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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百四十一話 裏切者出現

 帝国暦488年12月3日、ヴァルハラ星域に到達した遠征帰還軍の眼前に無数の光点が出現した。

「卿等、よく聞け!!」

 ブリュンヒルトの艦橋にあってラインハルトは声を張り上げた。体調不良を微塵も家事させない堂々たる声音だった。そばにたつレイン・フェリルは胸を痛めていた。航行中ずっとラインハルトは平素の事務を精力的にこなしたが、時折体調を崩して倒れるようにベッドに横たわることが多かった。
 秘密を守るために、看護人はエミール、そしてヒルダ、レイン・フェリルだけにしたのである。
 原作においてラインハルトを苦しめた「皇帝病」がラインハルトを襲っているのだろうとレイン・フェリルは思った。どんなに治癒術をかけてみても治らないのだ。それがもどかしかった。

 だが――。

 今のラインハルトはただ眼前の敵だけに目を向けていた。その姿勢はレイン・フェリルを感嘆させ、同時にもどかしさを覚えさせていた。休んでもらいたいと。
 けれど、ラインハルトは止まることはない。

「敵はかつてリッテンハイム、ブラウンシュヴァイクを討伐したその残党、さらに旧貴族、地球教徒等あらゆる旧勢力の連合だ。これを排除せずして新たな時代への歩みはできないものと心得よ」

 アイスブルーの瞳は全クルー、そして全艦隊を見まわしている。

「大義は我々にあり。ゴールデンバウム王朝の残党何するものぞ。この度卿等に申し伝えることがある。我々はゴールデンバウム王朝の正当な継承者をかのシャロンの魔の手から保護した。プリンゼシン・カロリーネ・フォン・ゴールデンバウム。帝国の33代皇帝オトフリート4世の晩年の末娘であるシルヴィア皇女の娘に当たられる方にして、オトフリート5世の御兄妹、フリードリヒ4世陛下の伯母君に当たられる方こそがゴールデンバウム王朝の正当な継承者である!!」
 
ラインハルトはあらかじめ主要提督たちには意中を明かしてあった。そして傍らに立つもう一人の人物にマイクを渡した。

「私がカロリーネ・フォン・ゴールデンバウムである。ローエングラム公はシャロンにとらわれた私を救出すべく、軍を編成された。卿らの勇戦に深く感謝したい。だが、私の身など些末な事。開放すべきは今古き残存戦力にとらわれている民衆である。ゴールデンバウム王朝はこれまで一部の人間の手によって富を、権力を独占していた。しかし、保護すべきは民。民なくして国成り立たぬことを私は身をもって知っている。私は――」

 カロリーネ皇女殿下は息を吸って声をさらに張り上げた。

「卿等に誓おう!私が帝位に上った暁には民を第一に考える国策を貫き通すことを!私は信じる!戦乱の維持よりも皆の一時の幸福こそが何よりも重要なのだと!私は信じる!皆が腹を満たし、一家で暖かな炉端で過ごすことのできる時こそが何よりにも勝る幸福だと!私は信じる!皆が就きたいと願う職に就くことのできる世こそが活気を生むと!私は信じる!皆が学びたい分野を学ぶことができる制度こそがあらたな時代を切り開くと!」

 カロリーネ皇女殿下はアルフレートを見た。彼は微笑みを浮かべてうなずいて見せた。

「そのために、卿等の力を貸してほしい」

 一呼吸おいて、大歓声が沸き起こった。

『ジーク・カイザー・カロリーネ!!ジーク・アトミラール・ラインハルト!!ジーク・カイザー・カロリーネ!!ジーク・アトミラール・ラインハルト!!』
「卿はどう思うか?あの小娘を。遠からず我らの頭上に君臨するであろうあの小娘を」

