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ボロディンJr奮戦記~ある銀河の戦いの記録~

作者:平 八郎
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第48話 帰還

 
前書き
これでマーロヴィア編は終了になります。

次更新は一週間後で考えておりますが、執筆速度によっては大きく延びる可能性があります。
 

 
宇宙歴七八八年一一月 マーロヴィア星域メスラム星系

 ひと段落。という表現が正しいのかはわからないが、「マーロヴィアの草刈り」における軍の戦場と後方での処理はほぼ終了した。

 もはやルーチンワークと化した機雷処理事業と、経済産業庁主導の捕虜を活用した惑星メスラムの農鉱業セクター事業は、主にパルッキ女史の奮闘を持って順調に進んでいた。なにしろ世の中の関心はその九九%がエル・ファシルの英雄へと向けられており、ド辺境で細々と行っている軍官民三者による捕虜や収容者を使った共同事業など、当然見向きもされるものではなかったが、逆にそれが功を奏したといえる。

 翻って経済産業庁以外のマーロヴィア行政府の混乱は尋常ではなかった。治安維持組織のトップが海賊と繋がっていた事実は、それ以前まで憶測にすぎなかったことが現実となっただけに過ぎないのだが、重い腰を上げた中央検察庁が特捜班一個中隊をわざわざ送り込み、行政府とその追認機関に過ぎない立法府の洗い上げを始めたからだ。これには当然のように軍管区憲兵隊が協力することになり、また当然のごとく爺様はその連絡官として俺を指名した。作戦が終わったにもかかわらず、忙しい日常は変わらない。

 軍管区の戦力再整備は爺様とモンシャルマン大佐が進めていた。艦艇の補充はいっこうに進まないが、護衛船団方式の継続と作戦成功による航路の治安回復によって、そのシフトに余裕を持たせられるようになってきた。余裕があればそれを見逃す爺様ではない。カールセン中佐をはじめとした『偽ブラックバート』特務小戦隊を今度は教導部隊として、艦艇に対する再教育を担わせるようにした。中佐達はさんざん俺が痛めつけてきた鬱憤を晴らすかのように鍛えなおしているらしく、俺はしょっちゅう中佐に捕まり、猛獣の如き視線を浴びせられつつ成績評価を手伝わされている。

 その中佐が捕らえたブラックバートの首領であるロバート=バーソンズ元准将は未だマーロヴィアの営倉に閉じ込められている。八〇代という年齢を考えて塩水マットレスベッドや家具類も用意された。実際のところはカールセン中佐に頼まれて俺が代理購入して差し入れしたものばかりなのだが、バーソンズ元准将はなぜか俺に恩義を感じたらしく、時折俺を小一時間拘束しては色々なことを教えてくれる。少数艦による奇襲戦のパターン、長期宇宙滞在における将兵のリラクゼーション方法、異常天体の戦術利用法などなど。任官したての頃、世話になった査閲部の日常が戻ってきたように思えた。

 そんなこんなであっという間に二ヶ月が過ぎ、原作通りヤンが俺より早く少佐になって、エコニアの捕虜収容所で暴動があったという話がマーロヴィアに流れ着いたころ、軍管区司令部にハイネセンへの召喚命令が届いたのだった。

「悪いことをしておったのはジュニアとバグダッシュ大尉だけなんじゃが、司令部全員宛で召喚命令が来るとは思わなんだ」
 爺様は相変わらず辛辣な皮肉っぽい冗談を舌に乗せて俺に飛ばしてくる。
「じゃが命令は命令じゃ。新司令部は来年の一月には発足させたいということで、仕事と並行して引継ぎの用意をせねばならん」

