らめて嬉しそうに頷いた。




「さて、それじゃ……セルシウスが居るか甲板に行こっか?」


「ぇ…衛司も一緒に来てくれるの?」


「僕も気になるからね……あれ、駄目かな?」


「ううん、駄目なんかじゃないよ。…ありがとう、衛司っ!」

僕の言葉に、カノンノは少し驚くも嬉しげに微笑み頷いた。
うん…自分に出来る範囲の事でここまで笑顔になってもらえるって…やっぱり嬉しいな。



―――――――――――――



――甲板に出てみると案の定セルシウスは居て、カノンノは絵をセルシウスに渡すと、セルシウスは一枚一枚じっくりと絵を見始めた。
カノンノと僕はそれを期待半分、不安半分で見守っていると、暫くしてセルシウスの手が止まった。


「――申し訳ないけど…知らないわ。精霊は、この世界の事をヒトよりはわかるけども。知らないものばかりね…」


「……そう……。精霊にもわからないなら、やっぱりただの妄想だったのかな…」

「カノンノ……」


「ん……大丈夫。ごめんね、衛司…セルシウスも…」


返ってきたセルシウスの言葉に、カノンノは俯いてしまう。僕は落ち込んだカノンノの頭をゆっくりと撫でると、カノンノはそう言ってセルシウスからスケッチブックを受けとろうとした。



「――あら、一枚落ちたわよ?」


「あ…、いけない……」


「よいしょ…っと……」


受け取ろうとした際、一枚の絵が落ちたのに気付き、風にとばされる前に僕はそれを拾った。
これもまた変わった風景だなぁ……。


「!?…これは…」


「セルシウス…?…まさかっ!!」


「この風景、知ってるの…?」


僕が見ていた絵を覗き込んできたセルシウスは驚いたような表情と声を上げた。その様子に僕とカノンノは思わず、驚いた表情のままのセルシウスに問いかける。


「知ってるも何も…。あなた、これがヴェラトローパよ!ヒトの祖が地上に降りるまで過ごした…」


「えっ!?…これが…ヴェラトローパの…」


「本…当に?」


セルシウスの返答に思わず驚く僕とカノンノ。これがヴェラトローパの…でも…なんでカノンノが…。


「その絵を持って、研究室の皆に見せなさい。私はディセンダーを呼んでくるから…衛司…あなたはカノンノと一緒に研究室へ…いいわね?」

セルシウスはそう言うと、ホールの方へと入っていった。
カノンノの方を見ると、ヴェラトローパの絵をジッと見ながら…真剣な、そして不安気な表情を浮かべていた。


「……カノンノ……」


「……うん、大丈夫。大丈夫……だけど……っ」


僕の呼びかけにいまだに真剣な、不安気な表情を浮かべたままそう言葉を繋ぐカノンノ。僕はそんな彼女に…そっと手を伸ばして、彼女の手を握った。


「衛…司……?」


「…今はこうするしか出来ないけど…行ってみよう、カノンノ…」


「……うん」




僕の言葉に、カノンノは少し間を開けながらも僕の手を握り返し、ゆっくりと頷いた。







―――――――――――――



「――この風景が、ヴェラトローパ…?」


――研究室にて、カノンノが描いたヴェラトローパの絵とセルシウスの説明を聞いて、全員が驚いた表情をしていた。
因みに今研究室にいるのは僕、カノンノ、メリア、セルシウス、リタ、ハロルド、ウィルである。


「……しかし、カノンノがなぜそれを?」


「わかりません…ただ、いつもの様に紙の上に風景が見えて…」


依然、驚いた様子のままのウィルが問うと、カノンノは不安気な表情で、そう答えた。


「……これは、どういう事なの…?…カノンノ、あんたのドクメントを見てもいい?」


「っ…リタ…それは……」

「衛司…大丈夫だよ…」


リタの出した言葉に、思わず反応してしまう。ドクメントの展開…あれは一度体験しているからわかるけど…ただ少し展開しただけでも疲労感が凄い。それに今の不安状態のカノンノに、ドクメントを展開させたら…彼女に更に負担を掛けてしまうかもしれない。
そう思ってカノンノの前に立とうとすると…そう、カノンノに呼び止められてしまった。
顔を向けると……カノンノは真剣な表情で真っ直ぐとリタを見ていた。
…こんな表情されたら…止められやしないや…。

僕が道を開けると、カノンノは深呼吸をしてリタの前まで歩み寄る。リタはそれに頷くと、カノンノのドクメントの展開を始めた。



「……衛司……」


「…大丈夫だよ、きっと……」


ドクメントが展開されていくカノンノを、心配そうに見ながら僕を呼ぶメリアの頭をそっと撫で安心させる。
徐々に展開されていくカノンノのドクメント。それは以前見た白い輪だが…最後に展開された頭上のドクメントだけ、色が違っていた。


「――この頭上のドクメント……ハロルド、あんたのドクメントと比べたいの。いい?」


「オッケー」


リタの問いにハロルドが軽く答えると、リタはハロルドのドクメントを展開する。展開されたハロルドのドクメントの色は…カノンノの頭上のドクメントとは違い、全てが白であった。

「…やっぱり……カノンノの頭上に見えるドクメントは普通のヒトとは違う…」


リタの言葉に、一瞬カノンノの表情が変わったのが見えた。


「…感じるわ。この中にヴェラトローパを…どうして、カノンノの中に…?」


「ちょっと、本当なのっ!?…だとしたら、…さらに展開すればヴェラトローパのドクメントが手には入る…」


「それって……そんな事したら、カノンノの身体に負担がっ!!」


「ううん、続けて。ヴェラトローパを出現させる為に必要でしょう…?」


セルシウスとリタの言葉に思わず声を荒げてしまうも、カノンノがそう言葉を出した。






確かに今…ヴェラトローパを出現させるのに必要なドクメント…その唯一の手段が今、カノンノしか無いのだ。
くそっ……自分に何も出来ない歯がゆさに思わず舌打ちをしてしまう。


「……わかった。じゃあ、少し我慢して」


リタは頷いてそう言うと、カノンノの頭上のドクメントを更に展開しようとする。
少しして出ていた色の違うドクメントの上に更に大きなドクメントが展開された。


「これよ。ヴェラトローパのドクメント!!」


「ちょっと待ってよ。――よっし、コピー出来たっ!可視化を解除するわ!!」

セルシウスの言葉に、リタは現れたドクメントに手を伸ばす。すると、リタの別の手に小さめなヴェラトローパのドクメントが現れた。リタはそう言葉を出すと、カノンノとハロルドに現れていたドクメントが消えた。
そしてその瞬間……カノンノの身体が傾いたのが見えた。



「っ!!カノンノっ!!」


カノンノの身体が動き出した瞬間その場を走り出し、彼女の身体が床に落ちる前に何とか抱き止める。皆はそれがわかったと同時に、カノンノに駆け寄ってきた。



「……やっぱり、かなりの負担だったのね。肉体とドクメントにズレが生じたのかも」


「っ……とにかく早く医務室に運ばないと……」

「そうね、よーく休ませてあげないと……衛司、医務室まで運んで上げて…こっちはヴェラトローパへ行けるようにしとくわ」


ハロルドの言葉に僕は頷くと、カノンノを抱き上げて、医務室へと走り出した。
改めて……自分に何も出来ない事に歯がゆさを感じながら……――。




 
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