 旗艦トリスタン艦上でロイエンタールがミッターマイヤーに尋ねる。戦友はディスプレイ越しに苦笑を浮かべた。

「卿の採点は辛いようだな」
「俺が主君と認めるのは俺を凌駕する才の持ち主だ。また、そうでなくてはならぬ。そうではないか?」
「あの女性がどうあるかはともかく、今の俺たちはローエングラム公にお仕えする身。それで充分ではないか?」
「あぁ、そうだな。埒もない事を聞いた」

 そう答えながらロイエンタールは心の中でつぶやいた。「だが、ローエングラム公がお斃れになればそのときはどうなるのか」と。

「いいか、ロイエンタール。卿や俺がローエングラム公にお仕えするのは何も未来永劫というわけではない。必ず終わりは来る。だがそれでよいではないか。一度もわが命を託すに足る主君に出会えず生を終えた軍属は幾千万いるが、すくなくとも俺たちはそうではなかった。違うか?」

 ロイエンタールはうなずいた。美酒を味わうかのようにゆっくりと。

「あぁ、そうだな」
「卿があの女性を気に入らなければそこで宮仕えをやめればいい。俺のところに来い。酒を酌み交わしながら気ままな暮らしをするのもいいだろう。だが、一度の演説であの女性のすべてを見極めたと思うならば卿はいささか短絡的に過ぎると俺は思うが」

 ロイエンタールは笑いを浮かべた。

「なるほどな、卿は予言者ではないが、いささか卿の先祖にはそのような者がいたと俺は思う。卿の言を信じようではないか」
「俺は予言者ではないぞ」
「構わん。俺はそれでいい」

 戦友二人は不敵な笑みを浮かべ、そしてそれぞれの艦隊に戦闘態勢を指示した。

 ローエングラム陣営の陣容は以下のとおりである。再編を行い、士気と陣容を一新した遠征軍は数こそ少なくなっていたが、前にも勝る旺盛な戦意を持っていた。

 先陣、ティアナ・フォン・ローメルド上級大将艦隊         15,000余隻
 同先陣、 ウォルグガング・ミッターマイヤー元帥艦隊       15,000余隻
 同先陣、 エレイン・アストレイア大将艦隊            10,000余隻
 中陣、オスカー・フォン・ロイエンタール元帥艦隊         15,000余隻
 左翼、ダイアナ・シャティヨン・シルヴィナ・アーガイル上級大将艦隊15,000余隻
 右翼、エルンスト・フォン・アイゼナッハ上級大将艦隊       15,000余隻
 中央 ラインハルト直卒本隊                   10,000余隻
 後衛、ナイトハルト・ミュラ―上級大将艦隊            10,000余隻
 遊軍、アレーナ・フォン・ランディール艦隊            10,000余隻
 同遊軍、ジークフリード・キルヒアイス上級大将艦隊        10,000余隻


* * * * *

「はめられましたな」

 アドリアン・ルビンスキーは同乗者に言葉を投げた。銀髪をショートカットにした帝国軍上級将官はルビンスキーを冷たい北極海を思わせる青い瞳で冷ややかに見つめた。

「誰を、誰が、ですか?」
「あなたが、私を、です。フェザーン消滅を筆頭にあなたは様々な予言をされた。そのおかげで私はいまこうしてここにいるのだが。フェザーン消滅後のあなたのヴィジョンに私はそれに乗った。残念ながら、投機先を見誤ったのは私の方でしたな」

 どちらかというと面白そうな響きを含んでいた。

「そう思われるのでしたらどうぞ。止めはしませんよ。シャトルでどこへなりともおいきなさい。いささか早計だったと後で後悔しても知りませんが」
「ほう?」
「我が軍はローエングラムを捕えました。それで充分なのです」
「戦える戦艦の数はそちらの方が少ないというのに」
「そう見えますか?」