 今は一一月で、ハイネセンからマーロヴィアまで一月以上はかかるから、早めに連絡してきたというのはわかる。だが今の司令部が編成されたのは一年と二ヵ月前。予定より早く「草刈り」は終わったが、「種蒔き」は始まったばかりだ。帝国軍によって司令部が壊滅したとか、特にひっ迫した外的要因がない限り、管区司令部は短くても二年の任期がある。司令官に任免権のある幕僚はその範疇ではないが、司令官である爺様までハイネセンに呼び戻されるのは、人事考課に関わった話であるとしか思えない。

 爺様の言う通り「悪いこと」をしたと判断するのはあくまで統合作戦本部と国防委員会の人事考課部なので、「草刈り」作戦指揮官の最終責任者は爺様である以上、作戦が成功に終わったとしても問題があると判断されれば、当然ながら処罰される。

 そういうことなのか、と何も言わず視線だけで爺様を見ると、意外とさばさばしている。
「予定より二年と半年早く帰れるわけじゃからな。女房孝行ができそうで何よりじゃわい」
「しかし、作戦自体に問題があったとすれば……」
「ジュニア。気にせんでいい。仮にそうだとしても作戦案にサインしたのは儂なんじゃからな」
 年季の入った手で爺様は俺の肩を二度ばかり叩いた。軍歴四三年で鍛え上げられた爺様の剛直な精神が、掌を超えて俺に流れ込んできたような気がした。こういう器量を俺は爺様の歳になるまでに獲得できるかどうか。二度目の人生なのに、失敗ばかりしている俺としては些か自信がなかった。

 とにかくどんな形であれマーロヴィアを去らなくてはならないとなれば、事業の補強と後始末を急がねばならない。作戦報告書の取り纏めだけでなく、小惑星帯に残る機雷処理のマニュアル、海賊捕虜名簿の再チェック、作戦後残余となった艦艇・物資のリスト作成など。だいたいコクラン大尉が主体となって、俺とバグダッシュが協力して残務処理を行うことになった。

 一二月を迎え、新任の軍管区司令官であるリバモア准将と幕僚達が次々とマーロヴィア星域メスラム星系へと着任してきた。いずれの顔にも不満の文字が浮かんでいる。年齢から推測して一〇年後に統合作戦本部の要職である人事部長にまでなるエリート軍官僚にしてみれば、中央を遠く離れたド辺境での勤務などしたくもないだろう。そしてこの人事も恐らくは某氏の差し金であろうとは推測できる。一体どうして某氏にそこまで関与できる権限があるというのか。

 そして業務引継ぎと言ってもリバモア准将には次席幕僚という名の無駄飯ぐらいはいなかったので、俺はファイフェルと交代で爺様の補佐と、モンシャルマン大佐の代理として後継参謀長に共同事業の引継ぎを行い、司令部が引継ぎで顔を出せない部署に挨拶をして回った。

「そう、ハイネセンに戻るのね」

 トルリアーニ逮捕の頃に比べ、中央から何故か続々とノンキャリ官僚が送られてきて、ずっと血色がよくなったパルッキ女史は、初めて会った時のように長い足を組んでソファに座って俺を迎えた。
「昨日よりは今日、今日よりは明日、この星域が経済成長しているのは実感できている。まずは良しとすべきでしょう」
「旧司令部としては行政府、特に経済産業庁の皆様にご協力いただいき、大変感謝しております。司令部は全面的に変わりますが、今後ともご協力のほどよろしくお願いいたします」
「経済産業庁としてはとにかく駐留戦力を増強してほしいとは思っているけど、あなたの無謀無茶極まる掃討作戦で海賊が一掃されたことには感謝しているのよ」
「そう言っていただけると、心理的に助かります」

 賄賂というわけではないが、フェザーンから大事に持ってきた帝国産ウィスキーのミニチュアボトルを机の上に置くと、女史は「確かにボトルとは言ったけど……」と細い指を額に当ててぼやくと、組んでいた足をほどいて俺の顔をじっと見つめてから言った。

