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ペルソナ3 幻影少女

作者:hastymouse
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前編

 
前書き
主人公は真田明彦です。一度は真田をメインに書いてみたいと思ってました。真田は何かと「残念な人」枠に入れられてますが、ハンサムでモテるし、強くて男らしいし、勉強もできる。ちょっと天然ですが、それも愛嬌。暗い過去も背負っていて、まさに主人公キャラと言えると思います。ちなみに、P4UはP3のメンバーをネタキャラ扱いしてるので、私は認めたくありません。「トリニティソウル」の警察官の方が、よっぽどその後の真田らしいと思うのですが、どうでしょう? 

 
眩い光の中で、真田の姿が消失した。
「真田先輩が消えた。」
『彼女』が茫然とした声で言った。
「えっ?」
慌てて ゆかり は周りを見まわしたが、確かにどこにも真田の姿は見当たらなかった。
「あれ? だって、たった今までここで一緒に戦ってたじゃない。」
ゆかりが声を上げる。
タルタロスの探索中、遭遇したシャドウと戦闘になった。
『彼女』がシャドウの攻撃を受けて倒れ、真田がそれを守るように前に出た。ゆかり はすかさず『彼女』に回復スキルをかける。
真田のペルソナ、ポリデュークスの電撃がさく裂し、稲光が激しく明滅する。
体を起こしたとき、『彼女』の目に映ったのは、光に吸い込まれるかのように消えていく真田の姿だった。
光が消えたあと、そこには誰もいなかった。真田も・・・そしてシャドウも・・・。
コロマルがにおいを探してぐるぐるとあたりを歩き回ったが、やがてあきらめたような顔つきで「クウーン」とこちらを向き直る。
【ゆかりちゃん、聞こえる?】
ふいに風花の通信が入った。
「風花!聞こえるよ。良かった。通信が戻ったんだね。」
しばらく前に途絶えた通信が回復したようだ。
「お願い真田先輩を探して。どこにいったかわからないの。」
ゆかり の必死の声を聞いて、風花がはっと息をのむ。
そしてしばらく時間をおいた後、困惑したような声で答えが返ってきた。
【真田先輩の反応、有りません。まるでどこかに消えてしまったみたい。】
『彼女』とゆかりは緊張した面持ちで目を交わした。
「これは・・・まさか・・・。」
ゆかりの問いかけに「あの時と同じ。」と『彼女』が返す。
その後、時間いっぱいまで捜索したが、とうとう真田を見つけることはできなかった。

その日のタルタロス探索は、リーダーである『彼女』と真田、それに ゆかりとコロマルというメンバーであった。
男性が一人、しかも三年生一人ということもあって、真田もいつになく気を使って慎重に探索を進めていた。しばらくは問題なく進んでいたが、影時間の終盤になって事件は起きた。
まず山岸風花との通信がいきなり途切れたのだ。
ゆかり が慌てて風花の名を呼んでいるところで、どこから来たのか唐突にシャドウが出現した。まるで別の空間からその場所にいきなり現れたかのように・・・。
ねじ曲がったパイプの集合体のような姿。手足が蛇の塊のようにうねっている。身体の中央に巨大な仮面。現われたシャドウは忘れることのできない姿をしていた。
以前、このシャドウと出くわして戦闘となった際、不意打ちを食らって真田と順平が倒された。『彼女』がそれを庇って敵を引き付けているうちに、皆とはぐれてしまったのだ。全員でタルタロスを探し回ったが『彼女』を見つけることはできなかった。そういえばあの時も、直前に風花との通信が途絶えていた。
真田はいやな予感に襲われた。また『彼女』が危険にさらされるかもしれない。
そうはさせじと、立て続けに攻撃するが、さして効果は上がらなかった。まさに強敵だ。
しかも、案の定、敵シャドウは『彼女』に攻撃を集中させてくる。そしてついに、弱点攻撃を受けて『彼女』がダウンした。
「させるか!」
倒れた彼女の前に立ちふさがり、真田がポリデュークスを呼び出す。

電撃!!!

稲光が明滅する。
その時、真田は自分を呼ぶ声を聞いた。
『お兄ちゃん・・・』
懐かしい声だった。まさか・・・と思った。
瞬く光の中に少女の姿が見えた気がした。
「美紀?」
真田は声に誘われるように思わず足を踏み出す。
輝きがどんどん増していく。まばゆい光に包まれ前がよく見えない。それでもおぼろげに駆けていく少女の後ろ姿が見える。
『お兄ちゃん、こっち。』
真田はさらに前に進んだ。声のする方に・・・どこまでも・・・。
周りじゅうが光でいっぱいになり、そして何も見えなくなった。