 ユリアの顔に走ったきらめきをルビンスキーは見逃さなかった。

「ローエングラムを仕留めるという私の目論見に一点の変更もなしです」

 ヴァリエの迅速な動きによって、メルカッツ艦隊クルーゼンシュテルン、ホフマイスターの両提督及びメルカッツ本人を取り逃がしたことはユリアにとっては痛恨事だったが、彼女はそれを表に現そうとしなかった。
 帝都オーディンから艦艇群を引き抜いてこうしてヴァルハラ星域に展開し、他の同志たちと合流で来ただけで良しとしなくてはならない。

「シュターデン、ブリュッヘル、ゼークト、貴族連合、地球教徒他の同志艦艇群、展開を完了しました」

 副官が報告しに来た。艦艇総数は3万余隻。それも雑多なものをかき集めて、である。しかしユリアの瞳は冷静だった。

「繰り返しますが、戦いは艦艇総数ではありませんよ」

 ユリアは再び横目でルビンスキーを見ながら言った。

* * * * *

「全軍停止だ!!」

 睨むように宙域図を見ていたラインハルトが突然叫んだので、皆一様に驚いた。

「閣下!?」
「全軍停止!!全武装迎撃に備えろ!!敵の襲撃が来るぞ!!先陣のミッターマイヤー、フロイレイン・ティアナ、フロイレイン・エレインの艦隊に非常警戒発令、その他の艦艇は襲撃に備えろ!!」

 混乱しながらもラインハルトの指示を副官たちやオペレーターたちは四方八方に飛ばした。

 直後――。

 隕石群、ドライアイスの塊、さらには無数の指向性ミサイルが降り注いできた。
それだけではない。自爆するように爆発したミサイル群に反応したのか、ありとあらゆる方角からレーザーの豪雨が降り注いできた。さらに、オレンジ色の光が放射状に帯状に広がり、あたり一帯を灼熱に染め上げた。

 最先頭の艦艇は巻き込まれてあっという間に消滅したが、ラインハルトの指示でかろうじてその手前で停止した艦隊は無事だった。
 後1秒遅れていたら巻き込まれていた――。
 カロリーネ皇女殿下はぞっとなった。前に進むことばかりに気を取られ、襲撃の可能性を完全に頭の中から排除していたのだ。

「アルテミスの首飾り、ドライアイスの隕石群、指向性ゼッフル粒子・・・・・ありとあらゆる兵器を詰め込んできたのね」

 ティアナが冷ややかにつぶやいた。そしてそれらの光がおさまった時、ティアナは高らかに怒鳴った。

「フィオ!!準備はできた?!」
『ええ!!』

 帝都オーディンを背後に、数万の光点が出現した。フィオーナ艦隊である。別働部隊として快速に快速を重ね、帝都オーディンを守るようにして展開した。
 フィオーナ艦隊だけではなく、メルカッツ提督率いる艦隊も出現した。「あなたの自殺などローエングラム公は御望みになっていません!ローエングラム公のお役に立つことこそ公が御望みになることです!」という、ヴァリエ、そしてフィオーナの懸命の説得でメルカッツ提督は自殺を思いとどまり、部下離反反逆の汚点を晴らすべく戦場にやってきたのである。ケーテ、エミーリア、シャルロッテのトリコロール3提督を先陣にして半包囲体制で敵の背後に出現した。

「ラインハルトの前ではチンケな戦術なんて張りぼてにもならないわ!!覚悟しろ、ユリア!!この逆賊、阿婆擦れ女!!」

 ティアナがまだエネルギーの残滓が残る宙域めがけて手を振り上げた。

「全軍突撃!!一隻残らず叩き沈めろッ!!!」

* * * * *

 ユリアの姿は変わらなかった。相変わらず前を向いたまま立っている。周囲では艦艇は次々に爆沈し、光球が明滅している。ゼークト、シュターデン、ブリュッヘルはじめ貴族連合、地球教徒の連合はローエングラム陣営の各提督の猛攻の前にあっという間に崩壊していった。
 前後からの挟撃の猛攻では逃げようがなかったし、降伏を掲げる艦をローエングラム陣営はまるっきり無視したのである。文字通りの殲滅戦だった。

