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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第81話『エンジョイ』

時刻は午前9時、場所は海辺。先生たちに整列させられた晴登たちは、林間学校のガイダンスや注意事項を聞いていた。
といっても、概要はみんな事前に知っているので、確認程度のものだったが。


「それでは皆さん、怪我や事故には気をつけて楽しんでください」

「「「はーい!」」」


山本がそう言うや否や、生徒たちは一目散に海へと向かう。

そう、いよいよ海遊びの時間だ。バスから海が見えて早10分。とある旅館にて水着に着替えた生徒たちは、水を得た魚の様に生き生きとして、続々と海へ駆けて行った。
自由参加とは言われていたが、これはほぼ全員が参加しているのではないか? そう思わせるほどに人が多い。
だがそんな中、一般人の姿は無い。そう、本日この海は日城中学校の貸切なのだ。実に太っ腹である。

ちなみに"とある旅館"とは、教師用の旅館のことである。生徒たちは当然、山の中でキャンプだ。どっちがいいかと言われたら、正直迷ってしまう。


「まぁそんなことより、ん〜潮風が気持ちいい〜!」


海特有の清々しい風に吹かれながら、晴登は感動を噛みしめる。海に来て、この砂浜の熱さと太陽の眩しさを感じるのは何年ぶりだろう。もう思い出せないくらい昔のことだから、今日がとても楽しみだった。


「何しようか、三浦君?」

「そうだな〜。やりたいこと多くて逆に困っちゃうな」


毎度恒例、パーカー付きのラッシュガードを着て隣に立つ狐太郎が晴登に訊いた。
ふむ、確かに海で遊ぶのはいいが、どうやって遊ぶかまでは考えていなかった。メジャーなのだと、海水浴とかビーチバレーとか…かな?


「それよりもまず、準備運動だろ?」

「あ、大地。って、そりゃそうか。海の中で足つったりしたら大変だもんな」

「そうそう」


晴登の隣に立ち、準備運動を始める大地。それに倣って晴登と狐太郎も身体を動かす。
それにしても、大地の運動部ゆえのそのがっしりとした身体つきは、男として羨ましく思う。やっぱりこれくらいは無いとなぁ…。


「何だ晴登、俺の身体をジロジロ見て」

「いや、何でもない! ただ、凄い筋肉だなって」

「そりゃ鍛えてるからな。毎日筋トレしてるんだぜ?」

「へぇ〜」


毎日筋トレするとそんな筋肉が付くのか。…試してみるか。


「・・・うっし、準備運動終わり! それじゃあ行くぜぇっ!!」

「あ、大地!・・・って、行っちゃった」


準備運動が終わるや否や、大地は猛スピードで海に向かって駆け出し、人混みに紛れて行った。せっかちと言うか何と言うか。
置いてけぼりの晴登と狐太郎は顔を見合わせ、クスッと笑みをこぼす。


「じゃあ、今度こそ何しようか」

「ん〜遊ぶならもう少し人を集めたいかな」

「呼んだ?」

「お、莉奈、ちょうどいいとこ…にっ!?」


晴登が莉奈の声に反応して振り返ると、そこには莉奈だけではなく、結月もいた。当然、彼女たちも水着姿である。


「この水着、どうかなハルト? 2回目だけど」

「う、うん、凄く似合ってるよ…」


青い水着を揺らす結月から視線をゆっくりとそらしながら、晴登は率直な答えを返す。いくら見るのが2回目とはいえ、やはり直視できない。可愛すぎる。


「もう晴登ったら、ちゃんと結月ちゃんを見てあげなよ」

「いや、でも…!」

「はぁ、これだからコミュ障は。柊君はどう思う?」

「え!? あ、お二人とも、とても素敵です…!」

「おっと私も? 照れますなぁ〜」


恥ずかしがりながらの狐太郎の言葉に莉奈は上機嫌だ。
ちなみに莉奈の水着は当然競泳水着ではなく、赤色のビキニである。水泳部ゆえの日焼け跡がよく目立つが、本人は気にしていないようだ。


「と、とりあえず、もう少し人数を集めたいかな! 大地は後で連れて来るとして──あ」

「…!」


その時、晴登はある人物と目が合った。その人物は水着の上からジャージを羽織り、海辺から離れた木陰の下で休んでいる──そう、まだ海遊びは始まったばかりなのに休んでいるのだ。