「軍人であるあなたに聞くのはおかしいとは思うけど、これからマーロヴィア星域が経済発展をしていく上で、次のステップアップになる産業は何だと思う?」
「即効性を求めるなら軍事産業でしょう。安い人件費というのは労働集約産業としては大きな魅力です。ですがそういうお答えを望んではいらっしゃらない」
「あなたも分かって言ってるのでしょう? 分野が広いとはいえ単一行政組織を下地にした経済は強靭性を著しく損ねるものよ」
「ええ。ですので軍事関連施設で製造可能な民間からも必要とされる物資・製品に絞ればよいかと。宇宙船舶の整備・部品の製造や船舶自体の建造。あとは長期保存食糧製造からはじめて最終的には人造蛋白製造プラントのような大規模プラントの製造でしょう」

 俺の回答に、女史の視線はより細く鋭くなる。軍事産業の誘致は確かに大きな魅力で、今後も『大いに』需要が見込める。初期投資も第三セクター方式で軍が補助するので一から始めるよりは楽と言えば楽だ。しかし、宇宙船ドック自体の建造には莫大な投資以上に付随する専門性の高い重工業が必要となる。人造食料プラントなどは知識と技術と労力と資材の最大集約製品と言っていい。そしてそのいずれもが今のマーロヴィアにはない。そんなことは俺も女史もわかっている。

「あくまでも農鉱産資源に立地せよと?」
 数秒の沈黙の後に女史は応え、俺は頷いた。
「経済発展は伸展の余地の大きさに担保されると小官は考えております。マーロヴィアは中央航路から離れておりますが、それは同時に帝国軍の脅威からも遠く離れているとも言えます」
「海賊さえ対処できれば、十分安全圏というわけね。」
「マーロヴィア星域はまだ先に多くの未開拓宙域があります。一〇〇年前、辺境開拓重要拠点に指定されて以降、まったく開発されていません」
「先立つモノがなかったでしょう。今の一番の問題は人口で……そういうこと」
「強制は無理でしょうが、食料と産業の芽があれば移住してもいいと思う物好きが、一%くらいいるんじゃないかと思います」
「約三万人、ね。現在の食料生産能力から考えればもう少し余裕があるわ」

 あとはしっかりと海賊の発生を阻止すること。除草剤を蒔くレベルで掃討したつもりだから、リバモア准将がよほどのヘマをしない限り、一年程度は治安に余裕がある。それに綱紀粛正が行われた治安組織も失点を取り戻すために躍起になるだろう。文明の発展を陰から支えてきた『役人』というプロフェッショナルの意地とプライドを見せてもらいたい。言外の視線に納得した表情を浮かべた女史は、ソファから立ち上がり俺に手を差し伸べた。俺も立ち上がってその細い手を握りしめる。

「あなた方のマーロヴィアに対する絶大な献身に敬意を」
「ありがとうございます。長官閣下にはこれからもご苦労が絶えないと思いますが、どうかご壮健で」
「これでもキャリア官僚の端くれ。失敗と労苦は、成功への礎だと学んでいるつもりよ」
「ちなみに、どんな失敗をされたんです? ハイネセンで」
「……胸と服の隙間に手を突っ込んだ上司を後ろ回し蹴りで壁に叩きつけただけよ。腰骨折るくらいにねっ!」

 そういうと女史は俺の手を潰さんばかりに握りしめるのだった。



 宇宙歴七八九年の新年は、タッシリ星域パラス星系で爺様達と一緒に迎えることになった。ヤンがエコニアからハイネセンに戻る際、二〇日以上かかったのと同じエラーに巻き込まれたわけで、こればっかりはしょうがない。
 