 立ち尽くすユリアを一瞥し、ルビンスキーは低く笑うと、その場を離れた。ルパートはじめ、側近たちがその後に続く。だが、一発の砲撃が艦橋を直撃した。ルビンスキーたちもろとも閃光と火の塊が包み込み、断末魔さえ消し飛ばしてしまった。

「だから言ったのに。逃げるのは早計なのだと」

 ユリアは前を向いたままつぶやいた。

* * * * *

 ローエングラム陣営の猛攻は続く。背後に回ったフィオーナ艦隊と共に圧倒的な勢いをもって攻めたてた。

「これが最後の戦いと思え!そしてだからこそ躊躇するな!!禍根を取り除け!!」

 ラインハルトの指示は苛烈だったが、それを推進剤にして各艦隊は猛威を振るったのである。
 だが、その状況下、また新たな要素が発生した。

「新たな反応あり、新たな反応あり!!」

 ブリュンヒルトのオペレーターたちが一斉に騒ぎ立てる。外周に突如正体不明の艦隊が出現したのだ。
 この宙域のすべての者が注視する。現れたのは敵か味方か――。

『おう!!一縷の望みをかけてワープしたかと思えば、こんなところに出てきたのか!!』

 全身黒色の艦隊は誰しもが見覚えがあった。通信を受けたオペレーターの一人は驚愕の表情で固まる。

「シュ、シュ、シュ――!!」
『なんだ、卿は?汽車の真似でもしているのか!?さっさとローエングラム公におつなぎせよ!!』
「聞こえているぞ」

 ラインハルトは不敵な笑みを浮かべた。

「そうか、ビッテンフェルトめ。迷子になっていたのだろうが、出口を見つけて慌てて駆けつけたな」
『ローエングラム公、決戦の場ではお役に立てず申し訳ありません。ですがここにいらっしゃるということはシャロンめを――』
「よい。話はあとで聞こう。ビッテンフェルト、卿に指令する。そして許可しよう『思う存分暴れるがよい』と」
『御意!!』

 ビッテンフェルトが喜色を浮かべて敬礼をささげる。そして、彼はケーニス・ティーゲルの艦橋で吼えた。

「突撃だ!!戦場に遅れるなど我が艦隊の名折れである!!その分、存分にシュワルツ・ランツェンレイターの真髄を敵共に思い知らしめてやれ!!」

 黒色の艦隊は我先にと敵に餓狼のように襲い掛かった。ラインハルトはカロリーネ皇女殿下を見た。

「私は全然お役に立っていませんが・・・・」
「よい。必要なのはプリンゼシン・カロリーネがこの戦いに参加したという事実だけだ。それさえあれば後世に残す書物に歴史家たちが良きように解釈を加えてくれるだろう」
「事実の上書きという事ですか?」

 アルフレートが尋ねた。

「無用な物であれば一顧だにしないが、今回はこれが必要である。卿等がゴールデンバウム王朝を統治するにあたっての『実績』を兼ね備えるのにな」

 アルフレートとカロリーネ皇女殿下は顔を見合わせた。ラインハルトの言わんとすることが分かったらしい。

「敵はどうか?」
「最後の集団が依然として陣形を保ちつつ抵抗をやめません。メルカッツ艦隊、ローメルド艦隊、アストレイア艦隊、エリーセル艦隊が包囲してこれに攻撃を継続中です」

 幕僚総監のレイン・フェリルが報告する。

「最後まで攻撃の手を緩めるなと伝えろ。またそのほかの艦艇は外周部の警戒をとれ。警戒態勢の指揮はロイエンタールにとらせよ。キルヒアイス、フロイレイン・ダイアナの艦隊は帝都オーディンに降下し、厳戒態勢を構築せよ」
「はい」

 レイン・フェリルは幕僚たちに指示を下す。ラインハルトは前方のスクリーンに目を移した。敵は抵抗をやめない。ただ、それはどこか消極的だった。少なくともラインハルトにはそう見えた。

 
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