「おーい暁君〜!」

「……」

「あ、目そらされた」


無愛想な態度をとるジャージ姿の男子──伸太郎は、晴登から目をそらした後、懐から本を取り出して読み始めた。あくまでこちらに来るつもりはないらしい。


「まぁ俺が無理やり誘った訳でもあるしなぁ…」


プールに引きずり込みながら、必死に林間学校に来るよう懇願したのを思い出す。良かれと思ってやったが、さすがにやりすぎたかもしれない。


「しょうがない。なら暁君はダメとして──」

「その割には、こっちをチラチラ見てるみたいだけどね」

「え?」


晴登がその莉奈の言葉に振り返ると、伸太郎がさっと目をそらしたのが見えた。つまり、今こっちを見ていたということになる。


「・・・なら、直接言ってくる」

「はーい」


晴登はそう言い残し、伸太郎のいる木陰まで走る。
彼はそれをちらりと見て再び目をそらすが、さすがにバレバレだ。全く、仲間に入れて欲しければそう言えばいいのに。






「という訳で、暁君も呼びました」

「う、うっす…」


晴登が集まったメンツにそう説明し、伸太郎が俯きながら挨拶した。


「え、えっと…柊 狐太郎、です…」

「あ、その、暁 伸太郎っす…」


特に初絡みで人見知りな2人は、ぎこちない自己紹介を交わした。
というか、林間学校に誘った時に近くにいたのに、会話はしてなかったのかこの2人。


「それじゃ後は大地を連れて来て、何をするか決めようか」

「何も決まってねぇのかよ」

「やりたいことが多いから、人集まった方が意見が出て決めやすいかな〜と」

「…なるほどな」


さて、伸太郎の納得を得たところで、本格的に考えるとしよう。思いつく限り片っ端から遊ぶのもいいのだが、それだと時間が圧倒的に足りない。


「──だったら、ケイドロなんてどうだ?」

「あ、大地。…いや、ケイドロならいつでもできるだろ。せっかく海に来たんだし、海特有の・・・」

「ちっちっち、わかってねぇな晴登。海と言えば、砂浜で女の子とキャッキャしながら追いかけっこするのが常識だろ」

「いやわかんないよ」


どこの常識だそれは。初めて聞いた。
でも確かに砂浜でケイドロというのも、逆に新鮮でいいかもしれない。


「という訳で、連れて来ちゃった」

「こんにちは、三浦君」

「え、戸部さん!?」


大地の後ろから、突然優菜が現れた。全然気づかなかったぞ。
まさか、大地がさっき駆けて行ったのは優菜を誘うためだったのだろうか。そう疑うまでに都合が良すぎる。初めから狙っていたのかもしれない。


「え、でも、クラスの人とか大丈夫…?」

「別にそんな決まり有りませんし。私がこうしたいからしているだけです」

「そ、そっか」


こういう時間は普通クラスや部活動で集まると思ったが、優菜は中々我が強いようだ。
何にせよ、人数が増えるのはありがたい。


「それじゃ早速ケイドロ始めようぜ。異論は無いか?」


大地がそう訊くと、誰も反論は言わなかった。約1名、渋い顔はしていたが。


「よし、ならまずグーとパーでケイとドロに分かれるぞ。せーの──」






「待て待て! ケイのレベル高くない!?」

「気のせいだろ。結月ちゃん、そっち行ったぞ!」

「任せて!」


たくさんの人々の間をかいくぐって砂浜を駆け抜ける晴登を追うのは、運動神経抜群の大地と結月。そう、運の悪いことに彼らがケイとなったのだ。
ちなみに伸太郎もケイだったりするが、彼は牢屋の見張りとして待機している。


「さすがに結月からは逃げ切れない…。こうなったら、こっそり魔術を使って…!」

「うわ! ハルト、ズルいよ!」

「これも実力だ!」


結月に背を向けて逃げていたところで、足元の砂を風で巻き上げる。そして即座に振り向いて、砂で視界が塞がれた彼女の横を身をひねってすり抜ける。まさに、風を操る晴登だからこそできる芸当だ。


「ほい捕獲」

「うお、見てなかった!」


だが結月を出し抜いて喜んでいたのも束の間、その後ろから来ていた大地にあっさり捕まってしまう。全く、2対1なんて卑怯じゃないか。





「お疲れ様です、三浦君」

「あ、戸部さんも捕まってたんだ。いやぁ、いくらこの人の壁があっても、やっぱりあの2人には敵わないや」

「そうですね。お二人とも、とても足が速くて」


牢屋代わりのビーチパラソルの中に入りながら、晴登はやれやれと首を振った。
優菜の言う通り、大地と結月の足の速さには目を見張るものがある。恐らく、学校で一二を争うレベルだ。そんな警察から泥棒が逃げ切れる訳がない。