気が付くと古い木造の建物の前に立っていた。夕刻だった。
その目の前の建物を真田はよく知っていた。懐かしい建物。それは真田と荒垣が子供のころに過ごした孤児院だった。
しかし、そんなはずはない。その孤児院は9年前、火事で焼け落ちたのだ。そして、その火災で真田は妹を失くした。
事態が呑み込めないまま真田は建物の入り口を見つめていた。
どう見ても、子供の頃に過ごした孤児院で間違いない。木造2階建て。錆び付いた門。建物の入り口までのコンクリートの敷石。ヒビが入った部分をガムテープで補強したガラス扉。入り口のすぐ脇に横倒しになっている古い三輪車。
何もかもが記憶のまま。
ここで過ごした日々がまざまざと蘇ってくる。楽しかったことも・・・そして辛い思い出も・・・。
火が出たとき、古い木造ということもあって、あっという間に炎がまわり、手の施しようがなかったらしい。駆けつけた真田は、焼け落ちる建物を泣きながら見つめていることしかできなかった。
何度、夢に見ただろう。あの時、外に出ずに美紀と一緒にいたら・・・。
真田は頭を振って、その考えをかき消した。まずは事態の把握が優先だ。感傷にふけっていても仕方ない。しばらく外から建物を見つめていたが、ともかく入り口に向けて足を進めることにした。タルタロスにいたはずが、こうして有り得ない建物の前にいる。非現実な世界に足を踏み入れているのは間違いない。ここでは何が起きてもおかしくはないのだ。気を抜いてはいけない。
門から短いアプローチを抜けて玄関へと、慎重に足を進める。
予感がした。
古いガラス扉を開けると、そこに・・・一人の少女が立っていた。
予感のとおり、小学校低学年の・・・亡くなったときのままの姿で。
「美紀・・・。」
真田は小さく声をもらした。
「お兄ちゃん。」
美紀はにっこりと笑った。
真田はこみ上げてくる涙を押さえこんだ。駆け寄って、抱きしめたいという衝動に駆られた。しかし、それでも踏みとどまった。
(美紀のはずがない。)
そう、美紀は死んだのだ。
息を整え、「お前は誰だ。」と抑えた声で問いかける。
「ひどーい。何言ってるの。美紀だよ。」
美紀が口を尖らせて言う。記憶のままの表情で・・・。
「美紀は死んだ。孤児院の火事で。9年も前のことだ。死んだときのままの姿でいるわけがないだろう。」
「9年前? じゃあお兄ちゃんは今 18歳ってこと?とてもそうは見えないよ。」
美紀が笑う。
「どうみても小学4年生。」
(何を言って・・・)と思って、ふと気づいた。
美紀の見え方が昔の記憶のままなのだ。高校生が小学生を見下ろすような感じではない。慌てて玄関わきの姿見を覗き込むと、そこに移っていたのは小学4年生の頃の真田の姿だった。着古した服を身に着けて、ぼさぼさの頭をした気の強そうな男の子。
「これは・・・」
思わず鏡を凝視する。
(おかしい・・・。)
しかしその姿を見ているうちに、どこがおかしいのかがわからなくなっていた。どう見ても自分の姿だ。それでも何かが間違っているという気がしてならなかった。
「どうしたの~、自分の姿にみとれちゃって・・・」
美紀がおかしそうにくすくすと笑った。
「いや、そんなんじゃない・・・。鏡に映った姿が、なんというか、違和感があって・・・」
「先輩ってけっこうナルシストですよね。」
「馬鹿を言うな。」
真田は赤面して鏡から目を離した。からかわれたと思った。
そして、そこでまた違和感を感じる。
「先輩? 今、先輩って言わなかったか?」
「何言ってるの、お兄ちゃん。さっきからおかしいよ。」
美紀が少し心配そうに眉をひそめる。
違和感が離れない。しかしその正体を探ろうとしても、考えれば考えるほどわからなくなってくる。
美紀は引っ込み思案で控えめな子だった。目の前の美紀はなぜか活発で明るい雰囲気をまとっている。
何かが違う・・・。でも、その正体がわからない。
「ねえ。お兄ちゃん、お部屋に行こうよ。」
美紀が近づいてきて真田の手を取ると、建物の奥へとその手を引いた。

「みき・・・だと。」
荒垣は驚きの表情を浮かべた。
寮のホールにはメンバー全員が揃っていて、タルタロスで消えた真田のことを話し合っていた。
もう深夜2時を過ぎている。時計が時を刻む音が、妙に大きく響く。
「ええ、真田さんが消える直前に、そんな風に言ってました。意味は解らなかったけど、人の名前かなって・・・」
『彼女』が自信なさげに言う。
「美紀はあいつの妹の名だ。」
荒垣が難しい顔をして腕を組むとそう答えた。
「えっ! あの、昔、亡くなったっていう?」『彼女』は驚いて声を上げた。
「ああ。」荒垣が渋い顔でうなずく。
「でも、どうしてシャドウとの戦闘中に妹さんの名前なんか・・・」
聞いていた ゆかり が不思議そうに言った。
「どうも、その辺に何かワケがありそうだな。」
荒垣が頭を掻きむしりながら言った。
「シャドウの仕業でしょうか。」と ゆかり。
「わからないが、明彦と一緒に消えたそのシャドウに何かありそうだ。」
美鶴も考えながらそう答えた。
「あいつ、前にも見たよね。」
ゆかり が『彼女』に振り向き、『彼女』がうなずく。
「以前にもあのシャドウと戦って、その時、私はどこか別の場所に飛ばされた・・・と思う。」
『彼女』が記憶を探るように言う。
「あの時のシャドウか!」
順平が声を上げた。あの時は順平も不意打ちを食らってそのシャドウにやられたのだ。
「飛ばされた先で何があったのか、それがどうしても思い出せないんだ・・・。気が付いたときにはタルタロスの外に倒れてた。」
『彼女』がため息をついた。
「今回と状況が似ているな。」と荒垣。
「今回も無事に帰ってこられるといいんですけど・・・」ゆかり が不安げにつぶやく。
「ともかく明日、もう一度捜索だ。手がかりはその謎のシャドウだな。」
美鶴が厳しい表情で宣言する。
「影時間は1日1時間しかない。明彦がまだタルタロスにいるのだとすれば、我々にとっては丸1日でも、あいつにとってはたかだか1~2時間程度にすぎないということだ。望みはある。」
既に深夜3時になろうとしていた。みな疲れた表情を浮かべている。
「ともかく今はこれ以上、何もできない。明日の為にも今日はもう休んでくれ。」