 それからロフォーテン星域でかろうじてハイネセン行きの軍事直行便を確保し、ハイネセンに到着したのは一月一四日のことだった。爺様、モンシャルマン大佐、バグダッシュとコクラン大尉、それにファイフェルと全員一緒で統合作戦本部防衛部へ帰任の挨拶をしたのだが、バグダッシュとコクラン大尉は帰任の報告もそこそこに情報部と後方支援本部へ、爺様は宇宙艦隊司令部へと案内されていった。俺を含めた残りの三人には待命が指示され、手持無沙汰になった俺達は統合作戦本部四五階にあるカフェのBOX席を一つ占拠して、数日後を目途に爺様やバグダッシュ達のスケジュールを確認の上、慰労会を開こうということを決めた。

「バグダッシュ大尉とコクラン大尉は「重要レンタル品」だからな、本店も早く返却してほしかったのはわかる。問題はビュコック司令の方だ」

 残念ながら栗毛の三つ編みではなかったが、同じくらい若い女性の給仕が持ってきたコーヒーにクリームを入れ慎重にかき回すモンシャルマン大佐は、俺とファイフェルだけに聞こえるような低く小さい声でそう言った。

「人事異動の季節だから仕方ないが、前任が防衛司令官なのに待命期間もなく宇宙艦隊司令部に急ぎ呼ばれるというのはあまりいい傾向ではない」
「ですが査問とか、そういうわけではないのでしょう?」
 ファイフェルの質問にモンシャルマン大佐は小さく頷いたが、その顔色はさえない。
「罰するというわけではない。これは私の勝手な推測ではあるがビュコック司令は独立部隊の指揮官に任命されると思う」
「准将で独立部隊となると、一〇〇〇隻以下。恐らく六〇〇ないし七〇〇隻前後の機動集団というところでしょうか?」
 俺が査閲部時代の記憶を基に応えると、大佐も先程と同じように小さく頷く。
「で、あれば問題というわけではないとは思いませんが?」
「……ボロディン大尉らしくないな。この時期に独立機動集団を新編成するとしたら、その目的地はどこになる?」
「あぁ……なるほど」
「もしかしてエル・ファシル星域への即時投入なんですか?」
「そうだ。ファイフェル中尉。そしてだ、ビュコック司令が機動集団の指揮官になられた場合、その幕僚は?」
「まさか私達なんですか?」

 ハイネセンに戻ると分かってからというもの、顔色が飛躍的に良くなっていたファイフェルの声は完全に震えている。士官学校を卒業してすぐにマーロヴィアというド辺境、そして短期で頑固で皮肉屋で癖の強い上司という罰ゲームに近い赴任先からようやく逃れたというのにまたなのかという絶望感……原作を知る俺としてはスーパー勝ち組だと思うし、ファイフェルにとってはかなり理想の上司ではないかと俺は思うのだが。

「ビュコック司令と私は結構長い付き合いでね。あの方は上司として硬軟織り交ぜて人の能力を存分に引き出し活用することができる人だ。バグダッシュ・コクラン両大尉は専門分野におけるプロフェッショナルだが、ボロディン大尉もファイフェル中尉も、私が過去知っている司令の補佐役の中では最上位の部類。自分が部隊指揮官になった時、二人が待命状態であれば扱き……いや活躍できる場を作ろうと考えるだろう」

 大佐の舌が本音を滑らせたのは間違いない。ビュコックの爺様もめんどくさがり屋ではないだろうが、自分の権威が人事部にどれだけ通用するかということはわかっているだろうし、直近で能力を把握している部下を継続して確保したいのは、上官としては当然のことだ。

「人事部から横やりがなければ参謀長は私か、あるいはオスマンという大佐だろうと思う。そういうわけで、二人にはなるべくハイネセンから離れないでおいてもらいたい。あのお方が短気なのは、十分マーロヴィアで学んだと思うがね」
「「了解しました。モンシャルマン大佐」」
 俺とファイフェルは席から立ち上がり、大佐に敬礼すると大佐も完璧な答礼してから、俺達に背を向けてカフェの出口へと向かっていった。