「これじゃ、暁君の出番は無さそうだね」

「そうだな。その方が俺はありがたいけど」


退屈になった晴登は、同じくパラソルの下で座っている伸太郎に話しかける。
彼は他の2人とは真逆で、運動の鈍さは筋金入りだ。人を追いかけるくらいなら、待っている方が断然いい。この調子だと、牢屋に助けに来る人が現れそうもないが。


「残りは莉奈と柊君・・・まだ可能性はあるか…?」


しかし、残るドロ2人もまた運動神経は良い。もしかしたらケイ2人を突破して、助けに来てくれるかもしれない。
牢屋は360度開放している。ドロ2人が同時に前後から来れば、伸太郎1人を出し抜くことは可能だろう。


「まぁ、それを2人がわかってればって話だけど──」

「三浦君、あそこ見てください」

「え、あそこ?・・・って、莉奈が追われてるのか…」


何ということだ。優菜に示された方向を見ると、莉奈が大地と結月に追われているのが見えた。
となると当然、先の作戦は実行できなくなってしまう。さすがに莉奈でもあのケイから逃げ切れるとは思えないし、これはもう無理か──


「っ! 来たか!」

「あ、柊君!」

「助けに来たよ! 三浦君!」


伸太郎の反応で、晴登はこちらに向かってくる狐太郎の存在に気づく。
いや、というか伸太郎はよく気づいたな。死角に近い方角だと思うのだが。伊達に見張りはやってないということか。


「あんたを捕まえれば俺らの勝ちだ」

「……っ」


伸太郎の言う通り、莉奈が大地と結月に追われている以上、こちらの加勢は望めない。つまり、ここで狐太郎を捕まえればケイの勝ちはほぼ確定する。


「どっからでも来やがれ…!」

「くっ…!」


こうなれば、始まるのは当然伸太郎と狐太郎のタイマン。自信があるのか、伸太郎は笑みを浮かべている。そりゃ守る方が楽ではあるし。


「はぁぁ!」

「へっ、喰らえっ!」

「あ、ずる!?」


狐太郎が意を決して飛びこんで来たその瞬間、伸太郎が魔術による目くらましを放ったのを、晴登は見逃さなかった。自分も魔術を使っていた以上、ずるいと言える立場ではないのだが。
しかし、これはマズい。初見であの目くらましを避けることは正直不可能だ。次の瞬間には、伸太郎が狐太郎を捕らえてしまって──


「あれ?」


そんなマヌケな声を出したのは伸太郎だ。それもそのはず、光が消えると彼の目の前から狐太郎が姿形もなく消え去っていたからだ。
まさか本当に消した訳ではあるまいし、かといって周りの人々に紛れようにも、ここら一帯にそんなに人はいないから不可能である。なら、一体どこに・・・


「──よっと」

「うわ、びっくりした!」

「な、いつの間に…!?」


晴登が思考を始めた刹那、上から人影が眼前に降ってきた。そう、狐太郎だ。
──まさか、伸太郎ごとジャンプして避けたとは。それに目くらましも防ぐなんて、なんて運動神経と反射神経だ。恐れ入った。


「はい、2人とも逃げて」

「う、うん、ありがとう柊君!」

「ありがとうございます!」


狐太郎からタッチされて助けられた晴登と優菜は、すぐさま牢屋を離れる。振り返ると、膝を折って地面に座り込んでいる伸太郎の姿が見えた。仕方ない、今回は相手が悪かったようだ。






「へぇ〜柊君にそんな運動神経が。そりゃぜひとも競ってみたいな」

「え、遠慮しておきます…」


結局、ケイドロはドロの勝ちで終わり、今は次の遊びを考案中だ。あと狐太郎の予想以上の運動神経に、大地が食いついている。いや、確かに人を飛び越えるほどのジャンプ力はヤバいと思うけど。


「次はビーチバレーなんてどう? ここに丁度いいボールがあるけど」

「何で丁度いいボールが突然出てくるのか気になるけど…まぁいいか。楽しそうだな、やろう!」


莉奈の提案に晴登含む全員が賛成した。しかし、やるにはネットが必要だろう。それはどうしようか…。


「見て、あそこに丁度いいコートがあるよ」

「いや丁度良すぎだろ! ご都合展開か!」

「まぁそういう時もあるだろ」

「えぇ…」


あまりの偶然にツッコんでしまったが、大地に軽く一蹴されてしまう。海にビーチバレーコートがあるなんて予想もしてなかった。
もうこの際、遊べるなら何でもいいや。






場所はビーチバレーコート。そこでは砂浜の上にネットが設置され、ラインも引かれている。ここ以外にも近くに2つのコートがあるが、それらは既に人に使われているようだった。