しかし、『彼女』はその夜、ろくに眠れなかった。
学校へ行っても全く授業に集中できず、放課後は部活に出ずにベルベットルームに直行した。
ポロニアンモールの片隅にある、私にしか見えない扉を開けると、そこは上昇し続ける巨大なエレベーターの中という奇抜な形状の部屋だ。夢と現実の狭間にある、青い部屋 ベルベットルーム。そこの住人が、いつも『彼女』の戦いをサポートしてくれる。
そして、その非現実な部屋だけが、以前に『彼女』が飛ばされたはずの場所を知る、唯一の手掛かりなのだ。
ベルベットルームには、いつも通り静かなピアノと歌声が流れていた。
『彼女』は挨拶もそこそこにテオドアに詰め寄った。
「どうされたんですか。そんなに慌てて。」
血相を変えて飛び込んできた『彼女』を見て、ベルべットルームの住人 テオドアが心配そうに言った。
「仲間が一人、タルタロスで行方不明になったの。」
「それは・・・。」テオドアは息をのんだ。
「あの時戦ったシャドウと同じ奴がまた現れたんだ。よく覚えてないけど、私がどこか異世界に連れていかれたあの時と同じ。」
思いつめた厳しい口調で『彼女』が言う。
「何か関係があるのかもしれない。あの時連れていかれた場所を確認したいの。」
テオドアはいつものように落ち着いた物腰で静かに首を振った。
「残念ながら、あの場所は一時的に作られた空間。今はもう存在しません。今回の件はこちらでも何も感じられませんでしたし、あの時とはまた違ったケースのようですね。」
テオドアが申し訳なさそうにそう言う。
「じゃあ、あの時に何があったのか教えて欲しい。なんでもいい、少しでもいい。手がかりが必要なの。」
テオドアは困ったような表情を浮かべた。
そして考えながら、少しずつ言葉にした。
「そうですね。・・・あなた方の戦いを快く思っていない者がいるのです。・・・あの時も、あなたは異空間に引きずり込まれて、その者と対決しました。・・・しかし、その者は本来存在しないはずの者。真に滅ぼすこともまた難しい。・・・そして、今、また、あなた方の戦いに介入しようとしているのでしょう。」
「私・・・どうして覚えていないんだろう。」
『彼女』の辛そうな表情をみて、テオドアも悲しげに言った
「その相手が『本来は存在しないはずの者』だからです。あってはならない出来事だからこそ、あなたはその敵に関することを記憶にとどめることができません。しかし向こうにしても現実では直接介入ができないのです。その為、わざわざ現実ではない場所に引きずり込んで手を出してくるのでしょう。・・・本当にやっかいな相手です。」
「どうしたら、真田先輩を救える?」
『彼女』がすがりつく。強気で物事に動じない『彼女』にしては珍しいことだった。
テオドアはしばし考え、右手人差し指をピンと伸ばした。
「こうしましょう。今夜、もう一度タルタロスに入って下さい。お仲間が消えた場所を探すのです。それさえ見つけていただければ、私にできる限りの力添えはさせていただきます。」
切羽詰まったような『彼女』の表情が、希望と感謝のそれに変わる。
「ありがとう。無事に連れ戻せるかな。」
「最後はあなた方の絆の強さ次第かと・・・。強い絆があれば、必ずや道は開けます。」
「なら大丈夫だよね。私たちの絆は誰にも負けない。」
『彼女』の表情に明るさと強さが戻ってきた。
それを見てテオドアは優しく微笑んだ。
「ええ。私もそう信じています。」
 
 

 
後書き
この話、実は以前に書いた「夢幻の鏡像」のストレートな続きになってます。といっても、この話単独で充分読めるのですが・・・。もしご興味があれば「夢幻~」の方も読んでみてください。
真田の前に現れた「美紀」の正体は・・・。女性主人公は真田を救出できるのか・・・。
次回「中編」に続きます。 
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