 恐らくその独立部隊は功績を上げて順次拡大され、将来の第五艦隊の基幹部隊となる。いよいよ俺も本格的に帝国軍と血で血を洗う戦場へでることになるのだ。空港でこっそり同送名簿を確認した時、同期四五三六名のうち、三二五名の名前が赤字に変わっていた。俺が三二六番目になるとも限らない。二期下のファイフェルはどう思っているのだろう。俺がファイフェルの方へ顔を向けると、ファイフェルの方も同じように俺を見ていた。

「……今の大佐の様子ですと、またご一緒できそうですね。よろしくお願いします」
「あぁ、話の分かる後輩がいるというのは、結構やりやすくていい」
「老人介護どころかこちらがカウンセリングしてもらいたいくらい元気な司令官ですから困ったものです」
「俺の口止め料は些か値が張るぞ」

 俺はそう言うと、ファイフェルの右手をきつくシバキ上げるのだった。


 統合作戦本部地下の駅で右手をブラつかせながら左手で荷物を引きずるファイフェルと別れ、俺は地下高速リニアを一回乗り継ぎ、最寄駅から約一キロの街路を進んだ。地球時代と変わらない欅が道の両側に植えられ、落葉してはいるが大きく枝を伸ばしたその姿は圧倒的だった。少将以上の高級軍人の家族が住む『ゴールデンブリッジ』街一二番地。俺はフェザーン出立以来二年半ぶりに戻ってきた。

 社会システムが健全に作動しているというべきか、それとも高級軍人には特別な配慮が与えられるのか、どちらかはわからないが、街路にはゴミが一つも落ちてはおらず、消火栓には錆一つない。そんな冬の夕焼けに長く影を伸ばしている街灯の根元に、アントニナは立っていた。
 フェザーンに出立する前には肩口までしかなかったストレートの金髪は腰よりも下まで伸び、顔を構成する部位からは幼さが駆逐されている。グレゴリー叔父そっくりの温和なようで切れ味のある鋭い眼差し、レーナ叔母さん譲りの女性としては平均より高い身長。ダウンジャケットの上からでもわかるメリハリの付いた上半身に、ぴっちりとしたジーンズに包まれた引き締まった長い足は一五歳のものとは思えない。

「兄ちゃん。お帰り」
「あぁ、ただいまアントニナ。もしかしてずっと待っててくれたのか?」
「まさか。キャゼルヌ中佐から一時間前にヴィジホンで連絡があったんだよ。統合作戦本部で捕まえようとしたのにいつの間にかいなくなってたって。もしかしたら女連れかもしれないから気を付けろとか言ってた」
「あの野郎……」
「そんな器用な真似ができるなら、マーロヴィアに左遷されるようなヘマはしません、て、僕が答えたら中佐爆笑してたよ」

 若作りの要塞事務監が、俺を指差して腹を抱えて笑う姿が脳裏をよぎり、思わずF語が口に出る。それを見てアントニナは、わざとらしく眉をしかめつつも頬を緩ませ、俺から若干距離を取った。

「フェザーンで振られたからって心が荒んじゃった兄ちゃんのそんな姿は見たくなかったなぁ~」
「振られたわけじゃない! ていうか、なんでそんな話までアントニナが知っているんだ?」
「シトレの叔父さんが教えてくれた」
「……」
「ムチャクチャ怒ってたよ。少し白くなってきた頭から湯気が出そうだった」
 いつの間にか俺の手からトランクをもぎ取り、家に向かって押し始めたアントニナが、僅かに顔を傾け、すっかり大人びた女性の流し目で俺を見た。
「言っておくけど、母さんも僕もイロナもムチャクチャ怒ってるんだからね。そこのところはき違えないように」
「あぁ、分かってる。心配かけたな」

 そういうといつものように俺は、トランクを挟んでアントニナの頭の上を掻きむしってやった。そこで右肘の高さがいつの間にか胸の位置になったことに気が付いて、俺はようやく家族の元に戻ってきたと認識することができたのだった。

 
 

 
後書き
2020.05.22 事前入稿 
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