新たにチーム分けを済ませ、いよいよゲームスタートだ。


「それじゃ行くよ、結月、暁君、柊君!」

「「おー!」」


こちらのチームは大地へのハンデで4人。これが果たして吉と出るか凶と出るか、それは神のみぞ知る。





「しゃあおらぁ!!」

「うわっ!?」


開幕早々、鋭いスパイクが砂浜に突き刺さる。さすが大地、ビーチバレーもお手の物だ。こんなのもはやチートである。


「ボクだって!」

「いいぞ結月!」


負けじと、次のターンで結月も力強いスパイクを見せる。やはり、この2人がお互いにエースだ。もう晴登たちの出番は、もはやボールをトスするだけである。


「おらよっ!」

「ぐっ!」

「ハルト!」


しかし、大地のスパイクを受け止めてみても、あまりの勢いの強さに身体が仰け反ってしまうため、トスを返すことも難しいのだが。


「まだまだ!」

「ナイス、柊君!」

「うん、これなら・・・ふっ!」


晴登が弾いてコートの外に出たボールを、狐太郎がダイブしてコートの中へと戻す。これはファインプレーだ。
すると丁度よくそのボールは結月の真上へと上がり、彼女はそのままネットを超えるほどジャンプして相手に一撃をお見舞いした。


「甘いよ、結月ちゃん! ほっ!」

「リナ!」

「任せます、鳴守君!」

「了解! しゃあっ!」


しかし大地の率いるチームはそう甘くはない。莉奈や優菜は運動が苦手な訳ではなく、むしろ得意な方だ。見事なコンビネーションで、結月のボールを打ち返す。


「暁君!」

「お、おう!」


そしてそのボールは真っ直ぐ伸太郎の元へと向かった。彼はそれに対して、かかとを少し上げ、膝を曲げ、両腕を揃えて構える。
なぜだろう、彼のボールを受けようとする姿勢はとても様になっていた。今の彼なら、もしかすると大地のボールでも打ち返せる…?!


「へぶっ!?」

「暁君ー!?」


だが、ボールが伸太郎の顔面に直撃したのを見て、やっぱりそんなことはなかったのだと思い直した。






「ちくしょう、もうビーチバレーなんて二度とご免だ!」

「まぁまぁ落ち着いて」


ボールが顔面に直撃し、伸太郎はビーチバレーに対してトラウマを植え付けられてしまった。


「ホント運動音痴なのね〜」

「あ? 喧嘩売ってんのか?」

「事実言っただけじゃん」


そして莉奈がその傷に塩を塗り込んでいく。
体育祭の頃から思っていたが、この2人の相性はあまり良くなさそうだ。一体何があったのだろう。


「やっぱり俺は休む。もう疲れた」

「ご、ごめん暁君…」

「別にいいさ。少しは楽しかったし」


そう言って、伸太郎はトボトボと元々座っていた木陰まで帰っていった。やはり、彼に運動を強いるのは良くないな。これから気をつけよう。
それにしてもあの場所気に入ってるのかな。





「そ、それじゃ、気を取り直して次行こうか! 俺はそろそろ海で泳ぎてぇな!」

「確かに。海に来てるんだし、やっぱり泳がなきゃだよな」

「なら競泳でもする? とりあえずあそこの島まで」

「莉奈ちゃん、さすがにあの島は遠すぎると思いますけど。それに、海で競泳は難しいんじゃ…」

「え、海ってプールと違うの? ボク初めてでわかんないや」


晴登たちはやんややんやと口々に騒ぎ合う。しかし、この浜辺の賑やかさに比べれば(さざなみ)の様なものだ。

まだ日は真上にすら昇っていない。今日はまだまだ長い一日になりそうだ。
 
 

 
後書き
こんな時間に更新するのは久しぶりですね。どうもこんにちは。

さて、日常的なことって何だか書きにくいですね。書くことが多すぎて逆に書けないというか、表現がしにくいというか・・・戦闘シーン書いてる方が楽ですね(重症)
でも今回の章はそれがメインなので、頑張って書いていきましょう!

次回は・・・どうなるんだろ。正直既にプロットの話数が崩れかけています。脆弱め。まぁ話数が増える分にはいいんですけどね。
これからどれだけ増えるのか密かに楽しみです。それでは今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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